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40部分:エリザベートの記憶その十八


エリザベートの記憶その十八

「公爵様」
「ヴェーヌス、目覚めたか」
「私は。どうしてここに」
 だがヴェーヌスは自分の身に何が起こったのかわかっていないようであった。
「あの時。乗っていた船が沈んで」
「馬鹿な。覚えていないのか」
「おそらくな」
 ジークフリートがそれに答えた。
「今まで。眠らされていたようだな」
「何故だ」
「全てはクリングゾル様の為」
「ニーベルングの為」
「そうだ。この娘は本来ニーベルング様のものとなる筈だったのだ」
「馬鹿を言え」
 だがタンホイザーはその言葉を否定した。
「ヴェーヌスは私の妻だ」
 そして言う。
「それ以外の何者でもない。戯れ言を言うな」
「どうやら我々のことを何も知らないようだな」
「何だと」
「我等ニーベルング族のことを。そしてニーベルング様のことを」
「ニーベルング族?」
 これにはタンホイザーだけでなくジークフリートも眉を顰めさせた。
「何だ、それは」
「知らぬのならよい」
 だがクンドリーはそれ以上言おうとはしなかった。
「知らぬのなら。それに卿等二人は」
「我等がどうした」
「フン、いずれわかる」
 クンドリーはそれも言おうとはしなかった。
「卿等はな。そしてその時こそ私は」
「待て、何が言いたい」
 彼女に対しジークフリートが問う。
「貴様がどうしたと」
「うっ」
 ここでクンドリーは自らが失言を犯したことを悟った。
「どういうことだ」
「フン、これも卿等には関係のないことだ」
 クンドリーはそれを咄嗟に誤魔化した。
「所詮な。卿等にとっては」
「よくわからぬが。どのみち貴様はここで死ぬ」
 ジークフリートは右に動いた。
「公爵、左を頼む」
「わかった」
 タンホイザーも動いた。そしてそれぞれ動く。
「逃がしはせぬ」
「ヴェーヌスを。返してもらうぞ」
 二人は左右に動きながら間合いを探っていた。ジークフリートが前、タンホイザーが後ろであった。二人掛かりでクンドリーを狙う気であった。
「小賢しい」
 だがクンドリーはそれでも余裕を見せていた。
「卿等に私を倒せるなどと」
「倒せるさ」
 タンホイザーは彼女に言葉を返した。
「私の腕を見くびってもらっては困る」
「では見せてもらおうか」
「公爵様!」
 ヴェーヌスが叫ぶ。クンドリーは彼女を抱いたまま懐から銃を取り出してきた。
「卿等で私は倒せぬ」
「それはどうかな」
 だがタンホイザーとジークフリートは臆してはいなかった。
「我々を侮ってもらっては困る」
 タンホイザーが銃を放った。それはクンドリーの肩を掠めた。
「ヌッ」
「一つ言っておくが今のは外したのではない」
 タンホイザーは言う。
「わざと掠めさせたのだ。その意味がわかるな」
「ヌウッ」
「そして私もいる」
 ジークフリートは剣を構えていた。ビームサーベルであった。
「ヴァンフリート」
「私は銃だけでなく剣も使える」
 そう言いながら前に出る。
「今それを見せてやろう」
「小癪なことを」
 クンドリーの整った顔が歪んだ。そして銃を捨て剣を取り出す。彼女もまたビームサーベルを出していた。
「私を。このクリングゾル=フォン=ニーベルングを倒すなどと」
「確かに貴様がニーベルングだったならばわからぬ」 
 ジークフリートはそれに応えた。
「ニーベルングならばな。だが今の貴様の身体は」
「クンドリーという女のものだ。どうやら彼女では我等二人の相手は難しいようだな」
「まだ言うかっ」
 男の声と女の声、両方で言った。
「私は。敗れぬ」
「いや、敗れる」
 タンホイザーはそれを否定した。
「今の貴様は焦っている」
「おのれっ」
 ビームサーベルを一閃させた。そしてそこから光を放ちタンホイザーを狙う。だがそれはあえなくかわされてしまった。
「今のもだ。おそらく貴様自身ならば私も危なかっただろう」
「だが今の貴様では。我々を倒すことはできぬ」
「ニーベルング、覚悟しろ」
 タンホイザーは銃の狙いを定めた。
 
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