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儚き想い、されど永遠の想い

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58部分:第六話 幕開けその二


第六話 幕開けその二

「まずは開店しますがその前にです」
「大阪のことを調べてだね」
「店の立地場所、そして規模もです」
 そうした細かいことまでだ。調べてだというのである。
「それで決定したことです」
「それだけ用意周到だということだね」
「それは旦那様も御存知ですね」
「知ってるよ。これまでそれに関する書類にもサインをしてきたからね」
 日々数多くのサインをしている彼だ。その中には大阪店に関するサインも数多くあったのだ。彼の担当には百貨店関係もあるのだ。
「だからね」
「そこにあった通りです。それもです」
「既に調べてだね」
「誰でしょうか。こう言ったと思いますが」
 佐藤は考える顔になってだ。義正に述べた。
「商業もまた戦争だと」
「商業もだね」
「だからこそ。戦略や戦術が必要だと」
「それだね。そして情報もだね」
「そうなりますね。情報が何よりも大事になります」
「そして手に入れた情報を検証して」
 義正も話す。彼は今は経営者の顔になっていた。若いがだ。彼もまた経営者としてだ。仕事をしているのである。
「そのうえで戦略を決定する」
「今回もまさにそうですね」
「そうなるね、本当に」
「今それが決定しました」
 義正の今のサインによってだというのである。
「二号店がです」
「大阪への進出も」
「それが決まったのです」
「あれだったね。八条鉄道大阪駅と連結してだったね」
「はい、そうです」
 場所についての話にもなった。
「そこにです」
「いいことだね。鉄道と連結するというのは」
「鉄道は大きな力になります」
 明治からこのことが言われていた。そして実際にその通りだった。
「だからこそです。それと連動させてです」
「百貨店もだね」
「駅から出てそうして」
 さらにだというのである。
「百貨店で買えばかなり楽ですね」
「お客さんにとってもね」
「だからです。それで鉄道の方ですが」
 そちらの話にもなった。その八条鉄道のことだ。
「今は神戸と大阪、大阪と京都の二線ですが」
「それも増やすね」
「奈良、三重、和歌山、滋賀です」
 その四つの県の名前が挙げられる。
「そして名古屋にまでです」
「関西と中部を一つにする」
「御父上はそう考えておられるのですね」
「そうだよ。それは聞いているよ」
 実際にそういう話になっているとだ。義正は確かな顔で述べた。
「途方もない話だね」
「壮大ですね」
「関西の全ての府県に愛知も」
「私鉄がここまでいけるかどうかとなると」
「夢だね。けれどこの夢は」
「実現する為の夢です」
 現実における話だからだ。それでだというのだ。
 そうした話をしてからだった。義正は仕事を終えてだ。そのうえでだった。
 ピアノの演奏会に向かう。そしてそれは。
 真理もだった。彼女は今厳しい顔の痩せた初老の男と話をしていた。彼はだ。真理に対して重く低い声でこんなことを話していた。
「御前もそろそろだ」
「そろそろといいますと」
「相手を決めなければいかんな」
「相手をですか」
「生涯の伴侶をだ」
 こう話すのだった。
「そろそろな」
「あの、それでしたら」
「何だ、相手はもういるのか?」
「いえ、それは」
 言えなかった、そのことは。しかしだった。
 
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