| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ百四十一 槍が折れその十一

「お主達でじゃ」
「はい、ここはですな」
「松平越前殿にですな」
「兵を向けるべきですな」
「我等もそちらにですな」
「行ってもらう、何としてもじゃ」
 絶対にと言うのだった。
「そうしてくれ、よいな」
「わかり申した」
「それではです」
「大手門の方が気になりますが」
「ここは」
「わしもじゃ」
 大野自身もだった。
「ここでな」
「右大臣様がまだ来られる今は」
「全体の采配をですな」
「するしかない」
 だから大野も動けなかった、そして並の旗本達を大手門の方に行かせても茶々の腹心として城を実際に動かす女御衆が聞かぬこともわかっていた。
 だからだ、今はこう言うしかなかった。
「ここは右大臣様が振り切って下さるか」
「母上達が諦められるか」
「どちらかになることを祈るしかありませぬな」
「仕方がないわ」
 こう言うしかなかった。
「ここはな」
「左様ですな」
「無念ですが」
 弟達もこう言うしかなかった、そしてだった。
 治房と治胤は敵に向かった、そして大野は全体の采配を続けた。それは彼にとっては苦渋の選択であった。
 明石も攻め続けていた、しかし。
 大手門の方を見てだ、彼は残念そうに言った。
「これはな」
「右大臣様はですか」
「このままですか」
「出陣されぬ」
「それも有り得ることですか」
「女御衆がお止めしておるか」
 明石にも何故秀頼が出陣しないのかは察しがついた、そのうえでの言葉だ。
「だからか」
「何と、ここでですか」
「女御衆の方々がそうされているのですか」
「この大事な時に」
「その様なことを」
「あの方々は戦を知らぬ」
 それこそと言う明石だった。
「だからじゃ」
「その様なことをされ」
「戦の邪魔になっている」
「肝心のこの時に」
「そうしたことをされていますか」
「そうであろうな」
 やはり苦い顔で言う明石だった、彼も己の軍勢を攻めさせつつ自ら槍を縦横に振るい敵を倒している。
 だが軍勢全体の疲れが見えてきていてだ、このことに歯噛みしていた。
「茶々様のお傍にいて欲しいとな」
「また茶々様ですか」
「またしてもですか」
「何かと出て来ますな」
「どうしても」
「仕方がない、この城はじゃ」
 大坂城、つまり自分達はというのだ。
「そうした城じゃ」
「右大臣様が主でなくですな」
「茶々様が主であられ」
「女御衆がその下で取り仕切る」
「そうした城ですな」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。
「こうした時にあの方々が騒げば」
「それで、ですな」
「これまでもそうでしたし」
「今もそうですが」
「ああなってしまいますな」
「そうじゃ、大事を間違えることになる」
 やはり苦い顔で言う明石だった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧