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オズのトト

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第九幕その十

「桜はあるの」
「植えたんだ」
「そうなの、本当にね」 
 笑顔で言った恵梨香でした。
「桜がないと春じゃないから」
「日本人の感覚だと」
「一年もはじまらない」
「そう思ってなんだ」
「桜はあるの」
「それで春にはだね」
「沖縄にも咲くの。ただ暑いから」
 それでというのです。
「一番最初に咲くの。それで沖縄から北に上がっていくの」
「桜が咲いていくんだ」
「それで最後は北海道なの」
「一番寒いからだね」
「最後に咲くのよ」
「そうなっているんだ」
「それがテレビでも言われるの」
 放送されるというのです。
「それがないとね」
「日本では春じゃないんだ」
「そうなの。面白いでしょ」
「確かにね。というか桜がないと」
「日本人はね」
 恵梨香はトトに答えました。
「そんな気がしないの」
「どうしてもだね」
「春って気がしないのよ」
「つまり桜を見て春と思うのが日本人かな」
「そう思ってくれてもいいわ」
「だから沖縄も日本なんだね」
 トトはこう考えました。
「つまりは」
「そうなるわね」
「成程ね。桜は欠かせないお花なんだ」
「沖縄にもあって」
「この山にもあるし」
 丁度目の前にありました、それも沢山。
「ハブ君やヒャン君も見て楽しんでいるんだろうね」
「そうでしょうね」
「恵梨香も好きだよね」
「お花で一番好きよ」
 にこりと笑ってです、恵梨香はトトに答えました。
「何といってもね」
「やっぱりね」
「毎年春に見るのが楽しみよ」
「そこまで好きなんだ」
「ずっと見ていたいけれど」
 一年中というのです。
「それでも春の一時にしか見られない」
「そこに風情があるかな」
「そうかも知れないわね」
「そうも思うんだ」
「そうだけれど」
「そこは難しいね」
 トトは恵梨香の右隣を歩きつつ応えました、トトの右隣にはいつも通りドロシーがいます。
「一年中見たい、けれど」
「一時しか見られないからね」
「風情もあるね」
「そうよね」
「そこは本当に難しいね」
「一番好きなお花だからずっと見たいの」
 この気持ちは強いです、確かに。
「けれどね」
「そう思うのと一緒に」
「一時だけ見られるからね」
「風情もあるんだね」
「そうも思うから不思議だわ、他のお花にはこんなこと想わないのに」
 それでもというのです。
「桜にはそうなの」
「それだけ思い入れがあるということね」
 ドロシーが言ってきました。
「恵梨香は」
「桜にですね」
「何も思わないお花はね」
 それならというのです。
「そこまであれこれ思わないでしょ」
「そうなりますね」
「本当に好きだからよ」
「ずっと見てみたいと思いながら」
「一時でもとね」
「特に好きなお花でないなら」
「そこまで想わないわよ」 
 こう恵梨香にお話します。
「私だってそうだし。ただ人だと違うわね」
「はい、ずっと一緒にいたいって思いますね」
「そこは違うわね」
 お花とはというのです。 
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