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ある晴れた日に

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54部分:穏やかな夜にはその三


穏やかな夜にはその三

「テレビつけたら相手チームのホームランとかエラーとかだったし」
「今の横浜みたいね」
「あそこまで・・・・・・酷かったか」
 否定しようがないことであった。
「はっきりと覚えてるわよ」
「とにかく。そういうことがあるから」
 見れば明日夢はカレーの中のピーマンにスプーンをつけてはいない。
「ピーマンはちょっとね」
「大丈夫だよ」
 しかしそれでも佐々は言う。
「俺のカレーは特別なんだよ。食べてみろって」
「そこまで言うのなら」
「ああ、少年」
 恵美が明日夢にここで声をかける。
「実際に食べてみたけれどね」
「カレーの葱と大根?」
「そうよ。いけるわ」
 こう明日夢に言うのである。
「大根って癖がないし」
「そうなの」
「葱もね。よく考えたら玉葱に近いじゃない」
「ええ」
「だから合うわ。案外ね」
「けれどピーマンは別よ」
 しかしまだ顔を顰めさせている明日夢だった。
「これだけは」
「何度も言うけれどな、少年よ」
 また佐々が明日夢に言う。
「俺のカレーは特別なんだよ。だから騙されたと思って食ってみろって」
「カス外人掴まされたと思って?」
「カスと思ったら凄かったってことあるだろ」
「それはヤクルトの専売特許ね」
 奈々瀬が明日夢の横でにこにことしている。
「昔からそれには苦労したことがないから」
「あと監督にもね」
 少し奈々瀬に八つ当たり気味になっている明日夢だった。
「キャッチャーにも。何だっていうのよ」
「かく言う私のカレーも何か」
 見れば牛肉と鶏肉、それに豚肉だ。ジャガイモと玉葱がこれでもかという程入っている。彼女のカレーも独特のものになっている。
「何か塩ラーメンと味噌ラーメンを一緒にした感じなんだけれど」
「ああ、あれかよ」
 野茂がその例えを聞いて言った。
「インスタントでやったらまあ食えるんだけれどな」
「そう考えればいいかしら」
「大丈夫だろ。俺も缶詰の蟹と大蒜と大根だけれどな」
「美味しい?」
「美味い」
 はっきりと答える。
「いけるぜ。だから少年も橋口もな」
「わかったわよ」
「まあ私のはお肉の種類がばらばらなだけだから」
 見れば奈々瀬の顔は明日夢に比べてまだ晴れやかだった。
「食べるわ」
「覚悟決めるわ」
「カレー食うのに覚悟はいらないんだよ」
 佐々はこう主張する。
「絶対にな」
「他の食べ物にはいるのね」
 こんなやり取りの後でやっとそのピーマンを口に入れる。すると。
「美味しいわね」
「ほらな、言った通りだろうが」
「ピーマンも食べてみれば結構」
「大蒜もいけるな」
 正道も見ればカレーの中の大蒜を食べていた。
「案外どころじゃなくてな」
「パプリカも茄子もいいじゃない」
 咲のカレーには他にほたて貝が入っている。
「これも結構以上に」
「カレーは万能食なんだよ」
 佐々は主張してきた。
「何でも入れることができるんだよ。だからいいんだよ」
「だからあえてこんなカレーにしたのね」
「そうさ。栄養もあるしな」
 まさにその通りの佐々の主張だった。
「寄せ鍋みたいなものなんだよ」
「そうなんだ」
「成程ねえ」
「さあ、どんどん食ってくれよ」
 今度は上機嫌になる佐々だった。
「その為に作ったんだからな」
「ああ、あとよ」
 春華が皆に言ってきた。
 
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