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儚き想い、されど永遠の想い

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134部分:第十一話 断ち切る剣その八


第十一話 断ち切る剣その八

「完璧な人間というものもおらぬ」
「完璧な人はですか」
「いませんか」
「おらぬ。君達のご両親、そしてそれぞれの家はだ」
 どうなのかをだ。伊上はさらに話した。
「激しく嫌い合いいがみ合っている」
「そのことがですか」
「完璧ではないことなのですね」
 こう話す二人だった。
「私達の家の対立が」
「そのことが」
「人を嫌うことはよくない」
 その前提を話すのだった。
「それはあらゆる憎しみの元となる」
「だからですか」
「それはなのですか」
「人を嫌うのは人として当然の感情でもある」
 伊上はその人生洞察のうえからこうも述べた。
「わしも禅僧ではない。人を嫌いもするが」
「やはりよくはありませんか」
「よくないのう」
 実際にそうだと答える伊上だった。
「どうしてもな」
「そうですか。やはり」
「嫌うのはよくないのですね」
「不公平につながるしのう」
 これは政治家としての観点に基く言葉だった。
「不公平はよくない」
「ですね。そういえば陸軍は」
 義正は伊上が関わってきたその軍のことを話に出した。長州出身の彼は陸軍の重鎮の一人でもあったのだ。階級は大将にまでなっている。
「公平さを重んじますね」
「うむ、重んじている」
 その通りだと答える伊上だった。
「しかし実は完璧ではない」
「そうなのですか?」
「今我が国は台湾と朝鮮半島も領有しておるな」
「はい」
 それはその通りだ。その新たな領地の経営に心血を注いでもいたのだ。
「陸軍がかなり頑張っているとか」
「とりわけ朝鮮半島でな」
「その様ですね」
「それで今現在朝鮮半島出身の者も士官学校に入学させている」
 これはその通りだ。そこから中将にまで昇進した者も出て来る。只の植民地の人間が将官になれるかというとだ。否なのである。
「試験に合格すれば誰でもな」
「正しいことだと思います」
「そう、正しい」
 それはまさにその通りだとだ。伊上も述べる。
 しかしそれと共にだ。彼はこうも言うのだった。
「だが。台湾出身の者はじゃ」
「違うのですか」
「一人も入学させておらん」
 これもまた事実であった。陸軍は色々な理由を述べて台湾出身者を士官学校や各種学校に入学させなかった。そして台湾では徴兵制も行われていない。
「全くじゃ」
「そうだったのですか」
「そこが問題なのじゃ」
 伊上は憂いのある顔で述べる。
「例えば朝鮮半島では徴兵制の対象外じゃが」
「それでも日本にいれば兵隊さんにもなれますね」
「なれる。検査に通ればなれる」
 確かにかなり厳しい検査であった。日本の徴兵制は実質的にはかなり厳格な選抜徴兵制だったのである。
「しかし台湾出身者は検査に通ってもじゃ」
「中々なれないのですか」
「わしの知る限りおらん」
 兵士もなのだった。
 
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