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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百二十二話 両陣営は戦闘後の立て直しに入ります。

帝国暦488年7月3日――。

 イゼルローン要塞にある、フィオーナの私室の前にやってきたティアナは歩を止めてぐっとにらんだ。気配を消しているつもりでも、鈴なりに人が集まって来れば嫌でも中の人間は分るではないか。

「・・・・みんなそこで何してんの?」

 ケーテ、エミーリア、シャルロッテの3提督を筆頭に、サビーネ、エステル等の女性副官たち、そしてヴェラ・ニール艦長、そして、ヘルヴォールのクルーたち。さらにホルツバウアー、クライバーと言ったルッツ、ワーレン艦隊の幕僚たちまで来ている。ルッツ、ワーレンは来ていなかったが、誰の差し金でやってきたかは明々白々である。

「何をと言われても、総司令官に決裁を受ける要件があるのだ」

 バイエルン候エーバルトが動じずに答える。

「その総司令官が出てこない以上、ここでこうして待っている他ないではないか」

 ティアナの眼がじろっと3提督に移る。

「で?アンタたちは?」
「私は先日の被害状況を報告しに――。」
「わ、私は、その、戦術を習いに――。」
「あ、アタシはその・・・なんだ、まぁ、付き添いで――」
「アンタたち何をやっているのぉッ!!!」

 ティアナの怒声が炸裂した。

「こんなところで艦隊司令官、提督、幕僚、副官が油売ってるんじゃないわよ。ホラ、敵襲が来たらどうすんの!?いったいった、さっさといった!ほら、行く!!」
『・・・・・・・・・・』
「・・・・わかったわよ、皆の心配がフィオ・・・・総司令官に向いていることは。私もそのためにやってきたんだもの。少し時間をくれる?中に入って話してくるから」

 皆が自然に道を開けると、ティアナはドアを叩いた。

「フィオ?」
「・・・・・・・」
「中にいるんでしょう?」
「・・・・・・・」
「入るわよ。返事がなくても入るわよ」

 ティアナは電子ロックを強制解除させると、重いドアをものともせずにあけ放ち、中に歩を進めた。一目中の様子を見たティアナはくるっと後ろを振り返り、ドアを閉めて数十人の眼から中の視界を奪った。

「・・・・・我が軍被害状況・・・・・艦艇損傷数・・・・30,592隻・・・・」

 ティアナは歩を進め、部屋の奥に近づく。

「内、完全破壊艦艇・・・・8,620隻・・・・・損傷重大により・・・廃棄・・・・10,948隻・・・・・」
「・・・・死傷者数・・・・2,319,687人・・・・・」

 ティアナの足が止まる。静かな電子音が規則正しくなる中、総司令官たる彼女は青白く光を放つディスプレイの前に座り込んでいた。頭を祈るように伏せて、手をその上に添えて。

「フィオ、フィオ!!しっかりしなさい!!」

 ティアナは彼女の肩を揺さぶった。だが、彼女の身体は生気が抜けた様にティアナに揺さぶられるだけだった。

「しっかりしなさい!!」
「私は・・・私の両手は・・・・どうしようもないくらいに血塗れよ。見えるでしょう・・・・?ティアナ・・・・」

 まるで人形のように揺さぶられながらフィオーナがかすれた声で言う。

「何を馬鹿なことを言っているの!?」
「本当よ・・・。私は・・・・これまで多くの戦を経験してきたけれど・・・・こんなにも皆を殺したことなんて・・・・なかったもの・・・・・」
「当り前じゃない!!私も、あなたも、皆そうよ!!」
「違うわ・・・・・」
「たとえそうだとしても、相手に対して大打撃を与えたじゃない!敵の損害は4万を越えているという報告があるし、あのヤン艦隊に対して致命傷を負わせたのは他ならないあなた自身よ!!」

 フィオーナ艦隊が甚大な被害を被ったのは確かだが、それと同等、いや、それ以上の被害をヤン艦隊にも与えたではないか。

「だから何・・・?」
「何って――」

 ティアナは絶句した。親友がこんな言葉を吐きだしたのを聞いたのは初めてだった。そしてティアナは気が付いた。フィオーナが揺さぶられながら頬を湿らせ続けていたことに。

「たとえ自由惑星同盟を何百万殺しても・・・・それですべてが解決できるはずもない・・・・。私、本当に過去の無意味な戦と同じ事をしてしまったのね・・・・」
「無意味!?」

 ティアナは親友の言葉を信じられない思いで聞いた。無意味!?敵味方の損害に意味を見出すなど笑止千万であると彼女自身は思っている。そんなことは後世の装飾家や歴史家に任せておけばいいだけの事。だが、思っていることと口に出すことはまるで違う。総司令官自身が流した血の意味を考えることを放棄することなどあってはならないことと、思っていたからだ。

「たかだか序盤よ。まだ本当に序盤の序盤なのよ。こんな風に一戦交えるたびにあなたはそんな風に部屋に引きこもるの?!そんなことじゃ自由惑星同盟本拠地に攻め込むまでにあなたはボロボロになっているわよ!!」
「・・・・・・・・」
「あなた自身はそれで良くても、あなたを信じてついてきている皆をどうするわけ?!」
「・・・・・・・・」
「あなたを信頼して送り出した教官になんて言い訳をするの!?」
「・・・・教官は・・・私の事なんか考えてもくれなかったじゃない・・・・」
「フィオ?!」

 ティアナは衝撃を胸に覚えていた。あのフィオーナが、教官を直向に信じてここまでやってきたフィオーナが、教官を全否定したのだ。

「私は・・・・もう戦えない・・・・。ここまで背負ってきた重荷に押しつぶされそうなんだもの・・・・。これまでだって私には重すぎたわ。ブラウンシュヴァイク討伐戦も、私には荷が重すぎたのよ。結果として勝てたけれど、それは運がよかっただけ。10万隻以上の大軍を指揮するなんて私には出来ない・・・・」
「・・・・・・・」
「もう、疲れちゃった――」

 泣き笑いの顔でフィオーナがティアナを見た。

「私の事を・・・軽蔑してくれていいのよ・・・・ティアナ。私は本当にあなたが羨ましい。あなたのような気迫があれば・・・・本当によかったのに――」

 乾いた音が鋭く部屋に響いた。ティアナは立て続けに親友の頬を平手打ちしたのだ。

「バカァッ!!!」

 フィオーナは撃たれた頬を抑えようともせず、ただ涙を流し続けている。そんな彼女を揺さぶり続ける親友も――。

「これだけは一言言わせて!!死んでいった我が軍の将兵たちは、皆、私たちを、あなたを最後の瞬間まで信じて死んでいった人が大勢いたのよ!!」
「・・・・・・・」
「そのあなたが!!こんな・・・こんなところで、弱音を吐いて座り込んでいたら・・・何の為に皆死んでいったのかわからないじゃない・・・・・。あなたは生きているのよ!!生きて、生きて、生き抜いて、死んでいった将兵たちに対して、一緒にその重荷を背負って、一緒に借りを返そうって・・・・・どうしてそう思わないの!?」

 途中からこみ上げてきた涙声を振り払うように、ティアナは声を大きくした。

「つらい気持ちは私だって同じよ。私も大勢部下を死なせたもの。けれど、指揮官たる私が座り込んでいたら、部下たちはどう思うの!?どんなに皆が生きて故郷に帰りたいか・・・・・!!どんなに親や子供、彼氏、彼女の元に帰りたいか・・・・・!!その気持ち、痛いほど伝わってくる!!それが、わからないの!?こんな拠り所のない敵地に放り込まれた理不尽さに応えるのは、ただ先頭に立って、自分のひたむきさを部下たちに示すことなのよ!!それがわからないあなたじゃないでしょう!!」
「・・・・・・・・。」
「私はね、このまえイゼルローン要塞であなたに誓ったように最後の最後まであなたをそばで支える!!あなたが歩けなければ、引きずってでも前に進めさせる!!それが、私の役目だから!!親友としても、副司令官としても、それが私の役目だから!!」
「・・・・・・・・」
「あなたの重圧をすべて引き受けることなんてできない・・・・。だってあなたにはあなたにしかできない役目があるから。でも、私にできることは私がすべてやってあげる。部下たちの恨みつらみは私が全部引き受けるわ。それを引きずってヴァルハラに帰った時に私がいくらでも謝るわよ。だから――」

 ティアナはフィオーナの両肩にそっと手を置いた。

「どうか戻ってきて。私たちを見捨てないで。あなたは素直だわ。だから喜びも、そして悲しみもこうして全部吐露してしまう。けれど、その素直さの中にある凛とした佇まいで戦場に立っている姿こそがフィオ、あなたの本来の姿なのよ」

 親友の灰色の瞳に、わずかに灯がともるのをティアナは見た。降りしきる雪、鉛色の荒野に差し込んだほんの一筋の光を――。消えてしまいそうに儚かったけれど、その光がある限り親友はやがて起き上がるだろうとティアナは信じていた。


* * * * *
 フィオーナの部屋を出てきたティアナは、ふと人の気配を感じて顔を上げた。ただ一人、目の前に佇んでこちらを見ている人影があったのだ。

「ルッツ」

 ティアナは意外そうな声を出した。

「どうして――」
「俺がここにいるのはそれほど意外か?」
「意外ではないわ。司令官としての仕事をするように、先ほど皆に言ったはずだったのに――」
「フロイレイン・ティアナも司令官の一人だろう?自分自身の軍務を放置しておいて大丈夫なのかな」

 ティアナはそれ以上言い返そうとせず、ふっと息を吐きだした。他ならない自分自身も司令官であり、そしてルッツ、ワーレンらと同格の上級大将だったからだ。

「俺がここにいるのは、卿に一つ言っておきたいことがあるからだ」
「何?」
「フロイレイン・フィオーナ一人に重荷を負わせる形になってしまったのは、後方のローエングラム陣営そのものが原因だ」
「・・・・・・・・」

 ルッツも知悉していたのか。ティアナは暗然とする思いだった。

「卿らの教官を非難する気はさらさらないが、結果としてヴァンクラフト元帥閣下の人事が帝国軍に歪みを生じさせていると思う。フロイレイン・フィオーナ、そしてローエングラム公を除いては、誰一人として一個艦隊以上の軍を指揮したことがない。他ならぬヴァンクラフト元帥閣下ご自身もだ。これは由々しき事態だと思わないか?」
「数個艦隊規模の大軍を指揮する人間がそう何人も現れてもらっても困るけれど、でも、あなたの言う通りかもしれない。・・・・一個艦隊は一つの作戦行動を遂行可能な単位としては最大規模。いわばみずからの手足のように動かせば足りる。けれど、数個艦隊規模になれば、それぞれ独立した単位をまとめる手腕が必要。そう言う事でしょう?」
「そうだ。仮にフロイレイン・フィオーナが倒れれば、いずれはそれを引き継ぐ人間がいる。だが、今の状況ではフロイレイン・フィオーナが宇宙艦隊司令長官であり、実質ローエングラム陣営の№2という者もいる。敢えて言うが、俺は特定の者がいつまでもそのような状態にあることは弊害につながるのではないかと思っている」

 ティアナは内心驚いた。ルッツの言っていることはオーベルシュタインが原作で言っていることと同じではないか。

「かといって、俺に今のフロイレイン・フィオーナの地位を継承せよといわれても到底無理だがな」

 ルッツは苦笑に紛らわしながら言った。

「そうね、ほかならぬ私でもご辞退申し上げるわ。キルヒアイス提督、ロイエンタール提督か、ミッターマイヤー提督ならば、可能だと思うけれど?」
「誰これと言うよりも、要するに機会を与えるべきだろう。我々が思っているよりも、人間の適性など想像もつかぬものだ。それは当人自身もだがな」
「あなたの意見・・・・」

 ティアナは、これまでルッツを重厚な安定的な布陣で戦う常識的な人間と思っていたが、どうもそれだけではない気がしてきていた。

「オーベルシュタインあたりが言いそうだけれど?」
「あの義眼人間か?ヴァンクラフト元帥閣下もよくまぁあのような得体の知れない人間を幕僚としたものだが、奴もそう言ったのか?」
「ううん、そうじゃないけれど・・・・・」
「ま、とにかくだ。今そのような事を話していても、と思うかもしれないが遅かれ早かれ直面する問題だ。これはエーバルト、ワーレンも同意見でな。フロイレイン・フィオーナ一人に負担をかけすぎるきらいもあるとも話し合っていたところだ」
「フィオなら大丈夫、と言いたいところだけれど、今回の事はさすがにかなりこたえたみたい。今部屋で休んでいるわ。当面の間私たちは艦隊整備と再編成に徹することになるわね。それは敵も同じ事だけれど」
「積極攻勢は、しないのか?」
「自由惑星同盟のこちらへの戦力は15個艦隊との報告があるくらいなのよ。敵に4万損害与えてもまだ十分に向こうは余力があるわ。そりゃ私だって積極攻勢したいけれど、迂闊に進んですりつぶされて貴重な人員と艦艇を損耗するのは得策ではないもの」

 ティアナはどうしようもないというように首を振った。

* * * * *
 エル・ファシル星域会戦により、帝国同盟双方は甚大な打撃を被ったが、自由惑星同盟においては豊富な戦力と物資が物を言い、立て直しは時間の問題と思われた。加えて敵領内というアドヴァンテージが帝国軍を圧迫している。未だ偵察報告を総合してもはっきりとした地形は見えてこないのだ。
一方、帝国軍の戦力は一回り小さくなっている。16万余隻あった遠征軍の4分の1弱を失い、後方からの補充と再編に追われていた。中核であるフィオーナ本隊が打撃を受けたことは士気に大きな影響を及ぼした。
 フィオーナ本隊の再編を担うのは、司令部からはエステル・フォン・グリンメルスハウゼンが、分艦隊司令からはシアーナ・フォン・エクレール准将とシエル・マスケッタ准将が当たることとなった。

 再編中に懸念材料が生じた。偵察艦隊からの報告では、アスターテ星域において別の艦隊が集結しつつあるという。その総数は不明であるが、少なくとも先ほどのエル・ファシル星域会戦で相対した艦隊を凌駕するという。
 この知らせにフィオーナは体調不良をおして出てきた。表情は憔悴しきっており、痛々しかったが、ともかくも何とかしなくてはならないという彼女の意志があった。
 フィオーナたちは会議を開いた。アスターテはエル・ファシルに近い。今ここでエル・ファシルにいる敵艦隊に合流され、圧倒的な勢いでイゼルローン要塞に進撃してこられれば、勝ち目はない。シャロンの支配以前の自由惑星同盟側であれば、ルッツたちも十分に防ぎ切れる自信はあった。だが、相手ははっきりと物量作戦で来ると宣言している。人間を犠牲にすることを厭わない戦法で来ると明言している。
 流石のイゼルローン回廊とイゼルローン要塞をもってしても防ぐのは不可能。
 フィオーナ、というよりもティアナたちはそう結論付けた。何しろ主将の心理的動揺により判断能力がガタ落ちに低下しているのだ。そこで、フェザーン方面から侵攻する本隊に向けて至急増援を要請する一報を放ったのである。


* * * * *
一方――。

 自由惑星同盟側も無傷ではない。戦線に参加した艦隊も大小の被害を受けていたが、その中でヤン艦隊の被害が最も大きい。
 総司令官直卒艦隊が大打撃を被ったことは、各艦隊に小さくはない衝撃を与えた。それが、ヤンの旗艦戦艦ヒューベリオンでの会議において露骨に跳ね返るに至るまでさほど時を要さなかった。

「ヤン・ウェンリー元帥閣下におかれましては、我々に前線をお任せにあって後方に下がられて艦隊編成をなさった方がよろしいのではないですかな」

 開口一番ウランフ提督が言い、ビュコック、クブルスリー両提督もそれに和した。シャロンの洗脳を受けている諸提督は何も言わない。ことシャロンの賛美かもしくはシャロンを貶める言動がない限りは彼らは無関心の領域を出ることはないのである。
第三十艦隊の司令官コーデリア・シンフォニ―を除いては、だったが、彼女は何も言わなかった。むしろヤンを掩護したのは、ティファニーだった。

「総司令官が前線を不在にするなど聞いたことがありません。ヤン・ウェンリー提督ご自身の指揮があってこそ、戦線は統一されるのですから」
「総司令官の艦隊が致命傷を負ったことは、ご覧のとおり士気に小さくはないことですぞ。これは総司令官閣下自らが軽率にも敵軍に接近しすぎたことが原因ではないですかな」

 ビュコック大将の言葉をヤンは殊更だろうが無表情で聞いている。それを横目で見ながらティファニーは頑強にヤンの参戦継続の必要性を説き続けた。暫くは三提督とティファニ―の間で論戦が続いた。ティファニ―自身にもなぜこれほどまでにヤンを掩護しなければならないかがわかっていなかった。シャロン自身にも指示をされてはいない。ただ、そうしなくてはならないような気がしていたのだ。

「私もアーセルノ中将の意見に賛同します」

 論戦のさ中、ふとしたことで空白ができることがある。それは双方の熱がいったん引くか、あるいは自然の摂理かはわからないが、ともかく議論が止まった一瞬、コーデリア・シンフォニ―中将が発言したのである。一座の眼は彼女に注がれた。

「それに、ヤン閣下の任命についてはシャロン最高評議会議長ご自身が認めていらっしゃることで有り、閣下を後方に下げることはシャロン最高評議会議長の御威光を無視するという事ですが――」

 途端に風向きが変わった。シャロンに洗脳されている諸提督が一斉に牙を3提督に向けたのだ。

「シャロン最高評議会議長の御威光を無視なさるのですか!?」
「それはシャロン最高評議会議長に対する反逆ととらえてよろしいか!?」
「この場で即決で処断しても――」
「まぁまぁ落ち着いてくれますか」

 ヤンの言葉に一座が彼を見た。

「シャロン最高評議会議長の意向を無視することは得策ではありませんよ。かといって三提督のご意見も至極的を得ています。そこで艦隊再編成がすむまではビュコック大将に私の代理を依頼したい」
「ほう?」

 老提督が眉を上げた。

「それは貴官・・・いや、閣下の指揮権を儂が引き継ぐという事で理解してよろしいかな?」
「そうです」

 ヤンは立ち上がって一座を見まわした。総司令官が立ち上がった以上提督たちも立ち上がざるを得ない。そしてそれは会議の解散を意味していた。ヤンは自ら立ち上がることで周りの意見を封じたのだ。

「艦隊編成と指揮の再編については、追ってそれぞれに連絡します。それまでは各々の艦隊の補給と補充作業を行い、哨戒を怠らないようにすること、以上です」

* * * * *
「信頼と実績」

 グリーンヒル大尉とアッテンボロー中将は顔を見合わせた。ヤンが会議室から戻って部屋に入るや否や、そうつぶやいたのを聞き逃さなかったからだ。

「残念ながら、それが今の私にはない。だからこそ他の司令官が私の指令を聞きたがらない」
「しかし、それは爺さんたちだけでしょう。大部分の司令官はあなたの命令に従っています」
「アッテンボロー。それはシャロンの洗脳の結果だよ。あれを洗脳と呼んでいいならば、だがね。逆に言えば、ビュコック大将たちの反応が当り前なんだよ。普通ならば、経験と実績のないポッと出の総司令官の言葉なんか聞かない」

 そこまでヤンが言った時、パトリチェフ、フィッシャー、ムライ、デッシュ、マリノと言ったヤン艦隊の面々が入ってきた。皆一様にビュコック大将らの発言に憤慨している様子である。

「放っておいていいんですか!?」
「あんな態度、総司令官に対するものじゃねえ!!」
「最高評議会議長に言って――」
「あの3提督を放り出し――」
「君たちは私をシャロンと同じようにしたいのかい?」
『・・・・・・・・・』

 一同がヤンの言葉に黙り込む。ヤンが最も嫌いな言葉――独裁者――を放ったことを悟ったのだ。

「グリーンヒル大尉、艦隊の損傷率を報告してほしい」

 ヤンはグリーンヒル大尉を見た。大尉はすばやくファイルをめくり、目的の頁を探し出す。

「はい、我が艦隊の損傷率は79、5%、内、完全破壊されたのは69%、死傷者154万5827人。内、死者は143万0267人です」
「7割損失か。」
「結果、当初20,500隻あった艦艇の内、完全に機能する残存艦艇は4,200隻。修理必要艦艇は2,150隻、ですが、内1,049隻については廃棄せざるを得ない状況です。旧第十七艦隊旧第十三艦隊の損害比率は3・87:6・13という結果です」

 ヤンはと息を吐いた。ウィトゲンシュティン中将から継承した旧第十三艦隊の人員を多数殺してしまった。自由惑星同盟においては艦隊は国家の物であり、提督の私物ではないが、ウィトゲンシュティン中将が旧第十三艦隊にかけるおもいは並々ならぬものであることをヤンは知っていた。帝国亡命者の「家長」として家を守る。その責務を彼女は良く果たしていた。それを一瞬のうちに無に帰してしまったことを、なんといえばよいかわからない。
 彼女は怒るだろうか、などと埒もないことをヤンは考えてみる。そしてそのことについてすぐに脳裏から消した。怒る、怒らないなどと言う単純な表現を遥かに超越することをやってしまっているのだから。

「アッテンボロー、フィッシャー提督。貴官らには艦隊の再編と訓練、補充をお願いしたい。後方にいる予備兵力のうち我が艦隊に再編して遜色ない働きができる部隊情報は既にグリーンヒル大尉にまとめてもらっている。それを精査してほしい」
「了解です」





* * * * *
 会議が終わり、三々五々諸提督たちは自らの座乗艦に戻るべく戦艦ヒューベリオンのシャトル発着エリアに向かっていく。

「コーデリア殿下」

 背後で声がかかったので、コーデリア・シンフォニ―中将は振り向いた。

「あなたもこの世界にやってきていたとは驚きでした。」
「そんなこと、シャロンがとっくに知り尽くしていると思っていたけれど?あなたには情報がいきわたっていなかったの?」
「それは・・・・どうでもいいことです」
「あなたが言い出したことではなくて?」

 コーデリアは面白そうにティファニ―を見つめる。

「そんなことよりも、です。何故ヤン・ウェンリー提督を掩護しなかったのですか?」
「あら、意外なことを聞くものね。シャロン派閥のあなたなら、ヤン・ウェンリーなどむしろ邪魔者扱いするだろうと思っていたのに」
「私の事はどうでもいいのです。殿下、あなたの考えを伺いたいのです。何故――」

 ティファニ―は胸に抱きしめていたファイルをぎゅっと抱きかかえた。

「私たちはこの世界にやってきてしまったのでしょうか」
「・・・・・・・・・」

 コーデリアは緑色の瞳を一瞬見開くと、それまでとは違った声でティファニ―に話しかけた。

「あなたはこの世界にやってきたこと、後悔しているの?正確に言えば、シャロンに引きずり込まれたのでしょう?」
「それは――」
「私はもうあなたの所業は前世で清算がついたと思うのだけれど。違う?」

 そよ風のような涼風の声色がティファニ―を包んだ。

「私が意固地になってしまったばかりに、多くの人を傷つけてしまったことは事実ですから。そして取り返しのつかないことの原因を作ってしまったことも――」

 ティファニ―はハッと顔を上げたが、前よりも一層暗い顔になっていた。

「この世界でも同じことをしている・・・・。けれど、私を前世から救い出してくださったのはシャロン教官です。私は教官を裏切ることはできない」
「それでもあなたは暗い顔をしているわ。アンジェやカトレーナと違っていることは一目でわかるの」
「・・・・・・・」
「もしも助けが必要ならば、私が手を貸すことも可能。・・・・むろんあなたが必要とすれば、だけれど」
「・・・・・・・」
「結論をあまり先送りしない方が賢明ね。今すぐにとは言わないけれど、あまり時間がないことは確かなのだから」

 コーデリアはティファニ―の後姿を見送った。その後ろ姿には隠しようもない暗さが漂っている。それを、どことなく面白そうに、そしてどことなく真剣さを秘めた眼で。
 
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