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儚き想い、されど永遠の想い

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57部分:第六話 幕開けその一


第六話 幕開けその一

                     第六話  幕開け
 義正はだ。この時だ。
 己の執務室で仕事をしながらだ。佐藤に尋ねるのだった。
「この仕事が終われば」
「今日の予定でしょうか」
「何処か。楽しめる場所に行きたいけれど」
「楽しめる場所ですか」
「何処かあるかな」
 こう彼に尋ねるのである。
「いい場所を知ってるから」
「そうですね。今日のお仕事の調子ですと」
 佐藤はだ。それを見たうえで話すのだった。義正の今日の仕事をだ。
「夕方になりますから」
「夕方か。じゃあ舞台はどうかな」
「舞台ですか」
「うん、何かあるかな」
「舞台はありません」 
 それはだ。ないというのだ。
 しかしだ。それと共にだった。佐藤はこれを話に出して来たのだった。
「音楽があります」
「音楽だね」
「はい、ピアノの演奏会です」
 彼が話すのはこれだった。ピアノであった。
「それはどうでしょうか」
「ピアノだね」
「ショパンです」
 波蘭の音楽家だ。ただしこの時代波蘭という国はない。墺太利と露西亜といった国々に分割されてだ。なくなってしまっているのだ。
 だが、だ。その音楽家の名前は知られていた。この日本でもだ。佐藤は主に対してである。この音楽家の話を出すのだった。
「その音楽家ですが」
「ショパンか。それはいいかもね」
「お聴きになられたことはないですか」
「実はね」
 ないとだ。答える義正だった。
「奇麗な音楽とは聴いてるけれどね」
「それを実際に知る為にはです」
「聴くことだね」
「はい、そうされますか?」
「そうだね。そうしようか」
 こうだ。決めた彼だった。
 そしてそのうえでだ。また一枚だった。
 書類にサインをした。そしてそれを佐藤に手渡した。
 佐藤はそのサインを見てだ。静かに話すのだった。
「これでまた仕事が一つ決定しましたね」
「うん、その仕事もね」
「百貨店の大阪進出がですね」
「二号店。遂にだね」
「八条百貨店は今大変な賑わいを見せています」
 この時代に百貨店が生まれたのだ。そしてそれはだ。新しい時代の商業としてだ。注目され華やかな賑わいを見せていたのだ。
「ですがそれに満足せずにです」
「それをさらに拡大させる」
「そうです。神戸の次は大阪です」
「そして京都だね」
「後は。名古屋にもです」
 そこにもだ。出したいというのである。
「やがては。東京にも進出しようと」
「夢は果てしないね」
「商業もまた夢です」
 現実にあるものもまた、だ。夢だというのである。
「それは実現してこそです」
「この大阪進出もそうだね」
「はい。サインをされたことによって」
 それによって決まった。そうなったというのだ。
「決まりました」
「大阪。いい街だね」
「大阪には神戸とはまた違った魅力があります」
「天下の台所。町人の町だね」
 江戸時代に言われた言葉だ。それは大正にも生きているのだ。
「活気があって。賑やかで」
「問題はその大阪人の心を捉えられるかです」
「それをできるには。工夫が必要だね」
「それはまた考えています」
「大阪での工夫は」
「神戸店は神戸店、大阪店は大阪店です」
 それぞれだ。違うというのである。
 
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