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真田十勇士

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巻ノ百四十一 槍が折れその十二

「政も戦も知らぬ方々がそうされれば」
「若し茶々様が政や戦をご存知で」
「そうであられれば」
「そして女御衆の方々もですな」
「そうであったならば」
「あそこまではじゃ」
 とてもというのだ。
「なっておらんかったわ」
「左様ですな」
「そう思いますと無念であります」
「このまま右大臣様が出陣されぬなら」
「それならば」
「それでも塙殿、木村殿、後藤殿がおられれば」
 先に散った彼等がというのだ。
「何とかなったやも知れぬが」
「それでもですな」
「お三方はもうおられませぬ」
「岩見殿も討ち死にされていますし」
 岩見重太郎、豪傑と呼ばれた彼もだ。昨日の戦でそうなっていた。
「それではですな」
「将も足りず」
「この状況を覆せぬ」
「そうなりますか」
「うむ、まことに無念じゃが」
 それでもというのだった。
「そうなってしまうわ」
「では殿」
 家臣の一人が明石に問うた。
「若し今日の戦がです」
「わしが心配している通りになればじゃな」
「はい、その時は」
「おそらく明日で戦が終わる」
「そうなってしまいますか」
「しかしわしはそれでもじゃ」 
 例え戦に敗れてもというのだ。
「生きる」
「そうされますか」
「真田殿がいつも言われておるが」
「生きる武士道ですな」
「切支丹は自害はせぬ」
 己の信仰も話に出す明石だった、信仰は自身の軍勢の旗にも出しているが彼にとっては絶対のものである。
「決してな」
「だからですな」
「そうじゃ、死ぬならば戦の場でじゃ」
「生きるのならですな」
「逃れてじゃ」  
 そのうえでというのだ。
「機を待とう」
「そうされますか」
「お主達は好きにせよ」
 家臣達にはこう言うだけだった。
「お主達それぞれのな」
「では」
「我等はですか」
「自害するなり戦の場で死ぬなり」
「生き延びるなりですか」
「好きにせよ、若し今日と明日の戦で死なぬなら」
 明石はまた己の話をした。
「生きる、何としてもな」
「そうされますか」
「ではその時まで我等もです」
「お供します」
「それが我等の今の断です」
 今日のというのだ。
「ここで死ねばそれまで」
「明日は殿と共に死ぬか生き延びまする」
「何、ここまで戦ったのです」
「そうするのも面白いでありましょう」
「そう言ってくれるか、では共に戦おうぞ」 
 明石は家臣達の返事を聞いて馬上で笑った、そうして槍を握り締めなおしてそのうえで彼等に話した。
「武名を残すまでな」
「そうしてやりましょう」
「若しかすると大御所殿の御前にも辿り着けるでしょう」
「そうなれば御首を貰うまで」
「ではですな」
「思う存分戦いましょうぞ」
「皆の者このまま突いていくぞ」
 そうして攻めるというのだった。 
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