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儚き想い、されど永遠の想い

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392部分:第三十話 運命の一年その十二


第三十話 運命の一年その十二

「では屋敷に。いえ途中で」
「帰る途中に」
「はい、梅が美味しいお店があります」
「お店がですか」
「そこに行かれますか?」
「梅といいますと」
 真理は梅と聞いてだ。あの赤いものを思い出してそれを言葉に出した。
「梅干しでしょうか」
「いえ、お菓子です」
「梅のお菓子ですか」
「はい、お菓子です」
 その店だというのだ。
「それに梅茶です」
「梅のお茶ですか」
「梅はお茶にも使えます」
「それは知っていて。私も好きですが」
「ならおわかりですね。梅はああして漬けたものばかりではありません」
 梅干しだけではないというのだ。
「ですから」
「では梅のお菓子に梅茶に」
「それを味わいに行きましょう」
「梅雨だからですね」
「その通りです。では」
「わかりました」
 こう話してだった。二人は寺を、紫陽花を後にしてだ。二人でその店に行き梅も楽しんだのだった。それが梅雨でだ。その梅雨も終わりだ。
 初夏の朝にだ。真理は屋敷の庭にいた。傍には車の中にいる義幸がいる。
 その我が子にだ。笑顔でこう言っていた。
「これが朝顔よ」
 蔦が壁に絡みだ。そこにだった。
 朝顔の花達が咲いていた。青に紫、淡い赤と様々な色だ。その朝顔達を我が子に見せていたのだ。
 そこにだ。義正も来た。それで妻と我が子に声をかけた。
「早いですね」
「はい、近頃はいつも」
「朝早く起きられてですか」
「こうしていつも見ています」
 優しい目でだ。朝顔達を見ながら話すのだった。
「この花達を」
「そうですか。私は近頃」
「朝早くですね」
「はい、仕事に出ていますから」
 今日は休日だ。それで今こうして花を見られたのだ。
「そうしてです」
「朝顔は御覧になれなかったのですね」
「そうですね。こうして庭に咲いているのは知っていましたが」
「それでもですか」
「はい、見ることは久しくなかったです」
 そうだったというのだ。
「とてもです。ですが」
「それでもですね」
「こうして見ていますと」
 妻、そして我が子と見ると余計にだった。このことは言葉には出してはいないがだ。
「不思議な気持ちになりますね。
「不思議なですか」
「はい、なります」
 ここでも優しい顔でだ、真理と義幸に話すのだった。
「朝に咲いて。遅くなるとしぼんでしまう」
「朝顔はそうした花ですね」
「子供の頃。遅く起きるともうしぼんでいましたので」 
 義正は幼い頃のことを思い出していた。その既にしぼんでしまいだ。自分に何か怒っている様なそうした朝顔の花を瞼に見ながらだ。
「いけずな花とも思っていました」
「どうせならずっと咲いて欲しいとですね」
「一日中咲いて欲しいと思っていました」
 朝顔に対してそう思ったというのだ。
「本当にです。ただ」
「ただ?」
「今こうして見ていると」 
 どうかとだ。義正は話していく。
 
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