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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第七章 C.D.の計略
  男はネイティブ


患者の名前は、加賀美新。

肋骨三本、左上腕部が骨折。
全身に隈なく打撲痕。
出血多量。

夜遅く。
病院で天道が目にしていたカルテに書かれていたのは、そんな内容だった。


あれから五分後。
ひよりの料理を平らげた天道は、田所からの連絡でガタックの敗北を聞いた。

彼はそれから、デザートを妹二人にふるまい、いつも通りに帰宅。
夜遅くにこうして、病院へと出向いたのだ。



「・・・・何者だ?」

ガタック・・・というより、加賀美をここまでコテンパンにできるとは。
戦闘自体は殆どがクロックアップ状態でのものらしく、現場の人間は何も見ていない。


最後に加賀美と一緒にいた田所によると、加賀美が建物に戻って数秒後に、隣接した同型の建物が爆発したのだそうだ。
それからまた二秒後、もう一度その建物が爆発。気づけば、その傍らに加賀美が血を流して倒れていたのを発見したという。


情報は一つ。
ガタックのマスクから取れた、映像データだ。

そこの、静止した炎の中に立つライダー。
音声はあるものの、ノイズがひどくて聞き取れない。

ただ、その中でこのライダーを表すのであろう単語だけは、かろうじてわかった。


「マンティス」

「そうだ。それが、加賀美を襲ったマスクドライダーの名前だ」

「しかし、マスクドライダー計画の中にそのような名のシステムはありません」

「矢車や影山のは?」

「あれは、ZECTの中でも本当に極秘のプランだったので」


天道が言っているのは、ホッパータイプのマスクドライダー、キックホッパーとパンチホッパーのことだ。

結局のところその出所ははっきりしなかったが、最近になってようやく分かった。
というのも、矢車が蒔風に話したのを、世間話で聞いたのだが。




マスクドライダーシステム。
それは、ワームに命を狙われ逃げてきたネイティブが、いずれ地球へと飛来し共通の敵になるワームを倒すために、人類と共に開発した特殊戦闘システム。

クロックアップやキャストオフの機構は、ワームであるネイティブ由来のものだ。


だが、人類も何から何までネイティブを信じていたわけではない。
彼らの中には、無論このまま地球で生きていければいいという者もいたが――――逆に共存どころか、支配や淘汰を考える過激派もいたのだ。


もしもワームとの戦いが終われば、その過激派が何をしてくるかわからない。
しかし、マスクドライダーシステムは彼らから提供された技術。最終的には奪われるかもしれない。

だからこそ、研究にかなり初期段階からかかわっていた加賀美の父・加賀美陸や、天道の父・日下部総一は、ある仕掛けを施した。


この動きを察知され、日下部総一は妻のさとみとともにネイティブに殺害、擬態されて天道は日下部家から天道家へと養子に出たわけだ。



ともあれ、その二人が仕込んだ策というのが、システムの中で最強を誇るカブトとガタックの資格者に自らの息子を指定したこと。
そして、この二人のライダーに仕組んだ「赤い靴」と呼ばれるシステムだ。


赤い靴。
ネイティブの一部の者達の、地球支配という思惑に感づいた、陸や総一が組み込んだ一手。

システムが変身者の意思に関係なく自動的に行動し、ネイティブを撃破するというものだ。

故に、赤い靴。
それを履いてしまった者は、その意思に関係なく延々と踊り続けることになる。


今となってはカブトもガタックも抑えられているこのシステムだが、一時期はこのシステムのせいで見境なくワーム種族を襲うこともあった。
ホッパータイプは、その「赤い靴計画」とはまた別の対ネイティブ兵器ということで製造されたものだ。

とはいえ矢車や影山を見るに、そのような思惑は知ったことではなかったのだろうが。




「ともあれ、こいつは未知の部分が多すぎる」

「総監(加賀美の父)にもこの話はしたが、覚えはないと返されてしまった」

「そうか・・・・「EARTH」には?」

「連絡はした。だが、あちらからの返答はまだない」

「副局長が、つい今朝方トゥスクル地方へと出ていったという報告はありますが」

「・・・・・・」


病院の、自販機コーナーを携えた待合ホール。
そこで天道、田所、そしてタブレットを持った岬の三人の会話が、蛍光灯の点滅する音だけをBGMに続いていた。



~~~~~


「敵はガタックを狙って現れたものと思わえる。お前も気を付けろよ」

「問題ない。俺は」

「天の道を行き、総てを司る、でしょ?」

「その通りだ」


もう時間は深夜の1時を回った。
如何にZECT所属員、若しくは「EARTH」メンバーであっても、これ以上は病院側に迷惑というもの。

バンに乗って、これから我々も警戒と調査を始めると言って、田所と岬は病院を出ていく。
その後を眺め、夜風に吹かれる天道。


すると、どこへともなく口を開いた。


「それで、俺に何の話だ?」

「―――――さすがだね。天道君」


気づけば、スーツ姿の男性が天道の隣に躍り出てきていた。

歳にして50代後半。
警視総監という顔も持つ、加賀美の父、陸だ。


腰の後ろに手を回し、病院から出てきて天道の隣にやってきた彼は、そのまま足を進めて通り過ぎる。


「コマチグモ、という蜘蛛を、君は知っているかね?・・・・ま、彼は蟷螂だが」

そんな一言と、小さな紙切れを手渡しながら。
コツコツとそのまま歩いていくと、彼の姿は闇夜に消えてしまった。



「コマチグモ・・・・産まれてすぐ、母蜘蛛を喰らう・・・・」

いつもなら解説を挟む陸だが、相手が天道ならばその必要はなしとしたのだろう。
事実、天道はその言葉の意味を正しく理解し、しかしその真意までは読み取れずに紙切れを見る。

書かれていたのは住所だ。
住所だけ。名前も、建物名すらも何もありはしない。横には、506という数字があった。番地ではなさそうだ。



「・・・・・」

それを眺めて、取り出したライターでそれを燃やしてからヘルメットを手にする天道。
駐輪場からカブトエクステンダーを押して正面に来ると、溜息をついて呆れたようにつぶやいた。


「おばあちゃんは言っていた。自分の調子が怪しいと思うから怪我人だ。それもわからないのはバカ者だ、ってな」

「ああ。俺はそんな馬鹿でもいい」

「だろうな」

ふっ、と笑う天道の後ろに、幽霊でも現れたかと思うほどユラリとあらわれたのは、包帯を身体に巻いた加賀美だった。

暗におとなしくしてろよ、と呆れる天道だが、それ以上のことは言わずに「腕は?」とだけ聞く。


「こいつがあるからな。痛みはあるけど、動かせる」

そういってコツンとたたいたのは、腰に巻いたライダーベルト。
確かに、多少なりとも装着者の身体能力を上げるモノではあるが、少しばかし荒療治すぎやしないだろうか?

「この程度で倒れてちゃぁ、戦いの神の名が廃るってもんだ」

「戦いの神(笑)」

「こらお前今何かつけたろ」

「ウンメイノー」

「なんだそれ?ヤメロ!!」


呆れさせられた分は加賀美をいじり、無人走行でやってきたガタックエクステンダーに跨る加賀美。
天道の後について、痛む腕に顔をしかめながら走り出した。

「無茶をするやつだな」

「いざとなったら変身して飛ぶから」

それはそれでどうなのだろうか。


ともあれ、二人はその場所に向かう。
夜明けまでは、まだ長い。



------------------------------------------------------------


翌朝。
時刻にして、午前6:30

ジョギングを始める人々や、早く出勤するお父さんたちは、すでに活動を始めている頃。

もう五月中旬だというのに、今日は吐く息が白いほどに寒い。
昼頃になれば、また気温は上がるそうだが。

こうも急にコロコロと天気や気温が変わるのは、勘弁してもらいたいものだ。


「どうだ、加賀美」

「あっ、天道。お前俺に見張り押し付けて何やってたんだよ」

加賀美がフェンスに身を預けて寄りかかっている屋上。
そこに、缶コーヒーを持って天道がやってきた。

加賀美の言う見張りとは、彼らのビルの道を挟んで反対側にあるマンションのことを言っている。
紙切れに書かれていた住所は間違いなくあそこだった。と、なればあの数字は部屋番号。

加賀美は一晩中、その部屋を見張っていたのだ。




「あそこに付いたのが二時半。それからこっちに来て見張り始めてほぼ4時間・・・・お前はその間何してたんだよ」

「出来る限りの情報収集だ。おばあちゃんが言っていた。何事もまず、知ることから始まる、ってな」

「ふ~ん。で、何かわかったのか?」

「住居者は一名。名前は幡鎌 人(はたかま じん)。職業はルポライターだそうだ」

「・・・・・それだけ?」

「それだけしか調べられなかった」

「なるほど」

情報の少なさに、加賀美はあまり文句を言わなかった。
この男が調べてこれだけしか出てこなかったというのなら、本当にそれだけなのだろう。

逆に、この男をしてそれしか出てこなかったというのが、加賀美には不気味に思えた。

と、そこで思いつく

「調べ・・・あっ!お前マンガ喫茶あたりに入ったな!?一人だけ暖かい思いしやがって!!」

「まあ待て加賀美。だからお土産に缶コーヒーを持ってきたろう」

「お前なァ・・・・」

「ちなみに俺は自分で炊いたコーヒーしか飲まん」

「自分の持ってきてないのはそういうことか。殊勝な態度だと思った俺がバカだった」


親しい間柄だからこその、少しキツめの漫才をしてからどうするかを今度こそ真面目に話し合う。

とはいえ、打開策などある筈もなく


「とりあえず行ってみるか」

「それしかないな」

加賀美のその一言がきっかけで、行くことにした。
一度部屋の前までは行ったものの、中から気配はなく無人であることは確認済み。

それからずっと加賀美が見ていたから、中はまだ無人のはずだ。



いまどきのマンションは、オートロックが当たり前。
最初に来た時と同じように、フェンスを軽く越えて中に侵入。階段を上がっていき、五階へ。

その階の六号室の前に来て、中の気配を探る。
それからコンコンと扉をたたくと、帰ってくる無音で中の様子を確認した。


「いるか?」

「いや、やっぱりいないな」

答えた加賀美が、御免なさいと小声で謝りながら、ドアノブに手をかけた。
呼び出しに応えて空間を飛び越えてやってくるゼクターの力を利用して、中から鍵を開けてもらう寸法だ。


そして、それを呼び出そうとした瞬間



『何者だ?』

と、そんな声がして加賀美と天道は飛びのいた。

このマンションは、玄関側も建物の外側に向いている。
まあそういう構造だから、他のビルから見張れたわけだが、もしここでひと悶着なんてなれば外からもばれる。

万が一戦闘などということになれば、周辺住民まで巻き添えに、だ。



『・・・・もう一度聞く。何者だ。答えなければ、即座にお引き取りいただく』

「・・・・「EARTH」のものだ」

「「EARTH」・・・・」

とっさにワーム専門機関であるZECTではなく、「EARTH」の名を出す天道。
こうすることで、目的をぼかす考えだ。


『・・・・即座に襲ってこないあたり・・・・いやだがしかし・・・・・』

「どうしました?」

『・・・二人いるのか。お前たちは』

「そうなるな」

『ちょっと待ってろ』

それだけ言って、扉の向こうの気配が奥へと引っ込む。
身構えたままの二人はとりあえず、油断しない程度に警戒を緩めた。


「いないんじゃなかったのか?」

「いや・・・・帰ってきている様子はなかったし」

「じゃあ最初から?」

「確かにいないと・・・思ったんだけど・・・・」

『おい』

「「ッ!!」」


唐突に聞こえる声。
瞬時に反応する二人だが、その直後の言葉に唖然としてしまった。


『お前らライダーだな?マスクドライダーシステムの』

その一言で、完全に二人は硬直する。
何者だ?この男は。


「なるほど。インターホンのカメラでオレ達を確認して、身元を割り出した・・・・貴様、ZECTでも相当の権力を持っているな」

もとよりそんな気はしていたが、確信を持って天道が言う。

田所の質問に「知らない」と答えていた陸が、天道にあのような形で情報を提供していた時点で、かなり極秘の内容であることは予想がついていたのだ。
だからこそ二人は(世間一般常識というのもあったが何よりも)、そのことを警戒して一晩待ったのだ。


『・・・・ゼクターをこちらで預からせてもらう。それでいいな』

「・・・・」

「わかった。いいだろう」

相手の要求に、アイコンタクトでどうすると問う加賀美に、天道が返答という形で答える。
二人がそれぞれゼクターを取り出そうとするが、それより早くガチャリと扉が開いた。


「入れ」

そう言われた二人は愕然とした。
ゼクターを条件にしながら、受け取る前に無警戒にあけられた扉に―――ではなく。

扉を開いた男の腕に、すでに抱えられたカブト、ガタックゼクターを見たからである。



~~~~~


部屋に入り、楽にしてくれと言われてちゃぶ台を指さされる。


入ると玄関、廊下。
廊下の途中に、左にトイレ。隣にもう一つ扉で風呂。トイレの正面にはクローゼット。

さらに進むと、右にキッチンへの入り口。リビングとつながったオープンキッチンだ。

その先にリビング。ちゃぶ台、テレビとこまごまとした置物。
左は大きな襖になっており、まだ部屋があるらしい。

世間一般の構成をした、決して広いとは言えない一室だ。
この部屋がそうなのか、マンション全部がそうなのかはわからない。


訝しみながらも、ちゃぶ台の前に腰を下ろす天道と加賀美。
座ろうとすると少し骨が軋むが、あれから6時間以上たっているのだからいけるだろ、と自分に言い聞かせ加賀美は堪えた。


「さて、君たちは何の話をしに来たのかな。天道総司、加賀美新」

「・・・・すべて御存知というわけか」

「まあな。さて、ではここで一つ、クイズを出そうか」


カチャン、と湯呑に茶を注いで、彼らの前に並べて自分も座る男、幡鎌。


ニッコリと笑うその顔に、敵意はない。
敵意はなかったが――――


「さて―――――私は何者でしょうか」

「・・・・なに?」

「正確にはだ・・・・私は、人間でしょうか、ネイティブでしょうか?」

「こいつ・・・!!!」


身構える加賀美。
だが、それとは対照的に天道は座ったままだ。それも、正座で。


「驚かないんだね」

「今更ワームだネイティブだ人間だ何だと、騒いだところで意味のない世の中だろう」

「まあね。時に、なんで私がZECTの方だと思った?ルポライターだよ?それくらいは知ってるとか思わなかった?」

「お前は「マスクドライダーシステム」と言った。「EARTH」関連ならばオレ達のことを仮面ライダーというだろう。オレ達のシステムをそんな呼び方をするのは、ZECTの人間くらいだ」

「・・・まいったね。んじゃあ問題その二」


先ほどまで扉の向こうにいたのは本当にこいつか?と疑いたくなるほどに柔和な笑みで語り掛けてくる幡鎌。
これでは大人し目の、少しノリのいい、おじさんになりかけの青年ではないか。


そんな加賀美の疑問と冷や汗。
だが、それも次の質問ですべて吹き飛んだ。


「私は何ワームでしょうか?」

そういって、男が先ほどとは違う意味の笑みを浮かべた。
目を細め、薄ら笑う。

ヒントと称して、男は指を立てて語りだす。

一、鎌を持ちます
二、緑です
三、肉食昆虫でもかなり強いです



そこまで言われて、二人が立つ。
だが、とっさに出した手にゼクターは来ず、目の前の男は座ったままで口角を緩めた。


「そうだ。私はネイティブ・・・・・・マンティスワームだよ」



to be continued
 
 

 
後書き

うわぉ
いきなり目の前に!!!


私の母方のじいちゃんは蟷螂が苦手です。
卵から孵ってウジャウジャしているのを見て以来どうも苦手だとか。

カマキリの卵の堅さは異常。


今回は特にこれ以上はないかな。
カブトらしさが出せればいいのですが。

ではこの辺で


幡鎌
「次回。不用心にもゼクターを手放し、室内に入ってくるとはね」

では、また次回 
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