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儚き想い、されど永遠の想い

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69部分:第六話 幕開けその十三


第六話 幕開けその十三

「ショパンにな」
「それでは」
「再び」
「聴くとしよう」
 三人はショパンの世界に戻った。それはまさに現実にある歌の美であった。
 そしてその美はだ。真理達も堪能していた。それが終わってからだ。
 流麗かつ美麗な奏でを耳に残しながらだ。喜久子が言った。三人は丁度コンサートホールを後にしたところだ。そこで歩きながら話をするのだった。
「あれがですね」
「はい、ショパンですね」
 その喜久子に麻実子が応える。
「何とも言われぬ」
「素晴らしさがありますね」
「はい」
 麻実子は満ち足りた顔で喜久子に答えた。
「本当に。そう思います」
「ピアノが好きになりました」
 喜久子はこうも言うのだった。
「お家にはピアノはありませんけれど」
「お入れになられますか?」
「ただ。私はピアノを弾けません」
 残念な顔になってだ。喜久子は話した。
「ですから。弾く誰かがいてくれなければ」
「あっても仕方ないというのですね」
「その通りです」
 こう麻実子に述べるのだった。
「若しも。私がピアノが弾けたならば」
「芸術を自ら生み出すことができたのですね」
「悲しいながらそれはできないです」
「いえ」
 喜久子が言った、そこでだった。
 今は黙っていた真理がだ。ここでだった。喜久子に対して言ったのであった。
「芸術を生み出すことはできます」
「そうなのですか?」
「はい、できます」
 喜久子だけでなく麻実子にも顔を向けて話す彼女だった。
「それは誰にもできると思います」
「では一体」
「どうやってでしょうか」
 すぐに尋ねる二人だった。
「私達でも芸術を生み出せるなら」
「どうやってできるのでしょうか」
「恋愛です」
 一言で答えた真理だった。
「それをすることです」
「恋愛がですか」
「それがですか」
「芸術だろ」
「そう仰るのですか」
「そう思います」
 こう答えたのだった。今度はだ。
「恋愛はそれそのものがです」
「芸術なのですか」
「そこから生み出るものが芸術ではなく」
「恋愛もまた然りだと思います」
 これが真理の二人への返答だった。
「私はそう思うのですが」
「左様ですか。恋愛それ自体が」
「芸術ですか」
 二人は真理のその話にまずはいぶかしむ顔になった。しかしだ。
 やがて少しだけ納得した顔になってだ。こうそれぞれ述べた。
「言われてみればそうかも知れませんね」
「絵画にしろ。音楽にしろ」
 こう話していく二人だった。
「殆どの芸術は恋愛があってこそですから」
「そこからはじまりますから」
「はい、恋愛があってこそです」
 真理もまた話すのだった。
「そうした芸術がはじまるのですから」
「成程、それでなのですか」
「人は誰でも芸術を生み出せる」
「恋愛を生み出せるからこそ」
「だからですね」
「恋愛は全ての芸術の父であり母です」
 その話が続けられる。真理のその口からだ。
「私はそう考えるようになりました」
「どうしてそうなったのですか?」
 麻実子が真理に尋ねた。
 
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