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儚き想い、されど永遠の想い

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339部分:第二十六話 育っていくものその五


第二十六話 育っていくものその五

「そのことを憂うこともないのでしょう」
「汚れたものや醜いものがあったとしても」
「そう思います。あの百合と池を見て奇麗だと思いますね」
「はい」
 こくりと頷いて。真理は答えた。
「そう思います」
「ならそれでいいのです」
「いいのですね。それで」
「自然にそう思う。それだけで」
「では今は」
「二人で見ましょう」
 見たままでの。そのうえでの言葉だった。
「この百合と池を」
「庭の中で」
「緑と白、そして青は」
 全て庭の中にある。その中において。
 義正は先の二つの色に加えて。この色も述べた。
 その三つの色についてだ。真理は話した。
「人の心を癒してくれます」
「そうした色ですね」
「よく二人で見てきましたね」
 義正はまた言った。
「空でも森でも海でも」
「神戸には。いえ私達の周りには」
「いつもこの三つの色があります」
 白、青、そして緑が。
「いつも全てなくともそのうちの一つは必ずあります」
「有り難いことに」
「ではその中で生きましょう」
 微笑んでだ。そうしてだった。
 二人でだ。その中にいたのだった。
 その中でだ。次第にだ。
 真理の中にある命は成長していく。日に日に大きくなり。
 かなり目立つ様になっていた。婆やはその彼女を見て。
 目を細めさせ。こう言ったのだった。
「幸せですね」
「はい、今とても」
「これは人の最高の喜びの一つですから」
「人のですか」
「愛する人との命が育っていくことを感じていく」
 そのことがだというのだ。
「それは最高の幸せなのです」
「だからですか」
「はい、幸せです」
 これが真理への。婆やの言葉だった。
「お嬢様は今その中におられるのです」
「そうですね。私は」
「御自身でもそう思われますね」
「幸せです」
 何の歪みもない、そうした笑みでの言葉だった。
「私は今本当に」
「そう言えることもまた、ですね」
「幸せです」
 婆やに言った。また。
「本当に」
「では最後の最後までです」
「幸せのままでいる」
「そうして下さい」
 これは婆やの言いたいことだった。
「是非」
「わかりました。それでは」
「はい、それでは」
 婆やとも心を交えさせる。真理の心は確かに固められていっていた。しかしだ。
 義正と二人だけにいる時にだ。こんなことを言ったのだ。
 庭を窓から見てお茶を飲みながらだ。夫に対して問うた。
「あの」
「何でしょうか」
「若しもですが」
 おずおずとだ。一呼吸置いてから尋ねる。
「私の病が進んで」
「そうしてですか」
「私のお腹の中にもでしょうか」
 こうだ。その大きくなった腹を見て言うのだった。それは前よりも大きくなっていた。まさに日に日にだ。育ってきているのがわかるものだった。
 
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