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儚き想い、されど永遠の想い

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227部分:第十七話 山でその四


第十七話 山でその四

 そしてだ。婆やはこんなことも話した。
「思えば鰻の肝も」
「同じですね」
「結局は偏見なのですね」
「そうですね。内臓だからといって」
 それで食べないのもまた偏見だというのだ。
 こう話してだ。あらためて及第粥を見てだった。 
 真理にだ。笑顔で話した。
「真理さんはそうした偏見は」
「はい、ありません」
 ないというのだ。
「美味しいものは何でもです」
「召し上がられますか」
「そうしています。毒がなければ」
「実はお嬢様は」
 婆やもだ。ここで話すのだった。
「昔から好き嫌いのない方でして」
「そうだったのですか」
「それはとてもいいことだと思っています」
 その婆やの言葉だ。
「食べるものにそうしたことがないというのは」
「その通りですね」 
 義正も笑顔でそのことは認めて頷く。
「それだけ美味しいものが食べられるのですから」
「その通りですね。では義正様」
「はい」
「これからもです」
「真理さんにですね」
「美味しいものを食べさせて下さい」
 まるで娘のことを話す様な、そうした言葉だった。
「それを御願いします」
「わかりました」
 義正は婆やのその言葉に笑顔で応えた。
「それでは。是非共」
「御願いしますね」
 こうした話をだ。真理の前でしたのだった。その婆やの心遣いもあってか。真理は風邪から回復した。そのうえで二人で六甲に向かうのだった。
 六甲の山の上からだ。町に海を見下ろしてだ。義正は真理に話した。
「いいものですね」
「あれが神戸の町で」
「はい、海です」
 見るのはその二つとだ。空だった。
「こうして見ると神戸の街は狭いですね」
「そうですね。海と山に挟まれて」
 縦の面積は狭いのだ。神戸は横に広い町なのだ。
「とても狭いですね」
「そうですね。それに」
 真理はこんなことも言った。
「この山から風が来て」
「それが神戸の町を涼しくしてくれますね」
「冬は。かなり」
 ここで苦笑いにもなる真理だった。
「寒いのが困りものですけれど」
「はい。それでも」
「神戸は過ごしやすい町ですね」
「いい町です」
 そうだというのだ。神戸は。
 山の頂上から見える町はさながら模型の様だ。その模型の様な町も見てだ。義正は真理に対してだ。こんなことを言うのだった。
「ここから見た神戸は」
「狭いだけではありませんね」
「小さいですね」
「中にいればとても広く感じますけれど」
「ここから見れば」
 実にだ。狭く小さいというのだ。
 
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