KAMITO -少年篇-
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サバイバル演習:実力編
3人が飛び去った後、カカシはその場に1人残り、皆が隠れた方向を探っていた。
(忍たる者、基本は気配を消し隠れるべし。皆うまく隠れたな)
近くに3人の気配はなく、周りを確認したカカシは最初に誰を相手にするか考えていた。
その時。
シュッ!と風を斬る音が響き、カカシは瞬時に振り向いた。
「!?」
地を蹴って一気に飛び出したカミトが、地面ギリギリを滑空するように突き進んだ。
カカシの直前でくるりと体を捻り、右手に握られた《千切斬》を左斜めに向け、緑色の刃先をから下から叩きつけるように斬る。
確実に当たるかと思われたが……。
シュッ!
再び風を斬る音が発生。
「何!?」
不意に、カカシの姿が目の前から消えてしまった。
「こっちだ」
突然、後ろから声が聞こえ、瞬時に振り向いたカミトの眼に映ったのは、
「……い、いつの間に!?」
余裕な素振りを見せるカカシの姿がそこにあった。
「いや〜、今のはちょっと危なかったな。攻めはそこそこ良いが、まだまだ甘いぞ」
「………」
よく考えてみれば、今の攻撃が単純だったかもしれない。一応、相手を試すつもりで攻め入ったのだが、やはり実力はカカシのほうが上だろう。
緊張感に見舞われたカミトは、今以上に慎重に戦おうと身構える。
「本気モードに入ったようだな」
不意に、カカシが腰のポーチに手を入れた。
「!」
カカシから放たれた殺気に、カミトは一瞬体を強張らせた。
「忍び戦術の心得その1、《体術》をお前に教えてやる」
体術とは、忍者の組み手。己の肉体を武器として直接的に相手を攻撃、また移動や追跡等を指す。
忍が用いる術としては基礎的な技法で、一部例外を除き、チャクラを練り上げることも、印を結ぶ必要もなく、発動条件が複雑な忍術や幻術に比べれば術の構造は至って明快。
しかし、ポーチに手を入れた時点で、カカシが武器を使用することを悟り、警戒心を怠らないように気を張るカミト。
カカシは真剣な面持ちでスッとポーチから手を抜き出すと、その手には__。
「ん?」
途中からページが開かれた、《イチャイチャパラダイス》というタイトルの本が握られていた。いよいよ本気を出してくれるのかと半端期待していたのだが、勘違いもいいところだった。
「どうした?速くかかってこい」
そう言ってカカシは開いた本を読み始めてしまった。カミトは眼前の状況に呆然として動けなくなった。
「……あのぉ、カカシ先生?なんでこの状況で本なんか読むんですか?」
「なんでって、続きが気になるからさ。別に気にすんな。お前ら相手じゃ本読んでても関係ないから」
あまりに阿呆なカカシの態度に嫌気が差してきたカミトは、千切斬を握る手を、更に強く握った。
「あなたが俺らをどう思うかは勝手ですけど……これまでずっと努力を積み重ねてきた俺の思いまで踏み躙られるのは我慢なりませんね!」
堪忍袋の緒が切れたかのように、カミトは千切斬を再び構え、刀身に青いチャクラを溜め込み、一振りした。
「孤高斬!!」
シュウッ!、と何かが空気を斬る音。晴れ晴れした空間に煌めく青い弧状。刀身から勢いよく放たれた青い弧状チャクラに、カカシは鋭く反応した。
(これが、風魔手裏剣を真っ二つにした術か)
轟音と共に飛んでいくチャクラの刃を、カカシは軌道を予測したように一歩、二歩、三歩と足を後ろに動かした。すると、青く輝く刃はカカシの前をスッと通り過ぎ、見事に避けられてしまった。
(何、あの術!?あんなの見たことない!)
(カミトの奴、いつの間にあんな術を……)
木の茂みに身を隠していたサスケとサクラは、忍者にしては珍しい術を使ったカミトに仰天した。
「くぅ!」
一方、術を避けられてしまったカミトは、悔しさのあまり歯を食い縛った。
「ほぉ〜、結構良い術を持ってるな。当たっていたら、確実に死んでたな」
《封印の書》の事件でミズキの風魔手裏剣を真っ二つにした術だけあって、切れ味は中々のもの。殺す気でかかってこいとは言ったが、今の攻撃を確実に受けたらと思うと、さすがのカカシも少々怖じ気つきそうだった。
だが、そんなことを考える暇もなく、カミトに余念なく眼を光らせていた。本を読んでいるのはあくまで見せ掛けのつもりだろうが、どちらにしろ油断はできない。
(これがカミトの編み出した剣術……孤高斬か)
カミトの剣術を注意深く観察したまま、次の攻撃が来ないか警戒した。
(さっきからほとんど動いていない。これが上忍の実力か)
自分の一撃がカカシに対してまるで通用しないことに焦りを感じた。実際に当たったら、それはそれで不味いが、殺す気で攻めなければならない意味が改めてよくわかった気がした。
(あの強さ、ほとんど反則じゃない!どうしろっていうのよ!?)
下忍VS上忍の戦いを見せつけられたサクラは、カカシの異常な強さに圧倒されていた。
「ほら、どうした?昼までに鈴取らないと、昼飯抜きだぞ」
楽しそうにカミトをからかうカカシ。当然、朝から何も食べていない3人の空腹はすでに限界に達していた。
(わたしなんか、ダイエット中で昨夜からなんにも食べてないのよ。……お腹減ったなぁ……)
カカシの一言で、サクラは自分がすごい空腹であることを思い出してしまい、辛く苦しそうな顔をしていた。鈴を奪う前に、先に空腹でくたばりそうだ。カミトも同じように、黙ったままで反撃の色を見せない。
「誰もが認めてくれるような忍になる、て言った割には元気ないねぇ、お前」
「うっ」
返す言葉が思いつかなかった。
忍でなくても、エネルギーを蓄えなければ力が衰えてしまう。普段の食事のありがたみを痛感させられるばかりだ。しかし、それでもカミトは気合でどうにか体調を保とうとする。
「空腹くらいで……諦めるわけにはいかない」
「根性はいいが、実際は厳しいもんだぞ」
カカシの挑発に負けず言い返すが、空腹のあまり反論する気力も起きなかった。
(口論してる場合じゃないな。速いとこケリをつけないと、こっちの身が持たないぞ)
本を見るばかりで、まともに戦おうとする素振りすら見せない。その姿を見るのもいい加減ウンザリしたカミトは、次の手を打って出た。
人差し指と中指を立てた両手で十字型の印を結び、叫ぶ。
「影分身の術!」
ボワッ!
叫んだ瞬間、カミトの左右で複数の煙が発生した。
(これは……)
煙が消失した場所には、4人のカミトが立っていた。本体と合わせて5人のカミトが、一瞬でカカシを包囲した。
(カミトが……5人!?なんだ、あの術は!?)
(残像じゃない!?全部実体!?)
サスケとサクラの2人は、またしてもカミトが繰り出した術に驚きを隠せなかった。上忍のカカシにとっては、それほど珍しい術でもなかったため、余裕な態度は相変わらずであった。
「なるほど、これが影分身か」
二代目火影の術を2つも会得した事実は聞いていたが、実際に見ると圧倒されそうだった。
「行くぞ!」
考える間もなく、本体の合図で一斉に影分身カミトが千切斬を構え、カカシに向かって行く。ガッ!という鈍い音と共に1人の分身が空高くジャンプし、カカシの頭上に目掛けて踵落としが放たれる。
カカシは透かさず腕でガードした。
(やるな。身体能力は高い、とも聞いていたが……分身でこれほど思い蹴り技を繰り出せるとは……)
なんだかんだ言っても、内心ではカミトの実力を高く評価していた。
「だが、まだまだ甘い!」
バキッ!
カカシの回し蹴りが分身に命中。分身は遠くまで飛ばされ、地面に叩き付けられた途端に煙と共に跡形もなく消失した。それからもカカシは次々に分身カミトに打撃を喰らわせていく。
「言っただろ。甘いって」
「別に端から倒そうなんて考えてませんよ」
「ん?」
カミトの、何か企んでいる、という微笑みにカカシは寒気を感じた。
その瞬間。
ガバッ!
急にカカシの背中に誰かがしがみ付いた。
「な、何!?いつの間に!?」
しがみ付いた者の正体は、1体の分身カミトだった。
(しまった!?前に気を取られ過ぎた!狙いはこれだったのか!)
カミトの真の狙いに気づいた時は、もう遅かった。
「もらった!」
カカシの動きが止まった瞬間、カミトは全速力で刀を振り上げカカシに向かっていった。
影分身でカカシの注意を前に引き付け、あらかじめ後ろに待機させていた影分身で取り抑え、動きを止める。1体の影分身はすでにカカシの上半身をがっちりと固定している。
(やるじゃない!カミト!)
(陽動作戦か)
2人が感心する中、5人のカミトが段々とカカシに接近していく。
「覚悟!」
刀を振り上げた途端、ゴイン!と途轍もなく鈍い音と悲鳴が響き渡る。
「ぐあぁぁぁ!!」
カカシを斬ったと思われた瞬間、そこにカカシの姿はなかった。
悲鳴をあげたのはカカシでなく、分身カミトの1人だった。どういうわけか、影分身が取り抑えていたはずのカカシが、いつの間にか別の影分身と入れ替わっており、カミトは自分自身を斬ってしまった。
刀に切られた分身カミトは煙と共に消失。それに吊られるように他の影分身体も全て消失し、残された本体はあまりに一瞬の出来事に言葉を失った。
(今のは……変わり身!)
《変わり身の術》は、攻撃を受けた瞬間または受ける寸前に、素早く己と別の物体と入れ替え、あたかもその攻撃が成功したかのように錯覚させる術。
カカシは分身カミトに捕まった後に、他の分身カミトと自分を入れ替え、自分はその場から身を隠した。やられたと錯覚させるどころか、カミトの剣技が利用されたのだ。
自分の身に起こったことを冷静に分析したカミトは、次の手を考えた。
(陽動も失敗したとなると、次は……)
カカシを探ろうと首を左右に動かしていると。
「ん?」
川辺の傍に立つ大樹の下に、鈴が落ちているのが見て取れる。
「え!?鈴!?」
多少の警戒心を抱きながらも一直線に鈴を取ろうと大樹に近づく。
カカシが変わり身で姿を消した時、よほど慌てていたんだと考えたカミトは、チャンス到来!と思わず内心で叫びながら鈴に手を伸ばす。
瞬間、ロープが一瞬でカミトの片足を絡め取る。
(しまった!罠か!)
そう思った時は、すでに手遅れだった。
片足が逆さ吊りにされ、大樹にぶら下がるカミト。自分でも情けなく思えるほど無様な格好だ。
(あの上忍、カミトとやってる時でさえ隙1つ見せねぇとはな)
罠に引っかかったカミトを見ていると、サスケでさえ哀れに思えてくる。
しばらくして、どこからともなく現れたカカシが、ちょうどカミトの真下に落ちていた鈴を拾う。
「惜しかったな。だがお前、一瞬だが集中を切らしたな。そうじゃなきゃ、こんな罠には引っかからなかったはずだしな」
「……無念」
カカシの言う事は理に適っていた。よく考えれば、鈴が自分の近くに落ちていたのは不自然なはず。鈴を見た瞬間に運が向いたとつい思ってしまった。
カミトが自分を悔やむ中、カカシは一言付け加えた。
「忍者は裏の裏を読め、だぞ」
人の考えと言うものは難しいものだ。この世で一番の難問があるとすれば、それは間違いなく《人の心》だろう。
「にしても簡単に引っかかってくれちゃって、可愛げがあるなぁ〜」
情けないカミトの姿を面白がって笑うカカシに、わずかな気の緩みが見て取れた。
(ここだ!!)
ようやくカカシの見せた隙を見逃さず、サスケは一気に手裏剣を投げ、猛攻を仕掛けた。
サスケの放った手裏剣が鋭いカーブを描き、カカシへ向かっていく。それに気づかないカカシは、大樹にぶら下がるカミトと言い合いを続けていた。
そしてついに。
ザクザクザク!!
無数の手裏剣がカカシの顔面に突き刺さり、プシュと血を吹き出しながら倒れてしまった。
「カカシ先生!!」
あまりにショッキングな光景に、カミトは思わず声を上げた。
「サスケ!!いくらなんでもやりすぎだろ!!」
手裏剣の腕前で、カミトはすぐさまサスケの仕業だと見抜いた。
ところが。
「!?」
血を流し、倒れたと思われたカカシが煙に巻かれ、後に残ったのは、手裏剣が刺さった丸太が地面に転がっているだけ。
「何!?」
カミトとサスケはあまりに一瞬の出来事に、思考が停止する。
「あそこか」
カカシはすでに身代わりを使い、森の中に隠れながらジッとサスケの動向を伺っていた。
(くそ!また変わり身か!今の手裏剣でこっちの居場所がバレたな!わざと隙を見せやがって!ざまあねぇ!俺まで罠にかかっちまった!)
サスケは一瞬で状況を理解すると、大急ぎでその場を離れ、木の枝を伝って飛びながら森の奥へと向かう。
一方、サスケが姿を暗ましたのを知ったサクラも、急いでその場を離れ、サスケと合流しようと森を駆ける。
(サスケ君……どこにいるのかな?まさか、もう先生に……!?)
嫌な予感がサクラの脳裏をよぎる。
(いいえ!サスケ君に限ってそんなこと……!)
不安を拭おうと一心不乱に森の中を走り続けていると、前方に本を読みながらボウッと突っ立っているカカシを見つけた。
(セーフ!気づかれてないわ!)
そう確信したサクラは、すぐにカカシの背後に隠れ、様子を見る。
「サクラ、後ろ」
「え!?」
突然、目の前にいるはずのカカシの声が、背後から聞こえた。
サクラが咄嗟に振り向くと、そこには子の印を組んだカカシが待ち構えていた。
ザアァァァァァ!!
突如、木枯らしが音を立てて吹き荒び、カカシの姿は無数の木の葉に包まれ、まるで宙に溶けていくかのように消えてしまった。その様子をただ眺めているしかなかったサクラはふと意識を取り戻すと、目の前で起こった不思議な現象に混乱し、慌てふためいた。
「え!?え!?今の何!?どうなってんの!?先生は!?」
状況を把握できないサクラはパニックを起こしていた。その時、再び背後からサクラを呼ぶ声がした。
「サクラ……」
(この声は……!!)
声を聞いただけですぐさま理解した。
「サスケ君!!」
聞きなれた声に安心したサクラは振り返る。そこには__全身血塗れのサスケが、力なく崩れ落ちていた。
「サ……クラ……、助けて……くれ……」
サスケの体には大量の手裏剣が突き刺さり、両足はあらぬ方向に折れ曲がっていた。
「…………あぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あまりにも凄惨なサスケの有り様に、絶叫しながら倒れてしまった。
その様子を木の上から高みの見物を決め込んでいた影が1人。
(少しやり過ぎたかな……。忍戦術の心得その2、《幻術》。サクラの奴、簡単に引っかかっちゃって)
カカシは一通りサクラの様子を見届けると、サッと木の上から姿を消した。
その頃、サスケは森の奥から聞こえてくるサクラの悲鳴を聞き、現在の状況を察した。
「今の悲鳴は……サクラか」
カミトに続き、サクラまでやられた。残るはサスケのみ。
しかし。
「俺はあいつらとは違うぜ」
いつの間にか背後で待ち構えていたカカシに、豪胆な態度を取る。
「そういうのは、鈴を取ってから言いな……サスケ君」
そう言ってカカシは堂々と前に出ていき、サスケは振り向き、互いに睨み合う。ここからはサスケとカカシの一騎討ちとなる。
「里一番のエリートと言われた《うちは一族》の力……楽しみだなぁ」
バシュッ!!
サスケは構えると、後ろのポーチに手を伸ばし、素早く手裏剣をカカシに投げた。
「馬鹿正直に攻撃してもダメだよ!」
カカシは余裕でかわし、後ろに跳ぶ。
(バカめ!かかったな!)
プチン!と縄が切れる音が響く。
カカシが後ろによけた瞬間、外れたはずの手裏剣があらかじめ仕掛けられたトラップを繋ぐ縄を切断した。
「トラップか!」
異変に気付くと同時に、無数のクナイがカカシに襲い掛かる。
間一髪にカカシは左に飛んで攻撃を避けるが、そこにはすでにサスケが背後で待ち構えていた。
「何!?」
サスケの左回し蹴りがカカシを捉える。カカシは咄嗟に左手でガードし、サスケの足を掴む。しかし、サスケは物ともせずそのままの体制で右足を動かし、回し蹴りを加える。
(貰った!!)
勝利を確信したサスケは右手でカカシの腰に着けられた鈴を奪おうとする。
サスケの手が微かに鈴へ触れ、チャリンと音が鳴る。
(こいつ!?)
危険を察知したカカシは腰を引くと、バックステップで後退し、サスケと5メートルほど距離を取った。
(なんて奴だ。イチャイチャパラダイスを読む暇がない)
あと少しで鈴を取られそうになったカカシの顔には、焦りの色が浮かんでいた。
「ハァ……ハァ……」
一方、サスケの息も切れ始め、顔に疲れの色が見えた。
「まぁ、確かにあの2人とは違う。それは認めてやるよ」
上から目線なカカシの態度に、目に物を見せてやろうと印を組み始めた。
(余裕ぶっていられるのも今の内だぜ)
巳・未・申・亥・馬・虎。
それらの印を組んだ時点でカカシは、サスケが何をするつもりなのかを察した。
(なに!?その術は下忍が出来るような……。まだチャクラが足りないはず!)
サスケが繰り出そうとしている術に驚きを隠せなかった。
「火遁・豪火球の術!」
ボゴオォォォ!
凄まじい轟音と共に、サスケの口から巨大な火球が吐き出される。
しばらく豪炎が燃え続けた後、そこには文字通り塵1つ残っていなかった。もちろん、そこにいたカカシの姿も、残っていなかった。
しかし、燃え尽きたわけではない。
(いない!?後ろ!?……いや上か!?)
サスケは必死に、辺りを見回しながら消えたカカシを捜す。
「どこだ!?」
「下だ!」
「!?」
その瞬間、地面から手が飛び出し、サスケの足を捉えた。
「なっ!?」
「土遁・心中斬首の術!」
「うあぁぁぁぁ!!」
サスケは言葉も発する間もなく、一瞬で土中に引きずり込まれた。
カカシが地面から抜け出すと、サスケが首だけが地面に露出し、体は地面に埋められていた。しゃがみ込んでサスケを見下ろすと、少し疲れたように話し始めた。
「忍戦術の心得その3、《忍術》だ。にしても、お前はやっぱ速くも頭角を現してきたか」
カカシは立ち上がると、再び本を取りだし、読みながらサスケを後にした。
「でも、ま、出る杭は打たれるって言うしな」
「くそっ!」
サスケは悔しく思いながらも、その場を去って行くカカシの背中をただ見送るだけだった。
サスケとカカシが戦っていた頃、カミトは肌に離さず持っていた千切斬で足のロープを斬り、ようやく罠を解放した矢先に華麗な宙返りを披露。見事地面に着地した。
カカシに再戦を挑むため、森の中へ向かって駆ける。
(思ったより時間を取られたな。残り時間は30分ほど。急がないと本当にアカデミーに戻されちまう)
無数の林を必死に通り抜けながらも、今回の試験について改めて考えた。
(でも、どういうつもりなんだ?鈴は2つしかないのに、それを3人で奪い合うなんて……)
演習内容を聞いた時から、2つの鈴を3人で取り合うという試験内容に憤りを感じていたカミトは、時々通っていたアカデミーで学んだことは思い返した。
それが《チームワーク》。
恩師のイルカから口を酸っぱくして何度も言われた言葉。決して仲間同士でいがみ合い、争うようなことがあってはならない。周囲から足手まといに思われてきたカミトは、誰よりもその言葉の重みを理解していた。
(……まさか!)
脳内に微量な電気が走ったかのように気づいた。
(もしこれが……わざと仲間割れするように仕組まれたとしたら……俺達は先生の掌で踊らされてるってことになる)
ここまで来てようやくカカシの裏が読めた気がした。
実際に1人でカカシと戦ってみてわかった。1人で鈴を奪うのはまず不可能。しかし、3人の連携なら最低1つでも鈴を奪える可能性はある。例え3人の内1人だけが合格する結果になるとしても、全員がアカデミーに戻ることはない。3人揃ってアカデミーに逆戻りという結果だけはなんとしても避けたい。
(……2人に協力を煽るしかないな)
カミトの目的はすでに、カカシから1人で鈴を奪うことではなく、メンバーの誰かが鈴を1つでも手に入れることに変わっていた。
(まずはサスケとサクラを見つけないと)
最後の瞬間まで諦めたくはない。決意を新たにし、2人を探そうとひたすら森を駆け抜ける。
(ん?あれは……)
すると、遠くの森の影から炎と黒煙が覗くような視点で眼に捉えられた。
(あれはまさか!?サスケの火遁!)
それが火遁の術だと確信したカミトは、すぐに方向を変えて走り出した。
カミトが方向を変える少し前、サスケは未だ体を地中に埋められたまま身動きが取れずにいた。
(ちくしょう!ここまでの差が……)
カカシとの実力差を思い知り、遣る瀬無い思いと悔しさのあまりに歯を噛み締めるサスケ。
すると。
ガサガサ!
草陰から物音がした。
先ほどカカシの幻術から立ち直ったばかりのサクラがフラフラと覚束無い足取りで現れた。そして地中に埋まるサスケを見た瞬間、サクラの思考が停止に追い込まれた。
「あぎゃぁぁぁぁぁ!!!今度は生首ぃ!!!」
カカシの幻術を喰らった時のように、再び絶句しながら倒れてしまった。
「……なんなんだ?」
サクラが気絶してから数秒後、招かれざる客がもう1人現れた。
「えっと……」
地面に埋まるサスケ、倒れたサクラを見て唖然と立ち尽くしていたカミトは、眼を丸くした。
「……どういう流れで……こんな状況になったんだ?」
首だけのサスケに問う。
「……俺が訊きてぇよ」
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