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戦国異伝供書

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第十五話 中を見るとその三

「どうしてもです」
「悪人にはか」
「思えないですし話をして共にいても」
「思えぬか」
「到底」
「お主の人を見る目は確かじゃが」
 佐々は苦い顔で述べた。
「お主がそう言うのがわからぬ」
「あと慶次がそう言うが」
 彼もというのだ。
「何故かのう」
「それがしは実際にです」
「そう思うのじゃな」
「はい」
 そうだというのだ。
「少なくともこの度は」
「裏切らぬか」
「殿に一服盛ろうともせぬか」
「背中から切ったり」
「そうしたことはせぬか」
「讒言なぞも」
 そうした怪しい行いはというのだ。
「一切ないか」
「まことにそうであればいいがのう」
「やはりあ奴が一番厄介じゃからな」
「当家の中では」
 平手達はどうしても松永を危険視していた、しかし羽柴だけは違いそれで彼について言うのだった。
 それで茶を飲みつつだ、こんなことも話した。
「それで松永殿の茶ですが」
「美味いのう」
 彼と同じく茶にも長けている荒木が応えた。
「それは」
「茶には心が出るといいますな」
「利休殿も言っておられる」
「それでは」
「あ奴の心はか」
「どうしてもです」
 彼の茶を飲んでもというのだ。
「それがしは」
「悪いとはか」
「思えませぬ」
 そうだというのだ。
「どうしても」
「そうなのか」
「はい、ですから」
 羽柴は荒木にさらに話した。
「お茶からもそれがしは思いまするが」
「そういえばあ奴の茶は飲んだことがないのう」
 荒木はここでこのことに気付いた。
「これまで」
「わしもじゃ」
「わしもそうじゃ」
「それはわしも同じじゃ」
 この場にいる織田家の重臣達、万石取りの者達が揃っているが誰一人として松永が淹れた茶を飲んだことはなかった。
 蒲生もだ、こう言うのだった。
「あ奴の茶なぞ」
「全くじゃ、飲もうものなら」
 池田も言うことだった。
「毒が入っておってな」
「殺されると思いまする」
「実際毒殺もしておった筈じゃ」
 証拠はない、だが天下の殆どの者が思っていることだ。
「さすればな」
「茶なぞとても」
「握り飯を出されても」
 滝川も言うことだった。
「食おうとは思えぬわ」
「猿、お主以外は誰もじゃぞ」
 金森はその羽柴に言った。
「あ奴の出す茶も飯もな」
「どれもですか」
「飲める筈がない」
 到底というのだ。
「食うこともな」
「出来ませぬか」
「毒なぞ入っていると思えば」
 まさにそう思うからこそだった。 
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