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真田十勇士

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巻ノ百四十七 吉報その九

「この場所から一歩も動かれず」
「そのうえでか」
「吉報をお待ち下さい」
「そうさせてもらうぞ」
 家康も服部の言葉を受けて述べた。
「それではな」
「その様に」
「わしは家臣にも恵まれてきた」
 家康は服部の言葉からこれまでの自分の生涯を振り返ってこうも言った、それは実に暖かい声であった。
「幼い頃からな」
「駿府に人質におられた時から」
「うむ、あの時もわしの傍に三河から来てくれた者達がおってな」
 そうしてというのだ。
「忠義を捧げてくれた、そしてな」
「三河に帰られてからも」
「そうじゃ、常にじゃ」
「優れた家臣の方々がですか」
「四天王、そして四人を入れた十六神将達がおってな」
 それでというのだ。
「わしをいつも助けてくれた、そして天下人となってもな」
「今に至るまでも」
「優れた者達がいてくれておる、だからな」
「それで、ですか」
「何とも果報者じゃ」
 自分はというのだ。
「わし程忠義と才覚を併せ持った者達に仕えられた者はおらん」
「そしてそのことをですか」
「幸せに思う、ではその幸せな思いと共にな」
「最後の戦もですな」
「行ってじゃ」
 そうしてというのだ。
「日光で休む」
「そうされますか」
「うむ、さて真田じゃが」
 幸村のその話もした。
「あの者じゃが」
「はい、ここに来たならば」
「勝っても負けてもな」
 どちらでもというのだ。
「よいな」
「御首はですか」
「取る必要はない、出来ることなら命もな」
「それもですか」
「取らぬ様にな」
「もう御首を取ることもですか」
「ない、あの者は戦に勝っても敗れてもここから去る」
 この駿府からというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「去る時は去らせてやれ」
 戦が終わった時に幸村が生きていればというのだ。
「そうしてじゃ」
「その後は」
「あの者に武士の道を歩ませるのじゃ」
「そうしますか」
「うむ、これからもな」
「そうですか、しかし大御所様は真田殿を」
「惜しく思っておる」
 まさにと言うのだった。
「わしの家臣にしたかったからのう」
「どうしても」
「ずっとな、しかしやはりな」
 幸村、彼はというのだ。
「わしの家臣になる星ではなかったのじゃ」
「その運命では」
「そうじゃ、なかったのじゃ」
 家康は達観している目で語った。
「真田という家自体がな」
「そうなのですな」
「あの者は誰かに仕えている様でな」
「その実は」
「誰も仕えさせることが出来ぬ者か」
「それがあの御仁ですか」
「忠義の心は篤い」
 幸村自身はというのだ。
「それはな、しかしな」
「それでもですな」
「あの者は大きいしかもな」
「あまりにも大きく」
「それでじゃ」
 その為にというのだ。 
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