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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百七話 自由惑星同盟は総力戦迎撃態勢に移行します。

帝国暦488年2月25日――。


 自由惑星同盟最高評議会議長公邸――。

「そう、ラインハルトはブラウンシュヴァイクを下し、完全に統一を果たしたのね。」
シャロンはアンジェから報告を受けていた。
「はい。もっともまだ一部の残党及び宮廷派は残っていますが、ほぼ完全に掌握したと見ていいと思われます。」
シャロンは内心で指折り数えていた。内戦がおさまり、帝国がこちらに矛先を向ける体制ができるのにざっと1月。こちらに殺到してくるのはそれから1月後。そう考えていくと、早ければ5月初頭には同盟領に帝国軍の姿を見ることになる。

もっとも、とシャロンは思う。あくまでこれはなりふり構わず最短経路で事が進んだ場合だ。何しろ帝国にはイルーナたちがいてラインハルトを輔弼している。こちらの手の内は相手に知れ渡っているとみてよいだろう。存外こちらに手を出さず、静観するという選択肢も持っているかもしれない。

だが――。

「私を甘く見てもらっても困るわね。」
シャロンは微笑した。

相手が出てこないのなら・・・・引きずり出すまで!!!

既にその準備は整っている。帝国が動かないのであれば、仕込んだ爆弾を起動させるだけだ。
ラインハルトの性格をよく承知しているシャロンは、その狙いをイルーナではなく、ラインハルトに絞ったのである。彼が攻めてくればそれでよし、攻めてこないのならば・・・・彼の大切なものを葬り去るまでの事。彼の理性を奪わせるほどの大切なものを・・・・!!
「軍拡の状況は?」
「はい。今年の春には30個艦隊、全て動員可能な状態になるほか、急ピッチで進んだアーレ・ハイネセン級要塞2番基グエン・キム・ホア、そして3番基リン・パオが完成予定です。さらに例の『箱舟』の開発も順調に進んでいます。」
「よろしい。では、春をもってイーリス作戦の開幕式と行きましょう。」
シャロンは戦略を既に練りつくしていた。今回の場合、ただ相手を撃滅するだけが目的ではない。徹底的に恐怖を味あわせ、絶望を食らわせ、弱り切ったところをじわじわとなぶり殺しにしてやらなくては気が済まない。

それも・・・・希望の絶頂から絶望に叩き落さなくてはならないのだ。その希望が大きければ大きいほど、絶望も大きいものとなるだろう。

だからこそ――。

ククク・・・・。

シャロンの口からこらえきれない喜びの声が漏れた。


この頃――。
ヤン・ウェンリーは元帥に特進した。式典が嫌いなヤンには試練そのものであったし、シャロン・イーリス自身が賓客としてヤンの元帥式典に出席するという皮肉そのものの出来事もあったが、彼はどうにかこれをこらえた。
ヤンは首都星ハイネセンの郊外に彼の司令部を移すこととなった。ヤンにあたえられた戦力は15個艦隊、総数217500隻、直属の陸戦隊、地上部隊、後方支援までを含めると兵員数2億人の一大戦力である。
以下、艦隊名前と司令官を記載する。

第二艦隊  クブルスリー大将
第三艦隊  エレナ・マーズヴェルト中将
第五艦隊  アレクサンドル・ビュコック大将
第七艦隊  アントン・ピエット中将
第十艦隊  ウランフ大将
第十一艦隊 ルグランジュ中将
第十四艦隊 リュン・シアン中将
第十六艦隊 ティファニー・アーセルノ中将(代行ノヴァレット・リシュリュー中将)
第十七艦隊 (ヤン直卒)司令官 ダスティ・アッテンボロー中将
第二十艦隊  ケイト・ウィンスレット中将
第二十二艦隊 イアン・レメリック中将
第二十四艦隊 カーチス・ザンプトン中将
第二十五艦隊 レイナ・アリマ中将
第二十七艦隊 オーシ・ヴォディバック中将
第三十艦隊  コーデリア・シンフォニー中将

故意かそれとも過失かわからないが、シャロンは原作においてビュコック、ウランフと言った有能な提督をヤンの指揮下に置いたのである。他の新鋭艦隊の司令官はすべて新進気鋭の提督であって、まだ30歳にも達していない人間が多かった。
こんな大所帯の人数を統括するにはとてもヤン一人の手には負えない。おまけに大半はシャロンの洗脳を受けている(とヤンは見ている)人間であって、並大抵のコントロールでは制御できない。彼らの基準はすべて「シャロンの為になるかどうか」であった。その点においては、シャロンは原作ヤン艦隊の幕僚を残らず彼の下に付け、なおかつ自分の手駒を副官として送り込んだのである。ヤンとしてはそれを受け入れるほかなかった。

これだけに膨れ上がった集団について、一つの呼称が必要だった。ヤンの担当する軍はイゼルローン方面総軍と呼称されることとなり、もう一つの同規模の軍はフェザーン方面総軍と呼称されることとなる。表向きそれをシドニー・シトレ宇宙艦隊司令長官が総軍総司令官として統一することとなったが、それは名目上のことであって、やがてその権限は各総軍に事実上移管されることとなることは明白だった。
もう一つの総軍の指揮はシャロンの腹心で転生者であるアンジェ・ランシールがとることとなる。カトレーナは情報面とプロパガンダ操作でシャロンを支え、特命を受けているティファニーは第十六艦隊司令官として引き続き勤務し、代行を立てているとはいえ、一応はヤンの配下になることとなった。

 その過程で、カロリーネ皇女殿下、アルフレートにとって悲痛な出来事が起こった。ファーレンハイト、シュタインメッツがそれぞれ一個艦隊の司令官に任命され、彼女たちの元から引き離され、アンジェの指揮下に移ることとなったのである。
 ファーレンハイトは第二十八艦隊を、シュタインメッツは第二十九艦隊を、それぞれ指揮することとなったが、シャロンはこれに彼らの名前を冠した艦隊を割り当てたのだった。

* * * * *
ハイネセン郊外にある彼らの住居に久方ぶりに4人がそろった。その目的は皮肉なことにファーレンハイト、シュタインメッツの別離の送迎会である。
「ファーレンハイト、シュタインメッツ・・・・。」
カロリーネ皇女殿下が切なげに二人を見つめる。
「お案じなさいますな、小官らがむざむざやられるとお思いですか?」
ファーレンハイトがほんの少し精悍さを伴った微笑を二人に振り向けた。
「帝国軍との戦いだけじゃないのよ。中からも外からも・・・・気を付けなくちゃならない相手は沢山いるでしょう?」
既に侍女、従僕たちもシャロンの魔手に侵されているらしく、シャロン賛美を唱えてやまないので、名前を言う事は憚られた。
「承知しております。ですが、いついかなる時であろうとも、我々の忠誠はお二人にあり、我々の心はお二人と共にある、そのことをどうかお忘れなく。」
部屋に沈黙が満ちた。その沈黙は誰もが破ることを恐れているかのごとく、重々しいものだった。ふと、アルフレートは気が付いた。カロリーネ皇女殿下の背中が、腕が、手が、震えている・・・・。
「でも・・・・・!!」
かすれた声がカロリーネ皇女殿下の背中から聞こえた。
「でも・・・!!あなたたちは独り、たった独りなのよ・・・・!!」
ファーレンハイト、シュタインメッツを前にして、カロリーネ皇女殿下が切なげに、苦しげに声を震わせている。
「周りはすべて彼女の息のかかった人間・・・!!そんな中でたった独り大艦隊を指揮するなんて、私には考えただけで耐えられない!!独りでなんて・・・!!ザンデルスも、セルベルも、そばにいないのに・・・・!!」
「殿下!!!」
アルフレートが叫んだが、もう手遅れだった。
「ザンデルス?」
「セルベル?」
ファーレンハイト、シュタインメッツは訝しげにカロリーネ皇女殿下を見つめる。カロリーネ皇女殿下の眼が大きく見開かれ、ついで後ろに立っているアルフレートを向いた。と息と共に前髪がかぶさって彼女の眼を隠した。
「・・・・あなたたちの側に、居るべき人・・・・・よ。」
「殿下!!!」
アルフレートが叫んだが、カロリーネ皇女殿下の耳に届いていないことを彼自身よくわかっていた。

もう、限界なのだ。本来帝国の陣営にいるべき提督を自分たちのせいで自由惑星同盟に連れて行き、そして今、その自分たちからも引き離され、シャロンの手駒にされようとしている。

「ファーレンハイト、シュタインメッツ。」
カロリーネ皇女殿下が両ひざを地面に落とし、崩れ落ちた。
「・・・・ごめんなさい・・・・!!」
かすかな嗚咽と共に引き裂かれるような声が彼らの耳を打った。
(どうしてだ・・・・!!)
アルフレートは一瞬以前のカロリーネ皇女殿下が羨ましく思えた。あの時は「怖いもの知らず」気味であったが、それでも覇気にとんでいた彼女が、今や見る影もなく憔悴しきっている。本当ならば、あるいは、未来の一つとして、ラインハルトと手を組んで帝国を統一し、そして自由惑星同盟を征討して銀河を一つにできたかもしれないこの人が、何故・・・・?
(呪いなのか・・・・。)
思わずそう思ってしまったことをアルフレートは首を振って払い落とし、目の前の皇女殿下を助け起こそうと手を差し伸べた。


* * * * *
自由惑星同盟が総力戦迎撃態勢発令により、全土に臨戦態勢が構築されるのは、それから間もなくのこととなる。

シャロン賛美を唱える声が声高に叫ばれ、戦争の準備が着実に整っているさ中、ヤン・ウェンリーの姿をマーチ・ラビットの個室に見出すことができる。むろん彼は独りではなかった。
「自由惑星同盟がシャロン・イーリスの支配下に入ったことは、規定事実です。」
相手はキャゼルヌ、そしてシトレ元帥だった。ヤン・ウェンリーの元帥昇格に伴い、トップであるシトレは先任元帥として宇宙艦隊司令長官兼統合作戦本部長の地位についていた。もっとも宇宙艦隊司令長官の地位は今やイゼルローン方面総軍、フェザーン方面総軍の二つに分かれてしまった集団に実権を握られて、空虚と化していたが。
「このままでは自由惑星同盟は第二のルドルフ、いや、それ以上と化したシャロンの支配下に陥ってしまいます。」
「もはや次々と将官も彼女の配下に成り下がってしまった。自由惑星同盟において正気を保ちうる人間は数えるほどしか残っていない。それが、耐性というものなのか、はたまたそれすらも彼女の手に踊らされている物か、私は判断がつかないのだよ。」
シトレ元帥が嘆息する。
「元帥の御憂慮ももっともです。・・・・・白状しますが、私自身もシャロンに協力するように頼まれましたよ。」
「何!?」
二人がヤンを凝視する。
「では、ここでこうしていることそのものがまずいというわけか?」
ティーカップを取り上げながら、キャゼルヌ少将が尋ねる。
「いえ、それは違います。正確に言えば、シャロンは見抜いていますよ。私たちが心底から心服していないことは。ですが彼女にとってはそのような事はどうでもよい事なのです。彼女の関心事は私たちが結果を出すことにあるのですから。そこが付け目ではないでしょうか。」
『付け目?』
二人の問いかけにヤンは瞑目していたが、やがて決心したように口を開いた。
「自由惑星同盟を解放するために・・・・帝国と手を組むと申し上げれば、お二人はどう思いますか?」
カップが勢いよく受け皿に戻された。ヤンは二人の反応からその衝撃が小さくないことを容易に悟ることができた。
「お二人のお考えはもっともです。ですが、今の自由惑星同盟は民主主義国家ではない。表面上はそうですが、既に個人の所有物に成り下がってしまったのです。であれば、私たちの役目はその現状を回復すること。そのためには、利用できるものは利用しないといけませんからね。」
「だが・・・・仮に帝国に連絡を取るとして、一体誰にするのかね?」
シトレ元帥が尋ねる。
「心当たりはあります。ですが問題は『誰に』ではなく『どうやって』というところにあります。」
ヤンが紅茶のカップをスプーンではじきながら言う。そのたびにカップに波紋が広がり、覗き込む彼の顔を揺らした。
「今私たちが不審な動きを見せたところで、彼女は敢えて何もしないでしょうが、私たちが一線を越えた瞬間、躊躇いなく周りの人間は私たちに襲い掛かってくるでしょう。」
それをどうするか、とヤンはつぶやいた。隙はある。だが、それは彼女も想定しているものだ。問題は、彼女が想定していない隙を見出し、そしてどのようにしてそれを広げるかだ。

たとえそれがどんなに小さい隙であっても――。
 
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