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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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番外編その2 鉄砲水とGX

 
前書き
遊野清明を主人公とした物語は、今度こそこれでひとまずは幕を閉じます。

前回のあらすじ:特別ゲスト不動遊星(超融合)。絶対これ公開したら色々言われるだろうなあと思ってたら案の定総ツッコミを受けた回。実際私自身収容所編でもないのに「遊星回」の切り札が残骸爆破だったらいくらなんでもこれはツッコミ待ちなんだと解釈するから仕方ない。 

 
 夜は続く。それはつまり、まだまだ宴が続くということでもある。

「こんなに成長したあなたたちに出会うことができて、私は今自分の教師生活の中でも一番に感動しているノーネエエェェェ!」
「お、俺も先輩方にまた出会えて、心の底から嬉しいザウルスウゥゥ!」
「ほらほら、2人ともわかったから!レイちゃん、悪いけれど手伝ってくれるかしら」
「任せて明日香さん!ほら2人とも、ボクが今お水持ってくるから、ちょっと落ち着いてね!」

 だいぶ酔いも回ってきたのだろうか。いきなり会場のど真ん中で感極まって大声コンテストでもやってんのかと言いたくなるようなレベルで泣き崩れるクロノス先生とそれを見て一緒にもらい泣きする剣山、そして見ていられないとばかりにその世話を焼く明日香とレイちゃん。先生はともかく本来ならあの2人に関しては僕らの後輩なんだからこの同窓会に来ていることはおかしいのだが、あんまり一緒につるんでたことが多かったので呼ぶリストの中にこっそり放り込んでおいたのだ。ちなみに、同じ理由でカイザーもこの会場にいる。もっとも彼の場合、翔が半ば強引に連れてきたという側面の方が大きい気もするが。
 レイちゃんが持ってきた水をまだ涙目のまま素直にごくごくと飲む2人を見ていると、ふらりと近づいてきた彼女が話しかけてきた。

「なーに壁の花してるんですか。主催なんだから余興のひとつでもやってみてくださいよ」

 そちらを振り返ると、久しぶりに見る後輩の姿。さすがにあの時から5年も経てば元から高かった背もさらに伸び、顔立ちも大人びてだいぶ全体の雰囲気も変わっている。
 だけど、一目見ればわかる。彼女の本質は、僕と一緒に毎日厨房に立っていたころから変わっていない。だから僕も微笑んで、あの時と同じように言葉を返す。その隣の人は……うん。ダークシグナーになって以降成長や老化といった単語から一切無縁になって不老の体を手に入れた僕が言うのもなんだけど、ほんとこの人は何回会っても初対面の時から見た目変わんないな。

「おひさ、葵ちゃん……と、やっぱ来たんですね明菜さん。1か月ぶりですね」
「うん、ひっさしぶり清明ちゃん!なんてったってこの成人式すら出席しなかった葵ちゃんが昭ちゃんからのお誘いは断らないで同窓会に行くっていうんだからね、これはもうお姉ちゃんとして可愛い可愛い妹の晴れ姿をじっくり押さえておかなくちゃ!」
「なんで余計なことばかり言うんですか姉上は!すみません、どうしても途中で撒けなくて……いやちょっと待ってください先輩。1か月ぶり?姉上が?」

 謝罪の途中でふと、僕の発言をいぶかしむ葵ちゃん。明菜さん、なんとなくそんな気はしてたけどやっぱ黙ってたのか。別に言ったところで減るものでもないし、別にどうだっていいだろうに。

「葵ちゃん知らなかったの?明菜さんうちの常連さんだよ」
「うんうん。お姉ちゃんよく紅茶飲んでケーキ食べておしゃべりしに行くんだ、ねー」
「ねー」

 これは本当のことだ。よく、といっても月に1度か2度程度だが、ちょっと店が暇になるような時間をピンポイントで突くようにやって来ては1時間ほど僕を駄弁り相手に指名して居座っていく。正直暇な時間とはいえやることがないわけではないので困らないと言えば嘘になるけれど、結構金払いがいいうえ会話のセンスも妹と同じく僕と波長が合い、なにより美人さんは目の保養にもなるので断じて嫌ではない。

「……本当になにやってるんですか」
「やっぱ明菜さん頭いいから喋ってて楽しいのよ」
「お姉ちゃんの見過ごしてた葵ちゃんのお話とかも聞けてとっても楽しいよ、ねー」
「ねー」
「……変わりませんよね、2人とも」

 何か言いかけたけれども結局言葉を切り、特大のため息とともに呆れ顔で言い放つ葵ちゃん。失礼な。しかし言い返す前に、そんな彼女の表情がほんの少し優しくなる。

「でもなんだか、ちょっとだけですが安心しましたよ。先ほどお見かけした時は何か様子が変でしたが、先輩はそうやって変に大人ぶるよりもそれぐらいの方がしっくりきます」
「ちょっとちょっとマイシスター、あなたの愛しのラブリーお姉ちゃんは?」
「まずそのごちゃごちゃした形容詞全部取っ払ってください。姉上はいつになったら大人になっていただけるんですか?」
「んもー、ここは人が多いから素直になれないって?この恥ずかし屋さんめ。うりうりー」
「うわ、ちょ、どんな変換してるんですか引っ付かないでください姉上!」

 相変わらず仲のよさそうな姉妹に小さく笑いながら、グラス片手に衝突事故を避けるべくちょっと距離をとる。あの姉妹のことだからそんなへまはしないだろうけど、姉妹愛を邪魔するのも悪いだろう。だが抱き着く明菜さんを引き離そうと苦心しながらも、葵ちゃんが最後にポツリと呟いた一言がひどく胸に突き刺さった。

「やっぱり迷うなんて、先輩らしくありませんよ。いつも通り、お好きなようにやってみてください。それで当たって砕けた時のフォローのためなら、私たちはいつだって駆け付けるんですから」

 見抜かれてた、か。なんとなくそれ以上葵ちゃんと顔を合わしていることが気まずくなり、気持ち足早に距離を置こうとする。しかし、これが裏目に出た。後ろに足を踏み出したところで、誰かの背中にぶつかってしまったのだ。

「おっと失礼……あれ、十代じゃん。来てたんだ」
「ん?よお、清明。到着したのはついさっきだけどな」 

 そこにいたのは、遊城十代。もう卒業してから5年、前回の騒動から数えても2年も経つというのに、なぜかその恰好はあの時と同じ赤い制服姿のまま。僕だって見た目は変わっていないかもしれないが、さすがに卒業したにもかかわらず外で制服を着るような真似はしない。僕や明菜さんの前に、こいつが一番変わってないんじゃないだろうか。
 そんな視線を向けられていると知ってか知らずか、2年前の時と同じように屈託なく喋りかけてくる。ああ、こんなところもまったく昔のままだ。

「ときどき思うんだ。なんだか、夢みたいだと思わないか?」
「なに、遊星の話?あっちの世界で元気にやってんのかね」

 あの時空を巻き込んだ大事件のことは、今でも夢みたいな時間だったと思う。でもそれは、僕が事件解決後に乱入者としていきなり首を突っ込んだからよくわかってないだけだと思っていた。当事者としてずっと戦ってきた十代がそんなことを口にするのは、なんだか意外だ。
 でも予想に反し、違う、と彼は首を横に振った。

「それだけじゃなくてさ。卒業してから5年ってことは、俺たちがデュエルアカデミアに入学してからだと8年だろ?たったそれだけの間に、いろんなことがあったよなって」
「変なものでも食べた?卒業パーティーすらほっぽり出してどっか行っちゃったくせに、過去語りなんてらしくないじゃないの」

 憎まれ口をたたきながらも、その言葉につられて僕も入学からのことをざっくりと思い出す。ユーノと出会い、入学試験の相手にクロノス先生が出てきて、それでもなんとか入学生の端っこに紛れ込めたかと思えば真っ当な学園生活からかけ離れた集団、セブンスターズとの戦いが始まった。思えば、あれがひとつのきっかけだったのだろう。それからというもの、普通の高校生ならば絶対に一生関わりあわないであろう闘争の日々が僕らにとっての「日常」となったからだ。
 光の結社、ユベル、2つの異世界、ダークネス、不動遊星……そして何よりも、現。たくさんの仲間がいて、数多くのライバルがいて、果てしない敵がいて。どの戦いでもほぼ常に最前線にいた僕にとっては辛いことも多かったけど、楽しいことも多かった。僕にとってあのやたら濃い日々は、思い出したくもないことも全部ひっくるめて大切な思い出だ。
 同じく過去のことを思い返しているのか、どこか遠い目の十代。学生時代はなんだかんだありつつも基本的にはいつだって前を見ていた彼がこんな表情をするのは実際珍しいが、まあ野郎のレアな表情なんぞに価値はない。先に現実に戻ってきたのは、僕の方だった。

「それで?しんみりするのはまだちょっと早いんじゃない、まだ始まったばっかなんだからさ」
「いや。1つ気になってな。なあ、清明。お前、何か様子が変じゃないか?」
「お前もか……ああいや、こっちの話。ちなみに、なんでそう思ったの?」
「さっき万丈目から聞いたけど、そもそもこの同窓会自体がお前が言い出したんだってな。俺が言えたことじゃないかもしれないけど、お前だって自分からそういうことを言い出すタイプじゃないだろ?」
「あー、そういうことね」

 言葉に詰まる。僕自身にも自覚はなかったけれど、確かにそれはあるかもしれない。視線を逸らすことも許さないとばかりにまっすぐこちらの目を見つめながら、畳みかけるように言葉を続ける。

「俺にはお前が何を悩んでるのかはわからないけど、俺たちはいつだって相談に乗るぜ。いや、それともこっちの方が向いてるか?」

 そう言ってにやりと笑い、これ見よがしに左腕のデュエルディスクを軽く持ち上げる。一見ふざけているようにも見える態度だが、彼の目はいたって本気だ。
 
「俺たちはデュエルアカデミアで、大事なことは全部デュエルで決めてきたじゃないか。嫌とは言わせないぜ、それに俺だってワクワクしてるんだ。2年前の時は結局、お前とは戦えなかったんだからな」
「それそっちが本音じゃないの?」

 思わず突っ込みを入れつつも、気づけば十代の提案にすっかり乗り気になっている僕がいた。わかったよ、と降参の印に両手を挙げ、ざっと周りを見回す。皆思い思いに旧交を温めるのに忙しく、こちらに注意を配っているような視線はない。とはいえ僕の感知能力は明菜さんの隠密技能以下だからあの人が本気で隠れていればどうしようもないが、まあその時はその時だ。

「外行こっか、十代。ここはちょっと手狭すぎるしさ」

 景気づけにグラスに残った中身を一息に飲み干し、近くの机にこっそりと置く。手ぶらになったところで部屋を後にすると、どちらが示し合わせるともなく2人して屋上の方向へと向かう。鍵の開いていたドアを開くと、雲一つない夜空に抱かれたほどほどのスペースが目に飛び込んできた。さすがに空気の澄んだデュエルアカデミアに比べると満天の星空とまではいかないが、その代わり眼下には色とりどりの照明が光って見える。
 もっとも、今回はここに風景を見に来たのではない。あたりを見回すのもそこそこに距離をとって向かい合い、互いのデュエルディスクを展開する。

「いいか清明、本気で来いよ。お前がシンクロモンスターを使いたがらないのはこの2年間ニュースにもなってないから予想はつくけどよ、俺が構わないって言ってるんだ。そんな半端なデュエルやったら承知しないぜ。本気で戦うからこそ、デュエルもそれに応えてくれるんだからな」
「十代……わかったよ、そこまで言うなら全力全開と洒落込ませてもらうさ」

 静かな高揚が全身を満たし、2年ぶりに味わうその心地いい感覚にしばし身をゆだねる。シンクロモンスターの存在を知る相手と戦えるのはあの時以来。それはつまり、2年ぶりに僕も本気のデュエルができるということだ。心にずっとたまり続けていたあのもやもやした感覚が、嘘のように引いていく。

「さあ……」
「「デュエル!」」

「まずは俺のターンからだな。行くぜ相棒、ハネクリボーを守備表示で召喚!」

 ハネクリボー 守200

 先手を取った十代が真っ先に召喚したのは、精霊としてはともかくデュエルでその姿を見ることは随分久しぶりな十代の相棒、ハネクリボー。なんだか懐かしい1枚を見てほっこりしているうちに、十代はさらに次の行動へ移っていた。

「さらにカードを2枚伏せて永続魔法、補充部隊を発動。さらに魔法カード、命削りの宝札を発動!発動ターンの相手へのダメージと特殊召喚を封じる代わりに、手札が3枚になるようにカードをドローするぜ」

 初手から下級モンスター1体の他は全部魔法と罠、そして最後の1枚が命削りの宝札とは。まるで衰えることを知らない相変わらずのとんでもない引きの良さに内心閉口しつつも、まるで子供のように純粋に目を輝かせて3枚ものカードを引く十代をじっと見守る。さあ、次は何を見せてくれる?

「カードを2枚セット。そしてこのエンドフェイズ、命削りの宝札3つ目のデメリットで俺の手札を全部捨てる。さあ、ターンエンドだ」

 3枚中2枚をさらに伏せ、最後に余った1枚を墓地に送り込む十代。これで伏せカードは4枚……まあ、十代のことだ。まず間違いなくあの4枚のどれかにモンスターの戦闘破壊をトリガーにヒーローを呼び出すカード、ヒーロー・シグナルはあるだろう。あるいは大穴で伏せカードに仕込んだドローソースと進化する翼から無理矢理ハネクリボーをLV(レベル)10に進化させる大技をしてくるかもしれない。

「さーて、どうすっかね……僕のターン、ドロー!」

 ざっと手札を見る。とりあえずヒーロー・シグナルがある前提で考えると、あのハネクリボーにはうかつに攻撃できない。そして進化する翼も一応警戒すると、攻撃表示モンスターをあまり並べることも得策ではない。でも悠長に構えていても融合ヒーローの爆発力に押し切られることは必須、とするとここはあのカードで行くか。

「来い、白棘鱏(ホワイト・スティングレイ)!さらに僕のフィールドに水属性モンスターが存在することで、手札のサイレント・アングラーは特殊召喚できる。さあ覚悟しな十代、水属性レベル4モンスターの白棘鱏とサイレント・アングラーでオーバーレイ!」
「オーバーレイ?シンクロ召喚じゃないのか!?」

 白棘鱏 攻1400
 サイレント・アングラー 守1400

 1瞬にして僕のフィールドに現れる、純白のエイと茶色のアンコウ。何が起きるのかと見守る十代とハネクリボーの視線を感じながらも2体のモンスターが水色の光となって天に昇り、次いで螺旋を描きつつ僕の足元に開いた宇宙のような空間の穴へと飛び込む。次の瞬間には空間の内部で光が弾け、新たなモンスターが生み出されその姿を見せた。

「一天四海に響く轟き、呼びて覚ますは同胞の牙!エクシーズ召喚、バハムート・シャーク!」

 ☆4+☆4=★4
 バハムート・シャーク 守2100

 2足歩行をする異形のドラゴン、あるいは鮫ともつかない古の怪魚の名を冠する偉大なる海竜が、背中に生えた4枚もの羽根のようなヒレを広げ仁王立ちする。そしてその周囲には、まるでその衛星であるかのように一定の軌道で回る2つの光球。

「うおお!?……って、あれ?守備表示なのか?」

 るせい。こっちだってそんなガン伏せしてなきゃ余計なこと考えずに攻撃表示で出してたわい。

「いいんだよ、これで。今回頼りにしてるのはバハムート・シャークの攻撃力じゃない、その効果なんだから。バハムート・シャークの効果発動!オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、エクストラデッキからランク3以下の水属性エクシーズモンスターを1体特殊召喚できる。ゴッド・ソウル!」

 バハムート・シャークが自身に纏う光球の1つに食らいつくと、瞬間的にそのエネルギーを大幅に増幅させることで偉大な海竜に宿る真の力が解放される。胸にずしんと響くようなその咆哮に応えるようにして現れた新たなるモンスターは蛇のように細長い体に鎌のような両腕、暗夜を覆うように不気味に開いた翼と既存の生物の特徴を詰め込んだ悪夢の住民のような姿だった。

「如法暗夜を引き裂くは、沈黙にして悪夢の刃。出でよ、No.(ナンバーズ)47……ナイトメア・シャーク!」

 バハムート・シャーク(2)→(1)
 No.47 ナイトメア・シャーク 攻2000

「オーバーレイ・ユニット?ランク?いやそれより、エクストラデッキからモンスターを特殊召喚するモンスターだと?」

 十代が驚くのも無理はない。僕だってこんな特殊な効果を持つモンスター、この子以外には見たことがない。だけどまだ、やるべき手順は残っている。エクシーズモンスターの本気は、まだまだこんなものじゃない。

「そしてこの瞬間、特殊召喚に成功したナイトメア・シャークの効果を発動。手札か場に存在するレベル3の水属性モンスター1体を選んで、自身のオーバーレイ・ユニットとして吸収できる。僕が選ぶのは、手札のグレイドル・コブラだよ」
「グレイドルカードを吸収させる、だと?」

 手札のグレイドル・コブラをナイトメア・シャークの下に重ねると、ナイトメア・シャークの周りにも光球が1つ現れた。しかしそれはバハムート・シャークを囲むそれのように衛星軌道を描くことはなく、即座にその腕の刃へと吸収された。

 No.47 ナイトメア・シャーク(0)→(1)→(0)

「さらにナイトメア・シャークのもう1つの効果を発動、ダイレクト・エフェクト!このカードのオーバーレイ・ユニットを1つ使い、僕の場の水属性モンスター1体を選択。そして選択したモンスター以外の攻撃を封じる代わりに、そのモンスターは相手にダイレクトアタックができる。当然僕が選ぶのは、ナイトメア・シャーク自身。さあ、バトル!ナイトメア・シャークで攻撃!」

 ナイトメア・シャークの体が、夢か幻のように闇に揺らぎ溶け込んでいく。次の瞬間にぱっと現れた不可視の斬撃は、なんと十代の背後から振り下ろされた。どうやら姿を消すと同時に彼の背後まで超スピードで回り込んだらしいけれど、音を立てないどころか気配すらまるで感じさせずあのスピードであれだけの巨体を移動させるとは。こうして近くで見ているだけの僕ですら驚いたのだから、全くの不意打ちを受けた十代はもっと驚いただろう。

 No.47 ナイトメア・シャーク 攻2000→十代(直接攻撃)
 十代 LP4000→2000

「ぐわっ……くっ、まだまだあっ!やるな清明、だけど今のダメージをもとに俺の永続魔法、補充部隊の効果が発動するぜ。受けたダメージ1000ポイントにつき1枚、だから2枚のカードをドローだ」

 これで十代の手札は2枚。本当はこのドローもたいがいリスクが高いからやりたくはなかったが、そんなこと言ってあれもできないこれもできないでは勝機を掴むことなんて永久にできやしない。ライフを半分にできた、それだけで今は良しとしよう。

「さらにカードをセット。これでターンエンドだよ」

 今この瞬間だけを切り取ってみれば、大型モンスター2体を並べた僕の方が盤面としては有利。だけど十代にはこれまでのドローで得た、莫大なアドバンテージがある。
 そう、問題は次のターンだ。さっきは命削りの宝札のデメリットを前提に動いていたためにドロー枚数を除けば割と大人しかったけれど、その制約も消えた次のターンからは……まあ、何をしてくるかわかったものじゃない。心してかからねば。

 十代 LP2000 手札:2
モンスター:ハネクリボー(守)
魔法・罠:補充部隊
     4(伏せ)
 清明 LP4000 手札:2
モンスター:バハムート・シャーク(守・1)
      No.47 ナイトメア・シャーク(攻・0)
魔法・罠:1(伏せ)

「俺のターン。リバースカードオープン、テラ・フォーミング!このカードの効果でデッキのフィールド魔法、フュージョン・ゲートをサーチしてそのまま発動。そしてトラップ発動、チェーン・マテリアル!」
「嘘でしょ……!」

 素材を除外するという特有の癖こそあるものの、フィールド魔法という性質上プレイヤーの素材が尽きない限り何度でも融合召喚を行えるフュージョン・ゲート。そして攻撃不可や自壊という様々なデメリットを受ける代わりに、1ターンだけ融合素材をデッキや墓地からも調達できるようになるチェーン・マテリアル。この2枚が揃った時にどれだけ様々なコンボが生まれるのかは、昼寝混じりに聞いていた授業中に教えられた覚えがある。

「まず俺のデッキに眠るワイルドマンとネクロダークマン、さらにスパークマンとエッジマンを除外して融合召喚!来い、ネクロイド・シャーマン!プラズマヴァイスマン!」

 E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネクロイド・シャーマン 攻1900
 E・HERO プラズマヴァイスマン 攻2600

 まず先陣切って飛び出したのは、錫杖を手にし複雑な模様の入れ墨を全身に刻んだ上半身裸のヒーローと、それとは対照的に強化スーツを身に着けたスパークマンとでもいうべき黄金の鎧で手足の先端と胸を覆った電を纏うヒーロー。ネクロイド・シャーマンが印を結んで怪しげな呪文を唱えると、バハムート・シャークの全身に突然不気味な言語による文言が浮かび上がる。

「ネクロイド・シャーマンの効果だ。このカードは特殊召喚に成功した時に相手モンスター1体を破壊して、その代わり相手モンスター1体を蘇生させる。攻撃表示で甦れ、サイレント・アングラー」

 サイレント・アングラー 攻800

 苦しむ暇もなく唐突に破壊されたバハムート・シャークの代わりに、その素材だったはずのアングラーが攻撃表示で無理やり引きずり出される。だけど、それを嘆く暇はない。何せ十代の場には、まだ2か所も空きスペースがあるのだから。

「デッキのネオス、そしてレベル4以下の効果モンスターであるプリズマーを除外するぜ。融合召喚、ブレイヴ・ネオス!」

 E・HERO ブレイヴ・ネオス 攻2500

 そして、さらにもう1体。ネオスを除外した時点でてっきりネオス・ナイトの姿を見ることになるのかと思ったけれど、予想に反して十代が呼び出したのは全く違う未知のネオスだった。前者を鎧で守り剣で戦う文字通りの騎士とするならば、こちらはさながら格闘戦士としてのネオスというべきだろうか。銀色を基調とした大まかなフォルムはそのままに全身の赤と青の模様はより色濃くなり、全身の筋肉はさらに太く発達し両肩に肩パッドのようなパーツが追加されている。
 それにしてもわからないのは、なぜここまでデッキの主力モンスターをきっぱりと除外できるのかだ。十代のデッキは除外をそんな頻繁に扱うわけでもなく、攻撃できないこの状況で蘇生不可能な融合ヒーローをがむしゃらに呼びまくって何がしたいのだろう。
 と、そこまで考えてふと、あるカードの存在を思い出した。これまでに除外された融合素材はワイルドマン、ネクロダークマン、スパークマン、エッジマン、ネオス、プリズマー……ああやっぱり、綺麗にあの4体は温存してあったのか。となると間違いない、奴が来る。

「どうやら気づいたみたいだな。その通り、次に俺が選ぶのは地水炎風を司る4体のヒーロー……クレイマン、バブルマン、バーストレディ、フェザーマンだ。出でよ、究極のヒーロー!E・HERO エリクシーラー!」

 E・HERO エリクシーラー 攻2900→3500

 ヒーローどころか全融合モンスターの中でも上位の重さを誇る、4体もの融合によってはじめてその姿を見せる究極のヒーロー。さすがの十代にもやはり扱いが難しいのか、その姿を見たのは随分久しぶりだ。確か、前に見たのは第一次ノース校親善試合の時だったろうか。それはともかく、闇を滅し他の光を色褪せさせる黄金の輝きをもって降臨したそのヒーローの、能力は……!

「エリクシーラーはもともとの光属性の他に地水炎風の4属性としても扱い、その攻撃力は相手フィールドにいる自身と同じ属性のモンスター1体につき300ポイントアップする。だけどそれだけじゃないぜ、この融合召喚に成功した時、互いの除外されたカードはすべて持ち主のデッキに戻る。さあ帰って来い、俺のヒーローたち!」

 4連続融合の代償として除外された10体ものヒーローが、エリクシーラーの輝きを浴びて十代のデッキへと再び戻っていく。これで実質十代は、チェーン・マテリアルたった1枚の消費から4体もの融合ヒーローを呼び出したことになるわけだ。

「さらに魔法カード、アドバンスドローを発動。俺のフィールドからレベル8のプラズマヴァイスマンをリリースし、カードを2枚ドローする。そしてこれでまた、俺のモンスターゾーンに空きができた。デッキに戻した……そうだな、フェザーマンとスパークマンを再び除外融合、グランドマン!」

 E・HERO グランドマン 攻0→2100

「グランドマン……?」

 当然のような顔をして呼び出されたのは、ブレイヴ・ネオス同様これまで全く見たことのない新たなヒーロー。だがその姿はまるでフェザーマン、バーストレディ、スパークマン、クレイマンといった十代愛用のヒーローが合体したかのようにも見えた。となるとあの両手の甲に取り付けられた銃は、バブルマン由来の品物だろうか。

「そうさ。そしてこいつの攻撃力は、素材としたヒーローのレベル1つにつき300ポイントアップする。もっともこのままターンエンドすると、ヒーローたちが全員破壊されちまうからな。速攻魔法、星遺物を巡る戦い!俺の場のエリクシーラーをエンドフェイズまで除外し、その攻守の数値だけ相手モンスター1体を弱体化させるぜ」

 弱体化、というよりもこの一時的な除外によってチェーン・マテリアルとの関係をリセットすることが目的なのだろう。どちらにせよナイトメア・シャークの攻守はともに2000、エリクシーラーのそれには遠く及ばない。

 No.47 ナイトメア・シャーク 攻2000→0 守2000→0

「カードを1枚伏せて、ターンエンド。そしてこのターン終了時、除外されたエリクシーラーが帰還して他のヒーローたちは破壊される。ごめんな、みんな」

 E・HERO エリクシーラー 攻2900→3500

 怒涛のターンが終わり、十代のフィールドにはハネクリボーとエリクシーラーだけが残った。一方こちらの場には、オーバーレイ・ユニットは使い切り攻守も0になったナイトメア・シャークとバハムート・シャークの代わりとして強制的に引き出されたサイレント・アングラー。確かに手痛い被害ではあるけれど、当初覚悟していたものよりはずっと軽傷で済んだ。墓地に融合体を溜め込んで何を企んでいるのかは知らないけれど、そっちが準備に時間をかけるならばこっちはその隙に攻め込むまでだ。

「僕のターン、融合ラッシュには度肝を抜かれたけどね、十代。まだ詰めが甘いよ。どうせそれだけ融合するなら1回、伏せカードを破壊できるワイルド・ウィングマンでも呼んでおくべきだったのさ。トラップ発動、グレイドル・スプリット!このカードを攻撃力500ポイントアップの装備カードとして、ナイトメア・シャークに装備する」

 まあ、単にワイルド・ウィングマンが今回の十代のエクストラに入っていなかった可能性もあるけれど。しかし、仮にそうだとしてもそれは僕の責任ではない。

「さらにスプリット第2の効果で、装備状態のこのカードを墓地に送り装備モンスターを破壊。その後デッキから、グレイドルモンスターを2種類まで特殊召喚できる。行くよスライム、出てこいコブラ!」

 ナイトメア・シャークが再び闇に消え、2体のグレイドルがそれと入れ替わるように特殊召喚される。グレイ型宇宙人を模したチューナーモンスターのスライムに、大蛇を模したピンク色のコブラだ。これでグレイドル・コブラは2体目、バブル・ブリンガーが引ければそれを使っての蘇生コンボも見えてきた。

 グレイドル・スライム 守2000
 グレイドル・コブラ 守1000

「来るか、シンクロ召喚!」
「お望み通り、見せてあげるとも。レベル3のアリゲーターに、レベル5のスライムをチューニング!」

 スライムが5つの光の輪となり、その中央をアリゲーターが潜り抜ける。合計レベルは、8。だけど今呼ぶのは、いつものグレイドル・ドラゴンじゃない。今更あちらをシンクロ召喚して伏せカードを叩き割ったところで、その方法を問わずとにかく自身が破壊されたターンにプレイヤーへの戦闘ダメージを1ターンの間だけ0にできるハネクリボーが存在する以上このターンにとどめを刺すことは不可能だからだ。
 この問題を解決し、なおかつ進化する翼による不意打ち進化コンボにも対抗できるカード。そんな都合のいいモンスターが、果たして存在するのだろうか?答えはイエス、だ。

光機燦然(こうきさんぜん)日輪の下、語り継がれし波濤の勇魚(いさな)!シンクロ召喚、白闘気白鯨(ホワイト・オーラ・ホエール)!」

 白闘気白鯨 攻2800

 雄大に宙を泳ぐ、白いクジラとしか言いようのない巨大なモンスター。そう、クジラだ。そのレベルとモチーフにふさわしい巨体がおもむろに大きな口を開き低い雄たけびを上げると、空気すらもビリビリと震えるような感覚がした。5年越しでようやく得た自らの出番に、歓喜の叫びをあげているのだろう。

「ク、クジラ?」
「そう、クジラさ。だけどただのクジラじゃない。白闘気白鯨はシンクロ召喚に成功した時、相手フィールドの攻撃表示モンスターをすべて破壊する!」

 何たる驚くべき肺活量か、白鯨の叫びはまだ続いている。その音波に共鳴したエリクシーラーがやがて耐え切れず膝をつき、ついには地に堕ちていく。一方でハネクリボーは守備表示であったためその大音波にも耐えきっていたが、だからこそここに勝機が生まれる。

「さあ、バトルだ。白闘気白鯨でハネクリボーに攻撃!そして白闘気白鯨は守備表示モンスターに対し、貫通能力を持つ。ハネクリボーは破壊されたターンのダメージを0にできるけど、自身の戦闘で受けるダメージに対しては無力。これで終わりだ、十代!」

 見た目に反して驚くほど軽やかに動く白鯨が、その圧倒的巨体と質量をもってハネクリボーを押しつぶしにかかる。ただあんな風に言いはしたけれど、これでそのまま終われるほど十代のデュエルは甘くない。それでも一応望みをかけてはみたけれど、正直本当でこのターンに終われるなんて期待はほとんどしていなかった。
 そして案の定白鯨の巨体が地面に届くよりも前に、十代の場にある3枚の伏せカードのうち2枚がほぼ同時に表を向く。

「トラップ発動、ゴブリンのやりくり上手!このカードは墓地の同名カードに1を足した数だけカードを引き、その後俺の手札1枚をデッキの1番下に戻す。さらにチェーンして速攻魔法、非常食を発動!俺のフィールドから魔法、罠カードを任意の枚数墓地に送り、その数1枚につき1000ライフポイントを回復するぜ。俺が選ぶのはこの、たった今発動したゴブリンのやりくり上手だ」
「やーっぱりか……しぶといね、十代」

 1枚のカードが墓地に送られ、十代のライフが白鯨の貫通ダメージを受けてなお余りある数値まで回復する。これでこちらとしてはこのターン中に十代を仕留め損ねたわけだけれど、それだけじゃない。ゴブリンのやりくり上手は今、発動後の効果が適用されるよりも前に非常食のコストとして墓地に送られた。つまりその効果解決時には、「墓地にある同名カード」の1枚として計算される。もっと平たく言えば、彼のドロー枚数は今のコンボにより1枚余計に増えたのだ。そして十代が引いたカードは、3枚。となると最初に発動していた命削りの宝札のデメリット、あそこですでに1枚は墓地に送っていたのだろう。

 白闘気白鯨 攻2800→ハネクリボー 守200(破壊)
 十代 LP2000→3000→400

「へへへ、ピンチの後にはチャンスありってな。補充部隊、ハネクリボー、さらにヒーロー・シグナルを3枚同時に発動!今受けた2600のダメージをもとにカードを2枚ドローし、ハネクリボーの悲鳴をシグナルとして俺のデッキから更なるヒーローを呼び出すぜ。来い、バーストレディ!」

 E・HERO バーストレディ 攻1200

 やっぱりあったのか、ヒーロー・シグナル。どうせこのターンダメージは通らないけれど、だからと言ってはいそうですかとターンを渡すほど僕だって甘くない。

「白闘気白鯨は自身の効果により、1ターンに2回までモンスターに攻撃ができる。せめて破壊させてもらうさ、そのままバーストレディに攻撃!」
「2回攻撃……ハネクリボーの効果がなかったら本気で危なかったな。助かったぜ、相棒」

 白闘気白鯨 攻2800→E・HERO バーストレディ 攻1200(破壊)

「メイン2に入って、サイレント・アングラーを守備表示に変更。さらに永続魔法、グレイドル・インパクトを発動するよ」

 サイレント・アングラー 攻800→守1400

 派手な落下音とともに、上空から半壊したUFOが僕の足元に落ちてくる。十代が次に何をしてくるかは、全く予想がつかない。白鯨の生命力ならば大抵の相手には余裕をもって立ち向かえるけれど、困ったことに十代はその「大抵」の枠に入らないタイプのデュエリストだ。何が飛び出してきてもいいように、最大限の備えをしておこう。

「エンドフェイズにインパクトの効果、ドール・コールを発動。デッキからグレイドルカード1枚、グレイドル・スライムJr.をサーチする……さあ、来い!」

 十代 LP400 手札:5
モンスター:なし
魔法・罠:補充部隊
場:フュージョン・ゲート
 清明 LP4000 手札:3
モンスター:白闘気白鯨(攻)
      サイレント・アングラー(守)
魔法・罠:グレイドル・インパクト

「俺のターン。さあ、ヒーローの反撃開始だぜ!俺のフィールドにモンスターが存在しないことで魔法カード、コンバート・コンタクトを発動。手札とデッキからそれぞれ(ネオスペーシアン)のエア・ハミングバードとグラン・モールを墓地に送り、カードを2枚ドローする」
「……」

 前々から引きが強いとは思っていたけれど、ちょっと今日の十代は、いくらなんでもカード引きすぎではないだろうか。デッキなくなるぞコラ。こっちがようやく1ターンに1枚のサーチができるグレイドル・インパクトを引けて喜んでいるというのに、そんなことお構いなしにやれ命削りの宝札だそれ補充部隊だやりくり上手だと即効性のあるドローソースばかりきて、挙句の果てには手札交換と墓地肥やしを兼ねるコンバート・コンタクトとは。
 世の中の言葉に言い表せない理不尽のようなものを深く感じながらも、ともあれ十代がカードを引く。すぐに次の行動が決まったらしく、意気揚々と別のカードを発動した。

「魔法カード、戦士の生還を発動。このカードの効果で俺は、墓地の戦士族1体を手札に戻すことができる。帰って来い、バーストレディ!」
「バーストレディ……」

 せっかく倒したバーストレディが、再び手札へ戻っていく。ここで戦士の生還を使わせただけマシ、とみるべきか。そんなことより、気に掛けるべきは次の行動だ。貫通能力を持つ白鯨の前に、守備力わずか800のバーストレディでは壁にすらならない。となると、やはり融合か。

「だったら!ここで手札の増殖するGを捨てて、効果発動!このターン相手がモンスターを特殊召喚するたび、僕はカードを1枚ドローする。さあ、どうする十代?融合する、それともしない?」
「やってくれるな。でも、ヒーローはそんな脅しには屈しないぜ!フュージョン・ゲートの効果で、手札のバーストレディとクレイマンの2体を除外融合だ。来い、ランパートガンナー!」

 E・HERO ランパートガンナー 守2500

 粘土でできた体を持つクレイマンの頑健さと、バーストレディの持つ炎の力を合わせたヒーロー。巨大な盾と粘土の巨体で身を守りつつ右腕の銃をぶちかます過激派の女戦士……なるほど、確かにあのモンスターならばこちらがどんな布陣を引いていようともお構いなしで攻撃ができ、さらに返しのターンでグレイドルによる自爆特攻を防ぐことができる。
 僕が十代を警戒してカードを選んでいるように、十代も僕のデッキを警戒したうえでモンスターを選んでいるのだろう。こればかりは仕方ない、どれほど新たな力を手に入れようとも変わることのないデッキの根幹は、互いに知り尽くしているのだから。カードを1枚引きながら、改めてそのことを再認識する。

「ここからが本番だぜ?魔法カード、ネオス・フュージョンを発動!」
「ネオス・フュージョン……?」

 今度はこちらが、十代のセリフをオウム返しにする番だった。聞きなれないカード名のそれが発動された瞬間、周りの風景が黒一色の夜空から緑色を中心とした優しい色合いの宇宙空間のような場所に代わる。これは間違いない、ネオスペースだ。

「ネオス・フュージョンは発動ターンにこれ以上の特殊召喚を封じる代わりに、ネオスを含む素材2体で融合召喚できる融合モンスター1体を手札、場、そして俺のデッキから素材を墓地に送ることで特殊召喚ができるネオスペースの切り札さ。行け、ネオス!そしてフレア・スカラベ!」
「デッキからコンタクト融合を!?ええい、ドロー!」

 ネオス特有の融合、コンタクト融合を行う魔法カード。なるほど、それで急に場所が切り替わったのか。あの1枚のカードの中には、ネオスペースの力が凝縮されているのだろう。十代が選んだのはフレア・スカラベ……となると、その融合体はあのカードか。

「出でよ、フレア・ネオス!そしてフレア・ネオスの攻撃力は、フィールド全てに存在する魔法、罠カード1枚につき400ポイントアップするぜ。ここで俺がカードを1枚伏せることで、その枚数は4枚だ」

 E・HERO フレア・ネオス 攻2500→4100

 甲虫めいた硬質の羽根と鋭く伸びた2本の角が特徴的なネオスの進化の1つ、炎を操るフレア・ネオス。僕らの場にあるカードの存在そのものをその力として取り込んだことで、その攻撃力が白鯨を上回ってしまう。ただ僕にとって不幸中の幸いだったのは、この状況で選ばれていたらそれぞれの能力から即死級のダメージを叩き出していたエアー・ネオスのエア・ハミングバードが直前のコンバート・コンタクトで墓地に送られ、グラン・ネオスのグラン・モールがなぜか選ばれなかったことだろう。フレア・ネオスの火力は決して馬鹿にはできないが、まだあの2体に比べれば勝算は残っている。

「行くぜ、フレア・ネオス。白闘気白鯨に攻撃しろ、バーン・ツー・アッシュ!」
「ぐっ!」

 全身を炎に包み業火の弾丸と化したフレア・ネオスが、自分よりもずっと巨大な白鯨に突撃する。たちまちその巨体の全身に燃え広がった炎が、ネオスペースを赤く照らす。

 E・HERO フレア・ネオス 攻4100→白闘気白鯨 攻2800(破壊)
 清明 LP4000→2700

「熱ちち……でも、白闘気白鯨は生と死の輪廻を巡る海の化身。破壊によって死を巡ろうと、その命は再び母なる海に蘇る。白闘気白鯨の最後の効果、発動!このカードが破壊されたときに墓地から別の水属性を除外することで、自身をチューナー扱いとして蘇生することができる」
「何!?」

 白闘気白鯨 攻2800

 ナイトメア・シャークを墓地から取り除く。すると炎を打ち消すかのような派手な水しぶきと共に、傷ひとつない体で白鯨が現世に帰還した。これはさすがの十代も予想外だったらしく、その顔にほんの少しだけ焦りの色が浮かぶ……だがすぐに、その表情も心からデュエルを楽しむ満面の笑みに打ち消された。

「やるな、清明!シンクロも、エクシーズも、凄いモンスターだぜ!」
「気に入ってくれて嬉しいよ。それで?もう終わりかい?」
「とんでもない、勝つのは俺だ!ランパートガンナーは守備表示の時、攻撃力を半分として相手プレイヤーにダイレクトアタックができる。やれ、ランパート・ショット!」

 E・HERO ランパートガンナー 攻2000→1000→清明(直接攻撃)
 清明 LP2700→1700

 着実にダメージを稼ぐことで、グレイドルの自爆特攻戦法が確実にやりづらくなっていく。今の僕のライフの数値だと、このデュエル中には可能だとしてもせいぜい1度がいいところだろう。
 それはいいのだが、1つ気になることがある。コンタクト融合体であるフレア・ネオスは、このエンドフェイズに十代のエクストラデッキに戻ることがほぼ確定している。そのデメリットを踏み倒せるネオスペースやインスタント・ネオスペースのカードが手札にあるのならば、フレア・ネオスの攻撃力をさらに上げるためメイン1の時点でさっさと発動していただろう。そうなると次のターンで十代の場に残るのはランパートガンナーのみになるが、その守備力では白鯨の攻撃に耐えきれない。そして僕の場には白鯨の他に、いまだサイレント・アングラーが残っている。素直に考えれば僕の勝利はほぼ確定だが、先ほどのセリフから考えると十代はこの勝負を捨てておらず、まだ何か仕掛けがあることは間違いないだろう。さあ、今度は何を見せてくれるのだろう。

「このエンドフェイズ、ネオスペース外にいるフレア・ネオスはデッキに戻る。だがその効果発動時、墓地に眠るネオス・フュージョンのもう1つの効果を使うぜ。このカードを除外することで1ターンだけネオスペースの力をネオスに与え、デッキに戻る効果の身代わりとなる!」

 フレア・ネオスがフィールドに留まりターンが移り替わると、それと同時にネオスペースの風景が薄れていき、元の地球の夜空が頭上に戻る。なるほど、デッキに戻る効果の身代わりね。シンプルだけど、それゆえに説明の必要がないほどに強力だ。

「だったら……ドロー!」

 白鯨のパワーがあれば、ランパートガンナーは恐れるに足らない。あの伏せカードはちょっと気にかかるけれど、それはそれだ。増殖するGと今のドローで、欲しかったパーツはこちらにも揃った。

「ヒーローも結構だけど、そろそろ壊獣大決戦と洒落込もうじゃないの。フレア・ネオスをリリースして十代、そっちのフィールドに怪紛壊獣ガダーラを特殊召喚。そして相手フィールドの壊獣反応に呼応して、手札の怒炎壊獣ドゴランは特殊召喚できる!」

 せっかくバウンスを免れたフレア・ネオスがリリースという形で墓地に送られ、代わりに十代のフィールドには極彩色の羽根を持つ巨大な蛾の壊獣が呼び出された。その撒き散らされる大量の鱗粉に誘われたかのように、錨の炎ですべてを焼き払う壊獣の中の壊獣、壊獣王がどこからともなく現れ吠える。相手モンスターをお構いなしに押しのけ、好き勝手な盤面をこちらの都合で作る……これこそ、僕が十八番とする戦術だ。

 怪紛壊獣ガダーラ 攻2700
 怒炎壊獣ドゴラン 攻3000

「出たな、壊獣モンスター!」
「ああそうさ、出してやったとも。でも僕はこのターン、まだ通常召喚が残っているからね。グレイドル・スライムJr.を召喚し、この時僕は墓地からグレイドルモンスター1体を蘇生できる。甦れ、コブラ!」

 ジズキエルと白鯨がそびえ立つ横で、銀色の水たまりがぶくぶくと2か所床に湧き上がる。それぞれその中央がぐっと盛り上がったかと思うと、おしゃぶりを咥えたグレイ型宇宙人の赤ん坊とピンク色に怪しく光を反射する大蛇に擬態したようなモンスターが召喚される。

 グレイドル・スライムJr. 守2000
 グレイドル・コブラ 守1000

「おっと、ここで墓地に存在するグレイドル・スライムの効果発動。場のグレイドルカード2枚を破壊して、自分自身を蘇生召喚。そしてこの効果での特殊召喚に成功したことで、たった今破壊したコブラをまた蘇生させる」

 グレイドル・スライム 守2000
 グレイドル・コブラ 守1000

 赤ん坊の方のグレイドルが突然どろりと溶けて銀色の水たまりに1度戻り、再び中央から盛り上がって今度は成長した姿のグレイ型宇宙人となる。これで合計レベルは、8または9となった。

「レベル3のグレイドル・コブラに、レベル5のグレイドル・スライムをチューニング。変幻自在な不定の恐怖は、星海旅する魔性の生命!シンクロ召喚、グレイドル・ドラゴン!」

 ☆3+☆5=☆8
 グレイドル・ドラゴン 攻3000

 この5年間でわずか4戦とはいえ、エクストラ勢にお呼びがかかるたびにほぼ毎回のペースで出ずっぱりのグレイドルの名を持つ竜……とは名ばかりのキメラめいた合体生物。でも仕方がない、状況を選ばない破壊効果の優秀さもさることながら、動いているとちょいちょい引っかかる水属性縛りに対してこのカードは便利すぎるのだ。

「グレイドル・ドラゴンのシンクロ召喚に成功した時、素材とした水属性モンスターの数までカードを破壊できる。そのセットカードとフュージョン・ゲートをぶち抜け、グレイドル・トルピード!」
「悪いな、それも読んでいたぜ!リバースカード、オープン!トラップ発動、リビングデッドの呼び声!この効果で、俺の墓地のモンスター1体を攻撃表示で蘇生するぜ」
「リビデ?今更発動したってもう遅……あっ!」

 もう遅い、なんてとんでもない。まさか十代、僕が除去することまで読み切ったうえであのカードを伏せていた?チェーン処理によって十代の墓地から再び、小柄のもこもこした体に天使の翼が生えたモンスターが1瞬だけ蘇る。

「もう1度頼むぜ相棒、ハネクリボー!」

 ハネクリボー 攻300

 そしてグレイドル・ドラゴンがその身を変態させることで文字通り身を削り放った有機体ミサイルが2枚のカードに着弾、爆破する。するとリビデことリビングデッドの呼び声が破壊されたことでハネクリボーもまた連動して破壊される……だけど、十代にとってはそれこそが狙いだった。
 完全に掌の上で踊らされ、グレイドル・ドラゴンという貴重な除去を無駄打ちしたことに思わずうめき声が漏れる。でも、どうしようもない。
 
「ハネクリボーが破壊されたことで、その効果発動。このターンもまた、俺が受ける戦闘ダメージは0だ」
「くっ……」

 これだけこちらが押していたはずなのに、またしてもそのピンチを潜り抜けてしまった十代。粘るなあ、もう。

「……ダメージが通らなくても、バトルまでできなくなったわけじゃない。ドゴランでガダーラに、白闘気白鯨でランパートガンナーにそれぞれ攻撃」

 壊獣王が大怪虫に組み付いて空のかなたにぶん投げ、その横では白鯨が粘土のヒーローを押しつぶす。無事に僕の手元に帰ってきたガダーラをそっと墓地に送り込んだところで、これ以上できることもなくバトルフェイズを終えた。

 怒炎壊獣ドゴラン 攻3000→怪紛壊獣ガダーラ 攻2700(破壊)
 白闘気白鯨 攻2800→E・HERO ランパートガンナー 守2500(破壊)

「エンドフェイズにまた、グレイドル・インパクトの効果を発動。今回サーチするのは、2枚目のグレイドル・インパクトにしておくよ」

 十代 LP400 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:補充部隊
 清明 LP1700 手札:3
モンスター:白闘気白鯨(攻)
      グレイドル・ドラゴン(攻)
      怒炎壊獣ドゴラン(攻)
      サイレント・アングラー(守)
魔法・罠:グレイドル・インパクト

「俺のターン。なんだかワクワクしてきたぜ……ドロー!」

 全くこの男は、いつだってこの調子だ。ハネクリボーでピンチを凌いだとはいえ、何か状況が良くなったわけではない。だというのに、ドローできれば何とかなると言わんばかりのこの態度。そして実際どうとでもしてしまうのだから、つくづく相手にしていて恐ろしい。

「魔法カード、ミラクル・フュージョンを発動!俺の墓地からフレア・ネオス、ランパートガンナー、グラン・モール、ネクロイド・シャーマン、エリクシーラーの5体を除外することで素材とし、融合召喚!」
「はぁ!?」

 思わず声が出た。この土壇場でミラクル・フュージョンを手にしたことに、ではない。それはもうターンを渡した時点でこちらとしても半ば諦めている。問題なのは、その融合素材だ。5体も要求する上にそのうち4体が融合モンスター、しかもなぜかNのグラン・モールまでその中にしれっと混ざり込んでいる。なんだ一体、こんなでたらめな素材から何が出てくるというのだ。

「融合素材はネオス、N、HEROの名前を含むモンスターそれぞれ最低1種類ずつの合計5体!見せてやるぜ、ゴッド・ネオス!」

 E・HERO ゴッド・ネオス 攻2500

 暗夜を断ち切るかのように、金色の閃光が走る。その光の中央から姿を見せたのは全身に黄金の意匠を身に着けた、これまでの人間サイズだったネオスたちとは異なり巨大化したそのサイズも合わさってまさにその名の示すがごとく神々しさすらも感じるネオスの姿がそこにあった。

「ゴッド・ネオス……」
「そうさ。だけどまずは魔法カード、HEROの遺産を発動。俺の墓地からヒーローを融合素材とする融合モンスター2体をデッキに戻すことで、デッキからカードを3枚引く。プラズマヴァイスマンとグランドマンには、エクストラデッキに戻ってもらうぜ。これで準備は整った、ゴッド・ネオスの効果発動!1ターンに1度俺の墓地から指定されたモンスター1体を除外し、攻撃力を500ポイントアップしたうえでその効果を得る。このターンに俺が選ぶのはブレイヴ・ネオス、お前だ!」

 ゴッド・ネオスの背後に1瞬、筋肉質な格闘戦士ネオスの姿がダブって見える。そうか、そういうことだったのか。あの馬鹿みたいに重い素材条件をクリアし、なおかつそのあとも毎ターン安定して墓地のヒーローが持つ強力な効果を使う。3ターン目のチェーン・マテリアルによる融合召喚の乱発……あれはすべてこのターンに、ゴッド・ネオスに繋げるための布石だったのか。仮にゴッド・ネオスの召喚に失敗したとしてもHEROの遺産があればリカバリーも容易にできる、隙のない戦術。
 だが、それに気づいたときにはもう遅い。500ポイントといわず、ゴッド・ネオスの攻撃力がさらに上昇していく。

 E・HERO ゴッド・ネオス 攻2500→3300

「ブレイヴ・ネオスの効果によりその攻撃力は、俺の墓地に存在するN及びHERO1体につき100ポイント上昇する。そしてまだ俺の墓地に残っている仲間はネオス、フレア・スカラベ、エア・ハミングバードの計3体だ。さらに装備魔法、アサルト・アーマーとライトイレイザーの2枚をゴッド・ネオスに装備し、そのままアサルト・アーマーの効果を発動。装備状態のこのカードを墓地に送ることで、装備モンスターはこのターンのみ2回攻撃が可能となる」

 ゴッド・ネオスがその手にナックル型の近未来的な武装を握りしめると、先端から光の刃が伸びる。その全身がアサルト・アーマーの効力を受けて黄金のオーラを放ち、すべての準備が整ったところでその目が鋭く光った。

「バトルだ。ゴッド・ネオスで白闘気白鯨に攻撃!」

 ゴッド・ネオスが胸の前で手を向かい合わせると、その間に聖なる白い光の塊が浮かび上がる。十分な大きさに育ったそれをライトイレイザーの刃に乗せるように解き放つと、その圧倒的な威力は白鯨の丈夫な皮膚を貫通しその中央に大穴を穿った。

 E・HERO ゴッド・ネオス 攻3300→白闘気白鯨 攻2800(破壊)
 清明 LP1700→1200

「でもたとえ破壊されようと、白闘気白鯨は蘇る!」
「いいや、ここでライトイレイザーの効果発動!」
「え?……しまったっ!」

 僕が記憶の底からあの装備魔法の効果を引っ張り出したのに呼応するかのように、ライトイレイザーがひときわ強く輝きを放つ。そうか、だからこんなにも強気に攻撃を仕掛けてきたのか。

「装備モンスターが戦闘を行った時、その相手モンスターはゲームから除外される。これでお前のモンスターの輪廻は断ち切ったぜ!さらにゴッド・ネオスが戦闘で相手モンスターを破壊したことで、ブレイヴ・ネオスからコピーしたもう1つの効果を発動!デッキからE・HERO ネオスの名が記された魔法、罠カード1枚を手札に加えることができる。俺がサーチするのはこのカード、NEXT(ネオスペースエクステンション)だ!」

 偶然とはいえこちらに見せる時の指で隠れていたせいでテキストまでは見えなかったが、どうやらあのNEXTとやらはトラップカードらしい。そしてあれもまた、ネオス・フュージョンやゴッド・ネオスと同じく僕にとっては未知なるカードだ。
 とはいえトラップならば、どんな効果を持っていようともまず伏せなければ使い物にならないはず。一応僕の手札と場にはそれぞれ1枚ずつグレイドル・インパクトがあり、この2枚を使えばとりあえず1枚は十代のカードを破壊できる。ゴッド・ネオスも危険だけど、まずこのターンに伏せられるであろうNEXTとやらを狙うべきだろうか。いや、さっきのリビデのように、この思考すらも十代の策の中なのか?

『NEXT……私も知らないカードだな』
「チャクチャルさん!どこ行ってたのさずっと」

 突然思考に割り込んできたのは、この同窓会が始まって以降なぜかずっと大人しくしていたうちの地縛神だった。いくら呼び掛けても反応がなかったので多少は心配していたのだが、何事もなかったかのようにしれっと戻ってくるその様子につい非難がましくなる。

『少しばかり野暮用でな。今はそんなことよりも、こちらに集中した方がいいのでは?』
「あー、まあね」

 露骨に話を逸らされた気もするが、残念ながら一理ある。改めてゴッド・ネオスを見上げ、その偉容に身震いする。怖いのではない。どうやって奴を倒そうかという武者震いだ。だがまずは、とにかく次の攻撃を凌がねば。

「ゴッド・ネオスでもう1度、今度はグレイドル・ドラゴンに攻撃するぜ。レジェンダリー・ストライク!」

 そして再び光球が弾け、水銀状となって逃げようとするグレイドルの集合体を細胞ひとつ残さず焼き滅ぼす。グレイドル・ドラゴンは本来、破壊され墓地に送られた時に僕の墓地から自身以外の水属性モンスターを効果無効状態で蘇生する能力を持っている。だけどそれはあくまで、墓地に送られて初めて発揮される力。破壊された後に墓地に行くことを許さず除外するライトイレイザーが相手では、その能力も何の意味もない。

 E・HERO ゴッド・ネオス 攻3300→グレイドル・ドラゴン 攻3000(破壊)
 清明 LP1200→900

「やられた……ほんっと、やってくれるよ十代……!」

 蘇生持ちのグレイドル・ドラゴンに、輪廻蘇生の白闘気白鯨。ドゴランの打点も合わせ結構固い守りの布陣を引いていたつもりだったのに、まさか1ターンすら持たないとは。

「戦闘破壊に成功したことで、再びブレイヴ・ネオスの効果を発動。今度はフィールド魔法、ネオスペースをサーチするぜ。そしてこのメイン2に通常魔法、打ち出の小槌を発動。手札を任意の枚数選んでデッキに戻し、その枚数分だけドローする。この効果で2枚戻して、2枚ドロー。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 メイン2に入った時点で、十代の手札は4枚だった。つまり手元には1枚だけ残して、残りはすべて手札交換に回したということになる。ネオスペースを発動しなかったということは、よほどのことがない限り少なくともそちらは手札交換の枚数を増やすだけのためサーチされたということになる。
 まあ、それはいい。問題なのはあの未知なるカード、NEXTがどうなのかということだ。あの伏せカードのうち少なくとも片方はNEXTなのか、それともすでに十代の手元には存在しないのか。

「僕のターン、ドロー。このメイン1の開始時に魔法カード、貪欲で無欲な壺を発動。種族の違うモンスター3体をデッキに戻して、カードを2枚ドローする。僕が選ぶのは海竜族のバハムート・シャーク、昆虫族の怪紛壊獣ガダーラ、そして水族のグレイドル・スライム」
『ただしこの発動ターン、マスターはバトルを行えない……やむを得ないとはいえ、かなり痛い出費だな』

 チャクチャルさんの冷静な分析は、ぐうの音も出ないほどにその通りだ。あと少しでゴッド・ネオスを攻略できるというのに、そのパーツが手札にない。仕方のないこととはいえ、ここでこの制約は痛すぎる。

「改めてメイン1に永続魔法、グレイドル・インパクトを発動。そしてそのまま効果発動、グレイ・レクイエム!場のグレイドルカード1枚と相手フィールドのカード1枚を選択し、それを同時に破壊する。僕が選ぶのはまずもう1枚のグレイドル・インパクト、そして……ここはゴッド・ネオスじゃない、その伏せカードを破壊する!」

 ゴッド・ネオスの効果は、もう把握した。そして仮にNEXTが耐性付与や対象をとる効果への身代わり効果でないならば、その対策も多大なる犠牲を支払い手に入れたドローによりすでに僕の手の中にある。となると残る不確定要素はあの未知のカード、(多分)NEXTそのものだけだ。UFOの下部からにゅっとアームが伸び、その先端に取り付けられた光線銃から名状しがたい色のビームが伏せカード目掛け放たれる。
 だが。

「残念だったな清明、これじゃないぜ?チェーンして速攻魔法、ダブル・サイクロンを発動!俺の場の補充部隊とお前のグレイドル・インパクトを対象に、その2枚を同時に破壊する」
「NEXTじゃない……!?」
『ほう』

 なんとチェーン発動され表を向いたのは、ネオス関連どころかトラップですらない全く別のカードだった。そして十代が選んだのは効果を発動した側のグレイドル・インパクトで、これにより僕のグレイドル・インパクトは2枚とも破壊されてしまう。それにしてもダブル・サイクロン、ねえ。僕がNEXTについてあれこれ考え警戒していたのは全くの杞憂で、あのカードはとっくの昔に手札交換の弾としてデッキで眠っているとでもいうのだろうか。

『いずれにせよ一杯食わされたな、マスター』
「みたいね……次行くよ、次!」

 よし、ちょっと落ち着いてきた。いつまでもフリーズしていたって使い終わったグレイドル・インパクトが返ってくるわけでもなし、ここは切り替えて次に行こう。

「魔法カード、サルベージを発動。これで墓地から攻撃力1500以下の水属性モンスター、白棘鱏とグレイドル・コブラを回収。そのまま白棘鱏の効果に繋げて、手札の水属性モンスター1体を捨てることで特殊召喚する。これで揃った、レベル4のモンスター2体でオーバーレイ!」
 
 白棘鱏 攻1400

 回収したグレイドル・コブラをそのまま墓地に送ることで、場に展開された純白のエイ。そして僕の場にはもう1体、早々に引っ張り出されたはいいけれど様々な要因から互いに放置しっぱなしでデュエルの流れを見つめてきていたサイレント・アングラーがいる。2体の魚がまたしても光の軌跡を描き、空間の穴へと吸い込まれる。
 ……この2体の素材ならば僕のはじめてのエクシーズモンスター、スパイダー・シャークを呼ぶこともできる。だけど、ここでそれを選ぶのは愚策。ここは確実に、まず目の前のゴッド・ネオスを片付けるのみ。

哀鴻遍野(あいこうへんや)の嘆きを背負い、錨を上げよ救済の方舟!No.101!(サイレント)(オナーズ)Ark Knight(アークナイト)!」

 僕らのいるビルの下からゆっくりと浮上する、白い方舟。これまでは専用サポート、七皇の剣(ザ・セブンス・ワン)の効果で一足飛びに進化形態というか本体のダークナイトを呼び出していたため、こうしてアークナイト単体での起用は何気に初めてだ。

 No.101 S・H・Ark Knight 攻2100

「でけえ……」
「アークナイトの効果を発動!自身のオーバーレイ・ユニット2つをコストに相手フィールドに表側攻撃表示で存在するモンスターを吸収、自身の新たなオーバーレイ・ユニットにする!消え去れゴッド・ネオス、エターナル・ソウル・アサイラム!」
「吸収能力だと!?」

 アークナイトから無数のアンカーが打ち出され、その鎖がゴッド・ネオスの全身を縛り上げる。恐るべき力を誇る巻き上げ機構が、その巨体を船内へ有無を言わさぬ勢いで格納にかかる。神の名を持つネオスといえど、その救済の一撃に抗うことはできない。

 No.101 S・H・Ark Knight(2)→(0)→(1)

「これでよし……なんて、言えればいいんだけどね」
『うん?どうかしたのか、マスター?』

 確かにゴッド・ネオスは倒した。バトルができず戦闘を介さない効果を持つチャクチャルさんのカードがいまだ引けていない以上、あとはこのターンでの決着を諦め今できる限りの迎撃準備をするだけだ。となると、後はこの手札を伏せればいい。それがベターな解だ。

「そのはずなんだけど、なんかこう……嫌な予感、っていうのかな。小細工よりも、今使えるカードの力を限界まで出し切ったほうがいいような、そんな予感がするんだよね」
『ふむ』

 黙って僕の話を聞くチャクチャルさん。理屈で考えれば、このカードを今使う理由は何一つない。むしろ返しの十代のターンで柔軟性がなくなり、そちらの方が致命的な結果を生む可能性の方が高いといえる。
 それはよく頭ではわかっているのだけれど、それでも直感が僕にささやくのだ。それでは不十分だ、と。

『まあ、その予感とやらは私にはさっぱりわからないが』

 ほんのわずかな間を置き、チャクチャルさんの確信に満ちた声が頭の中に響く。

『筋の通った理屈とマスターの予感、どちらを信じるかと問われれば私は喜んで後者に従おう』

 ……本当に、この邪神は言うことがズルい。そんな風に言われたら、何も言い返せない。理性と直感の間で迷ってた僕が、なんだか馬鹿みたいじゃないか。
 ああいいとも、そこまで言うならお望みどおりにしてやるさ。僕は5年前に現を救えなかった時からずっと、僕自身のことはまったく許す気はないし、信じてもいない。だけどチャクチャルさんがそう言うのなら、チャクチャルさんが信じた僕を今この瞬間だけでも信じてみよう。その結果がどうなろうと、もう悔いはない。

「速攻魔法、RUM(ランクアップマジック)-クイック・カオスを発動!僕の場のナンバーズを選択し、そのモンスターをカオス化させランクアップする!」

 方舟の中央がおもむろに開き、漆黒の人型が飛び出した。同じく方舟から飛んできた得物である深紅の槍を空中で掴み、ドゴランの横に音もなく着地する。

霖雨蒼生(りんうそうせい)の時は来た、想い託されし不沈の守護者!CNo.101、(サイレント)(オナーズ)Dark Knight(ダークナイト)!」

 CNo.101 S・H・Dark Knight 攻2800

「ランクアップ……?だけど何をしようとも、このターン攻撃できないことに変わりはないぜ」
「もちろん、それは忘れてないさ。だけどせっかくここまで来たんだ、僕がやりたいことはわかるんじゃない?」
「おっ、なるほどな。ついに来るのか、お前のエースモンスターが!」
「そうさ。どれだけカードが増えようと、どれだけデッキが変わろうと、絶対不変の僕の切り札。その攻撃力は、アドバンス召喚の際にリリースしたモンスターの合計値……クライマックスだ、霧の王(キングミスト)!」

 怒りの炎を操るドゴランと、光届かぬ深淵より浮上した騎士。真逆の色を持つ2つの力が組み合わさり、突如立ち込めた霧の彼方から全身鎧の魔法剣士がゆっくりと歩を進める。

 霧の王 攻5800

「残りの手札は1枚……僕はこれを伏せて、ターンエンドする。これが僕の全て、今の僕の集大成。さあ十代、これを超えられるものなら超えてみろ!」
「面白れえ、見てろよ清明!俺の引きは奇跡を呼ぶぜ……ドロー!」

 十代の手札は3枚。何をしてくるかはわからないけれど、ここまで来たらダメ押しにこれも使ってしまおう。

「トラップ発動、グレイドル・スプリット!このカードを霧の王に装備し、攻撃力をさらに500ポイントアップさせる!」

 霧の王 攻5800→6300

 霧の王の片方の瞳がグレイドルの力を受け入れることで突如銀色に染まり、青と銀のオッドアイと化す。正真正銘、これで僕にできることは何ひとつなくなった。あとは十代がどう出るか、それを見ているだけだ。
 そして十代が、こちらを見て目を輝かせ笑う。

「魔法カード、アームズ・ホールを発動!俺のデッキから一番上のカードを墓地に送り、デッキか墓地から装備魔法1枚を手札に加える。俺が選ぶのは墓地のカード、アサルト・アーマーだ。そして今、俺のフィールドにはカードが存在しない。これにより手札のNEXTは、場に伏せることなく発動できる!」
「手札から……それで伏せなかったってわけ?」
「ああ。正直お前なら、間違いなくゴッド・ネオスも越えてくるって信じてたからな。ちょうど補充部隊を破壊できるダブル・サイクロンも引けたわけだし、それなら手札に持っていた方が安全だと思ったのさ。NEXTは俺の手札、そして墓地からネオス、及びNの仲間を任意の数だけ選んで守備表示で特殊召喚できる!甦れ、ネオスペースの戦士たち!」

 圧巻の光景だった。これまでフィールドに出ることなく融合素材として、そして墓地の1枚としてデュエルに干渉し続けていたモンスターが、一斉にフィールドに集結する。グロー・モスに関してはこのデュエルではまだ見た覚えはないが、あれは今のアームズ・ホールのコストで墓地に潜り込んだのだろう。
 
 E・HERO ネオス 守2000
 N・フレア・スカラベ 守500
 N・エア・ハミングバード 守600
 N・グロー・モス 守900
 
「そして俺は今特殊召喚したこの4体すべてをデッキに戻し、融合召喚。これがネオスペースの集大成、クアドラプルコンタクト融合だ!さあ行くぜ、コスモ・ネオス!」

 4体融合。召喚のために融合魔法が必要となったゴッド・ネオスのような亜種とは違い、ネオスペーシアン本来の融合魔法を必要としないコンタクト融合……その中でも3体素材によるトリプルコンタクト融合を通り越した、まさに最高峰のコンタクト融合。そして現れた最後のネオスもまた、まさにコンタクト融合という概念の集大成に相応しいものだった。以前十代から見せてもらった3体のトリプルコンタクト融合……マグマ、カオス、ストームの3種類を思わせる意匠を全身に抱きつつ、それでいてそのどれとも厳密には異なる2組4枚の翼をもつヒーロー。

 E・HERO コスモ・ネオス 攻3500

「コスモ・ネオス……」
「もうお前もカードは使い果たしたみたいだから意味はないけど、コスモ・ネオスの効果を使っておくぜ。このカードの特殊召喚時から相手は1ターンの間フィールドで発動するあらゆる効果が発動できなくなり、さらにこの効果に対して相手はカードをチェーンできない。そして装備魔法、アサルト・アーマーを装備。2回攻撃の効果を使わない場合、このカードは装備モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる」
『封殺か。大したものだが、それからどうする気だ?アサルト・アーマーを装備したということは、攻撃する気はあるようだが』
「さあね。それならそれで、どっしり構えて迎え撃つまでさ」

 E・HERO コスモ・ネオス 攻3500→3800

「さあ、バトルだ!コスモ・ネオス、霧の王に攻撃しろ!」
「返り討ちだ、霧の王!ミスト・ストラングル!」

 コスモ・ネオスと霧の王がフィールドの中央でぶつかり合い、剣と鉤爪が激突の衝撃で無数の火花を散らす。それでも攻撃力の差で少しずつ霧の王が押し始めたところで、十代が残る手札1枚を発動した。

「この瞬間手札からこのカード、オネスティ・ネオスの効果を発動!手札のこのカードを捨てることでフィールドのヒーロー1体を対象に、その攻撃力を2500アップさせる!」
「3800に2500……ってことは!」
『相打ち、か』

 コスモ・ネオスの背に、さらに一対の天使の翼が生える。光の力を得たことで2体の実力は完全に均衡し、どちらも1歩も引かぬままに剣戟の音と火花だけが激しさを増していく。そして……。

 E・HERO コスモ・ネオス 攻3800→6300(破壊)→霧の王 攻6300(破壊)

「くっ……うわっ!」
「うおおっ!」

 幾たびもの激突に限界まで達したエネルギーが、爆発を起こした。霧の王が、コスモ・ネオスが、僕が、十代が、一度にその爆風にのみ込まれて耐え切れずに後ろに飛ばされる。どうにか着地して前を見ると、ちょうど起き上がったところの十代と目が合った。何とはなしに笑いあい、また向かい合う。
 これで互いに手札も尽き、フィールドもすっからかん。すべてが振出しに戻り、あとはもう先にモンスターを出せた方が勝ち……だけど、不思議ともう戦う気は失せていた。今の爆発が闘志も悩みも全部一緒に吹き飛ばしてくれたように、不思議と晴れやかで穏やかな気持ちだけが残っている。またこちらを見ていた十代と目が合い、向こうも向こうで同じことを考えていることを悟った。
 そして十代も、僕が悟ったことに気づいたのだろう。2人して同時にデュエルディスクに手をやり、同じタイミングで電源を切った。十代のデュエルディスクは元の収納形態に、僕の水妖式デュエルディスクは腕輪に。心地いい疲労感からその場に座り込むと、十代も同じようにその場に腰かける。先に口を開いたのは、僕の方だった。

「この決着は、いつか必ずつけさせてもらうよ。だけど今は、これでお預けにしよう」
「ああ。いつでも受けて立つぜ。だけど今は……ガッチャ!」

 そう言い切ってポーズを決めた十代と一緒に、訳もなくおかしくなってその場で笑い出す。勝負はつかず、か。決着の先延ばしだなんてある意味、僕らしい結末といえるかもしれない。ただ今の戦いを通して、いつの間にか僕の気持ちははっきりしていた。笑いの発作が収まったところで、改めて口を開く。

「ねえ―――――」
「なんだお前ら、こんなところにいたのか!見たか皆、この名探偵サンダーの推理力を!」
「推理力って、1階から順番に探し回っただけじゃないっスか」
「むしろ屋上に来たのは一番最後だドン……」
「なんだお前ら、卒業してから5年も経つというのにまだ捜査の基本が足だということもわからんのか?まあいい、おい清明、十代はともかく企画者のお前が勝手に抜け出してどうする。まったく心配させよって、随分探したぞ」

 ちょうど口を開いたタイミングで屋上のドアが開き、がやがやと好き勝手喋りながら大勢の人がなだれ込んでくる。こっそり抜け出したことはもうちょっと気づかれないかと思ったけど、思ったより早くバレてたのね。
 立ち上がって見渡すと、僕のアカデミアでの友達はほぼ全員ここにきているようだ。ならまあ、これはこれでいいタイミングだろう。

「ごめんごめん、悪かったね。でもちょっと、皆に聞いて欲しいことができたんだ」
「なんだと?まだ俺の話は……」
「お聞きしましょう、先輩」

 まだ何か言いたげな万丈目の言葉を途中で断ち切って、葵ちゃんが「我々の代表」のような顔をして1歩前に出て僕と向かい合う。5年ぶりの再会とはいえさすがにあれだけ付き合いが長いと、こうやって僕が珍しくシリアスな顔をしているときにはそれなりに対応を切り替えてくれるからありがたい。
 ちなみに万丈目はどちらかというと、こちらがシリアスしているのを悟ったうえで自分の態度を変えようとしないというはた迷惑なのか大物なのかよくわからない奴だ。それはそれで肩肘張らずに済むからありがたい時も……まあ、ごく稀にはある。三沢なんかは臨機応変に空気読むんだけどなあ。

「実は僕、卒業した時からずっと、ずっと頭の片隅で思ってたことがあるんだ。このままここにいるべきなのか、ここにいていいのかな、って。僕がこのままこの場所にいて、せっかく手に入れた力も使わずに宝の持ち腐れで腐らせていてもいいのかな、なんてさ。だけど最初のうちはそれでもいいや、とも思ってたんだ。2年前にちょっとした事件があって、そこに巻き込まれるまでは。まあ、それはもう終わった話なんだけどね」

 2年前、というワードに、三沢の眉がピクリと動く。まあ僕や十代が答えを言わずとも、三沢ならきっといつか自力でたどり着くだろう。しかし全員しんと静まり返って、思うがままの言葉を推敲もせずにただ並べるだけの要領を得ない僕の話に耳を傾けてくれている。それだけのことに、しみじみ心が温かくなる。

「詳しくは今は言えないけどその事件で、卒業以来だから……3年ぶりか。随分久しぶりに僕も本気を出してさ。使える力を出し惜しみせずに、全部引っ張り出して戦って。楽しかった。本当にその瞬間が、楽しかったんだ」

 ここで一度話すのをやめ、一呼吸置く。遊星とのデュエルで感じたあの感覚を、もう1度思い出す。

「それから今日までの2年間は、もうそれでもいいや、なんて思えなくなった。もっともっと遠くの世界に行って、僕自身がどこまでやれるのかを確かめたい。どうしようもなく弱い僕が、このデッキとどこまで強くなれるのかを僕自身が知りたい。もちろん、皆が弱いなんてことは思ってないよ。それどころか多分ここにいる皆なら、僕の新しい力にも平気な顔して渡り合えると思う。でも僕が手に入れた新しい力は、壊獣やグレイドルとは種類が違う。もっと根本的な、デュエルモンスターズそのものの常識を揺るがすような力。それを一方的に僕だけが使おうなんて、少なくとも僕はそれで勝っても嬉しくもないし、負けたとしてもこれまでみたいに熱くなれない。だからやっぱり、これはここの皆を相手には使えないんだ」

 シンクロモンスターに、エクシーズモンスター。一般流通していない特殊なモンスターという点ではある意味十代のコンタクト融合やバトルシティで使われた本家神のカードと似ているが、前者はあくまで融合モンスターの一部であり、後者もあえて神をも恐れない言い方をするならば圧倒的な能力の数々や3体リリースという召喚の特殊性に目をつぶればメインデッキに入るモンスターという枠内の産物だ。やはり僕が持つ2種類のカードは、その特殊性が違いすぎる。
 気兼ねなくこの力を使いたい、だけどここにいてはそれはまず不可能だろう。だろうというか、僕が一方的に不必要な負い目を感じているだけなのだろうけど。次元の壁を超え、全く別の世界……例えばユーノや富野のいたという、シンクロやエクシーズが当たり前に存在する世界。どれほどかかるかもわからないけれど、そんな場所を見つけ出すしかない。

「だけどこの場所には、この世界には、僕の大切な思い出がたくさん詰まっている。だからどうしても踏ん切りがつかなくて……それで今日は、同窓会を頼んで集まってもらったんだ。こうやって皆の顔を見ればここに残るか、それとも外に出ていくか、どっちにしても最後の一押しを決める勇気が貰えるかなって」
「それで、どうだったんですか?先輩」

 改めて、ここにいる全員の顔を見渡す。葵ちゃんの促しに、首を縦に振って答える。

「今日皆と会って、話をして、改めて確信できたよ。この世界の思い出はどれだけ離れても、どれだけ時間が過ぎたとしても、絶対に忘れない。なら、迷いはもう消えた。どんなところに行くことになるのかもわからないけど、僕はここを出ていくよ。それが、僕の選んだ道だから……今までずっと、ありがとう」

 嘘偽りのない感謝の気持ちから、深々と頭を下げる。言い切った瞬間、ふっと肩の荷が下りた気がした。長々と語ってしまったが要するにこれは、僕個人のただのわがままでしかない。それでもずっと胸につかえていたものを全部吐き出してしまったことで、だいぶ気が楽になっているのが自分でもよくわかった。
 それでも、こんな訳の分からない話をいきなり聞かされた皆の方はたまったものじゃないだろう。ちょっと心配になって顔を上げると、じっとこちらを見つめていたいくつもの顔と目が合った。

「……ほら、何をボーっとしている。こうなったからにはさっさと戻るぞ、お前たち」

 最初に動き出したのは、万丈目だった。くるりと身を翻してもと来たドアの方へ歩いていくと、それに続き1人、また1人とビルの中へ戻ろうとしはじめる。賛成にしろ反対にしろ少なくとも何かしらは言われるとばかり思っていたけれど、まさか全くのノーリアクションとは。完全に予想外の反応にたじろいでいると、すでに戻り始めていた三沢が急に振り返って僕を手招きしだした。

「なんだ清明、いつまでもそんなところで立ち止まって。お前には早く来てもらわないと困るんだぞ。何せ今日の同窓会は今から、お前が主役になったんだからな」
「僕が?なんで?」
「なーに言ってるんですか先輩。ご自身でおっしゃられたこと、もう忘れたんですか?」
「ええ?」

 ますますわからず余計こんがらがる僕に、葵ちゃんがため息をついて片手を差し出す。反射的にその手を掴んだところで、彼女は小さく笑ってこう言った。

「当然です。本日現時刻をもってこの同窓会は、先輩のお別れパーティーになったんですから。出席拒否なんて、絶対に許しませんよ?」





 それから。お別れという名目で再開したパーティーは、ずっと続くかのようにも思われた。最後の1瞬までそんな皆との記憶を胸に刻み込もうとする僕に仲間たちがかわるがわる訪れては激励の言葉をかけてくれ、たびたび視界が潤んだのは否定しない。だけどそんな時間も、いつかは終わる。朝日と共にお開きを迎え、改めて全員に別れを告げた時には、気合を入れて泣くのを堪えていた。最後に見せたのが泣き顔だなんて、何の自慢にもなりはしないからだ。
 まだ早朝すぎて誰もいない童実野町をしばし歩くと、見慣れた自宅にたどり着く。次にここへ来るのは、いつになるのだろうか。いつか必ず戻ってきて、十代との決着もつけなくてはならない。それまでは、野垂れ死になんて絶対できないな。

「ただいまー……」

 この時間だと多分親父は、もう今日の仕込みのために起きているだろう。案の定すでに電気がついていた家の中にそっと入ると、厨房から親父の顔が出てきた。

「……」
「……」

 朝帰りに対する説教でも飛んでくるかと身構えるも、なぜか何も言わずにじっとこちらを見つめる親父。ついその様子につられてしまい、こっちも固まったまま目を合わせていること数秒。

「ちゃんと、母さんにも挨拶してけよ」

 そう一言だけ残し、また厨房に引っ込む親父。言葉を失う僕に、厨房の奥から追加の言葉が届いた。

「20年間近く顔つき合わせてきた馬鹿息子が、急に少しはマシな顔になって帰ってきたんだから何かあったぐらいの察しもするさ。俺を誰だと思ってるんだ、これでもお前の親だぞ?」
「親父……わかった、行ってきます。またいつか、必ず様子見程度には帰ってくるよ」

 向こうから見えないことは承知だったが、それでも厨房に向けて深く頭を下げる。そのまま仏間に行き、直接顔を合わせた記憶もない色褪せた写真の中の母さんに手を合わせる。見守っていてくれなんて言いません、せめてこれからもこの家で、親父と一緒にいてやってください。
 次いで僕の部屋に入り、荷物を軽く整理する。どんな旅になるのかさっぱりわからないし、本当に必要なものだけを最小限にあまりかさばるものは持って行かない方がいい。それはわかっているのだが、どうしても諦めきれない大物があった。デュエルアカデミアの卒業アルバム、僕にとっての思い出の結晶だ。

『いいじゃないか、持っていけば』

 そんなチャクチャルさんの声に背中を押されるように、どう見てもかさばるそれをどうにか背嚢に放り込む。案の定ちょっと不格好に形が出てしまったが、それぐらいはよしとしよう。

「そういえば、チャクチャルさんはこれからどうするの?ナスカに帰る?」
『何を寝ぼけたことを。むしろ逆にこちらが聞かせてもらいたいものだがなマスター、私抜きで次元を超えて、そこからいったいどうやって生きるつもりだ?』
「え?……あっ」
『待て、本気で別れるつもりだったのか!?この8年間マスターがこうして現世に留まっていられるのは誰の力だと思っているんだ!私からの供給を絶ってみろ、3日もせずに血も肉も骨も全部灰になるぞ!?』
「いやー、あはは……ごめん。じゃあ、一緒に来てくれるの?」
『どうもまーだ、我々は意思疎通ができていないようだな。なあマスター、なんのために昨夜はわざわざ私があちこち駆けずり回ったと思っているんだ?運がいいぞマスター、ちょうどこの近くに次元の揺らぎが起きている箇所が見つかったんだ』

 目を丸くする僕に、チャクチャルさんが若干いたずらっぽい調子で付け加える。

『それと聞かれる前に答えておくが、仮にも8年越しのパートナーが延々抱えていた悩みにも気づけないほど衰えた覚えはないぞ。この私、権謀術数の地縛神相手にマスターの浅い人生経験が隠し事などできてたまるか』
「チャクチャルさん……」
『ほら、早くしないとどんどん日が昇るぞ。朝日に追い立てられる出発というのも乙なものだ』

 そんな泥棒の逃走みたいなスタイルのどこをどうひっくり返せば乙なんて感想が出てくるのかはさっぱりわからないけれど、きっと5000年以上生きて地球のことは知り尽くしたチャクチャルさんなりに次元を越えた未知の世界に対し興奮しているのだろう。単に美的センスが根本的に異なるという可能性も捨てきれない。

「じゃあチャクチャルさん、それに皆も。改めてこれからも頼むよ。これからも、まだまだデュエルと洒落込もうか!」 
 

 
後書き
ひとまず、今は何も語りません。また、後語りでお会いしましょう。
この場所に今書きたいこと全部書いてるとそっちで書くネタなくなりそうなので。


……と、ここまでが予約時点での内容でした。これで終わらせとけばそれなりに綺麗な締めだったでしょう。ただその後、そうもいっていられない事態になったので追伸。

皆さんの感じたことはよーくわかります。グランドマンの出番が薄い、ゴッドでそっちコピーすればコスモと一緒に並べてゲームエンド行けたのでは?
ぶっちゃけ、私もそう思います。
だってこの話、14日(グランドマン情報公開日が15日)に書き上げたばっかの話に滑り込み枠で無理やり入れただけですし。マテリアルゲートのギミックのおかげで本当に顔見せだけの出番ならギリギリねじ込めることに気づいたらつい発作的に……。
とまあ最後まで締まらないことになってしまいましたが、ここまで締まらないとむしろそれはそれで「らしい」のでは?なんて言い訳じみたことを思ったりもする今日この頃でした。 
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