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戦国異伝供書

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第四話 治世の功その十

「松永殿は実はです」
「悪逆非道の御仁ではないか」
「はい、そう思いまするぞ」
「そう言っておるのは家中でお主と猿だけだぞ」
 その羽柴と、とだ。前田は慶次にその目をこれ以上はないまでに顰めさせて告げた。
「まことにな」
「実は悪くない方だと」
「そうじゃ、わしもあの御仁は嫌いじゃ」
「それも大嫌いですな」
「今も何か少しでもおかしな素振りを見せたらな」
 松永、彼がだ。
「切るつもりじゃ」
「左様ですか」
「内蔵助や鎮吉もじゃ」
 前田と同じく赤母衣衆や黒母衣衆から出た織田家の若い血気盛んな重臣達もというのだ。
「そう考えておるし虎之助達なぞもっとじゃ」
「松永殿をですか」
「わし等は何かおかしな素振りを見せたらじゃが」 
 その時に切ろうと考えているがというのだ。
「あ奴等はな」
「そうしたものがなくとも」
「切ろうと考えておるな」
「まあ虎之助達ならばそうですな」
 慶次もも彼等のことは同じ織田家の家臣として知っているのでわかった。
「そう考えますな」
「佐吉が止めておるがな」
「佐吉は軽挙は嫌いますからな」
「しかしその佐吉もな」
「松永殿を嫌っていますか」
「切らぬまでも何かあればじゃ」
 石だはどう考えているかというと。
「処罰すべきと考えておるわ」
「つまり処刑にすべきとですか」
「法に照らしてな」
「そこは佐吉らしいですな」
「あ奴はそこは生真面目じゃ、しかし佐吉もそう考えておる」
 松永を危険だと見て除くべきとだ。
「そこは同じじゃ」
「ではまさにそれがしと羽柴殿だけですか」
「あの御仁を悪いと見ておらぬのはな」
「それでもまことにです」
「あの御仁はか」
「悪いとは思わぬのです」
 慶次にしてもというのだ。
「特に」
「何処がそうなのかわからぬがな」
 前田は自分と殆ど歳が離れていない甥の言葉にどうかという顔で応えた。
「お主と猿はそう思うか」
「左様です」
「では切るという考えもか」
「ありませぬ」
 一切とだ、慶次は前田に明るく笑って答えた。そのうえで酒も飲む。
「まことに」
「わからぬのう、お主も平手殿と権六殿に言われたな」
「お二人は特にですな」
「うむ、松永殿を嫌っておられてな」
 織田家の宿老では林と佐久間もだがこの二人はとりわけなのだ。
「それでじゃ」
「叔父上にもですか」
「自分達もそうすると言われてな」
「松永殿に僅かでもおかしな素振りがあれば」
「切れと言われておる、もっともな」
「お二方に言われずとも」
「そのつもりじゃ」
 切ろうと考えているというのだ。
「今も大和のかなりの部分を任されておるが」
「それもですか」
「全く。殿には何かのお考えがあられるに違いないが」
「一体どうお考えか」
「わからぬ。殿は時折な」
 信長の話もするのだった。
「我等がそうだったかとあっと驚くことをされるな」
「それも殿の凄いところですな」
「そうじゃがな」
「ではこの度も」
 松永のこともというのだ。 
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