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三人の鬼

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第三章

「別にな」
「子牛でよいわ」
「大きな牛を食うまで腹が減っておらんしな」
「だからな」
「生まれたばかりの子牛を貰う」
「そして食わせてもらう」
 こう言ってだ、彼等は早速だった。
 橘の家の方を見て丁度子牛が何頭かいてそのうちの一頭の寿命が間もなくというのを見てだ。その一頭を早速だった。
 神通力で呼んでそうして捌いて焼いて食った、そうしてから橘に言った。
「馳走になった」
「美味かったぞ」
「これで腹一杯になった」
「さて、ではな」
「この礼をしたいが」
「どうしたものか」
 橘に言いつつ自分達で話をした、そしてだった。
 そのうえでだ、彼にあらためて言った。
「礼となると死なせぬことになるのう」
「今のわし等の場合は」
「そうなるが」
「わしは死なぬのですか」
 思わぬことになったとだ、橘は驚いて応えた。
「まさか」
「勿論普通は駄目じゃ」
「わし等にとってもな」
「このことは咎になり閻魔様に罰を受けることになる」
「無論お主の代わりの者を連れて行くことになるが」
「お主を連れて行かぬことは事実だからな」
「咎で鉄の杖で百叩きになるな」
 そうなるというのだ。
「だからな」
「そうなるが」
「しかし礼をせねばならんからのう」
 それ故にというのだ。
「お主は許す」
「お主と同じ歳の者を連れて行くが」
「誰か知らぬか」
「そう言われましても」
 いきなり言われてもだ、橘もどう言っていいかわからなかった。
「それは」
「ふむ、困るか」
「そう言われても」
「そうなのか」
「はい、どうにも」
 こう答えるしかなかった、しかしだ。
 鬼達は橘の今の言葉を受けてまた顔を見合わせてだ、彼等の間で話してそのうえでまた橘に対して話した。
「ではお主の干支は何じゃ」
「同じ干支の者を連れて行く」
「そうするわ」
「干支ですか。戊寅です」
 橘は自分の干支は素直に答えた。
「そちらです」
「そうか、戊寅か」
「そういえばこの辺りにおったな」
「しかも碌でもない者が」
「働かず大飯ばかり食い親が甘やかすのをいいことにやりたい放題」
「図々しく偉そうにばかりしておって思いやりも何もない」
「神仏の教えなぞ何もわかっておらず悪口ばかり言う者がな」
 そうした者がいるからだというのだ。 
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