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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO24-雪の温度

裏四十五層の主街区『アルブス』の長が言っていた。

『死が訪れる時、光が差し込まれるも白い死神が現れ、死の世界へ逝ってしまうだろう』

 これがカタナとなる素材を入手するための条件なんだろう。
 死が訪れる時、これは死の直前、プレイヤーのHPバーが赤いことを示しているのだろう。そう考える人は多いはず。今やSAOはコンテニューが不可能、HPが失ってしまえばそこでゲームオーバーになり、死んでしまう。素材を入手するために、わざわざ死の危険を犯してまで挑もうと思うプレイヤーは多くはない。アスナはこのイベントを未だに達成しない理由はそのことなんだろう。
 私もそうは考えた。そして諦めようとも思った。
 でも逆に考えてみた。違う方法ができるとしたらどうだ? わざわざ命を削るような危険をする必要ない方法はあったらどうする?
 そう考えた結果、答えは出た。 
 死が訪れる時、死の直前とも捉えることはできるが、別の意味もあった。それは『デッドマウンテン』の特徴である猛吹雪。NPCは通称『女神の悲鳴』と例えられているが一つだけではなく、もう一つあった。
 別の名で通称『死の白銀』とも呼ばれていることを、私はアスナとリズベットを待ち合わせる前に、NPCから訊いた情報を思い出した時、上手く歯車が嚙み合ったような衝撃が走った。
 死が訪れることを示しているのは、HPではなく、猛吹雪だということを。
 そして光が差し込むと言うのは猛吹雪が止んだ時のことを示す。快晴の空が急に雲が覆われてしまうことがあるがその逆もあり、覆われた雲が無くなると、快晴の天気にもなる。まるで光を闇で覆われ、闇を光が差し込むように一転する。
そして猛吹雪から快晴になった天候変化、それこそ闇から光に逆転した時、素材アイテムである白竜が現れた。そう、私は推測した。

「ということよ。おわかり?」
「なるほどそういうことかぁ……って、今、説明することないでしょ!」

 リズベットはノリツッコミのように怒っていた。
 素材アイテムの入手条件の答えを知りたがっていたくせに、なに怒っているのやら。

「もう入手したも当然なのよ。落ち着いたら?」
「あんたは落ち着き過ぎ! のんびりしてないで、アスナを援護しなさいよ! 一人で戦わせているんじゃないわよ!」

 素材アイテムである雪のような白さを身に(まと)ったワイバーン系の白竜は条件を満たし、『デットマウンテンン』に現れた。
現在アスナが一人で戦闘中。最初は私が一人で戦っていたけど、数分後にアスナが加勢。私は勝手に交代するつもりでアスナにまかせている。リズベットはそこに不満を持っていた。

「アスナも手伝いたいって言っているから、私は休憩してアスナにまかせているだけだわ」
「だからって、一人で戦わせなくてもいいでしょ! 仮にもボス並の強さなんでしょ、あの白いドラゴン!」
「正確に言えばワイバーンよ」
「どっちだってドラゴンじゃない!」

 リズベットが言ったように『デットマウンテン』に現れた白竜はフロアボスクラスに入るほど強いほうでしょうね。
 でも、アスナが普通に負けるような相手ではない。
 血聖騎士団の団長であり、SAO最強とも言われているヒースクリフ。血聖騎士団副団長で、最強のギルドと呼ばれるようなった指導者でありながらヒースクリフと同等の強さを持っているイリーナ。そんな団長の変わりに迷宮攻略をまとめるもう一人の副団長アスナが、前線よりも下層のフロアボスに簡単に負けることはない。 
 現に今だって、自分のHPバーを減らすことなく白竜のHPバーが半分を下回っているのだから。

「いくらアスナが強くても、もしもの時とかあるでしょ!?」
「ないわ」
「言い切るな!」

 逆にどんなトラブルがあるっていうのよ。もうすぐ終わる戦闘にアスナがバカみたいに油断して、危険な状態を晒すようなバカで傲慢ではない。
リズベットには言い切ってしまったが、とはいえ、誰も予想しない出来事が起こってしまった場合、アスナはどうなるのだろうか? そんなことはないと思いつつも、さっさと終わらせたい気持ちからか、私はカタナに手をかけた。

「アスナ、あとは私がやる! 確実に仕留めたいから、素材をこっちに持ってきてほしいんだけど?」
「うん! わかった!」

 素直に承知するアスナはスキルを使わずに、細剣で見切れない速さの突きを繰り出して、白竜をこちらに近づけように誘導させる。少しぐらいは文句言うかと思っていたけど、文句がないならそれはそれでいいや。

「リズベット、貴女は離れなさい。普通に邪魔だから」
「邪魔で悪かったわね。てか、な、なにするの?」
「仕留めるのよ、一撃で」

 呆然とするリズベットを余所に、左足を下げ、左手は鞘に、右手は柄に手を当て、居合いの構え、集中。
 私の『居合い』スキルはちょっと特殊で、一気に抜けば無数の剣閃が描ける抜刀術。速さと手数を武器にするスキルであり、一点集中するような一撃は少ない。
 でも、少ないだけであって、大きな一撃を与えられる力技も存在する。当たり前の話だけど、基本的に居合いは初撃が外れてしまえば大きな隙が出来る。
 逆に言えば、それさえ抑えれば何も問題なく協力な一撃必殺のダメージを与えることができる。
今、アスナが白竜を私の射程内に誘導している。私がどんな『居合い』スキルを使用するかなんて伝えてないのに、私がやることをお見通しているように上手いこと運んでいる。
 私が血聖騎士団にいた頃、強制的にアスナと一緒に行動して、一緒に連係をしたからか、単にアスナが私のことを見抜いているだけなのかな。
 いちいちつっかかるリズベットの前で、外すわけにはいかないわね。 後々うるさいリズベットが想像できるわ。

「来たよ、突進攻撃!」

 リズベットの声が届いた時には、白竜が雄叫びを上げながらもの凄い速さでこっちに突進してくる。あんなでかい体に、居合いを外れることはないでしょう。それにアスナが上手く誘導してくれたおかげもあるだろうし、問題を起こすようなことはない。
 白竜が私の射程内に入った瞬間に、体を捻って一気にカタナを抜き、水平に斬りつけた。
 その太刀筋は音速の如く、見切れる事はおろか、剣閃を捉えることも出来ない。

 居合い本来の一撃、一刀両断。

『閃(ひらめき)』

 白竜の顔面が真っ二つに斬り裂けられる。そして顔から体、羽、足、尻尾へとポリゴンの破片となって、穏やかな雪風と共にあっさりと散っていった。
 
「…………あ、あんた」

 戦闘が終わったからカタナを鞘に収めている時、ふと視線がリズベットに向けてしまった。どうってことない、気にすることもなかったが、リズベットがバカみたいに口を開いていたのを見て、視線を逸らすことができなかった。

「なに馬鹿みたいに、口を開けて唖然としているの?」
「馬鹿は余計だけど…………凄すぎだって」
「あっそう」
「なんでそんなにあっさりと……もういいや」

 リズベットはなんか私に問いかけてきそうだったけど、諦めた様子だった。私としても、先ほどの『閃』については、そういうスキルだとしか言いようがないから、説明が省けるので少し助かった。

「ドウセツ、手に入った?」

 白竜と誘導してくれたアスナがこっちに合流してきた。

「今から見るけど……よく素直に囮役したわよね」
「う~ん……ドウセツなら、なんかやってくれると思ったから信じてみた」
「……そう、バカっぽい解答よく出来ました」
「ひっど――い! 立派な解答じゃない!」

 もうそれでいいと無理矢理納得しつつ、アイテム欄からドロップした白銀に光る雪の結晶のような形をした金属素材、インゴットを取り出す。どうせ使うことになるのだからと、リズベットに渡した。

「『ブリザード・インゴット』…………」
「それなら折られないかしら?」
「うん。これなら、折られないカタナを作れるわ」
「……どうかしらね」
「そこ、聞いておいて希望をへし折らないの!」

 結果を見るまではわからないけど、正直言えばいい加減に成功させてほしいところではある。一つの素材を入手するために何時間も使うことはあるにはある。
今回は長の長話と、白竜が現れるまでの待機時間は無駄だったような気がする。長の話を短くして、吹雪も数分で止めば、スムーズに行けたはずだ。
 それらのことを無駄にはしたくはない。成功を願おう。

「…………」
「どうしたのアスナ?」

 リズベットはアスナが顔を下ろすことなく、空を見上げていることに気になって声をかけた。いったい何を夢中になって見上げているのかと、気になって私も空を見上げる。
 あぁ……なるほどな、と、私はアスナがずっと空を見ていることがなんなのか納得した。

「あれ? な、なんで急に曇りかかっているの!?」

 それを現実に突きつけるようにリズベットが口に出して証明してくれた。
 先ほどまでは猛吹雪が降っていた悪天候から、快晴の夜空に晴れだした。それと同時に白竜が現れた。それを期に、私達は白竜を倒して素材アイテムを入手した。
これで終わりかと思えば、最後に立ち塞がるように急に快晴の夜空は変化した。しかも、今にも“何かが”降り出しそうな曇が空を覆っている。

「ねぇ、ドウセツ。猛吹雪って……一日一回だっけ?」
「えっ、アスナ。一日一回じゃないの!?」

 いったい誰が一日一回って言ったのよ。でも、アスナがそんなことを訊くってことは、少しでも現実逃避したい気持ちがあったからだろうか。
少し考えればわかることだ。
『デットマウンテン』に降る猛吹雪が一日一回しか降らないと、勘違いしなければの話だけどね。

「……猛吹雪は予測不可能だから、一日に何回、しかも数分後にまた降る可能性はなくはないわ」
「つまり、今急に曇りかかっているのも」
「そうよ、アスナ。また降るわよ」
「や、やっぱり、そうなんだ……」

 アスナは現実を突きつけられて、項垂れてしまった。

「なんでそんなに冷静なのさ! クリスタル使って脱出をしようよ!」
「あら、リズベットは賢いわね。えらいえらい」
「バカにしないの!」

 府に落ちないが、もうすぐ猛吹雪が吹き荒れるでしょうね。どれくらいの量が降るのかはわからないが、猛吹雪を当たるマゾでなければ自殺願望者でもないので、さっさと安全な場所へ避難しよう。
それにもう素材アイテムは入手したから、雪山に留まる理由はなくなった。今すぐ転移結晶を使って街へ戻って『リズベット武具店』でカタナを作ってもらおう。



 気がつけば深夜になっていたので、カタナ作りの件は明日行うことにして、私達は解散する。
そして翌朝、私は勝手についてくるアスナと共に『リズベット武具店』へと出向いた。

「さぁ、早速やるわよ」
「記念すべき、十回目の斬られるカタナを作らないでね」
「あたしだってそのつもりでやるけど、仕上がり具合はランダムに決まっているから、あまり期待過ぎないでよ」
「別に期待してないから、貴女の腕だと、また折れるほうに期待するわね」
「い、言ってくれるわね……絶対に、絶対に見返してやるんだから、待ってなさいよ!」

 リズベットは敵意むき出しするように声を発して作業に取り掛かった。
 炉から赤く焼け光る『ブリザード・インゴット』にヤットコを使って取り出し、金床の上に置いていた。そこからウインドウを操作し、(つち)で素材アイテムの金属を叩き、澄んだ音と共に火花が飛び散る。
 あとは……出来上がるのが待つだけか。
 待機時間中、隣でリズベットを見守っていたアスナが口を開いた。

「リズ……いつも以上に気合い入っている」
「そうなの?」
「うん。別に人を選んで手を抜くようなことはしないけど、リズを見ていると、絶対に成功させるって雰囲気が伝わってくるの。本人はいつも通りかもしれないけど……」
「アスナの勝手な思い込みじゃないの?」
「そんなことないわよ」

 アスナは自分が言ったことが間違いではないと微笑んでいた。
 どうかしらね。話を訊けば本人にも確かめないような内容でリズベットに訊ねても真実だと言い難いことだった。私が言っていることは間違ってはないはずよ。
 アスナがそう言う目で見抜いているのが仮にも本当だとしよう。本当だったとしても、私は認められないわ。
 …………。

「そんなことよりも……リズベットに余計なこと言ったでしょ」
「え、余計なことって、何?」
「私が優しいってことよ」
「それって余計なことなの?」
「余計なことだから言っているのよ。アスナも病院に行って治してもらったら?」
「常に平常だもん」

 呆れた。
貴女達が優しいと思うことは、ただ面倒なことを避けるために過ぎない。そう言ってもあんまり信じてくれない。意味がわからない。
 優しい、ね…………私には、本当に似合わない言葉。
 …………例えば、例えばの話をしよう。
 私がアスナのことを復讐するくらいに怨んでいたら、私のことを優しいと言えるのかしらね。
 わからないか、そんなこと。

「いつまで副団長はサボっていないで、前線に戻ったらどうなの?」
「午後から攻略に戻るから大丈夫」
「そうですか」

 アスナと会話していくうちに、インゴットが輝きを増し、一際まばゆい白光を放っていた。それに気づいた私達は一斉に視線をインゴットに向ける。そして輝きながら形は日本刀とも言われるカタナへと変化する。

「で、出来た……」

 そのカタナは、雪のように純白に彩られた白刀。おそらく、この世界に一つだけのカタナが出来あがった。
 あとは、黒椿がそれを認めるかどうかを判断しなければならない。並のカタナは私にはいらない。それと同時に認めてほしいところはある。正直終わらしたい気持ちだってある。
 けど、黒椿は私よりもずっと厳しい審査を下すのだろう。無情に、そして残酷なほど、黒椿は甘くはない。

「行くよ……」
「アスナ、斬られたくなかったら離れて」
「う、うん……」

 アスナはリズベットの近くに寄ったのを確認。黒椿に手をかけ、居合いの構えをする。

「これが十度目のカタナだよ!」

 リズベットは願いを込めて、私の頭上に白刀を投げ放った。そして躊躇うこともなく落下地点を確認して……。
一閃。
 私は居合いで白刀を斬り払う。カタナとカタナが衝突し、甲高い衝撃音が響き震わせる。そして衝撃が反動して、白刀は地面へと突き刺さった。
 …………。
 黒椿は問題ない。
『ブリザード・インゴット』で作り上げた白刀は折れてしまっているだろうか?

「…………折れてないわね」

 私の黒椿も、リズベットが十度目に作った『ブリザード・インゴット』の白刀も折れていなかった。

「や……やった、やったよ! アスナ! ドウセツ!」
「リズ、おめでとう!!」

 リズベットとアスナはお互いに両手を繋ぎ、喜びを分かち合うように一緒に飛び跳ねてはしゃいでいた。とくにリズベットは失敗を重ねているせいもあるから、その分の喜びが多かった気がした。
 そんな二人を置いて、私は床に刺さった白刀に手を当てた。

「道雪」

 それが『ブリザード・インゴット』で作られた、黒椿に斬られなかったカタナの個有名『道雪』

「……もっと別の名前とかなかったのかしらね」

 名前なんて個としての明確を表す一つものだから、別に名前がどうこでたいしたことない、が……こればかりは少しどうかと思う。幸い、読み方は訓読みだから被ってはいないけど、音読みになったら私のHNと一緒。そんな物を彼女にプレゼントするとか、なんか恋人ごっこしているようでゾッとした。
 でも『道雪』は『黒椿』に認められた。それだけでいいはずなんだ。別に好意的に受け入れてほしいとは思っていないから、気持ち悪いって捨てられても私の知ったことではない。

「バカみたいにはしゃいでいるけど、鞘が欲しいわ」
「へ、あ、あぁ……見繕(みつくろ)ね。ちょっと待っていてね」

 リズベットはウインドウを表示させるような動作をしていた。そして道雪の鞘をオブジェクト化。

「これでいい?」
「いいわよ」

 リズベットからリズベット工具店のロゴが入った純白の鞘を受け取り、ウインドウを開いて格納した。
 するとアスナは訝しめな表情で見つめていた。と言うより、視線は私ではなくて『黒椿』の妖刀を見ていた。

「あのね……ドウセツ。気になることがあるんだけど……」
「なにかしら?」
「ドウセツって……なんで急に新しいカタナが必要になったの? 予備のカタナだって、ないわけじゃないでしょ?」

 面倒くさい質問が飛んできた。適当に答えても納得する気はなさそうね。

「……借りを返すため」
「借り?」
「言っておくけど、貴女達じゃないわよ。寧ろ貴女達が私に借りを返しなさいよ」
「別に期待してないから! つか、その台詞おかしくない!? 九本もカタナを斬った台詞!?」
「そうよ! 借りを返してとは言わないけど、たまにドウセツを招いて食事とかしているじゃない!」

 まるで姉妹がシンクロするように揃って反論してきた。
……リズベットはともかく、アスナの主張はなんだ? 反論にしては弱過ぎだ。真正面から受け止める気はないので軽く流すことにする。

「いろいろあって、借りを返さない気が済まないからそうしているだけよ」

 …………。
 ……言えるわけないじゃない。
 私がその人に憧れてしまったなんて……そんなこと誰にも言えない。
私には似合わないし、そんなこと言えるような人でもない。
だから、アスナにもリズベットにも、当人にも言えない。自分自身さえも、その人に憧れているんだと自覚したくはない。

「で、そんなことよりいくら払えばいい?」
「あ、そうだったわね……えっと……」

 リズベットは悩んでいた。今までの弁償代を計算しているのかと思っていた。

「…………」

 けど、悩んでいるわりには時間がかかり過ぎる気がした。
もしかして計算苦手なのか? そんな頭でよく経営してきたんだと皮肉した。
 おそらく一分は経過してはないが、ようやくリズベットの中で答えが出たようだ。

「お金は…………いいや」
「は?」
「お金はいいって言っているの」
「……あらそう」
「なんでいつもそんなにあっさりなのよ…………」

 予想外であったが、タダにしてもらえるなら、それはそれでありがたいと受け入れることにした。

「でも、その変わりの条件があるからね」
「嫌よ」
「そこは受け取りなさいよ! 条件はあたしの相談料。あたしが悩んだら相談するから聞いてよね」
「だったら、お金を払ったほうがよかった」
「うるさい! 人の親切受け取ってよ、そこは!」

 なんでリズベットの悩みを私が聞かなければならないのよ。アスナだけでもうるさいのに……。
 私以外の相談役に適していそうな人いそうなのに…………こんなことになるのだったら、昨日のうちにリズベットの印象を悪くしとけばよかった。
 相談しなければ良かったなんて、思わない私は甘すぎるのね。
 結局、甘ちゃんなことに、なに一つ変わっていないんだわ。

「リズベット武具店は赤字まっしぐらね」
「九本も無駄にしたんだからね、ちゃんと相談とか聞いてよね!」
「はいはい」

 ふとアスナを見れば少しオロオロしていて、その顔が本当にアホっぽかった。

「えっ、相談って……ふ、二人共いつの間に親しくなったの?」
「別に親しいわけじゃないわ。一方的にリズベットがアホなだけだから」
「アホって何度も何度も言うな! そんなことばっかり言っていたらモテないわよ!」
「別にキリトなんかにモテたくはないわ。あとアスナみたいに惚れたりしないし」
「ドウセツ!? なんでそこでキリト君の名前が挙がるの!? 今関係あるないじゃない」
「それもそうね。関係あるのはリズベットの頭のバカ加減ね」
「ドウセツはそんなにあたしをバカにしてほしいのか!」

 この日、私は何かを手に入れるために、余計なものまでもらってしまった。当然、終わった頃には余計なおまけがついてくるとは思ってもいなかった。というか、アスナがリズベット武具店に訪れて、一緒にクエストに同行することに、一ミリも予測していなかった。今思っても、その時思っても、なんでタイミング悪くやってくるのかしらね。でもその分は素材アイテムの情報を頂いたから……仕方ないと割り切ることにしとこう。ついでにリズベットの相談役も悪くないことだと割り切ることにしよう。
 
「よし、誰にあげるかわからないけど、プレゼント完成のお祝いとしてどこかへ食事しに行こ!」
「いいね、アスナ! あたしお腹へっちゃったよー」

 あぁ……この後の展開はなんとなくわかる。

「……アスナはさっさと前線に戻ってなさいよ」
「ひっどーい! 食事してからでも遅くないでしょ!」
「そうよ。ほら、文句行ってないで、ちゃんと付き合いなさいよ、ドウセツ」

 ほんと、アスナだけでもめんどうなのに……アスナとは違う、めんどうな人と関わってしまった。後悔はしないけど、それでもめんどうだわ。

「リズベットが土下座したら行く」 
「誰がするか!」



「そんな苦い思い出もあったわね」
「苦い思い出言うな」
「苦い思い出の他になにがある?」
「思い出の1ページが刻まれたでいいでしょ、そこは……」
「その言葉を言うリズベットに、私は苦いと思ってしまったわ。失礼」
「ほんと失礼な人よね!」

 思い出の1ページとか、よくそんなバカみたいな恥ずかしいことを言えるよね。私だったら絶対に無理。死んでも無理。

「そもそもリズベットって、なんか役に立ったのかしら?」
「え?」
「白竜と戦闘はしていない、ちょっとした謎解きを解明していない、危うく猛吹雪に巻き込まれそうだったくらいしか印象ないわよ」
「そ、それは……あ、あれだよ、あれ。スミスであるあたしがいなかったら、素材アイテムなんか入手できなかったかもしれないんだよ」

 なんとか必死にすがりついて放そうとしない表現の仕方は、まるで自分が役に立ってないことを隠すように言葉を表していた。だがそれは、自分が役に立ってないことを認めているようなものだ。

「素材アイテムを入手するために、スミスは本当に必要だったのかしらね」
「そ、そうに決まっているじゃない。あのクエスト、ドウセツが入手するまでは誰も」
「それはクエスト内容にリスクがあると勘違いしていた人が多かっただけで、スミスが必要だったとは限らないわ。それにリズベットがなにもしなかったことには変わりないわ」
「うぐっ」

 結果を見ればリズベットはいらなかったのかもしれない。でも、今その時なにが起こるかわからない。その日がたまたまリズベットがなにも役に立たなかっただけかもしれない。
 悪いけどリズベットにフォローなんて言葉は与えない。どうせ過去になって、過ぎたことになってしまったから。
 
「そ、そう言えば『道雪』を渡した人って………キリトの妹のキリカだよね」
「予想通りの逸らしね」
「見逃してもいいじゃない、逆にしつこいわよ!」

 これ以上、いじるとリズベットがアスナに泣きついてめんどくさいことになりかねない。なのでここらで一旦追い詰めるのは諦めよう。
 今、私とリズベットを除いて、キリカ達はババ抜きで遊んでいる。私は久しぶりにリズベットと会話したいという名目で参加拒否をして、シリカが作ってきたチーズケーキを食事中。
リズベットを巻き込んでめんどうから逃げた結果、結局はめんどうなことに変わりなかった。

「たまたま流れに乗っただけよ」
「何それ?」
「図々しくカタナをくれって、しかもボス戦で」
「あんたが言うと、悪く言っているから本当かどうか疑わしいよ」

 それならそれでいい。本当はちゃんと渡したいところではあったけど、あの時はボス戦だったこともあって余裕はなかった。ただそれだけのことだ。どうせ元々キリカにあげる物だから。
 ただ、図々しく困ったようにカタナを求めてきたのは事実。それに対して、私は素直に渡したのも事実。
 それをリズベットに伝えるのに抵抗を感じるのは、私の安っぽいプライドが素直にならないと実感するわね。
別にそれでもいい。
リズベットがしつこく訊かれない限りでは。

「それにしても……キリトの妹ってどんな人かと思ったら、普通に可愛い美少女じゃんか。びっくりしたよ」
「その分、中身は残念だけどね」
「残念?」
「女の子が大好きな変態よ。あとギャルゲーもやっているって」
「うわぁ……そりゃ、残念ね」
「そして善人過ぎるお人好しよ」

 思った通りに引いたわ。そんな引かれているのにも関わらずキリカはアホのように騒いでいる。本当にバカね……。
 明るくて暖かくて、お日様のように光を照らす、優しいキリカの……傍にいたいんだから。
私も相当なバカなのね……。

「キリト達が終わったら、あたし達も混ぜてもらうかな?」
「リズベットがやらないならね」
「おい」
「冗談よ」

 本当にバカの集まりで……おかしくなりそうね。
 嫌いじゃないこの一時を、楽しみましょう。

「キリカとリズベットってなんだか似ているわね」
「そうなの?」
「バカなところとか」
「それあたしにも失礼だし、キリカにも失礼だよね!」
「事実を言っただけよ」
「事実を言えばなんでも許せるとは思うな!」

 嫌じゃないと思うから、バカみたいな人が集まってくるのかしらね。 
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