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儚き想い、されど永遠の想い

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226部分:第十七話 山でその三


第十七話 山でその三

「脚気ですね」
「そうです。海軍では今は麦ですね」
「麦飯を食べていますね」
「それで脚気をなくしていますね」
 これは事実だ。海軍は脚気に悩まされていた。陸軍もそうであったし日本という国全体がこの脚気に悩まされていた。それに対してだ。
 麦飯を導入してみてそれからだった。脚気がなくなったのだ。婆やはそのことをだ。真理だけでなく義正に対して話をするのだった。
「白米は確かに素晴しいですが」
「それだけではなくですね」
「他の食べ物も」
「そうです。おかずも食べて」
 それに加えてだった。
「麦飯も時々作っています」
「家ではそうなのですか」
「それとパンも」
 同じ麦のだ。それもだというのだ。
「食べています」
「パンもなのですね」
「白米だけでは駄目だと思いまして」
 何につけても脚気に対してだ。それを考えてだった。この時代の日本はとかく脚気という病にまだ悩まされていたのである。それもかなりだ。
「それでなのです」
「白米だけでは駄目ですか」
「偏食になります」
 白米でもだ。そうなると真理に話すのだ。
「ですからお嬢様にもですね」
「子供の頃からパンも食べていますが」
「脚気を避けてのことです」
「だから私は子供の頃から」
「脚気の兆候はありませんでしたね」
「ええ、確かに」
 まさにだ。その通りだった。
「婆やのお陰だったのですね」
「シェフが作ってくれたのです」
 婆やに言われてだ。そうした料理を作っていたのである。彼女がいつも作っているわけではないのだ。やはり料理の専門はシェフなのだ。
 その辺りははっきりしている。婆やもわかっている。だが時々こうしてだ。真理の為に作っているのだ。 
 これを食べてだ。真理はまた言った。
「では。このお粥を」
「はい、及第粥を」
「婆やも。そして」
 義正にも顔を向けてだ。そうして言ったのだった。
「あなたも」
「私もですね」
「はい、召し上がって下さい」
「そうですね。そうさせて下さい」
 義正も微笑んでだ。それで応えた。
「美味しそうですし」
「豚の内臓はです」
 婆やがそのだ。豚の内臓について話した。
「我が国では馴染みはありませんが」
「確か西洋でも食べていますね」
「そう聞いています。確かパイにしているとか」
 ギドニーパイだ。実際に豚の臓物を使ったパイである。義正はそれはまだ食べたことはないがそれでも名前は知っているのである。
 それでだ。彼女は話すのだった。
「それがありますから」
「欧州では内臓も食べます」 
 義正はまた話した。
「動物の肉は食べる場所が色々とあります」
「しかし日本ではまだ」
「内臓は食べませんね」
「そうですね。殆んど」
「思えば勿体無いことです」 
 義正はいささか残念な顔で述べた。
「内臓も食べる場所が多いのですから」
「しかし支那料理ではありますし」
「中華街に行けば食べられますね」
「美味しくて精のつくものが」
 内臓だからといって偏見を持ってはいけないというのだ。
 
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