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儚き想い、されど永遠の想い

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76部分:第七話 二人きりでその六


第七話 二人きりでその六

「誰もが心配しますので」
「ええ。それでは」
「何でしたら」
 ここからはだ。婆やの先走りだった。だが言ってしまった。
「私もです」
「婆やも?」
「ご一緒しますから」
 顔に出ている心配はさらに強いものになっていた。
「そうしますので」
「いえ、それは」
 笑ってだ。真理はだ。
 それはいいとした。そしてまた言うのであった。
「気にしないでいいですから」
「左様ですか」
「私も。もう学生ではありませんし」
 もう充分な、街を一人で歩いていい年齢だというのだ。
「ですから。気をつけますが」
「大丈夫なのですね」
「はい、そうです」
 こう話してであった。真理もまた、だ。
 手紙が教えてくれた場所に向かう。そこにであった。
 そこはダークブラウンの木造の店だった。
 天井も何もかもがダークブラウンだった。無論テーブルや椅子もだ。カウンターもである。木造でありそれがさらに趣きを見せている。
 窓ガラスの透明がそのダークブラウンを余計に引き出している。内装はイギリスを思わせるものであり柱やその窓ガラスの造り、そしてテーブルも椅子もだ。全てがイギリスのそれであった。
 その店の中に入るとだ。すぐにだ。
 音楽が聴こえてきた。それは彼女が一度だけ聴いた音楽だった。それは。
「モーツァルト?」
「はい」
 ここでだ。声がした。
 カウンターからだ。そこにはだ。
 赤いベストに白いシャツ、それと青いネクタイ、黒いズボンのだ。
 義正がいた。彼が微笑んでだ。カウンターの傍まで来ていた真理に声をかけてきたのだ。
「そうです。フィガロです」
「フィガロ?」
「オペラでして。フィガロの結婚といいます」
「フィガロの結婚ですか」
「そのオペラの序曲です」
 今聴こえているのはだ。その曲だというのだ。
「レコードから。かけられているのです」
「そうだったのですか」
「はい、如何でしょうか」
 義正は席から立ち上がっていた。そしてだ。
 真理のところに来てだ。そのうえで彼に声をかけてきていた。
「この音楽は」
「一度聴きましたが」
 こう答えてからだ。それからだった。
 真理はだ。あらためてこう義正に述べた。
「少し違うような気がします」
「音楽がですか」
「はい、前に聴いたのと」
 違うのではないかというのである。
「レコードのせいでしょうか。けれど前もレコードでしたし」
「指揮者が違うのでしょう」
「指揮者が?」
「はい、それとです」
 さらにだ。違う理由はあるというのだ。
「オーケストラも違うのでしょう」
「演奏する人達がですか」
「同じ曲でもそれを操る人が違えば変わります」
「同じ曲でもですか」
「歌と同じです」
 微笑んでだ。こう真理に話した。
「同じ歌でも歌う人が違えば随分と変わりますね」
「はい、確かにそれは」
「それと同じなのです」
「だからですか。こうして」
「はい、それでだと思います」
 義正の説明はこうしたものだった。
「そのせいでしょう」
「そうですか。私が前に聴いたのはもっとゆるやかでしたが」
「今は速いですね」
「少しですが」 
 そうだというのである。
 
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