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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか

作者:海戦型
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続、お蔵入りネタ集

 アズの力、説明漏れ一覧

断罪之鎌(ネフェシュガズラ)
 死を司る存在、死神の象徴としての鎌。鎌に刈られれば魂を失うという共通イメージが強く反映された結果、「魂の切断」という概念を得た。いつだか話した通り、これは型月の「直死」に近いレベルの力で、魂の欠損は「魂の再構成」といった出鱈目な力でもない限り永遠に修復されない。
 また、切れ味は絶対で放たれれば防御不可能。これは「死は不可避である」というイメージが具現化したものであるため、避ける以外のあらゆる選択肢が意味をなさない。

選定之鎖(ベヒガーレトゥカー)
 死へ至る因果、罪の象徴としての鎖。罪は人を追い、どこかで必ず追いつくという逃れ得ないイメージが強く反映された結果、「捕縛」の概念を得た。ただし、完全な不可避ではない為に断罪之鎌と違って絶対の力はない。また、鎖自体が何かと何かを繋げるものであるため、あらゆる存在と接続、追跡が可能。どこまでも追いかける反面ですべての罪が絶対ではない事の示唆にもなっている。

徹魂弾(アーカードゥーシャ)
 死を拡散する力、殺人の象徴としての銃と弾。人は銃で撃たれれば死ぬという安易で現代的な死のイメージが強く反映されている。避けられないというイメージによって断罪之鎌より回避が困難になっているが、その威力という点では劣る。弾丸が命中すると相手と消滅するという「手加減が出来ない」力でもあり、安易な殺害手段は力としては使いづらいという現実的で融通の利かない力。

贖罪十字(グラーエイツ)
 死を前にはすべてが無意味である、というアズの個人的な人生観の具現化としての十字架。本編で説明した通り、十字架に触れたものの概念的な「意味」を無とする。また、背負うことと捨てることと壊れることの意味は以下の通り。

 十字架を背負う=あちら側の存在でありながら、オラリオ側の存在になるという矛盾を抱えて生きる事。イコール、現在のアズの延長。今のままであることが良いことかどうか、それは誰にも分からない。

 十字架を捨てる=あち側の世界と完全に決別し、矛盾なくオラリオ、或いはあちらの側の存在になる事。『死望忌願』の力は永遠に失われるが、世界の在処を正しく認識した個人に戻れる。ある意味精神的には最も割り切った答え。

 十字架が壊れる=

 最悪の結末。世界の穴を塞ぐ存在であるアズが「全てを投げ出して死の悦楽に沈む」、つまりすべてを投げ出して死ぬことによって成る。これはアズが無意識に抑えつけていた死を望む思いが世界の穴から完全に開放され、あちら側の死がこちら側の死に雪崩れ込むという「危険な存在でありながら責任を放棄」した結果として現れる。
 オラリオ含むこちら側の世界全ての生きとし生ける者すべてが死こそ永遠の消滅であり、逃れるすべがないことを知る。これによって大多数の神が発狂し、大多数の人々がそのイメージに耐えられず精神崩壊し、人類も神も集団自殺や殺人へと走る。雰囲気的にはイデエンド、或いは人類補完計画発動エンド。
 ちなみにこのエンディングに到達する可能性をオーネストは知っていて、当然の如く発狂しない。

 このエンディングの最後は、フレイヤが発狂してオッタル以下ファミリアに人類の皆殺しを命じたり、ロキが「永遠から解放される」とアズに感謝したりと街が混沌の坩堝と化す中、狂気と自棄でオーネストを殺そうとした人々を皆殺しにした死体の山に腰かけたオーネストが空を仰ぎ、「アズ、お前本当にこれで良かったのか……?」と言い残すことで終了する。
 ちなみに皆殺しエンドではなく、それでも生きる希望がある人々が集ってダンまち世界は新たな生死観で文明のやり直しをすることになる。ちなみに魔物はすべて例外なく自傷で死ぬ。


(7.5) 最終決戦前の小話

 アズが本編内でオーネストと別れるような不吉な予感を感じていたのを覚えてますか。実はその思いは本来黒竜との戦いの後にさらに強まっていくことになっていて、黒竜戦以降のアズはまるで自殺前の身辺整理のようにオラリオのあちこちに行ったり普段それほど話さない人と小難しい話をしたり、知り合いを全員呼んで記念撮影したりとします。
 が、今まで以上にのんびりしてるようにしか見えなかったため、オーネスト以外はその事に疑問を覚えることはない……ってな感じに描写するつもりでした。


⑧最終決戦構想

 人類滅亡計画の最期の詰めとしてアズの力と「こちら側とあちら側の隙間」を欲してアフラ・マズダはアズの拉致を決行します。

 で、ここから重要なのですが、実は本来の構想では黒竜との最終決戦ではオーネストは自分がアキレウスであることを認めるには至らず、黒竜と全力で殴り合った末の引き分けで終わる感じになっていました。その後黒竜が人化するのも魔王の話の後の事で、「/ /(超えてはいけないライン)」も超えてない状態でアズと一緒に襲撃を受けます。

 精神的に脆い部分を補いきれなかったオーネストはアフラ・マズタのリミッターが外れたファミリアの圧倒的な力を前にアズを援護する余裕がなくなり、アズも魂の摩耗という欠点を突かれてとうとう力尽き、拉致されてしまいます。この戦いにはゴースト・ファミリアのメンバーとしてココとヴェルトールが参加していましたが、ココは剣が折られて敗北し、ヴェルトールは瀕死の重傷を負い、他の面子が駆けつけた頃には傷だらけで慟哭するオーネストしか残っていないという有様でした。

 この後オーネストは黒竜後編の精神暴走状態と同じような精神に陥り、アフラ・マズタの軍勢に一人で立ち向かって果てようとします。これはオーネストの「何もうまくいかない人生」という人生観にとうとうアズも呑まれ、箍が外れてしまったという感じです。

 しかし、これにメリージアが「こっちはまだ希望が残ってるのに、一番諦めの悪いオーネスト様が先に諦めてんじゃねえッ!」とビンタ。オーネストにぞっこんなリージュも「不幸になる事と不幸を気取る事は違う。今のアキくんは手に届くものを勝手に届かないと思って不貞腐れてるだけだよ」と敢えて突き放すような言葉を送ります。
 アズ一人いないだけでオーネストというペルソナが崩れていく中、最後にオーネストを止めたのはティオナ。ティオナはオーネストが嫌いでしたが、嫌いな本当の理由は「オーネストは戦いが泣くほど嫌いなのに戦っているのが嫌だった」からだと告白し、今のオーネストを見て「オーネストは本当はアズを助けたい筈なのに、それから目を逸らして戦おうとしている。望まない戦いならもう戦うな」と彼を引き留めます。ティオナとしては、「これ以上オーネストが戦って負ければ、今度こそオーネストは二度と立ち直れなくなってしまう」という純粋な心配だったのですが、ここでオーネストはついに自分と向き合います。

 不幸だとか手が届かないとか、関係ない。
 オーネストはアズを助けたい。手遅れであったとしても、それは本心だ。
 だから、オーネストは誰の為でもない、自分が「得る」為の戦いをしようと決心、覚醒します。

 ちなみにこれのせいでティオナがオーネストを嫌いな理由がなくなってしまって二人の仲が急速に縮まったりするのですが、それはさておき覚醒オーネストは自分が元テティス・ファミリア団長の遺児であることを大々的に公開し、アフラ・マズタが神類滅亡の初めとして間違いなくオラリオを潰しに来る事を断言します。そして、それを迎え撃って望む未来を掴みたいなら、全員で戦えと演説します。
 ゴースト・ファミリア、ロキ・ファミリア、イシュタル・ファミリア、ヘスティア・ファミリア、ヘファイストス・ファミリア、ガネーシャ・ファミリア、そしてフレイヤ・ファミリアは即答でオーネストの下に集い、それに感化された他の全てのファミリアがアフラ・マズダ迎撃の為に一丸となります。

 その後は戦いの前準備にオラリオは湧きます。その陰で情報屋ラッターはオーネストの為にアフラ・マズダの本拠地を探りますが、深入りしすぎて殺されてしまいます。しかしアズが作った彼の義指に情報の欠片が隠されており、これを見つけたオーネストがガンダールと共にオラリオ内の「掃除」を行ってとうとう本拠地が判明します。

 余談ですが、ラッターは途中でこれ以上深入りすれば死ぬだろうという確信がありながら、それでも追いました。
 ラッターは、誰も必要とせず誰も信じないにも関わらずその周囲に人が集まるオーネストに対する憧憬を抱いていました。ラッターも同じ生き方をしたのに、彼にとってはオーネストのそれは輝いて見えたのです。そして惨めな人生を送っていた自分も、オーネストの近くにいて、オーネストに覚えていてもらえれば、その一度の光さえあれば惨めな過去を忘れて死ねる。もう悔いはないと考えていました。
 ラッターはオーネストに丁重に葬られ、立派な墓を建てられました。

 以下、ちょっと気分が高揚してきたので書いてみる。



「――重要な報告が、いくつかある。傾聴してくれ」

 重苦しい声が館の広間に響く。普段は碌に使われない大きなテーブルや椅子を運び出して臨時会議室と化したそこには、オーネストに近しい人間や主要なファミリアの主神や団長クラスの人間が集まっている。その全員の視線がアキレウス――もとい、オーネストに注がれる。

「まず、俺にとっての懸念事項……アズライ―ル・チェンバレットの生死だ」
「オーネスト様!アズ様は………!!」

 メリージアが震える声で、縋るようにオーネストを見つめる。彼女の両手はリリとマリネッタの小さな手と繋がれ、マリネッタは今にも泣きだしそうだ。リリも懸命に平静を装ってはいるが、足が微かに震えている。
 リリはアズがいなくなった後、オーネストに自分を鍛えるよう土下座して頼み込んだ。それに対するオーネストの返答は、「この短期間で実力をつけるなら、お前の魔法を伸ばすしかない」というものだった。変身魔法シンダー・エラ――その根幹や本当の使い道までを叩きこまれた今のリリはレベル3程度のモンスターの技を全て扱えるという異質な成長を遂げた。それでもなお、彼女の内心は「こんな努力をしてもアズが死んでいたら意味がない」という不安との戦いの連続だった。
 ここでアズが手遅れであれば、もうリリは折れるだろう。だからこそ、アズの悪運を信じて彼女は気丈にもオーネストの言葉を待った。

「単刀直入に言うと、生きている。どんな状態でかは知らんが、少なくとも連中はアズを死なせていない――より正確には、アフラ・マズダの計画を成就させるために『死なせてはならない』」
「ちっ」
「舌打ちは止めなさいフレイヤ、みっともないったらありゃしない」
「うっさいわね殺すわよイシュタル。で?あの黒コートカサカサ野郎を死なせてはならないって何?」
「あいつはアズを中継点に、『あちら側』から力を得るつもりだ。いくら奴が神であっても所詮は数多いる神の一人……全神の滅亡を図るためには別ベクトルの、それこそデストルドウに匹敵する力が必要だった、んだが………」
 
 オーネストはゆっくりと周囲を見渡す。ぶっちゃけ神以外全員が話についてこられていない。というかアズの無事を知って安堵しすぎて何人か既に話を聞いていなかった。後者は見逃してやるとして前者を放っておく訳にもいかない。

「簡単に言うと、アズを生贄に儀式をしてパワーアップ中という訳だ」
「それは……もしかして殺生石の儀式のような?」

 イシュタルがぽつりとつぶやき、春姫の尻尾がびくりと震える。殺生石の儀式は、その詳細を当事者以外は誰も知らないが、生贄と儀式、そして名前の不吉さから幾人かはその言葉の意味を察する。オーネストはそれに少し考え、首を横に振る。

「同じなのは力を得るという点だけだ。仕組みとしては全くの別だな。殺生石は魂を石に押し込め、その石を分割して周囲に渡すことでパワーアップするもんだが、アフラ・マズダのそれはアズを起点に別の場所から力や法則を引きずり出すものだ。殺生石の儀式が狐人の犠牲なしに成立させられないのと違い、アズのそれはアズが生きていなければ絶対に成立しない。逆説的に、連中はアズに死んでもらっちゃ困るという事だ。無論無事とはいくまいが、奴は絶対に生きている」
「つまり?」
「敵の大将はオーネストから力を頂いてるんだから、アズを確保できれば人質救出に加えて敵の戦力ダウンにもなるってことだ」

 少なくともここで、アズ救出という明確な目標と正当性が周囲に認識された。

「だがよぉ、オーネスト。あの鎖野郎が生きてるのはまぁいいとして、ソイツがどこにいるのかが分かんねぇと計画は元の木阿弥だ。場所は知れてんのか?」

 壁に背を預けていたベートがゆっくり目を開いて問う。返答は早かった。

「場所は知れた。俺たちオラリオの人間や神に感知されず、なおかつオラリオを滅ぼすのに都合のいい、謎の本拠地の場所がな」
「我々に見つけられないというのは分かる話だが、オラリオを滅ぼすのに都合がいいというのはどういう事だい、オーネスト?敵は近くにいるとでも?」
「いいや、敵は本拠地を船のように動かしているという意味だ。あちらの都合のいい時に現れ、一方的に攻撃できる。なんとも都合のいい本拠地を作ったものだ……場所の説明の前に、連中が神出鬼没だった理由も説明しておくか」

 フィンの疑問に答えるように、オーネストは懐から大きなコインを取り出す。オラリオで一般的に出回る硬貨ではなく、その面には魔法陣のような複雑な彫刻が施されている。少なくともそれにアイテムづくりに造詣の深いヘルメス達が反応した。

「転移術式……か?」
「驚いたな。まさかそれを完成させ、生体テレポートまで成功させ、おまけにそこまで小型化していたなんて………」
「ご名答。神の力も関与してか、連中はそれを魔法具にまで落とし込んでいたらしい。だから連中は本拠地からオラリオまで一瞬でたどり着ける。道中を気にする必要もない。元が神出鬼没だから兵糧攻めも効かないし隠密行動し放題だ」
「インチキだぁ」

 ココのボヤキに周囲も内心で頷く。そんな技術があっては尻尾を掴む方が無理だ。今は亡きラッター・トスカニックの情報屋としての尋常ならざる嗅覚と執念に、面識のある面々は静かに敬意を表した。彼の足掻きで辛うじて繋がった糸を、オーネストたちは歩んでいるのだ。

「そして問題はそのワープ先……それは天界と地上の合間、星に縛られし神々の盲点。そしてフレイヤでさえ容易に気付くことは出来ない分水嶺……」

 一幕置き、オーネストは意を決したように真実を口にした。

「連中がいるのは宇宙だ。魔法で構築した移動要塞を衛星軌道上に乗せて、ずっと俺たちを見下ろしていたのさ」

 対し、周囲の反応は。

「ウチュー?エーセー……キドージョー?」
「それは、馬車で何日掛かる場所なのだ?見下ろしていたという事は標高の高い山の上か?」
「移動要塞ってんなら要塞なんだから元から高いんじゃねーの?」
「馬鹿、そんなバカでかいものが動いてたら否応なしに噂になるわ!」
「オーネスト、案内して。わたしちょっと行って見て確かめてくる」
「…………………」

 オーネストは膝から崩れそうな自分の体をしっかり支えた己の大幹を内心で褒め讃えた。

「あの、ごめんオーネスト。今のは君の説明の仕方が悪かったと思うナ」
「せやな。地上の子供らは宇宙とか衛星とかなんのこっちゃな話やし」
「成程、宇宙とはアフラも考えたものね。それだと高高度からなんでもやり放題、おまけに今の人類は飛翔靴でフラフラ飛ぶのが限度だもの。まさに今の文明では太刀打ちできない最高の移動要塞よ」
「くそっ、こんな時アズなら二の口なく理解したうえで通訳してくれるものを……!!」

 思わぬところで友達の不在が響くオーネストだった。
 その後、様々な試行錯誤の末にオーネストは遂に真実を伝える事を諦め、「ものすごい空の上で天界のギリ下くらいにあるので飛んでいける距離じゃない」とか「上の空は海の中みたいに空気がない」とか必要最低限な情報を微妙な嘘を交えながら説明した。

 ティオナが「泳いでみたい」と言ったので殴った。泳いではいけない理由を説明するのに更に時間を要したのは余談であり、のちにオーネストはこの日を「人生で一番多くの嘘をついた日」と振り返ることになる。





 次回、気分が乗ってまた文章書き始めなければ最終回。 
 

 
後書き
要塞の名前はガガーリン。嘗て、宇宙に神がいると信じた者の幻想を打ち砕いた男の名。命名、オーネスト。

ちなみに宇宙の事を誰もわかってくれないっていうのは私の愛してやまないアニメの一つ、「ガン×ソード」のネタのオマージュです。敵の本拠地を宇宙に設定したときに「やるしかない」と思いました(笑) 
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