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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン84 科学水龍と大地の龍脈

 
前書き
隔週投稿をやめた瞬間から躊躇なくペースを落とす投稿者の屑。
すいません、お待たせしました。

前回のあらすじ:恩返し終了。ぼちぼちストーリー動かすよ! 

 
「俺はこのメイン2にハードアームドラゴンとメタルデビル・トークンをリリースして、絶対服従魔人を召喚!これでこいつは効果破壊もされずにカード効果の対象にもできず、さらに破壊したモンスター効果は無効になる!さあ遊野先輩、これなら……」
「わーったわーった。んじゃそれリリースしといて、代わりにドゴランあげるからさ」

 僕の目の前にそびえ立っていた、後輩クンの呼び出した巨大な赤い魔人の姿が風に消え、代わりに炎を操る強大な壊獣が現れる。さよーならー、と手を振り見送ってから、次のカードをすぐに出す。

「……え?」
「で、イーグル召喚。ドゴランに攻撃して、戦闘破壊されたイーグルの効果でドゴランに寄生。3000ダイレクトで終わりね」
「う……嘘だぁーっ!」

 メタルデビル・トークンは強力な効果と引き換えに、その維持に毎ターン1000ものライフコストがかかる。その上で攻撃力3000のドゴランの攻撃をまともに喰らえば、まあこんなものだろう。

「はい2点もーらい。おらおら、次は誰?誰でもいいからかかっておいでー」

 これ見よがしに手招きするも、今のワンショットキルを見てすっかり気勢が削がれたらしい。周りを囲む人垣が一斉に下がり、ざわつくのが見て取れた。まったく情けない、自分から来ておいてその態度はないだろうに。
 さて。そもそもなんで僕がデュエルしている……もとい、デュエルしていたのかというと、それは今日の昼にまで遡る。





「全校生徒の諸君、本日集まってもらったのは他でもない。いよいよ今年も、卒業デュエルの時がやって来た。泣いても笑っても、3年生諸君はこれが最後の学生生活となる。悔いのないように、全力を出し切り、デュエルに挑んでもらいたい!」

 全校集会を開き、こんな演説をする鮫島校長。卒業デュエル、かあ。思い返せばこの3年間、なんだかあっという間だった気しかしない。思い返すともなくぼんやりと過去の記憶に浸っていると、壇上では校長からクロノス先生にバトンタッチした。つい先日授業ボイコットをやっていた人間と同一人物とは思えないほど本人なりにキリリとした表情で、僕らに向かって一礼したクロノス先生が声を張り上げる。

「それでは皆さん、今年の卒業デュエルのルールを発表しますノーネ。卒業生の目的は、デュエルをすることで蓄積する得点を重ねて100点にすること、ただ1つナノーネ。デュエルするたびに勝敗にかかわらず各1点をベースとして、1年生に勝つことができればさらに1点。2年生に勝てば2点、同じ3年生に勝てば3点がさらに加算されますーノ。同じ相手との連戦や敗北による減点はナッシング、累計点数が100点に達すればその生徒は晴れて卒業デュエルをクリアしたとみなしまスーノ」

 勝敗に関わらず1点は入ってくるなら、これで落第することはまずないか。要するに、本当に最後のお祭りイベント的な意味合いなのだろう。

「そしてこの卒業デュエル期間中に皆さんの溜めた点数は、そのままデュエルアカデミアの最終成績になりますーノ!」
「主席となった生徒にはかのキング・オブ・デュエリスト、武藤遊戯のレプリカデッキをインダストリアル・イリュージョン社から贈呈されるという。繰り返すが、君達には悔いの残らないよう、全力でデュエルに取り組んでほしい」

 話を再び引き取った鮫島校長の言葉を最後に、ついに卒業デュエルが始まった。レプリカデッキ……昔、神楽坂が持ち出してちょっとした騒ぎになったアレのことだろう。あの事件ももう2年前か、早いもんだと思いながらチラリと振り返る。案の定あの時のことを思い出していたらしく若干きまり悪そうな神楽坂と目が合って、その様子が何ともおかしくてついつい笑ってしまった。
 その横では翔や万丈目、明日香に最近ようやく復活した吹雪さんがそれぞれ楽しそうに言葉を交わし、それぞれバラバラの方向へと歩きだす。お互いに長い付き合いでその手の内も強さも知り尽くしているからこそ、直接の対決は後に回そうということだろう。それについては、僕も同感だ。ぐっと背伸びをして、レッド寮に向けてふらりと足を向ける。新入生も入ってこなくなり来年からは事実上の廃寮となる僕らの家に、せめて最後にもう1回だけでも人を集めたい……なんて、ちょっとメルヘン過ぎるだろうか。





 そして、今だ。どうやら、僕の思考パターンというのは僕が思っている以上に読みやすかったらしい。

『え、それ今更言うのかマスター』
「素でツッコむのやめてチャクチャルさん」

 レッド寮にたどり着いた僕を待っていたのは、わらわらと集まっていた後輩たちだった。僕と、それから十代は確実にここにいるはずだと、卒業デュエルのルールが発表されるや否やわざわざ真っ直ぐここまで来たらしい。そこまでしてくれたんなら、僕も少しは先輩らしいところを見せるとしよう……と思ってつい張り切っちゃったけど、さすがに初っ端からのワンショットキルはやり過ぎだったろうか。いや、でもなあ、せっかくキルできるのに見逃すのもちょっと……。
 あーだこーだと悩みながらさっきのデュエルで墓地に行ったカードを引き出そうとして、ふと気が付いた。デュエルディスクのエネルギー残量が、もうほぼ0に近い。このデュエルディスクとも覇王の世界からの付き合いだけど、つくづく実感したことが1つある。
 ……三沢本人も釘を刺してたけどこの水妖式デュエルディスク、本当に燃費が悪い。腕輪状態からの展開、さらにデュエル中の処理までを水のエネルギーだけで賄おうというんだから当然といえば当然なんだろうけど。

「ごめん皆、いったん部屋に戻っていい?すぐ戻るから」

 誰も止めてこなかったので、ありがたく寮内に入らせてもらう。勝ち逃げみたいで申し訳ないけど、そんなこともあるさ。ふと人波の向こうに、十代がデュエルしている姿も見えた。相手は……ホルスの黒炎竜と王宮のお触れ、いわゆるお触れホルスの布陣だ。強力な相手に苦戦しているようではあるけれど、最終的に十代ならなんのかんの勝つだろう。
 部屋に入ってすぐのところにある洗面台の蛇口をひねり、水の冷たさに顔をしかめながらも腕輪にどばどばと水をかけ始める。だがものの数秒もしないうちに突然、全身に悪寒が走った。この感覚、覚えがある。

「ミスターT……!」
『最近大人しかったからな。ようやく尻尾を出してきたか』

 やむを得ない、この緊急事態に悠長に補給してる暇はない。表口にはまださっきの後輩たちがいるだろうから、窓側に回り込んで飛び降りよう……としたところで洗面台まで取って返し、慌てて蛇口を逆方向にひねり水を止める。出しっぱなしは水道代へのダイレクトアタックだ。
 今度こそ窓を開けて飛び出すと足音を立てないように着地、島の奥に向けて走り出した。ミスターT独特の闇の気配というか嫌な感覚が、みるみる近くなってくる。

『そこだ!』

 チャクチャルさんの叫びに応じて足を止め、サッと周囲を警戒する。
 ……いた!たった今まで誰かとデュエルしていたらしく、腕に付けたデュエルディスクの光が消える瞬間がちょうど見えた。相手は、誰かはわからないが後輩のイエロー生だ。あの怯えた様子からいって、恐らく瞬殺されたのだろう。

「さて。では約束通り、君には消えてもらおう」
「ひ、ひぇ……く、来るな!近づくな!」
「さらばだ」

 ミスターTがすっと片手を伸ばし、腰が抜けて座り込んだまま必死に後退しようとするイエロー生に近づいていく。状況からいって、ぎりぎり間に合ったってところか。

「待て、ミスターT!」

 伸ばした手が、ぴたりと止まった。ゆっくりと振り返るその顔のサングラスの奥は相変わらずうかがい知れないが、その表情を見れば明らかに僕の乱入に苛立っているのがわかる。

「もう私に気が付くとは、まったく暇なことだ」
「もう僕に気づかれるとは、まったく無能なことで」

 できるだけ口調をまねて言い返してやると、さらに苛立ちが増したのが伝わってくる。突然のことに思考が追いつかないのか呆然としたまま成り行きを見ていたイエロー生を見下ろし、無言で顎で指し示す。それでも動こうとしないので、ちょっぴり声を荒げて活を入れた。

「早く行きな!」
「う、うわあ~っ!」

 さすがのイエロー君もそこでようやく我に返ったのか金縛りが解けたかのように跳ね起き、這う這うの体でレッド寮の方に向かって走り出す。その背中が木々の向こうに完全に隠れたのを確認してから、ミスターTへと向き直る。

「ここまで邪魔するつもりならば仕方がない、お前から消えてもらうとしよう」
「よく言うよ3戦3敗。その連敗記録、もういっぺん伸ばしてあげようか?」

 売り言葉に買い言葉を返しながらも、そう笑う口の端が引きつってはいないだろうかと不安になる。なにせこのデュエルディスク、あんな1瞬水をかけた程度の今の状態だとせいぜい1ターンやそこらしか動きそうにない。電源が切れたから仕切り直し……なんて甘い話の通じる相手じゃないだろうし、そうなった以上強制敗北とみなされるのがオチだろう。
 となると、僕に残された道はただ1つ。このミスターT相手に、ついさっき後輩にやったようなワンキルをぶちかますしかない。なんのかんの言ってもミスターTは僕が3連勝できたことが不思議なぐらいの強敵だ、口にするほど簡単にいく話でもないのは僕が一番よくわかっている。でも、ここでやるしか道はない。ここに駆けつけた時点で、こうなることはわかっていたんだ。
 あれ?……てかこれ、今気づいたんだけど。最初にミスターTの気配を感じた時点で、すぐそこでデュエルしてた十代を引っ張ってくれば割となんとかなったのではないだろうか。
 ……もうやめよう、この話は。仮定はどこまでいっても、あくまで仮定でしかない。

「さ、さあ来い!」
「では望み通り。デュエ……」
「おっと。そのデュエル、俺が代わりに引き受けよう!」

 完全に自業自得な決死隊の覚悟でデュエルディスクを構えたところで、どこからともなく鋭い一喝が飛ぶ。1瞬十代が来たのか、とも思ったが、すぐに打ち消した。いや違う、どうしてこの声を忘れられるだろう。僕とミスターTが向かい合うすぐ横の空間が突然ぐにゃりと曲がり、陽炎でも起きているかのように不安定に揺れ始める。そこからぬっと人の足が出てきたかと思うと、すぐにその上半身が1歩1歩踏み締めるようにしてゆっくりと近寄ってきた。
 ああやっぱり、間違いない。ずいぶん遅い登場だけど、待ってたよ同士。

「三沢!」
「ああ、久しぶりだな。遅くなってすまない、こちらの世界に戻るための仕掛けがなかなか整わなくてな。そちらの世界に今何が起きているかは、俺もだいたい知っている。お前がミスターT、だな?」

 相変わらず、この男は話が早い。ミスターTも僕より三沢を最優先で倒すべき対象と判断したらしく、僕のことなどすでに眼中にないと言わんばかりに三沢の方を向く。デュエルディスクを構えるのは、ほぼ同時だった。

「いかにも。多少なりとも私の知識はあるようだが、その上で私の前に姿を現すとはな」
「俺の友人が無茶したからな。もっとも、その原因は未完成品を渡した俺にもあるわけだが」
「面目ないね。ここは任せるけど……気を付けて」
「ああ。せっかくカッコつけて帰ってきたんだ、どうにかしてみるさ」

「「デュエル!」」

「先攻は俺が貰った。マスマティシャンを召喚し、その効果でデッキからレベル4以下のモンスター、オキシゲドンを墓地に送る。まずは基盤固め、カードを伏せてターンエンドだ」

 マスマティシャン 攻1500

 オキシゲドン……ということはあのデッキは、三沢が6つの属性デッキの中でも特に愛用している水のデッキ、ウォーター・ドラゴンを軸としたあれだろう。相変わらず堅実な進め方だ。

「私のターン。キラー・トマトを召喚し、バトル。マスマティシャンに攻撃する」

 キラー・トマト 攻1400

 キラー・トマトは攻撃力こそマスマティシャンに劣るものの、その真価はまさに戦闘破壊されることそのものにある。いわゆる属性リクルーターにとって、攻撃力1500というのはほどよい起点づくりにしかならない。

「おっと、ただで通すわけにはいかないな。トラップ発動、鎖付き爆弾(ダイナマイト)!このカードは俺のモンスター1体を選択し、その装備カードとなって攻撃力を500ポイントアップさせる。迎え撃て、マスマティシャン!」

 マスマティシャンの握る杖が長い鎖の先にダイナマイトのくくりつけられた物騒な武器になり、その鎖を振り回してキラー・トマトに反撃する。いくら化け物トマトとはいえ元々攻撃力では劣っていたのだ、当然パワーアップした1撃を受け切れるわけがない。

 キラー・トマト 攻1400(破壊)→マスマティシャン 攻1500→2000
 ミスターT LP4000→3400

「小々計算外のダメージだったかい?だが、今のはほんの挨拶代わりだ。こんな物じゃ済まさないぞ」
「キラー・トマトの効果により、戦闘破壊され墓地に送られたことで攻撃力1500以下の闇属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。2体目のキラー・トマトを召喚し、もう1度マスマティシャンに攻撃。そして3体目を呼び出し、もう1度攻撃だ」
「何!?……ふん、噂通りの戦い方だな」

 通常なら、無駄に増えるダメージを嫌って大人しく攻撃をやめる場面だろう。だが、ミスターTにその手の常識は通用しない。痛みを受けないのをいいことに自分へのダメージを顧みずに初志貫徹するあのファイトスタイルには、僕も十代も苦しめられてきた。

 キラー・トマト 攻1400(破壊)→マスマティシャン 攻2000
 ミスターT LP3400→2800
 キラー・トマト 攻1400(破壊)→マスマティシャン 攻2000
 ミスターT LP2800→2200

「そして3体目の効果を発動。儀式魔人デモリッシャーを特殊召喚する。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「リリーサーではない?……まあいい、儀式魔人ということは儀式デッキか」

 3体目のキラー・トマトが倒れ、最後に呼び出されたのは自分の身長よりも巨大な斧を担いだ太った小人。どうやら今回のミスターTは、儀式召喚を操るらしい。

 三沢 LP4000 手札:3
モンスター:マスマティシャン(攻・爆弾)
魔法・罠:鎖付き爆弾(マスマティシャン)
 ミスターT LP2200 手札:4
モンスター:儀式魔人デモリッシャー(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「俺のターン。ここは臆さず攻める、ハイドロゲドンを召喚。さらに装備魔法、やりすぎた埋葬を発動!手札からレベル8のウォーター・ドラゴンを捨てることでそれ以下のレベルを持つオキシゲドンを蘇生、このカードを装備する!」
「出た!」

 ハイドロゲドン 攻1600
 オキシゲドン 攻1800

 ハイドロゲドン、そしてオキシゲドン。三沢得意の化学式戦法は、すでに完成間近にまで到達していた。もっとも、今回はそこまでたどり着く前に勝負がつきそうだ。

「バトルだ、ハイドロゲドン!儀式魔人デモリッシャーに攻撃、ハイドロ・ブレス!」
「トラップ発動、メタバース。このカードの発動時、デッキからフィールド魔法1枚をサーチするか、そのまま場に発動する。私は、チキンレースを発動しよう」
「なるほど、だから最初にキラー・トマトをぶつけてきていたのか。万一にも俺のライフがお前を下回らないように……!」

 チキンレースは近頃のフィールド魔法にしては珍しく、互いのプレイヤーに影響の及ぶカード。ライフポイントが低い方のプレイヤーが、あらゆるダメージを受けなくなる。恐らく三沢の言った通り、あの3連自爆特攻は、単なるデッキ圧縮だけではなくライフ調整の意味も兼ねていたということだろう。悔しそうに唸る三沢だが、ハイドロゲドンの攻撃は止まらない。

 ハイドロゲドン 攻1600→儀式魔人デモリッシャー 攻1500(破壊)

「だがこれで、ハイドロゲドンの効果を発動だ。このカードが相手モンスターを戦闘破壊したことで、デッキから更なるハイドロゲドン1体を特殊召喚できる」

 ハイドロゲドン 攻1600

 これで三沢の場にはマスマティシャンの他に水素(ハイドロゲドン)水素(ハイドロゲドン)、そして酸素(オキシゲドン)の3分子が揃った。となると、結局導き出されることになった化学式は1つ。

「このメイン2に魔法カード、ボンディング-H2Oを発動。ハイドロゲドン2体とオキシゲドン1体を素材として結合召喚、俺の墓地に眠るこのモンスターを呼び戻す!出でよ、ウォーター・ドラゴン!」

 ウォーター・ドラゴン 攻2800

 そして現れた、炎属性と炎族の天敵ともいえる三沢のエースモンスター。あのややこしい召喚条件を今回もまるで苦戦した様子もなく満たすあたり、どうやら異世界暮らしの生活でもその腕は鈍っていないようだ。だがミスターTは、そんなウォーター・ドラゴンのプレッシャーを目の当たりにしても涼しい顔のままだ。

「さらにターンを終える前に、お前の発動したチキンレースの効果を使わせてもらう。ターンプレイヤーは1ターンに1度1000ライフを払うことで、3つの効果から1つを選択して発動できる。俺が選ぶのは、1枚ドローする効果だ」

 三沢 LP4000→3000

 抜け目なくミスターTのカードを逆利用し、無くなった手札を補充する三沢。そのカードを一瞥してそのまま場に伏せ、ミスターTにターンを回した。
 予想外の粘りを見せられたとはいえ、ここまではおおむね三沢のペースといっていいだろう。

「私のターン。まず、私もチキンレースの効果を発動する。1000ライフを払い、1枚ドローだ」

 ミスターT LP2200→1200

 たった今三沢が使ったものと同じ効果により、ミスターTもまたカードを引く。これで奴の手札は6枚、さあ何をしてくるか。

「アーマード・ビーを通常召喚し、その効果を発動する。ウォーター・ドラゴンの攻撃力は、このターンの間半減される」

 巨大な蜂のモンスターが鋭い尾を向け、毒針を水龍に打ち込む。いかに体が水とはいえ毒までもを無効にすることはできなかったらしく、苦痛の声が森に響いた。

 アーマード・ビー 攻1600
 ウォーター・ドラゴン 攻2800→1400

「ウォーター・ドラゴン!」

 これで、アーマード・ビーの攻撃力がウォーター・ドラゴンを上回った。だけどウォーター・ドラゴンには、破壊された時に墓地の素材となったモンスターを蘇生する強力な効果がある。たとえここでわずかにダメージを受けたとしてもオキシゲドンの攻撃力は1800、十分対応可能な範囲だ。

「チキンレースを張り替えてフィールド魔法、天空の虹彩を発動。このカードは1ターンに1度私の場で表側のカードを破壊することで、デッキからオッドアイズと名のつくカード1枚を手札に加えることができる。私はアーマード・ビーを破壊し、オッドアイズ・グラビティ・ドラゴンをサーチする」
「オッドアイズ……」

 オッドアイズ使いのミスターT、といえば、あの廃寮で戦った奴を思い出す。でもあの時の奴の戦術はF・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)を融合しての力押しで、オッドアイズはあくまでアクセント的な扱いだったはずだ。となるとあれからデッキを変えたのか、それとも別のミスターTなのか……いや、そもそも奴に別固体、なんて概念が存在するのだろうか。
 まあ、存在しようがしまいがそんなもの別に知りたくもない。出てくる端から全員潰していけば、それで済む話だ。

「儀式魔法、大地讃頌を発動。手札の地属性儀式モンスターと同レベルになるようにモンスターをリリースすることで、そのモンスターを儀式召喚する。私は手札のレベル4モンスター、エレメント・デビルと墓地のレベル3、儀式魔人デモリッシャーを自身の効果によりリリースの代わりに除外することで、儀式召喚!降臨せよ、オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン!」

 その圧倒的な質量と重量により、着地しただけで大地を揺るがす巨漢のドラゴン。オレンジ色の身体にはまるで鎧のように岩と化した鱗が生え、桁外れの体重を支えるためかその両足はこれまでに僕が見てきたどのオッドアイズよりも太く力強い。

 オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻2800

「オッドアイズ・グラビティ・ドラゴンの効果発動。このカードが特殊召喚された際、相手フィールドに存在する魔法及び罠カードは全て持ち主の手札に戻る」
「やむを得ない、か」

 どうやら三沢の場のカードは、フリーチェーンの物ではなかったらしい。重力の龍がおもむろにその片足を上げてドシン、と踏み鳴らすと、それだけで着地点を中心としたクレーターとともに衝撃波が走り三沢のカードを巻き上げる。

『それは違うなマスター。どうせあの効果にはあらゆる効果がチェーンできない、儀式召喚を通した時点で手遅れだ』

 チャクチャルさんの補足が聞こえるが、残念ながら今の余波にこっちまで巻き込まれて倒れないようにするので精いっぱいで返事をする余裕がない。弱体化したウォーター・ドラゴンと、それを守るべき伏せカードを失った三沢の場を一瞥し、重力の龍が灰色と暗いオレンジの2色が螺旋状に絡まったブレスを放った。

「バトルだ。オッドアイズ・グラビティ・ドラゴンで、ウォーター・ドラゴンを攻撃する」

 オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻2800→ウォーター・ドラゴン 攻1400(破壊)
 三沢 LP3000→1600

「ぐっ!だがウォーター・ドラゴンが破壊されたことで、効果発動……!?」

 発動宣言した瞬間、三沢の顔が苦痛に歪む。闇のデュエルの痛み……にしてはタイミングがずれていた気がするし、今度は何が起きているというんだろう。目に見えない何かに耐えているのか、背を丸めて足元がふらつきながらも辛うじて膝をつくようなことはなかった。

 三沢 LP1600→1100

「オッドアイズ・グラビティ・ドラゴンが存在する限り、相手プレイヤーはカード効果を発動するには500のライフコストを払わねばならない」
「カード1枚で500……?」

 かの極悪な永続魔法、魔力の枷を思わせるプレイヤーに直接干渉するタイプのロック効果。しかも、自分には何のデメリットもなく相手だけを一方的に縛る効果ときた。早いとこあのドラゴンを除去しない限り、何かするごとに三沢のライフが削られてしまう。
 ただこれで、なぜ最初のターンにキラー・トマトで儀式魔人リリーサーを特殊召喚しなかったのかの理由が分かった。儀式モンスターが存在する限り特殊召喚封じの効果を発揮するリリーサーでは拘束力が強すぎて、あのオッドアイズの効果を生かせる場面がかえって少なくなってしまう。あえて特殊召喚は通すという隙を見せることで、場の展開のためにカード効果を使わせようという腹なのだろう。効果的かつ卑劣な手だが、それは同時に慢心でもある。ガッチガチに場を固めに来ない以上、必ず逆転のチャンスはあるはずだ。

「ウォーター・ドラゴンの効果で、墓地のハイドロゲドン2体とオキシゲドンを特殊召喚する!」

 どうにか持ち直したらしく、再び背筋を伸ばした三沢が墓地から3枚のカードを引っ張り出す。その言葉通り、再び分離した水素と酸素のモンスターが場に解き放たれた。

 ハイドロゲドン 守1000
 ハイドロゲドン 守1000
 オキシゲドン 守800

「私のオッドアイズ・グラビティ・ドラゴンが存在する限り、君が発動できるカードは後2枚。せいぜい考えて選ぶことだな。さらに装備魔法、リボーンリボンをオッドアイズ・グラビティ・ドラゴンに装備してターンエンド」

 オッドアイズに装備された装備魔法……あれは確か、装備モンスターが戦闘破壊された時にそのモンスターを1度だけ復活させるカードだったはずだ。これで戦闘破壊に対する備えも十分、というわけだ。

 三沢 LP1100 手札:1
モンスター:ハイドロゲドン(守)
      ハイドロゲドン(守)
      オキシゲドン(守)
      マスマティシャン(攻・爆弾)
魔法・罠:鎖付き爆弾(マスマティシャン)
 ミスターT LP1200 手札:1
モンスター:オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン(攻・デモリッシャー・リボン)
魔法・罠:リボーンリボン(オッドアイズ)
場:天空の虹彩

「忠告には感謝するが、まだ負けたわけではない。俺のターン、ドロー!」

 これで三沢の手札は2枚。その中身を一目見て、まるで最初から計算づくだったといわんばかりの躊躇いの無い動きで次の行動に取り掛かる。

「俺はマスマティシャンをリリースして、デューテリオンを守備表示でアドバンス召喚する。さらにカードを伏せて、ターンエンドだ」
「デューテリオン……?」

 1ターン目からずっと破壊されることなく留まっていたマスマティシャンが消え、代わりにハイドロゲドンとよく似た姿の2種類目の水の恐竜が召喚される。アドバンス召喚が必要な上級モンスターとは思えないほど低いそのステータスに関しては僕も人のことは言えないのでいいとしても、僕の記憶が正しければ、あんなモンスター三沢は持っていなかったはずだ。

 デューテリオン 守1400

 不審げな僕の声は、どうやら聞こえていたらしい。まださっきのダメージが体に残っていて苦しいだろうに、そんな様子を微塵も感じさせない笑顔で三沢が振り返る。

「おいおい清明、俺だって研究者以前にデュエリストなんだぞ。向こうの世界にいる間に、この化学式デッキも強化しておいたのさ。もっとも、まだ少しコマが足りないがね」

 コマが足りない……つまり、デューテリオンだけではまだ不足ということか。でもあの余裕は、決して空元気ではない。それだけ、その先にあるカードのことを信用しているのだろう。だがどれだけ信用していようとも、まずはこの次のターンを乗り切らないことには話にならない。

「私のターン。ユニオンモンスター、バスター・ショットマンを召喚。このカードをオッドアイズに装備することで、その攻守を500ダウンさせる」

 バスター・ショットマン 攻0
 オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻2800→2300 守2500→2000

 青いカラーリングの人型ロボットが召喚されたかと思うと、すぐさまその全身を変形させて巨大な砲になる。オッドアイズ・グラビティ・ドラゴンが重力波を放ちそれを引き寄せ、体の前面に装着する。合体と同時に結合部分から火花とスパークが走り、オッドアイズの体が不気味なプラズマに染め上げられた。

「バトルだ。オッドアイズ・グラビティ・ドラゴンで、オキシゲドンに攻撃する」

 オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻2300→オキシゲドン 守800(破壊)

 三沢の場で守りを固めていた4体のモンスターのうち、酸素を司る恐竜が破壊される。残るモンスターはこれで3体……と思うや否や、合体するだけして沈黙を保っていたバスター・ショットマンの砲に突然エネルギーが溜まり始める。その両手足を変化させてできた計3門の砲口から、一斉にエネルギー弾が放たれた。着弾と同時に目も眩むような閃光が発生し、やっとそれが収まった時にはすでに三沢のフィールドを埋め尽くしていたはずのモンスターは1体も残っていなかった。

「バスター・ショットマンの装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、フィールド上に存在するその破壊されたモンスターと同じ種族のモンスター全てを破壊する。従ってオキシゲドンと同じ恐竜族のハイドロゲドン、そしてデューテリオンはすべて破壊だ」
「随分派手にやってくれたな……」
「そして、このターンも天空の虹彩の効果を発動する。バスター・ショットマンを破壊し、デッキから2枚目のオッドアイズ・グラビティ・ドラゴンを手札に。これにより、場のオッドアイズ・グラビティ・ドラゴンの攻守は元に戻る」
「なるほどな。アフターケアも織り込み済み、か」

 オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻2300→2800 守2000→2500

 バスター・ショットマンの装備が無理やりとはいえ外されたことで、ダウンしていた攻守が元の数値に戻る。三沢はこんな時でも冷静に分析しているからあまり悲壮感はないけれど、このターン生き残れたのは本当に辛うじてなレベルのはずだ。今回は何とか三沢のターンに繋がるけれど、場のモンスターが全滅してしまった以上次はないと見ていいだろう。となると三沢の言うコマとやらが揃うかどうかは、次のドローただ1枚にかかっている。

「俺のターン、ドロー!」

 かたずをのんで見守る中、三沢がその運命のカードを引き抜く。真剣な表情のままそのカードに目をやり……そして、その口元が勝利の確信に綻んだ。

「このデュエルはここで終わりだ、ミスターT!トラップ発動、ボンディング-DHO!このカードは発動時に俺の手札または墓地の(デューテリオン)(ハイドロゲドン)(オキシゲドン)を1体ずつデッキに戻し、手札または墓地からこのモンスターを結合召喚する!」

 三沢 LP1100→600

 従来のボンディングとは異なる原子配列により、新たなる化学式が構築される。結合により生み出されたそれは、古龍らしく水の髭が生えていたり目つきがより鋭くなっていたりするなどの細かい点を除けば、一見普通のウォーター・ドラゴンとほとんど変わりがないように見えた……だが、違う。その迸る水龍の体の隣に、さらにもう1本同じ水龍の首が持ち上がる。双頭のウォーター・ドラゴンが、2つの口で同時に吠えた。

「水を超えし重水の龍!ウォーター・ドラゴン………クラスター!」

 ウォーター・ドラゴン-クラスター 攻2800

「だがその攻撃力は、私のオッドアイズと同じ。引き分けといいたいところだろうが、あいにくオッドアイズにはリボーンリボンが装備されていることを忘れたのか?」
「忘れちゃいないさ。そしてこの瞬間、俺の理論が完成する。オッドアイズ・グラビティ・ドラゴンの効果でさらに500ライフポイントを支払い、この新たなるウォーター・ドラゴンの効果を発動!特殊召喚成功時、相手フィールドに存在する効果モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にし、その間その攻撃力も0にする!」
「何!?」

 クラスターの全身から溢れ出る藍色のオーラが、二色の眼を持つ重力の龍を包み込む。抵抗虚しくその全身から力が抜けていき、小山のような存在感の龍がその場に力なく横たわった。

 三沢 LP600→100
 オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻2800→0

「いくらリボーンリボンにより蘇生ができようと、先にプレイヤーのライフが尽きてしまえばその効果には何の意味もない。バトルだ!ウォーター・ドラゴン-クラスターでオッドアイズ・グラビティ・ドラゴンに攻撃、オキシダン・パニッシャー!」
「ぬ……ぬおぉーっ!」

 ウォーター・ドラゴン-クラスター 攻2800→オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻0(破壊)
 ミスターT LP1200→0





「お前たちが何をしようが、世界はもうじき真の闇に包みこまれる。それがダークネスの力……」
『まずいマスター、また逃げるぞ!』

 チャクチャルさんの警告も時すでに遅く、ミスターTの姿が闇に包まれたカードの束となり、それもすぐに消えていく。結局、また取り逃がしたのか。追いかけたところでどうせ捕まらないのはわかっているのでため息1つつき、代わりに三沢の方に目を向ける。デュエルを終えてデッキにカードを戻している最中だったが、僕の視線に気が付くと作業の手を止めた。何か言おうとしたところで、新たな人影が息を切らしてやって来た。

「どこだ、ミスターT……って、清明?それに三沢も!?清明はともかく、なんでお前がここにいるんだ?」
「おいおい、久しぶりの再会なのに随分なご挨拶だな十代。まあいい、話せば長くなるから要点だけまとめるぞ。向こうで次元世界について研究している最中に、ふと気になるデータを見つけてな。2、3日前から、この次元でだけ妙に空間の歪みの発生が多いんだ。色々と資料をあさってみた結果、ダークネスが闇の世界から干渉する際に副作用として空間にわずかな歪みが生じることがわかったんだ。それでダークネスがこの世界に侵攻しようとしていることを知って、慌てて駆け付けてきたというわけさ。だがこの様子を見ると、お前たちもそれには気づいていたようだな」
「ま、色々あってね。十代がいけずだったせいで、ちょっとばかし情報共有には時間かかっちゃったけど」

 なんとなく投げつけた軽い嫌味にも、肩をすくめただけで答えない十代。反省してねーなこいつ。

「待てよ?それじゃあ三沢、その歪みがどこにできるのかがわかれば、次にミスターTがどこに出てくるのかがわかるってことか?」
「それだけじゃない。ダークネス本体がやってくるときも、ある程度はその位置を察知できるはずだ」

 十代の疑問に、あっさりと肯定する三沢。これは、もしかしなくてもかなり有力な情報だ。逃げ足が恐ろしく速いうえに神出鬼没なせいで見つけられなかったミスターTがどこから来るのかを事前に察知できるのならば、これまでよりもその対応がぐっと楽になる。

「それで、次は奴はどこに現れる?頼む三沢、教えてくれ!」
「ああ、それは……」

 詰め寄る十代に三沢が答えようとしたところで、場違いな電子音が鳴り響く。音の発生源は、十代のPDFだ。一度追及の手を止めて通話に出ると、向こうからオブライエンの声がかすかに聞こえてきた。

『十代、至急童実野町まで来てくれ。明らかに様子がおかしい』
「童実野町だな?わかった、すぐに行く!」

 それだけ返し通話を終了する十代に、三沢が真剣な面持ちで語りかける。

「どうせ俺が止めたところで聞きはしないだろうが、せめて十分気をつけろよ、十代。俺の計算が正しければ、次に奴が現れるのはまさにその童実野町……そしてその次は、このアカデミアだ」

 冷たい風がひゅう、と僕らの間を吹き抜ける。ふと気が付けば、さっきまで晴れていたはずの空はどんよりと曇っていた。それが僕らの未来の何かを暗示しているのかは、わからない。
 ……嫌な、天気だ。 
 

 
後書き
ヘルカイザーの出番終了っと→サイバー・ダークネス・ドラゴン収録決定!
万丈目とエド戦書かなきゃ→アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン収録決定!
恩返しデュエル……→古代の機械超巨人収録決定!
ぼちぼち三沢を戻そうかな→九 尾 の 狐 収 録 決 定

……その他召喚神エクゾディア、ダスクユートピア始めとするD-HERO、機械天使、今回のクラスターなどなど。どれも私が拙作を書き始めたころには予想もしなかったカードでした。ロイド新規は出番作れませんでしたが。
以前ある方の感想で「毎回いい感じにカードが来るけどおめーコンマイと寝てんのか」などと言われたこともありますが(もちろん意訳です。悪気はないのでご堪忍ください)、なんかだんだん自分でも不安になってきたので改めて主張しておきます。私は潔白です。てか本当にそんな権限あるならグレイドルと壊獣と魔界劇団と超重武者に新規ばらまいてタイダル出所させてます。

妖怪デッキ、ここまで来たらやっぱ出さなきゃなぁ……いや、別に嫌なわけじゃないですけど。残り話数的にこれ以上三沢戦ねじ込む余裕があったかな? 
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