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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン83 鉄砲水と決別の歯車

 
前書き
声優、鶴ひろみさんに心よりご冥福申し上げます。
GX3期のあの独特の雰囲気は、あなたの名演のおかげで生まれたようなものでした。

前回のあらすじ:万丈目のノルマクリア、達成。肩の荷が1つ降りた気分。 

 
 その日、僕が授業を受けるために校舎に足を踏み入れると、なにやら教室前に人だかりができていた。その中に夢想の青髪が見えたので、近寄って話しかける。

「やっほー。なに、また今日もなの?」
「そうみたい、だって」

 また、というのは、教室前に張り出された張り紙のことだ。そこにはただ簡潔に、今日の授業は臨時でお休みするノーネ、とだけ書かれている。
 別にそれだけなら、ああ今日は休みなんだなよっしゃラッキー、だけで済む。実際、僕もこの張り紙が出てくるようになった初めのころはそう思っていた。
 ただ問題は、それがあまりにも長すぎることだ。

「これで……3日連続?」
「うん。そろそろ危険かな、って」

 それは、去年までなら考えもしなかったであろう問題。クロノス先生が授業をボイコットすることによる、シンプルにしてきわめて厄介な問題。有り体に言うと、出席日数不足だ。本来なら先生がちょっとやそっと授業をしなかったぐらいではどうということもないのだが、これまでのセブンスターズ戦や光の結社騒ぎ、とどめの異世界騒動のしわ寄せでこれまでにもさんざん授業が潰れまくった結果、僕らの世代は毎日毎時間休まず出席してもかなりギリギリでしか卒業できない。そんな状態で先生側がこの調子だと全員留年、の文字が本格的に笑い話ではなくなってしまう。

「クロノス先生だって、それはよくわかってるはずなんだけどね」
「でも先輩方、覚えていますか?最近のクロノス教諭、いつにもまして……その……ご乱心なようでしたが」

 実技担当最高責任者による全体講義が休講となれば、本来僕らの1コ下である彼女たちにも無関係な話ではない。ひょっこり会話に入ってきた葵ちゃんが、何か波風立たない表現を模索した末に結局諦めたのかいつも通りさらりと毒を吐く。ただ言葉のチョイスこそあれだけど、僕もそこに関しては同感だ。

「ライフ計算のためナノーネ、とか言って数学どころか小学校の算数レベルの計算やらされたり……」
「先日は座学なのに腕立てやらされたりもしたね。ハードなデュエルには体力が必要だのなんだの言って」
「体調でも悪いのかな、って」
「だとしても、早く良くなってもらわないと困るんだけどね」

 進路も心配ではあるけれど、卒業できないだなんてそれ以前の問題だ。いや、全然僕にとっても他人事ではないんだけど。

「こうしちゃいられない、もう限界だ!皆、クロノス先生を探しに行くぞ!」

 お、背後でなんか始まった。がやがやと騒ぐ声に振り返ると、度重なる授業中止にしびれを切らしたらしいオベリスクブルー男子、正直顔はわかるけど名前わかんない奴が周りのイエロー生やブルー生を集めて演説を始めていた。

「お前たちだって、もうそろそろ進路は決まってるんだろう?この間だって、万丈目がプロに入ったばっかりだ。なのにクロノス先生がこの調子だと、俺たちもう1年この学校にいなくちゃいけなくなるぞ!?」

 そうだそうだ、もう俺内定貰っちゃってるんだ、早くクロノス先生を見つけ出せ……そんな賛同の声が、ぽつりぽつりとあちこちで上がる。

「いいか、クロノス先生は多分、この校舎のどこかにいるはずだ。まず上から順に探すぞ、ただし全員で行くんじゃない。1階に何人か待機して、逃げ出さないように玄関を押さえておくんだ」
「おう!」
「じゃあ俺、十代のアニキを探してくるドン!どうせ今日もどこかで釣りしてるはずザウルス」
「あ、待って!十代様のところならボクも行く!」

 言い出しっぺの彼の指示に従い100人弱の集団がどやどやと上への階段を駆け上がり、それとは別に10人程度がホールへと走り出す。さらに剣山とレイちゃんが校舎外に向かうと、大教室前には僕と夢想、それに葵ちゃんの3人だけが残された。夢想に関してはいまだに何考えてるのかわからない節があるからここに残ってもそう不思議ではないが、葵ちゃんまでこっちにいるとは意外だ。

「あれ、葵ちゃんどっちか行かなくていいの?」
「あまりほいほいと人の指示を聞くのは好みではありませんので」
「あ、そ……ん?」

 何気なく流したけど、よくよく考えたらそれはただのボッチ思考では?葵ちゃんいっつも看板娘やってくれる割に一向に彼女の友達を名乗る人が出てこないとは思ってたけど、彼女との付き合いも2年近くなったここに来て今更そんな切ない理由知りたくなかったぞ。

「……なんですかその目。1人の方が性に合ってるんですから、ほっといてくださいよ」
「あー、貴女はそういうタイプだもんね、だってさ」

 夢想は優しいからそこでとりなすけど、ボッチは皆そう言うんだぞ。まあ彼女の場合、意地でも認めようとはしないだろうけど。

「大体、そんなこと言うなら先輩方こそこんなところで油売ってていいんですか?」
「んー……ぶっちゃけ1人の追い込みにあの人数動かすのって、むしろ悪手にしか見えないんだよね。しかも上からしらみつぶしにー、なんて思いっきり作戦ばらしちゃってるし。多分クロノス先生も、本気で逃げる気ならそろそろこの辺を1回通ると思うよ」
「ああ、確かにそれも一理ありますね」
「そうそう。だからあっち行った皆にはいい感じに陽動やってもらおうかなって」
「むむむ、ちょっとそこをどくノーネ!」

 まるであらかじめ待ち構えていたかのようなタイミングでどたどたと足音を立て、クロノス先生の長身が廊下の向こうからこちらに走ってくる姿が見えた。

「ほら」
「おー。それで先輩、どうしますか?」
「どうしますかって言われても……やっぱ授業はやってもらわないと、ねえ」
「ですね」

 葵ちゃんにそう返し、3人揃って廊下を塞ぐようにサッと広がる。通れないことに気づいたクロノス先生がぶつかる直前急ブレーキをかけようとするも勢い余ってその場にこけて、受け身も取れずに顔面を強打する。鼻を押さえて少し涙目になりながらも、よろよろと起き上がる。

「アルデンーテ、どうしてどいてくれないノーネ……」
「申し訳ありませんが、私に言われましても先輩の指示ですので」
「あーおーいーちゃーんー?」

 しれっとこちらに罪をなすりつけてくる後輩を睨みつけると、その倍ぐらいにきつい視線で睨み返された。さてはこの女、まーだこの間明菜さんアカデミアに呼んだこと根に持ってたな。あれは事故、というかあの人の独断だって散々説明したってのに、もう。

「シニョール清明、それは本当ですーカ?」
「いえ違……」
「重ね重ね申し訳ありません、クロノス先生。私だって何度も止めたのですが、先輩は言いだしたら引かない人ですから」

 否定のセリフにかぶせるよう、1歩前に出た葵ちゃんがこれでもかとばかりにまくしたてる。駄目だこりゃ、完全に人のことを売りにかかってる。もしかして今日は最初から、こうなることを全部予期して僕のそばにいたんだろうか。そういえばさっき最初に夢想との話に入ってきたときも、妙に彼女らしからぬ積極的な登場だった気がする。げに恐ろしきは女の執念、そう言ったのは誰だったろう。その言葉の意味を痛いほど理解していると、クロノス先生の矛先はこれまで事態を静観していた夢想に向いた。

「セニョーラ夢想、実際のところはどうナノーネ」

 さっすがクロノス先生、授業ボイコットはともかく人間はできてる。ちゃんと聞いた話を鵜呑みにせず第三者に確認を取るあたり、伊達に教師生活やってない。夢想ならきっと、僕の無実を訴えてくれるはずだ。

「うーん……でも清明、たった今言ってたよね。『やっぱ授業はやってもらわないと』って、なんだって」
「うっ!?」
『八方ふさがりだな、マスター』

 チェックメイトを告げるチャクチャルさんの声がなんだかひどく楽しそうに聞こえたのは、絶対に気のせいではないだろう。完全にどうせ他人事だからって静観モードに入ってんな、あの邪神。
 そして夢想からのお墨付きを得たクロノス先生が、改めてこちらに視線を向ける。当然先生の方が背が高いので、自然と僕がその顔を見上げる格好になった。

「シニョール清明、教師に向かって随分な態度ナノーネ」
「そんなこと言うならクロノス先生だって……」
「言い訳無用!私は教師として、そんなデュエリストにあなたを育てた覚えはないノーネ!そのゴルゴンゾーラのようにカビの生えた根性を叩き直してあげますかーら、こっちに来るノーネ!」
「……ど、どこにですか?」
「情けない、それでもデュエリストですーカ?ここはちょうどデュエルリング近く、いい機会ですので久しぶりに……そう、あなたの言葉を借りるならば、実技授業と洒落込んでやりますーノ!」
「え、ちょ、夢想に葵ちゃん、助け……あぐっ」

 なんだかおかしな話になってきたのでとりあえず逃げようとした首根っこをさっと掴まれ、あの細い腕のどこにそんな筋肉が付いているのかと聞きたくなるような怪力でずるずると引きずられていく。見かねた夢想が1度手を伸ばして制止しようとしたものの、葵ちゃんが何かを耳元で囁くとその手をひっこめ、こちらに申し訳なさそうに一瞥して彼女に引っ張られるまま廊下の反対側に消えていった。
 ああ、もう!葵ちゃんには後でたっぷり反省と後悔してもらうとして、今は自分の心配だ。引きずられながらどうにか首を動かし、クロノス先生の方を向く。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!本気ですか先生!?」
「さあ入るノーネ、シニョール清明。先攻は差し上げますからさっさと準備しますーノ!」
「えぇ……」

 何が何だか、というのが本音だけど、こうなった以上口でどうこう言っても何も変わらなさそうだ。なら僕もさっさと気持ちを切り替えて、目の前のデュエルに全力で向き合う覚悟を決めるとしよう。
 そう思い直すと、一気に自分の中でスイッチが切り替わるのを感じた。さっきまでの困惑はどこかに捨てさって、今僕の全身を占めているのは単純な闘志。そういえば、クロノス先生とデュエルするのなんていつぶりだろう。確か砂漠の異世界で、ゾンビ化した先生と戦わされた時が最後だったはずだ。思えば入学試験でこそ勝てたものの、それから3年間僕はこの人に1度も白星を挙げていない。卒業までにあと何回実技の授業があるかは忘れたけれど、ここを逃すと下手したらもうチャンスはないだろう。
 ……絶対に、負けない。

「ほう?少しはいい面構えになったノーネ」
「おかげさまですよ、先生。思えばあの時、先生に勝ったからこそ僕はこの学校に入ってこれたんだ。だったらもういっぺんあなたに勝って、凱旋と洒落込んでやりますよ。3年間で僕が、それとこのデッキがどれだけ成長したか、嫌というほど味あわせてあげます」
「私の暗黒の中世デッキの恐ろしさ、どうやら少しデュエルしないうちにすっかり忘れてしまったようなノーネ。よろしい、ならば教師として、もう一度たっぷり刻み付けてあげますーノ!」

「「デュエル!」」

 先ほどのクロノス先生の言葉通り、僕の先攻が既に設定されている。あの人の使う古代の機械は、自分が攻めこむときにきわめて厄介な効果を持つモンスター群……さて、どうしようかね。どうしようったって、攻するしかないか。

「僕のターン。グレイドル・イーグルを召喚、これでターンエンドです」

 グレイドル・イーグル 攻1500

 すっかり切り込み役として定着した黄色い鷹状のイーグルが、本物の鷹よろしく僕の差し出した腕を止まり木がわりに着地する。守備表示でセットしてもよかったけれど、クロノス先生の切り札である古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)は貫通能力持ちだ。どうせダメージを受けるなら、高い攻撃力の方で迎え撃とう。

「それで終わりとは、ずいぶん舐められたものナノーネ。私のターン、まずカードを1枚セットしましーテ、古代の機械飛竜(アンティーク・ギアワイバーン)を召喚。このカードが召喚、または特殊召喚に成功した時、1ターンに1度だけデッキから別の古代の機械1枚をサーチすることができるノーネ。この効果で古代の機械箱(アンティーク・ギアボックス)を選び、さらにドロー以外で手札に加わった古代の機械箱はそのモンスター効果で、デッキからもう1枚攻守どちらかが500ポイントの地属性機械族モンスター……古代の機械素体(アンティーク・ギアフレーム)をサーチできますーノ」

 わずか1体のモンスター召喚から芋づる式にサーチを行い、結果的に2枚のカードを新たに手札に加えるクロノス先生。古代の機械飛竜の方は前のデュエルでも使っていたのをそのままデッキに入れただけなんだろうけど、古代の機械素体?あれは初めて見るカードだ。
 そんな用心を知ってか知らずか、おもむろに機械仕掛けのワイバーンが動く。

「バトル、古代の機械飛竜でグレイドル・イーグルに攻撃するノーネ!」
「やっぱり……!」

 グレイドルモンスターには、戦闘破壊に対応して相手モンスターに寄生する効果がある。それを承知なはずのクロノス先生があのモンスターを攻撃表示で召喚してきた時点で何かあるとは思ったが、案の定仕掛けてきたか。となるとあの未知のカード、古代の機械素体の効果は手札誘発か何かだろうか。ともあれ古代の機械飛竜がその口をぱかりと開くと、喉の部分に内蔵されていた噴射口からまるで本物の竜が吐いているかのように火炎弾が打ち出される。咄嗟にイーグルが僕の腕から飛び立ち、その炎を大きく広げた翼で受け止めた。

 古代の機械飛竜 攻1700→グレイドル・イーグル 攻1500(破壊)
 清明 LP4000→3800

「まずは一撃。ファーストダメージは頂いていくノーネ」
「この程度!この瞬間、戦闘で破壊されたイーグルの……あれ?」

 本来ならば、炎を浴びて溶け崩れたイーグルはスライム状になって地表を移動、不意をついてワイバーンに寄生してコントロールを奪うはずだ。だが、いつまでたってもその気配がない。

「古代の機械の能力がすべて同じだとは、思わない方が身のためナノーネ。古代の機械飛竜は自身が攻撃する間、相手の魔法、罠の発動を防げないかわりに、モンスター効果の発動を許しません。さあ、これでターンエンドしますーノ」

 清明 LP3800 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:なし
 クロノス LP4000 手札:6
モンスター:古代の機械飛竜(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「突破してくる覚悟はしてたけど、まさか手札すら減らせないとはね……まだまだ、ドロー!」

 今引いたカードは……地獄の暴走召喚、ねえ。自身の特殊召喚を許さない古代の機械巨人を高速召喚をしての制圧を軸にするクロノス先生相手なら悪いカードじゃないんだけど、よりによって今ここで引くのはまずい。となると、なんとか元から手札にあるカードで……ん?なんだろう、何か引っかかる。待てよ……?

『ふむ。マスターが自力で考えるのならば、私は余計な口出しはすまい。下手な手を打って後悔する前に、よく考えてカードを選ぶことだ』

 何かを感じながらもその何かがわからず苦しむ僕にアドバイスでもくれるのかと思いきや、相変わらずの放任主義でまた静観モードに入るチャクチャルさん。ただあの口ぶりからして、チャクチャルさんもこの手札から何かに気が付いたようだ。そして恐らくそれは、僕が引っかかっているのと同じことだという予感がする。先生の場には召喚、特殊召喚時にサーチを行う古代の機械飛竜、僕の墓地にはグレイドル・イーグルがいて、今手札には地獄の暴走召喚とそのトリガーにできる魔法カード、浮上がある……。
 駄目だ、わからない。ここで地獄の暴走召喚を使うことがベターな手だとは、どうも思えない。じゃあいったい、何がこんなに引っかかっているんだろう。
 懸命に手札を睨んで考えていると、突然その思考をぶった切るようにして頭上のスピーカーから聞き覚えのある声が突然降ってきた。

『コホン。全校生徒の皆さん、2年の葵・クラディーです。皆さんお探しのクロノス先生の行方ですが、つい先ほど遊野先輩と遭遇、今現在デュエル場にてデュエルをしています。恐らくこのデュエルで先輩が勝てば、クロノス先生は授業を再開していただけるのでしょう。全校生徒の皆さん、先輩の応援のため至急お集まりいただくよう願います。以上、緊急連絡でした』
「むむむ、しまったノーネ!まさか最初からこれを狙って、こうなったらこの勝負は一度預け……」
「いたぞー!」
「確かにクロノス先生だ!」
「こんなところにいたのか!」
「ギャビーン!囲まれてしまったノーネ!?」

 ……なーるほど。あの時見捨てられたのは僕への復讐がてら、自分が放送室にたどり着くまでの間クロノス先生を足止めしておくことまで兼ねていたとはね。葵ちゃんったら、ほんっと抜け目ないんだから。ここまでいいように使われると、なんかもう怒る気も湧いてこない。しかも、ちゃっかり僕が勝てば授業再開だなんておかしな条件付けてるし。あんな全校放送で明言されれば、いくらそれが根も葉もないデタラメでも面と向かっては否定しづらいだろう。特に今回の場合クロノス先生だって、本当は授業をしないなんてありえないことだという負い目があるはずだからなおさらだ。
 でもだからって、こんなえげつない情報操作するかね、普通。仮に今年の卒業失敗しても、絶っ対に葵ちゃんのことは面と向かって敵に回さないようにしよう。
 まあ内容はともかく、その効果が抜群だったことは間違いない。今の放送を聞いてすぐにわらわらと集まってきた全校生徒が、アリの子1匹逃げ出せないほどにデュエル場を取り囲む。こんなに一度に詰めかけて、すっ転んだらどうする気なんだか。
 ……いやいやいや、待てよ?今なんて言った、一度に?そうか、そういうことか。これは結果的には、葵ちゃんのおかげといえるのだろうか。ともかくこの状況のおかげで、ようやくさっき自分が何に気が付こうとしていたのかがわかった。だとしたらここでの正解は、こうだ。

「まんまとしてやられましたね、僕も先生も。やられたものはどうしようもないから、デュエルは続けますよ」
「まあいいでショウ。あなたやシニョール十代のようなラーイエローに昇格しようという意志すら見られないドロップアウトボーイズごときに、早々敗北する私ではないノーネ。よろしい、もし私がここで負けたーラ、授業でもなんでもやってやりますーノ」
「今の聞いた、皆!?言質は確かに取ったからね!そうと決まれば魔法カード、浮上を発動!僕の墓地からレベル3以下の水族モンスター、グレイドル・イーグルを表側守備表示で蘇生!」

 グレイドル・イーグル 守500

「そして相手フィールドにモンスターが存在し、僕の場に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚された時。速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動!僕のデッキからさらに2体、グレイドル・イーグルを攻撃表示で特殊召喚!」

 再び蘇ったイーグルの全身がぶるぶると小刻みに震えたかと思うと、その全身が突然2つ、そして3つにアメーバよろしく分裂増殖していく。結果的に僕の場には、元の姿と寸分違わない3体のイーグルが残ることとなった。

 グレイドル・イーグル 攻1500
 グレイドル・イーグル 攻1500

「ですが地獄の暴走召喚はその強力な展開能力の代償として、相手プレイヤーにも場のモンスターと同名モンスターを可能な限り並べさせてしまいますーノ。私もデッキから、さらなる古代の機械飛竜を……なるほどシニョール清明、確かに悪知恵に関してはだいぶ成長したようなノーネ」

 古代の機械飛竜 攻1700
 古代の機械飛竜 攻1700

 案の定3枚入っていた古代の機械飛竜の残り2体がフィールドに呼び出され、その効果を発動しようとしたところでクロノス先生も気づいたらしい。口角を釣り上げ、感心したように薄く笑う。

「ええ。古代の機械飛竜のサーチ効果は、同名ターン1でしか使えない。複数体を一度に引っ張り出しておけば、効果を使われるのは1体分で済みますからね」

 これこそが、僕の気づいた効果の抜け道。特殊召喚時サーチ相手に地獄の暴走召喚を発動するなんてありえないという固定概念に捕らわれなければ、案外これも悪い手でもない。確か古代の機械にはデッキリクルートを行う古代の機械射出機(アンティーク・ギアカタパルト)なるカードもあったはずだから、デッキ内の古代の機械飛竜を全部他の場所に移すことにはそれを防ぐ意味もある。

「ですが、やはり1枚はサーチをさせてもらいますーノ。私が手札に加えるのは2枚目の古代の機械箱、このカードにするノーネ。そして再びその効果により、デッキから今度は攻撃力500の古代の機械砲台(アンティーク・ギアキャノン)をサーチ」
「結局手札を2枚増やされた事に変わりなしか……だとしても、今更やることに変わりはない!バトル、グレイドル・イーグルで攻撃表示の古代の機械飛竜に攻撃、ダメージを受けてそのまま寄生!」

 グレイドル・イーグル 攻1500(破壊)→古代の機械飛竜 攻1700
 清明 LP3800→3600

 再び黄色の鷹と機械の小竜の攻撃が激突し、あっけなく四散したイーグルが今度こそその銀色の体を精密機構の内部へと滑り込ませる。

「これでよし、次に2番目のイーグルで……」
「1体は通しますが、カウンタートラップ発動、攻撃の無力化!残念ですーガその攻撃は時空の渦に飲み込まれ、バトルフェイズも強制終了と相成るノーネ」
「しまった!」

 イーグル3体の攻撃でクロノス先生の場を一掃しつつ奪い取ったイーグルでダイレクトを決めてやろうとするも、それはあっさりと未然に防がれる。となると当然、返しにあのゴーレムを召喚してくるだろう。イーグルの効果が飛竜に通用しないのはわかったけれど、当然巨人に対しても何らかのグレイドル対策カードが手元にあるはずだ。
 となると、多少の危険は承知のうえでこのカードを使うべきだろう。ともかく、無防備な状態でターンを明け渡すのは絶対にまずい。

「メイン2に魔法カード、一時休戦。互いにカードをドローして、次の先生のターンが終わるまでの間あらゆるダメージを0にする」
「早速逃げの一手ナノーネ?ではありがたく、ドロー」

 僕のデッキにとって大事なドローエンジンとなるグレイドル・インパクトや補給部隊、ウォーターフロントはまだ引けていない。とりあえず次のターンの安全こそ確保できたものの、そこから先は完全に未知の戦いになる。

「……ターンエンド」
『ま、あの攻撃が通った場合に得られたリターンの大きさを考えれば多少のリスクはやむを得ないだろう。この程度で済むなら安いものだ、私でもあの場面なら暴走召喚を使っていた。だからそう気に病むな』
「そうは言うけどさあ……」
『ああ、そうなると気になるのは発動タイミングだな。なぜ最初の攻撃だけはわざわざ通したんだ?』

 現実問題としてクロノス先生の場には3体ものモンスターが揃い、手札も先ほどのサーチのおかげでまだまだ潤沢にある。鬼が出るか蛇が出るか、どちらにせよより一層気を引き締めていこう。

「私のターン。速攻魔法、リロードを発動。手札全てをデッキに戻し、その枚数だけドローできるノーネ。そして2体のモンスターをリリースして、アドバンス召喚!出でよ、古代の機械巨人-アルティメット・パウンド!」

 1瞬召喚して即攻撃宣言でもしたのかと思ったが、どうもそういう訳ではないようだ。何気にあの人が最初から自分1人で始めたデュエルでは初めてかもしれない、リリース軽減やトークン召喚などの小細工なしに見るアドバンス召喚により呼び出されたその姿は、特徴的な左腕の爪といいそのモノアイといいまさに先生のエース、古代の機械巨人。
 だが……ほんの少し。本当に少しだけ違う。表面の光沢、内側から覗く歯車の色やわずかなサイズ。そういった細かな違いが、その巨人をこれまで見てきた同型の巨人とは別物だと無言で物語っていた。

 古代の機械巨人-アルティメット・パウンド 攻3000

「永続魔法、古代の機械要塞(アンティーク・ギアフォートレス)を発動。そしてバトル、まずは古代の機械飛竜を奪い返すノーネ!」

 地響きとともにそのもう1人の巨人が足を踏み出すごとに、その周辺に床をかち割って歯車仕掛けの巨大要塞が浮上する。もちろんソリッドビジョンなことは百も承知なのだがその巨大さはフィールド魔法並みで、巨人がその歩みを止めた時には既にデュエル場全体が要塞の内部に取り込まれていた。
 そして、そんな要塞の内部で僕らを見下ろす巨人のモノアイが1瞬光を増す。おもむろに振りかぶられた拳が、要塞の破壊もお構いなしに叩き落された。

 古代の機械巨人-アルティメット・パウンド 攻3000→古代の機械飛竜 攻1700

「一時休戦の効果で、ダメージは……」
「確かにダメージ『は』、通りませんーノ。ですが相手モンスターを戦闘破壊したことで、アルティメット・パウンドの効果発動!手札の機械族モンスター、古代の機械箱を捨てることでその横のグレイドル・イーグルに連続攻撃!」
「連撃効果!?ならイーグル、あのデカブツに……」
「もちろん、そんな失策を犯すほどこのデュエル担当最高責任者の称号は軽いものではないーノ。古代の機械要塞の効果により、このターン場に出された古代の機械は相手の効果対象にならず、相手の効果で破壊されないノーネ!」

 次いでもう片腕を振っての爪の一撃が、イーグルの体を大きくえぐる。いつものように衝撃に逆らわず液状に溶けて寄生に取り掛かろうとしたイーグルだったが、その突撃はしかし大量の機械部品や歯車、そして瓦礫に阻まれて肝心の巨人まで届かない。今の一撃が勢い余って要塞内部を破壊し、大量の部品が盾となる格好で跳ね上がったのだ。

 古代の機械巨人-アルティメット・パウンド 攻3000→グレイドル・イーグル 攻1500(破壊)

「さらにこの効果は、1ターンに2回までの使用ができる。アルティメット・パウンドよ、その目障りな黄色い鷹に、最後の攻撃をくれてやるノーネ!」

 古代の機械巨人-アルティメット・パウンド 攻3000→グレイドル・イーグル 守500(破壊)

 再び押しつぶされたイーグルが液状になっての特攻を仕掛けようとするも、またもや破壊された要塞の内部機械にその突撃が阻まれる。
 それにしても、あんな隠し玉を手札に抱えていたなんて。もしさっきのターン、次のターンぐらいならいくらなんでも大丈夫だろう、と一時休戦を出し渋っていたら?かなりギリギリの選択だったことに気が付いて、どっと冷や汗が噴き出る。用心はし過ぎぐらいでちょうどいい、か。あ、今の575だ。清明心の俳句。

『……それだけ余裕があるならまだ私が出る必要はないな。豪胆、というよりはむしろ紙一重の方だが』

 ちょっと考えるぐらい別にいいじゃない、もう。TPOをわきまえて口には出さなかったのに、心読むことはないでしょうに。
 そんな冷たいチャクチャルさんは放っておいて、今はクロノス先生だ。古代の機械要塞によって得られる耐性はあくまでこのターンのエンドフェイズまで、次の僕のターンになれば耐性は消えるしダメージも通る。なんとかグレイドルを呼び込むことができれば……だがそんな考えすらも見透かしているかのように、クロノス先生が白い歯を見せて笑う。

「まさかシニョール清明、私がこのアルティメット・パウンドを無防備に立たせたままでターンを譲る、そんな馬鹿なことは思っていませんよネ?アルデンーテ、まだ私の実技授業はこれからが本番ナノーネ!魔法カード、アイアンコールを発動!私の場に機械族モンスターが存在するとき、私の墓地からレベル4以下の機械族モンスターを効果を無効にして特殊召喚できるーノ。甦れ、古代の機械砲台!」

 どうやらついさっき、アルティメット・パウンドが連続攻撃を行う際に捨てたモンスターだったらしい。要塞の床の一部が開いてひっそりと小型の砲台が地面からせり上がってくるものの、効果が無効なためかその歯車は完全に沈黙している。

 古代の機械砲台 攻500

「そして魔法カード、機械複製術。この効果で、攻撃力500以下の機械族をデッキから増やすことができる」

 古代の機械砲台 攻500
 古代の機械砲台 攻500

「……」

 攻撃力500の機械砲台が、さらに2門追加でせり上がってくる。でもいまさらモンスターを増やしたところで通常召喚は行えないはずだし、あのカードの自身をリリースして相手にダメージを与える効果だって一時休戦中の今は何の意味も持たない。と、なるとクロノス先生の狙いは当然……。

『コスト、だろうな』
「これで準備は整ったノーネ。魔法カード、魔法の歯車(マジック・ギア)を発動。私のフィールドからアンティーク・ギアと名のつくカード3枚を墓地に送ることで、手札、そしてデッキから古代の機械巨人を1体ずつ召喚条件を無視して特殊召喚できますーノ!さあ覚悟するノーネ、シニョール清明!」

 せっかく出てきた機械砲台3門だったが、再び床が開いて要塞内に収納されていく。その直後、要塞全体が揺れた。要塞の壁が崩れ、その向こう側の暗闇で輝く赤い光が2つ。自らの開けた大穴をくぐり、2体の巨人がアルティメット・パウンドの横に並び立った。

 古代の機械巨人 守3000
 古代の機械巨人 守3000

「嘘でしょ……?あんなデカいのが3体?」
「ノンノン、残念ながらそううまくはいかないノーネ。魔法の歯車のデメリットにより、私のフィールドに存在する古代の機械巨人以外のモンスターはすべて破壊されますーノ」

 その言葉通り、2体の巨人がやってくると同時にアルティメット・パウンドの体の表面にプラズマが走る。関節部分からは嫌な感じのする黒煙が噴き出し、モノアイの光も頼りなく点滅する。先ほどの3連撃が嘘のようにあっけなく限界を迎えたもう1つの巨人は、仲間たちと並び立つのを待たずしてその場に崩れ落ちた。

「ですがアルティメット・パウンド、あなたの犠牲は無駄にはなりまセン。このカードがフィールドで破壊された時に私は墓地から古代の機械1枚を、そしてデッキから融合の魔法カード1枚をそれぞれ加えることができますーノ。さらに今サルベージしたカードは古代の機械箱、またまた効果を発動して守備力500の古代の機械騎士をサーチするノーネ」
「またサーチ……それに、融合?」
「ニョホホホホ。これが年の功、あなた達みたいな小童とは年季が違うノーネ」

 悔しいけど何も言い返せない。このデュエルが始まってからというもの、全てのターンでドロー以外にもサーチを行っている無駄のない動きは本物だ。おまけに古代の機械巨人は攻撃表示、あれじゃあグレイドルを引けても自爆戦法が使えないときた。
 だがそれ以上に気になるのが、デッキからサーチされた融合のカード。融合?そんなものクロノス先生、これまで使ったことあったっけ?

「なにやってんだ、清明ーっ!」
「俺もう就職決まってるんだぞ、負けたら承知しないからなー!」

 外野が言いたい放題言ってくれちゃって、まあ。なら今すぐこっち来て場所替わってみろ、ってんだ。

 清明 LP3600 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:なし
 クロノス LP4000 手札:4
モンスター:古代の機械巨人(守)
      古代の機械巨人(守)
魔法・罠:古代の機械要塞

「ドロー」

 ……仮に融合召喚をするにしても妨害手段があるわけでもなし、考えていたところでどうもならない。守備表示に困るなら、無理やりにでも攻撃表示の奴を出してやればいい。そのためにも、このカードが役に立つはずだ。

「魔法カード、強欲なウツボを発動。手札の水属性モンスター、サイレント・アングラーと氷帝メビウスの2体をデッキに戻してカードを3枚ドローする」

 これでこのデュエルも5ターン目。確率とかあんま計算したことはないけど、これまでこのデッキを使ってきた体感的にはそろそろ1枚ぐらい手札に来てもおかしくないはずだ。勢いよく引き抜いた3枚のカードに目をやって計算通り、どころかそれ以上の結果によしよしと頷く。

「古代の機械巨人1体をリリースしてクロノス先生、そっちの場に海亀壊獣ガメシエルを特殊召喚!」

 要塞の内部を縫って四方八方から飛んできた水流が、片膝で防御姿勢を取る巨人の片方を押し流す。みるみるうちに水没していく姿が見えなくなっていき、やがて完全に包まれたところでその真上から落下してきた巨大亀がその水の塊ごと押しつぶした。
 よしよし、これでまずは1体。でも、まだ終わりじゃない!

海亀壊獣ガメシエル 攻2200

「そしてグレイドル・コブラを召喚。ガメシエルにコブラで攻撃!」

 床から先ほど四散したグレイドルのかけらがうぞうぞと寄り集まり、先ほどのイーグルとは違い赤いコブラを形作る。一度体を縮めて足の無い体で器用に踏ん張り、勢いよく大亀に飛びかかっていった。ガメシエルがその太い尾の一振りで突撃を阻むと、その衝撃を利用してコブラの体がまたも四散する。

 グレイドル・コブラ 攻1000(破壊)→海亀壊獣ガメシエル 攻2200
 清明 LP3600→2400

「ぐっ……!でもこれで、コブラは効果が発動できる。もう1体の古代の機械巨人、こっちで預からせてもらいますよっと」
「ぐぬぬぬぬ、私の古代の機械巨人2体が……思い返せばあなたはそれこそあの入学試験の時から、人のモンスターをリリースするわ奪い取るわと、やりたい放題この上なかったノーネ」
「勝てば官軍ですよ、勝てば」
「ならば教育的指導の一環として、ドロップアウトに相応しい負けた賊軍にしてやるから覚悟するノーネ!」

 古代の機械巨人を奪い取った……のはいいが、あいにくと守備表示なため追撃には移れない。一応守備力3000はあるため壁としても申し分ないけれど……手札にこのカードがあるのだから、その兼ね合いも考えてここは動かしておこう。

「メイン2に奪い取った古代の機械巨人を攻撃表示に変更。さらにカードを2枚伏せて、ターンエンドです」

 古代の機械巨人 守3000→攻3000

「私のターン。魔法の歯車のデメリットによりこのターン、そして次のターン私は通常召喚ができないノーネ。ですがその程度のこと、何の障害にもなりませんーノ!手札から魔法カード、アドバンスドローを発動!私の場のレベル8モンスター、あなたの寄越してきたガメシエルをリリースして、カードを2枚引くノーネ」
「でもこれで、先生の場は空になった……」
「ノンノン、全然問題ないノーネ。私の狙いはむしろ、あなたの送りつけてきた邪魔なモンスターをなくすこと……私のフィールドにモンスターが存在しないことで、このカードの発動条件が満たせたノーネ!魔法カード、古代の機械射出機(アンティーク・ギアカタパルト)を発動!私の場の古代の機械要塞を破壊して、デッキからこのカードを特殊召喚するノーネ!出でよ、古代の機械素体!」
「しまった、狙いは最初っから……!」

 気づいた時にはすでに遅い。条件を満たしたことによりデッキリクルートが行われ、先ほどサーチされたもののすぐにデッキに戻された人型の古代の機械が特殊召喚される。

 古代の機械素体 攻1600

「さらにさらに、破壊された古代の機械要塞の最後の効果を発動。表側のこのカードがフィールドで破壊された時、手札か墓地のアンティーク・ギア1体を特殊召喚できますーノ。古代の機械巨人やアルティメット・パウンドには特殊召喚制限があるので呼び出すことができませんが、このカードにはそんな制限はついていないノーネ。甦りなサイ、古代の機械飛竜!そしてその効果で、デッキから古代の整備場(アンティーク・ギアガレージ)をサーチするノーネ」

 古代の機械飛竜 攻1700

「すげえ……」

 要塞が破壊されたことで再び周りの風景が元の校内に戻っていく中、そんな呟きがギャラリーの誰かからポツリと漏れる。ああ、まったくだ。まるで召喚に制限がかかったターンの動きだとは思えないこの展開っぷり、やっぱりこの人は凄い。何度立ち向かっても圧倒的な強さを見せつけてくれる、ずば抜けたデュエリストだ。
 だけど僕はその人に、ここで勝たなくっちゃいけない。それがこの人から3年間ずっと授業を受けてきた生徒として、絶対にこなさなくちゃいけない最低限の礼儀だ。そんな思いを知ってか知らずか、クロノス先生のターンはまだ続く。

「今サーチした魔法カード、古代の整備場を発動。私の墓地から古代の機械巨人をサルベージするノーネ。そして、古代の機械素体の効果を発動。私の手札1枚を捨てて、デッキから最後の古代の機械巨人をサーチしますーノ」

 これでクロノス先生の手札には、古代の機械巨人が2枚。特殊召喚のできないモンスターをそんなに抱えていったい何を……いや、そうか。クロノス先生の手札には、さっきアルティメット・パウンドが死に際にサーチしたあのカードがある。

「どうやら気づいたようなノーネ?魔法カード、融合を発動。手札の古代の機械巨人2体と、場の古代の機械素体の3体を素材として、融合召喚!今こそ進化するノーネ、古代の機械超巨人(アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム)!」

 メガトン、の名が示すように相当な重量級らしく、これまでの古代の機械巨人をも上回るほどの地響きを起こして大量の砂埃と共に空から降ってきた融合体が着地する。やがてそれも収まり、僕らの前にその姿を現した古代の機械の融合体、その巨人の姿は。

『なかなか壮観だな』

 その胴体から飛び出ているのは融合素材数を反映したのか、なんと合計6本もの巨大な鋼鉄の腕。そんな思い体を支える下半身はといえば、もはや人型というよりも移動要塞のような6本の鋼鉄の足。僕らを、そして僕の側に立つ巨人を無感情に見下ろすモノアイが、獲物を発見して光を強めた。

 古代の機械超巨人 攻3300

「これだけで終わらせる気はないノーネ。あなたのしぶとさは私もよく知っているから、手加減は抜きで。装備魔法、重力砲(グラヴィティ・ブラスター)を装備し、1ターンに1度攻撃力を400ポイントアップさせますーノ」

 古代の機械超巨人 攻3300→3700

「さあ覚悟するノーネ、古代の機械超巨人で古代の機械巨人に攻撃!」
「バトルフェイズに入る前に永続トラップ発動、ディメンション・ガーディアン!このカードの対象になっている限り古代の機械巨人は、あらゆる方法で破壊されない!」
「だとしても、ダメージはそのまま通るノーネ!」

 古代の機械超巨人 攻3700→古代の機械巨人 攻3000
 清明 LP2400→1700

 超巨人がその6本の足で体重からは予想もつかないようなスピードで走り、こちらの巨人の眼前に迫る。2体の巨人の右こぶしがほぼ同時に唸り、次の瞬間には轟音と共に互いのパンチがぶつかり合っていた。とはいうもののその体重も出力も圧倒的に超巨人の方が上、腕力の差で巨人がじりじりと押しこまれていく。
 それでもなんとか、巨人は踏ん張った。辛うじて破壊されることなくしのぎ切ったところで、超巨人の左腕のうち1本がゆっくりと持ち上がっていくのが見えた。まさか、と思う間もなく、その鋼鉄の爪が無防備な巨人の背中に振り下ろされる。

「古代の機械超巨人は古代の機械巨人を素材としたことーデ、その枚数ぶんだけ1度のバトルフェイズに攻撃が可能なノーネ。私が素材とした古代の機械巨人は2体、よってもう1度攻撃させていただきますーノ」

 古代の機械超巨人 攻3700→古代の機械巨人 攻3000
 清明 LP1700→1000

「なかなかのしぶとさですが、その粘りもこのターンまでナノーネ。ターンエンド」

 辛うじてこのターンはどうにか生き延びれたが、ここからどうする?古代の機械巨人の進化体ということは、十中八九あの超巨人も貫通能力は受け継いでいるだろう。となると、巨人を破壊されない壁として置いておくわけにもいかない。
 そして更に輪をかけて状況を厄介にしているのがあの装備魔法、重力砲だ。通常の装備魔法とは違い1ターンに1度攻撃力をアップさせていくためその上昇値に際限がなく、たとえ重力砲そのものを破壊したとしても上がった攻撃力はそのままモンスターに残される。おまけに追加効果として装備モンスターが戦闘を行う相手の効果を無効にしてくるため、攻撃を仕掛けるなら純粋にその数値で上回るしかない。
 まったく、ここに来て随分きついモンスターを出してくれたものだ。

 清明 LP1000 手札:1
モンスター:古代の機械巨人(攻・コブラ・ガーディアン)
魔法・罠:ディメンション・ガーディアン(巨人)
     1(伏せ)
 クロノス LP4000 手札:2
モンスター:古代の機械超巨人(攻・重力砲)
魔法・罠:重力砲(超巨人)

「僕のターン!」

 仮にここで壊獣を引くことができたとしても、僕の手札に他の壊獣がいない以上巨人の攻撃力で対処できることが大前提となる。超巨人を残しておくよりははるかにマシだが、それにしたって一時しのぎでしかない。ただ唯一光明が見えるとすれば、この僕に残った手札。デュエル開始時からずっと手元にあった、僕の大切な1枚。もし、もしも、ここであのカードを引くことができれば、あるいは……。

『違うな、マスター。もしも引ければ、ではない』
「え?」
『もっと自信を持つんだ。もしも、はない。引くと言ったら引く、確実に次で引き当てる。それぐらいの気概を見せてみろ』
「言ってくれるねぇ……でもま、そりゃその通りだね。わかったよ、これまでそうして来たみたいに、今日だって必ず引いて見せるさ。ここからが反撃開始、ドロー!」

 このデッキの中にたった1枚眠る、この状況を打破して逆転に繋げられるカード。それが今、僕の元に……届いた。

「魔法カード、妨げられた壊獣の眠りを発動!全てのモンスターを破壊して、デッキから互いの場に1体ずつの壊獣をリクルートする……でも僕の場の古代の機械巨人は、ディメンション・ガーディアンの効果で破壊から守られる!消え去れ、超巨人!」

 壊獣を呼ぶ破壊の嵐がフィールドに渦巻き、超巨人が、そしてその横の飛竜が飲みこまれて粉々になる。だが宣言通り怪獣を呼び出そうとデッキに手を掛けたところで、ふと僕の頭上に影がかかった。実内なのにどういうことだろうと何気なく見上げると、そこには信じられない存在がいた。

「な、こ、これは……」
「やはり計算通り、効果で除去しに来ましたネ。光栄に思いなサイ、私の教師人生の中で、生徒相手にこれを見せるのは初めてナノーネ。融合召喚された古代の機械超巨人は、相手の効果で場を離れた時に後続となるさらなる融合体……古代の機械究極巨人(アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレム)を特殊召喚するノーネ!」

 古代の機械究極巨人 攻4400

 超、を越えた究極の巨人、これがクロノス先生の真の切り札だというのだろうか。手の本数は2本、それを支える足は4本と伝説の魔獣ケンタウロス、そんな言葉を想起させるその姿はパーツの数だけ見れば超巨人の方が上だが、そんなもの微塵も感じさせない規格外さを誇るのはまさにその腕だ。ベースとなる古代の機械巨人と同じものをそのまま流用していた超巨人とは違い、あらゆる面で戦闘に特化されたカスタムの加えられたその両腕はおそらくひと打ちで山をも砕き、海をも叩き割るだけの出力を秘めているだろう。重心を整えるためか背面から飛び出る尾のようなコードが、地面を重く打ち据える。

『マスター?マスター!』

 そんな最終兵器を前にして完全に固まっていた僕だったが、頭に直接響くチャクチャルさんの声でどうにか現実に引き戻された。そうだ、落ち着け。確かに古代の究極巨人は恐ろしいモンスターだし、超巨人が倒れても即座に現れるその様はクロノス先生のよくわからないこの勝負にかける執念の象徴そのものにも見える。
 でもそれも、今の僕の敵ではない。あのデカブツをたたっ切る算段は、すでに僕の手の中にある。

「妨げられた壊獣の眠りの効果でクロノス先生のフィールドに多次元壊獣ラディアンを、そして僕のフィールドにはこのカードを!来い、壊星壊獣ジズキエル!」

 単純な攻撃力だけで考えるなら、クロノス先生の場に出すのはわずか400ポイントの差とはいえより攻撃力の低い粘糸壊獣クモグスの方が適役だったろう。ただクモグスは古代の機械と同じ地属性……ないとは思うが、万一地属性サポートを使われた場合のことも計算に入れて闇属性悪魔族かつレベル7なためアドバンスドローのコスト役にもならないラディアンを選んだ。

 多次元壊獣ラディアン 攻2800
 壊星壊獣ジズキエル 攻3300

「今更攻撃力3300のモンスターを出した程度で……」
「確かにこのジズキエルですら信じられないことに、今の盤面だったら力不足。だけど僕の手札には今、僕と一緒に戦い抜いてきた原点にして頂点の切り札がある!攻撃力3000の古代の機械巨人、そして同じく3300のジズキエル。この2体をリリースしてアドバンス召喚、霧の王(キングミスト)!」
「その攻撃力はアドバンス召喚の際にリリースしたモンスターの合計値……まったく、そういえばあの時も、あなたは私の古代の機械巨人をリリースしてその攻撃力を断りもなく一方的に奪っていったノーネ」

 どこか遠い目をして、クロノス先生が昔を懐かしむ。あの時、というのは無論、全ての始まりとなったあの入学試験デュエルのことだろう。そしてその目の前で、霧の王がその剣を正眼に構えて究極巨人と対峙した。

 霧の王 攻0→6300

「クロス・ソウルを使ってたあの時とは手順が違いますよ、手順が」
「でも本質はそのまま、そういうのを馬鹿の一つ覚えと呼ぶノーネ」
「うっ」
『これは見事に一本取られたな』
「ち、違うもん。こーいうのはね、苔の一念岩をも通すってのさ。今からそれを証明してやる、さあ頼むよ霧の王!古代の機械究極巨人に攻撃、ミスト・ストラングル!」

 ここでラディアンを狙えば、クロノス先生のライフは残り500まで減らせる。それはそれで魅力的な案ではあるし1瞬そうすることも考えたが、すぐ思い直して先に危険度が高い方を排除しておくことにした。それに、妨げられた壊獣の眠りで呼び出したモンスターには攻撃できる限り必ず攻撃宣言をしなければならないデメリットが附属する。もし上手いこといけば、ここで究極巨人を倒すだけでなく返しにラディアンの攻撃を暴発させることもできるかもしれない。

 そして僕の指示を受けた霧の王が飛び上がり、振りぬかれた剛腕を紙一重の動きで回避して究極の巨人の脳天に自らの剣を振り下ろす。分厚い金属の体に深々と食い込んだ刀身を伝って、黒いオイルがまるで血のように垂れて地面に落ちた。ややあってその両腕も力を失いだらりと垂れさがり、モノアイの光もみるみるうちに薄くなる。究極の巨人もまた、超巨人の後を追うようにその機能を停止した。

 霧の王 攻6300→古代の機械究極巨人 攻4400(破壊)
 クロノス LP4000→2100

 ……こ、これで今度こそ、今度こそ倒したはずだ。だがそんな僕の淡い希望を打ち砕くかのように、一度は光を失ったはずのモノアイが再び点灯する。崩れ落ちた体が身震いし、自らの体の残骸を押しのけて三度巨人が起き上がる。だが度重なるダメージにもはやその姿は融合体としての力を完全に失っており、シンプルかつ力強い、そして見慣れた巨人がそこにいた。あの入学試験の時からずっと、1度もあいまみえることのなかった僕らのエースモンスターが、卒業間際のこのデュエルになってようやくフィールドで対峙したのだ。

 古代の機械巨人 攻3000

「ま、まーだ次が出てくるの……?」

 いつの間にか、息の上がってきた自分に気づく。始末しても始末してもこれでもう大丈夫だろうと思うたびにまた形を変え姿を変えて切れ目なくフィールドを支配し続ける巨人ども、一撃でも食らったら即そこでデュエル終了になるような大型モンスターのラッシュに、いい加減単純な体力ではなく精神が疲弊してきたのだ。

「古代の機械究極巨人は破壊された時、自分の墓地の古代の機械巨人1体を召喚条件を無視して特殊召喚できますーノ。それからシニョール清明、それは当たり前なノーネ……このデュエルは、私は絶対に負けたくないノーネ……」

 それは、デュエリストとしてみれば何もおかしなところのない言葉だ。負けたくない、そんなもの誰だってそうだ。だけど、今の言い方には少し引っかかるものを感じる。

「……クロノス先生。そもそも、なんで授業を突然止めちゃったりなんてしたんですか?」

 こうして今デュエルしている理由も、結局のところ元をたどればそこに起因する。「このデュエルに」負けたくないということは裏を返せば、負けて授業を再開したくないという思いが根底にあるはずだ。これだけ長い間デュエルを続けてきたのに、まだその理由を誰も聞いていない。
 全生徒が、そしていつの間にかその中に混ざっていた鮫島校長やトメさんの視線が集中する中でわずかに沈黙の時が流れ、次の瞬間クロノス先生が誰も予想しなかった行動に出た。なんとその両目にいきなり大粒の涙が溢れ、恥も外聞もなく男泣きに泣き崩れたのだ。

「マンマミーヤ!」
「えっ?」
「あなた達が卒業なんてしたら、皆とはそれでお別れになってしまいますーノ!そんな寂しいことをこれ以上我慢して、授業なんてとてもじゃないけど私にはできないノーネ!こんなこと私の教師生活の中でも初めての経験だから、もうどうしていいのかわからないノーネ!」
「えぇ……」

 呆れ半分ではあるが、もう半分は……実は、クロノス先生の言うことも少しわかる。
 この3年間は、僕の人生の中でも特に濃い年月だった。開幕死んじゃったし、僕。それからも学校で商売始めたり、命どころか魂まで賭けて闇のデュエルを繰り返したり……あの時は無我夢中だったけど、ふと振り返った今なら自信を持ってこう言える。確かに、辛いこともあったけれど。それでもこの3年間はかけがえのない大切な、そして楽しい時間だった。そんな時間が終わるのは、僕だって嫌だ。そしてその思いは、多かれ少なかれここにいる皆が抱えているはずだ。
 もしかしたら、授業をボイコットして今クロノス先生の位置に立っていたのは、僕自身や他の生徒の誰かだったかもしれない。でも先生がその役を引き受けてくれているからこそ、僕らはこうしてそれを止める側に踏みとどまっていられる。考えようによってはあの人は今、僕ら全員の持つ弱さをたった1人で全て抱え込み、越えるべき最後の壁として立ちはだかってくれているのかもしれない。
 そう考えればあの人は、やっぱり最高の教師だ。なんて、少し美化しすぎたろうか。ま、そんなのもたまにはいいだろう。ロマンチックは嫌いじゃない。

「ムムム……さあ、わかったら、早くターンを譲るノーネ!」

 ようやく少し落ち着いたクロノス先生が涙を袖でぬぐい、若干赤い目のまま立ち直る。

「……ターンエンド!」

 次のターンだ。次のターンで、全ての運命が決まる。なら僕も、覚悟を決めてどっしりと迎え撃つのみだ。

「私のターン!」

 このドローで、クロノス先生の手札は計3枚。ただそのうち1枚は、先ほどサーチした古代の機械騎士かサルベージした古代の機械箱のどちらかと見てほぼ間違いないだろう。少なくともどちらかは古代の機械素体の効果を発動するために手札コストとして使われたはずだから、両方が手札にある可能性はまずない。どちらも今更この状況に影響を与えるカードではないだろうし、何よりクロノス先生はこのターンもまだ魔法の歯車のデメリットである通常召喚不可の制約を受けているからこれは無視しても問題ないはずだ。となると、警戒すべき残りは2枚。

「魔法カード、受け継がれる力を発動。私のフィールドから多次元壊獣ラディアンを墓地に送り、その元々の攻撃力を古代の機械巨人にこのターンの間加算するノーネ」
「墓地に送り、か……」

 霧の王はフィールドに存在する間互いのプレイヤーにあらゆるカードのリリースを許さない永続効果を持っているが、墓地に送り発動するカードまでは防げない。ただそれでも古代の機械巨人の攻撃力は、霧の王にあと1歩のところで届かない。

 古代の機械巨人 攻3000→5800

「墓地のトラップカード、スキル・サクセサーを発動!このカードを除外し、古代の機械巨人の攻撃力をこのターン800ポイントアップさせるノーネ!」
「……っ!」

 違う。手札コストは、古代の機械箱でも古代の機械騎士でもない。第三の手札は、とっくにこのターンへの布石として墓地に送られていたんだ。更なる強化を受けた古代の機械巨人の攻撃力が、なんとこのターンだけで霧の王に追いつき、そして追い越した。
 でも……でも、それでも僕は。

 古代の機械巨人 攻5800→6600

「これが私の本気、私の持てるすべてナノーネ。長かったこのデュエルにもここで決着をつけてやりますーノ、アルティメット・パウ……」

 攻撃宣言をしようとしたクロノス先生の言葉が、途中で止まる。その視線の先には、霧の王……片目を銀色に染めたオッドアイとなり、さらに上の力を得た僕の、そして僕たちの姿があった。

 霧の王 攻6300→6800

「……すいません、先生。トラップ発動、グレイドル・スプリット。このカードを霧の王の装備カードと、して……こうげ、き、力を、500ポイント……」

 そこまで言うので限界だった。必死にこみあげてくる涙を隠すために下を向き、両目に力を入れて溢れ出るそれをなんとかせきとめようとする。好いません、そんな謝罪の言葉を、震え声でもう1度吐き出す。クロノス先生が負けたくないという気持ちの源を知ってしまった以上、このカードを発動することに対しての躊躇いは大きかった。もしここで僕がこのまま負ければ、誰も卒業しなくて済む。
 だけど、それでも、僕はここで勝つことを選んだ。墓地にスキル・サクセサーがあったということは、残る手札は先ほど見た2枚だということ。つまりクロノス先生にはもう、これ以上打つ手はない。
 後悔がないといえば、大嘘になる。自分の手でこの生活との訣別の一手を打ったのだから、それが悲しくないわけがない。
 自分に言い聞かせる意味も込めて、何度でも言おう。それでも僕は、ここで勝つ道を選んだのだ。

「私の墓地から古代の機械射出機の効果を使って……いえ、グレイドル・スプリットには確か、モンスター2体をリクルートする効果もあったノーネ。私はこれで、ターンエンドしますーノ」

 不思議と、クロノス先生の口調は穏やかだった。憑き物が落ちたように微笑むクロノス先生の横で、強化カード2枚の効果が切れた古代の機械巨人の出力が通常の状態に戻っていく。

 古代の機械巨人 攻6600→5800→3000

「さあシニョール清明、何をぐずぐずしているノーネ。私が教師として全力で受け止めてあげますから、あなたも生徒として全力でぶつかってくるノーネ!」

 きっぱりと言い切るクロノス先生の声に後押しされるように、涙を振り払って顔を上げる。

「霧の王っ!古代の機械巨人に攻撃……ミスト・ストラングルウッッ!」

 それは、ほとんど絶叫に近かった。もう一度だけ繰り返そう。それでも、これがぼくの選んだ道だ。迷いも後悔もあるけれど、それでも僕は前を向こう。

 霧の王 攻6800→古代の機械巨人 攻3000(破壊)
 クロノス LP2100→0





 こうしてクロノス先生の授業ボイコット事件は終わりをつげ、その翌日からは無事に授業も再開された。時々ふとしたきっかけでしんみりした空気になったりすることもあったけど、それぐらいの変化は仕方ないだろう。また、何事もない日常が戻ってきたのだ。
 ……約1名を除いて。

「チクショウ、こんなことになるなら、ちゃんと授業受けとけばよかった~っ!」

 ああ、今日も大量にサボりまくった授業のツケとしてこれでもかとばかりに補習を受ける十代の悲鳴が校舎に響く。申し訳ないけど、これに関しては僕も散々口を酸っぱくして注意はしてたしねえ。僕知ーらないっと。 
 

 
後書き
基本的に清明は、二十代やってたこの時期の十代よりも精神年齢低めでイメージしてます。そのあたりがこのクロノス先生への反応の差です。 
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