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儚き想い、されど永遠の想い

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130部分:第十一話 断ち切る剣その四


第十一話 断ち切る剣その四

「死装束ではありませんが」
「死装束ですか」
「それではないですか」
「生きる為に、私達二人で生きる為ですから」
 だからだ。死ぬのとは全く違うというのだ。
「生きる為のことですから」
「死装束ではありませんね」
「はい、生きる為に戦場に赴く」
 それならばだ。どうかというのだ。
「今はそうなりますね」
「生きる為に戦場にですか」
「日露戦争です」
 先にあった戦いだ。日本の運命を決めた戦いだ。
「あの戦争で私達の父や兄達は何の為に戦ったのか」
「我が国が生きる為ですね」
「そうです。その為に戦ってくれました」
 そして日本は生き残った。まさにそうした戦争だったのだ。
「ですから。私達も今はです」
「生きる為にですね」
「戦いに向かいましょう」
 こう言うのだった。
「そうしましょう」
「そうですね。そして」
「そして?」
「その為の白ですね」
 真理からの言葉だ。
「私達は無意識のうちに選んだのですね」
「はい、そうなりますね」
「白は不思議な色ですね」
「色は心を表すのでしょう」
 義正はこうも話したのだった。色はまさにそうしたものだとだ。
「ですから」
「私達の今の心は白いのですか」
「一点の曇りもないまでに」
 そうだとだ。義正も言う。
 そしてその白は何かとも話すのだった。
「清らかなものなのでしょう」
「その清らかは誠実なのでしょうか」
「そうなのでしょう。こう言えば自画自賛ですが」」
「それでも。そうなるのですね」
「私達は今全てを見せる為にです」
「伊上先生のところに向かう」
「なら。そこにあるのは誠実となるでしょう」
 それが服に出たというのだ。その彼等が今着ている服にだ。
「私達のものです」
「では私達はそれを以てですね」
「誠意はこの世で最も強いものと言われています」
 義正は澄み切った目でだ。真理に話すのであった。
「それが私達にあると」
「心強いですね」
「はい、非常に」
 義正は笑顔になっていた。自然にだ。
「心強いです」
「ではその心強いものと共にあるなら」
「怯むことはないでしょう」
 それもだ。ないというのだ。
「むしろ怯むものなぞない筈です」
「やましいものがないからこそ」
「そうなることはないのです」
 あくまでだ。真っ直ぐな言葉であった。
「ではそのうえで」
「行きましょう」
「そうしましょう」
 こうしてだった。二人はその洋館に向かった。
 洋館は白い壁に焦茶色の鋭角の屋根を持っている。煉瓦の煙突まである。
 その洋館の門は鉄のだ。薔薇が絡み合った柵だった。それは壁も同じだ。
 その薔薇の壁と門を潜ると左右対称の緑と白の庭園がある。そこを通ってだ。
 二人は洋館の門の前に来た。そして鐘を鳴らすとだ。
 
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