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儚き想い、されど永遠の想い

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77部分:第七話 二人きりでその七


第七話 二人きりでその七

「そう感じます」
「左様ですか。それにしても」
「それにしても?」
「前に一度聴かれただけですね」
 義正が今度真理に言うのはこのことだった。確かめの言葉だった。
「そうですよね。一度だけですよね」
「はい」
 その通りだと答える真理だった。
「そうなんです。一度だけです」
「それで違いがおわかりになられるとは」
 そのことにだ。義正は驚くべきものを感じてだ。それで真理に話すのだった。
「凄いものですね」
「凄いでしょうか」
「そうとしか言えません」
 真理に対して言う。
「一度で聴き分けられるとは」
「これが聴き分けなのですか」
「はい。ところで」
 ここでだ。義正はこう真理に話した。
「座りませんか」
「あっ、そうですね」
 言われてだ。真理もそのことに気付いたのだ。
 二人は今立ったままで話している。義正は席から立ってだ。
「それでは」
「席を変えますか」
 義正は自分の座っている席を見てから述べた。
「迂闊でした。カウンターに座っていました」
「カウンターではなのですか」
「はい、今一つよくありません」
 これが義正の考えだった。
「ですから。二人用の席にです」
「そこになのですか」
「はい、そこにです」 
 また真理に話す義正だった。
「そこに座りましょう」
「では」
 真理は店の中を見回した。するとだ。
 彼女の丁度傍にである。その席があった。
 二人用のだ。椅子が向かい合う形の席があった。そこにであった。
 義正はそれを見てだ。あらためて真理に話した。
「そこにしますか」
「そうですね」
 真理は微笑んで義正に応えた。
「そこにしますか」
「はい、それでは」
 こうしてだ。二人はだ。
 その席に向かい合って座った。そのうえでだ。
 あらためてだ。義正は真理に話そうとする。しかしだ。
 その彼にだ。ある者が来た。それは。
 店のマスターだった。黒いシャツに蝶ネクタイのオールバックの男だ。年は三十代程だろうか。赤いチョッキに黒いズボンがこれまた端整だ。
 その彼がだ。微笑んで義正に言ってきた。
「あの」
「何かあったかな」
「珈琲ですが」
 見ればだ。彼のその手にはだ。
 珈琲があった。それを持って義正に話してきているのだ。
「お忘れです」
「あっ、そうだったね」
「はい、まだ飲まれますね」
「勿論だよ。そうさせてもらうよ」
 その通りだと答える彼だった。
「のみかけだしね」
「はい、それでは」
 こうしたやり取りの後でだった。彼の前にその珈琲があらためて置かれた。
 そしてその珈琲を見たところでだ。義正はだ。
 真理に顔を戻してだ。音楽の話の前にこう尋ねたのだった。
「何を飲まれますか?」
「そうですね。それでは」
 その珈琲を見てからだ。真理は答えた。
「珈琲を」
「この珈琲をですか」
「同じものを飲みたくなりました」
 それでだというのだ。
 
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