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儚き想い、されど永遠の想い

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382部分:第三十話 運命の一年その二


第三十話 運命の一年その二

「私もそうです」
「父親ですね」
「私はずっと。この子の父親です」 
 我が子を見てだ。言っていくのだった。
「そのことは変わりませんから」
「この子も憶えてくれているのですね」
「この子に教えていきます」
 真理、もうすぐこの世を去る母親である彼女のことをだというのだ。
「そうしていきますので」
「そうですか」
「はい、ですから今はです」
「こうして三人で」
「歩いていきましょう」
 真理に対して話す。そしてそのまま。
 静かに若葉の道を歩く。その中でだった。
 二人の左手の土手にだ。蒲公英が見えた。その黄色い蒲公英にだ。
 白い蝶が止まっている。その蝶を、そして蒲公英を見て真理が言った。
「これもまた春ですね」
「はい。春です」
 義正もだ。蒲公英と蝶を見て目を細めさせて言う。
「春になりそうして」
「出て来ていますね」
「確かにです」
 出ているというのだ。その春が。
「次第に暖かくもなってきていますし」
「そういえば桜が咲いていた頃よりも」
「暖かいですね」
「少しずつそうなってきていますね」
「春が深くなってきているのですね」
 真理はその暖かさを春の深みと捉えて述べた。
「そうなってきているのですね」
「やがて。皐が咲きます」
 今度はそれだった。
「それも見ましょう」
「そして皐も」
「当然三人で、です」
 二人の子供のだ。義幸も入れてだというのだ。
「そうしましょう」
「三人でなければですね」
「意味がありません」
 義幸を連れて行けるのなら。それならだというのだ。
「ですから」
「そうですね。三人でなければ」
「何の意味もありません」
 義正は確かにだ。前を見て言う。
「そうでなければ本当に」
「そして皐も」
「皐も。それからも」
「他の花ですか」
「見ていきましょう」
 義正は前を見ていた。そうしての言葉だった。
「三人で」
「わかりました。それなら」
 こう話してだった。彼等はだ。若葉と蒲公英、そして蝶と川の中を歩いていた。
 そして五月になりだ。実際にだ。
 皐を見た。皐は鮮やかな赤もあれば淡い白と中間の赤もあり当然白もだる。そうした様々な色の花が緑の中にある。それを見てだ。
 真理は背負っている我が子に言うのだった。
「見えてるの?」
 だが子供はまだ喋れない。しかも寝ている。だがその我が子を見てだ。
 義正がだ。真理に笑顔でだ。ここでも笑顔で言うのだった。
「見えていますよ」
「心で、ですね」
「そして聞こえています」
「私の言葉も」
「はい、そうです」
 そうだというのだ。
「ですから安心して下さい」
「そうですね。大丈夫ですね」
「まだ目も耳も確かではないですが」
「心には」
「あります」
 だからだというのだ。
「安心して下さい」
「そうですね。ではこの子は今」
「皐を見ています」
 三人の前で咲き誇っているだ。その皐達をだというのだ。
 
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