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KAMITO -少年篇-

作者:redo
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真実

木ノ葉の森に位置する、カミトの大樹家。

《封印の書》を入手してから7時間も経過している。最初は封印の書の内容を覚えようと必死に読み続け、内容の大本(おおもと)を理解した上で修行に(はげ)み続けていた。

夜明け前で今にも日が昇りそうだというのに、体力や時間などまったく気にしなかった。

「よりによって、最初に記されていたのが《影分身の術》とはな。まぁ、それでも、《飛雷神(ひらいしん)の術》よりはマシだった」

人並みのスタミナを持つカミトもさすがに疲労し、へたり込んだ。荒息を吐くカミトの頭上に突然、真っ黒い影が差しこんだ。

「ん?」

「ようやく見つけたぞ!」

肩を震わせたイルカが、息を切らしながらカミトを睨みつけていた。

「あ、あはははは……ご、ご苦労様です」

少々恐怖に駆られながらも苦笑いを浮かべる。今さらカミトの態度に驚くこともなく、半端呆れながらもイルカはホッと息をついた。

改めてカミトをよく見据えると、いつもの忍服にいくつか付け加えられた点が見受けられる。

両腕に籠手、背中には1本の刀を斜めに吊るした鞘に収めている。その上、凄まじく汚れている。忍具が2つ備えたカミトが汚れているだけなのに、普段のカミトと違って、その姿はとても勇ましく見えた。

「随分ボロボロじゃないか。こんな時間まで一体何してたんだ?」

「巻物に書かれてた術の修行のせいですよ。一応、覚えられた術はまだ2つだけですけど……」

忍具と汚れの事情を順に説明し、顔の汚れを片手で拭うと、伸し掛かるような感じでイルカに話す。

「イルカ先生、これから俺が覚えた術を見せますから、それで俺のアカデミー卒業を考え直してくれませんか?」

「カミト……オマエ……」

カミトの健気さに気を取られる寸前、カミトが刀と一緒に背負っている大きな巻物が眼に写った。

「それよりカミト。オマエどうやって封印の書を手に入れた?」

「どうって、ミズキ先生が教えてくれたんですよ。この巻物のことも、在り処も、ミズキ先生が教えてくれたんです」

「み、ミズキが!?」

《ミズキ》の名を聞いた途端、話が風変わりの如く一変した。

「なら、扉はどうやって開けたんだ!?あの扉には封印が施されていたはずだぞ!」

さらなる疑問をぶつけたイルカに、カミトは答えた。

「巻物のことを聞いた後、扉の封印を破る(ふだ)をくれたんですよ」

「な……なんだと!?」

ミズキへの疑惑がさらに強くなった、その時。

風を切り裂く音が何本も響き、複数のクナイがカミトに目掛けて放たれた。

「危ない!!」

咄嗟にイルカは片手でカミトを突き飛ばし、飛んで来たクナイを全て自分の身体で受け止めた。

「ぐっ!!」

「よくここがわかったな」

クナイを投げた人影がスッと木の枝に着地した。

「なるほど……そういうことか」

イルカは体に刺さったクナイを引き抜きながらミズキを睨みつける。

「カミト、その巻物を渡せ」

「……これは一体……どういうことだ?」

カミトは突然の出来事に状況の整理が追いつかず、パニックを起こしかけていた。

「カミト!!巻物は死んでも渡すな!!ミズキはそれを手に入れるためにオマエを利用したんだ!!」

全てのクナイを引き抜いたイルカが、必死に警告する。

「な、なんだって!?」

確かに、夕方に話した時のミズキとは随分と様子が違う。明らかに今のミズキは敵だ。

喉の奥から甲高い笑いを漏らしかけたミズキが口を動かす。

「カミト、イルカはオマエが封印の書を持っていることを恐れてるんだよ」

「え!?」

ミズキの口から吐かれた台詞にカミトは動揺し、イルカに眼を向ける。

「何を言ってるミズキ!カミト!騙されるんじゃない!」

今のカミトは冷静な判断力を失っており、イルカとミズキのどちらを信じればいいか、わからなくなっていた。

「この際だ、カミト。お前に本当のことを教えてやるよ」

邪悪な笑みを浮かべたミズキに、カミトは注目した。

「バカッ!!よせ!!」

ミズキがカミトに言おうとしてることを察したイルカは、止めようと叫ぶ。しかし、ミズキは気にも留めず口を動かす。

「12年前、木ノ葉を襲った九尾の化け狐のことは知ってるな?」

「知ってるけど、それがなんだ?」

冷たい視線を送り続けるミズキが、真実を語り始めた。

「その事件以来、里である掟が作られた」

「ある……掟?」

「そう。その掟とは、オマエだけには決して知られてはいけない掟だ」

「俺だけに、知られてはいけない掟?……なんだよそれ!?」

その言葉に大いなる興味を示したカミトは声を荒げる。

「やめろ!!」

イルカの叫びも虚しく、冷笑を漏らすミズキの一言が重く冷たく突き刺さった。

「カミトの正体が……《化け狐》だと口にしない掟だ!」

「……え?」

今の一言の意味がよく理解できず、ミズキが詳しく説明するように言葉を追加する

「つまりカミト!オマエがイルカの両親を殺し、里を壊滅させた九尾そのものなんだよ!」

「な……なん……だと……!?」

カミトは、今までにないほどの孤独と絶望感に見舞われた。

「オマエはずっと里のみんなに騙されてきたんだよ。あんなに毛嫌いされてたんだから、当然オマエもおかしいと感じていたはずだ」

ミズキが責め立てるごとにカミトの心は少しずつ形を崩していき、いつの間にか自分自身を見失っていた。もはやイルカの叫び声もミズキの話も耳に届かず、虚ろな眼をしたまま硬直した。

カミトも、自分が毛嫌いされているのが九尾修襲来事件と何か関係があるとは思っていた。明確な理由を知らないままだったが、単に自分が落ちこぼれだったという理由ではなかった。

真実は時として人を深い闇に陥れる。

「オマエなんか誰も認めやしない!!死ねえぇぇぇぇ!!」

ミズキは背中に背負った巨大な風魔手裏剣を構え、カミトに向けて投げつけた。

豪風を巻き起こしながら手裏剣がカミトに向かって一直線に飛んでいくが、カミトは膠着したまま動こうとしない。動く気配すらまったく見受けられない。

__もう死んでも構わない。そう思った時。

ザクッ!!

肉を抉る様な音が森中に響き渡った。そしてそこには__。

「ぐぅ!」

カミトの眼前に立ち、ミズキが放った手裏剣を背中で受け止め、カミトを庇うイルカの姿があった。イルカの行動によって目が覚め、自我を取り戻したカミトは怪訝(けげん)とした。

「……どうして……俺を……?」

「……俺も……同じだからさ……」

恐怖に取り憑かれたカミトを(いたわ)るように語り始めた。

「両親が死んでから……誰も俺を褒めたり、認めてくれる人がいなくなっちまった。……寂しくて……クラスでよくバカやってさ……人の気を引きつけようとしたんだ。優秀な方で人の気が引けなかったから……まったく自分が無いよりはマシだから……ずっとバカやってたんだ」

親を失い、ずっと孤独に生きてきた頃の自分と、今のカミトを重ねた途端。

「そうだよなぁ……カミト。寂しかったんだよなぁ……苦しかったんだよなぁ。……ごめんなぁ、カミト……俺がもっとしっかりしてりゃ、こんな思いさせずに済んだのによ……」

イルカは涙を流しながら自分自身を失いかけたカミトに語りかけた。オマエは1人じゃない、ただそれだけを伝えようとしていた。

__だが。

もう何を信じていいのかわからず、カミトは瞬時に背を向けて森の奥へと駆け出す。

「カミトォ!!」

傷ついた体でどうにか立つ続けるイルカだが、風魔手裏剣のせいですぐには動けなかった。

「ふっ!ザマぁねえなイルカ!カミトを心変わりさせようとしても無駄だ!今さら遅すぎなんだよ!奴は根っからの化け狐だ」

背中に刺さった風魔手裏剣を抜き取り、ミズキに反発する。

「違う!……カミトは化け狐なんかじゃない!」

息が途絶えそうな声で違うと言い張りながらも、その足元にはすでに血が垂れている。

「まぁ、そんなこと今はどうでもいい。カミトを始末して巻物を手に入れる。オマエは後回しだ!」

カミトを殺そうと、ミズキは森の奥に消えた。

「そうはさせるか」

跡を追いかけるため、イルカも怪我など無視して駆け出した。


◇◇◇


その頃、火影屋敷こと《火影室》では。

「やれやれ。ミズキの奴、喋りおって!」

火影室で水晶玉を覗き込み、ナルトを捜し出していたヒルゼン。水晶玉には一心不乱に森を駆け抜けるカミトの姿がしっかりと映し出されていた。

「カミトの精神は今までにないほど不安定じゃな」

真実を知ってしまったカミトに、ある程度の対策は立てるべきと考える。

(これ以上カミトに刺激を与えれば、術で抑えられていた力が解放されるやもしれん。万が一カミトが封印の書を使い、自力で封印を破り、九尾を解放させてしまう可能性も万に一つじゃが……いざという時は、ワシが……)

ヒルゼンも不本意ではないが、最悪の自体に備える覚悟を決めた。


◇◇◇


夜明け前の闇に染まる森の中を、カミトは未だに駆け抜けていた。

(見つけた!)

カミトを追い、木の枝を飛びながら森を抜けてきたイルカがようやくカミトに追いついた。

「カミトォ!!早く巻物をこっちに渡すんだ!!ミズキがそれを狙ってる!!」

その瞬間、カミトは急に向きを変え、イルカに飛び掛かかった。

「うわぁ!」

カミトの強力なタックルがイルカを捉え、ドガガッ!という衝撃音と共に2人は地面に叩き付けられた。

「……そんな……どうしてだカミト?」

地面へと叩きつけられたイルカが不思議そうに口を開いた。

不意に、イルカからボウッ!と煙が立つ。

「どうして俺がイルカじゃないとわかった!?」

先ほどまでのイルカは、ミズキの変化だったのだ。自分の変化を見破られ、鬼の形相(ぎょうそう)となってカミトを睨んだ。

「へへへ」

得意げに笑うカミトまでもが、ボウッ!と煙に包まれる。そこにはカミトではなくイルカが現れた。

「イルカは俺だ」

「なるほど。考えていたことは同じか」

イルカの知略を目の当たりにしたミズキは、不敵な笑みを浮かべた。

一方、カミトは咄嗟に木陰に隠れ、イルカとミズキの化かし合いを近くでじっと見ていた。

「親の敵に化けてまでアイツを庇う必要があるのか?」

「オマエみたいなバカ野郎にカミトは殺らせない」

先ほどの変化でチャクラを使い果たしたのか、木の根元の(みき)に寄りかかったまま身動きができなかった。

「バカはテメェのほうだ。カミトも俺と同じなんだよ!」

「同じ?」

「あの巻物の術を使えばなんだって思い通りだ。カミトが……あの化け狐が巻物の力を利用しない訳がない。真実を知った今、アイツは巻物の力で木ノ葉に復讐するぜ」

自分勝手に喋り続けるミズキに対し、遂にイルカも口を開いた。

「……そうだな」

今の返事は、ミズキの言い分にイルカが納得したという合図。そう認識し始めた瞬間。

「……化け狐ならな」

「……え?」

怒りに飲み込まれそうになった矢先、イルカの一言がカミトを引き止めた。

「だがカミトは違う。アイツは……アイツはこの俺が認めた優秀な生徒だ」

(イルカ先生……)

「努力家で、一途で、賢くて……そのくせ優しいくせに……誰からも認めてもらえない。でもだからこそ、あいつは人の苦しみを誰よりも理解してやれる。だから、人を(うやま)える。あいつは……あいつは化け狐なんかじゃない!」

最後、イルカは大声でミズキに吠えた。

「あいつは……木ノ葉隠れ里……初代火影の子孫で……四代目火影の息子の……《千手カミト》だ!!」

(……そうだ!俺は……!)

その言葉が暗くなっていたカミトの心に光を照らしてくれた。虚ろな眼に光が戻っていくのがハッキリ感じる。

(俺は……木ノ葉隠れの里……千手一族の末裔!四代目火影の息子!)

カミトの眼から、長年流すことがなかった涙が一気に流れた。

「けっ!めでてぇ野郎だな!イルカ、テメェは後に殺すつもりだったがやめだ」

イルカの尽力は虚しく、ミズキは再び風魔手裏剣を構えた。

「さっさと死ね!!」

ゴオゥ!と凄まじい勢いでミズキの非情な一撃が放たれる。

(……ここまでか)

イルカが諦めかけた__その瞬間。

千草(ちぐさ)()り》!!」

という大声と共に、木陰から途轍もないスピードで弧状の何かが飛び出し、ミズキの放った風魔手裏剣を真っ二つに切り裂いた。

「「何!?」」

真っ二つにされた手裏剣を見たイルカとミズキは、ほぼ同時に衝撃の言葉を放った。次いで、2人は弧状の何かが飛んできた方向に眼を向ける。

「カミト!?」

イルカが声を上げると、今までの温和なイメージからは考えられないほど険しい鬼の形相をしたカミトが突っ立っていた。

澄んだ黒色の刃をした刀__《武良雨(むらさめ)》が右手に握られている様子から見て、先ほどの弧状は刀から放たれた攻撃に違いない。

「……化け狐が……やってくれるじゃねぇか!」

ミズキは気づいていないようだが、イルカにはわかる。あの顔は、今まで誰にも見せたことがない殺意剥き出しの表情に違いない。

「……イルカ先生に……手を出すな。……殺すぞ!」

「バカっ!!なんで出てきた!!逃げろ!!」

怒りで我を忘れたカミトを何とか止めようと必死に声を上げるが、今のカミトはイルカの言葉にも耳を貸さない。

「ほざけっ!テメェなんざ一発でケリつけてやるよ!」

「………」

カミトは無言のままミズキを睨みつけ、武良雨を構える。

「いい加減!死にやがれぇ!」

頭に血が上ったミズキがポーチから無数のクナイを取り出し、全てカミトに投げつけた。不意に、カミトは人差し指と中指を立てた両手で十字型の印を結び、叫ぶ。

「影分身の術!」

その瞬間。

カミトの左右でボワッ!と4つの煙が発生し、煙が消失した場所に2人のカミトが立っていた。

「はぁ!」

本体と分身を含め、5人のカミトが武良雨を振る。

バッ!!バシッ!!と火花が緑に染まった刃の表面に弾けた。それを意識した時はもう、5人のカミトの右腕は電光のように閃き、軌道を結ぶクナイを鮮やかな剣捌きで次々と弾かれていく。

耳元で立てる甲高い唸りを一切無視し、今まで鍛えてきた反射神経と剣術を駆使し、無数のクナイを弾く。

「ば、バカな!?」

残っていた全てのクナイを投げ尽くしたミズキは、呆気に取られてしまった。

(まさか……あの影分身を使えるなんて……)

《影分身の術》。

二代目火影が開発した術の1つ。実体を持つ術者の分身体をチャクラで作り出し、物理的な攻撃を可能とする高等忍術。上忍クラスの忍でも会得が難しく、会得できたとしても最低1人以上に分身するのがやっとだ。それをカミトが使い、しかも4人にまで分身した。

驚きのあまりにイルカまでもが呆気に取られた。

本体のカミトが武良雨をひとまず収納し、分身3人が再び白い煙を発生させて跡形もなく消失した。

「……ここからが本番だ」

不意に、冷静に口を漏らしたカミトが、両足の太股に装備されていた2つのホルスターの内、右足のホルスターからクナイを1本取り出す。

(なんだ?なんでクナイなんか……?)

クナイを出した理由がわからず、不思議そうに眼を丸くする。

「はぁ!」

ミズキの顔面に向けて投げられたクナイが一直線に飛んでいく。

「はっ!バカな奴だ!そんなクナイ1本なんか簡単にかわせるぜ!」

確かに、ミズキにとどめの一撃を与えるだけなら、刀による攻撃のほうが有効。わざわざクナイに持ち替える必要はないはずだ。

しかし、イルカはその行為に何か意味があると踏んでいた。カミトは賢い故にその行動には必ず意味がある。それはイルカ自身が一番よくわかっている。

「ふん!」

喚いたとおり、ミズキの顔に命中しそうになったクナイは、顔を横に傾けた途端に通り過ぎていった。

しかし__それがカミトの狙いだった。

(今だ!)

投げたクナイがちょうどいい位置についた刹那__2人の前からカミトが消えた。

__と思われたが。

「飛雷神斬り!!」

一瞬の出来事だった。

スピードが全身を駆け巡り、ぶん、と空気が震える音がしたと思った瞬間にカミトが、宙を飛んだままのクナイの位置に突如として表れ、武良雨でミズキの胴体を切り裂いた。

「ぐぅわあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

あまりの激痛に発せられたミズキの悲鳴は、森全土にまで響き渡った。


◇◇◇


地面に散った鮮血の飛沫(ひまつ)は、ミズキの身体から(ほとばし)ったもの。

傷の重さに耐えられず失神したミズキは地面に仰向けに倒れる。ミズキの胴体には、右肩から左脇腹にかけて斜めに切り裂かれた傷がしっかり残っている。

しかし、命に別状はなかった。

「……カミト……オマエ……」

目の前で起きた事態を理解しようと必死に頭を働かせるイルカだが、まだ平静を取り戻せずにいた。

(今の術……間違いない。二代目火影様が生み出した……飛雷神(ひらいしん)の術!)

時空間忍術の一種とされる《飛雷神の術》。

イルカも歴史の本で知っているくらいだが、クナイや手裏剣などの武器、または手を触れたところにチャクラによる術式(マーキング)を施し、その場所へと神速で移動することができる。カミトも、先ほどミズキに投げた1本のクナイにマーキングを施し、瞬間的に移動したのだ。

二代目火影が忍一の早さを誇る所以(ゆえん)となり、後に四代目火影の《黄色い閃光》という異名を形作った。そのため火影級の忍にしか扱えない術とされている。それほど超人的な凄まじい術をたった一晩で習得。我が目を疑いそうだ。

「少し……やりすぎたかな……」

我を取り戻したカミトが少々不安そうに口を開き、木に寄りかかったままのイルカを見た。

「イルカ先生……大丈夫ですか?」

「あ……ああ、大丈夫だ」

先ほどの飛雷神といい影分身といい、一晩で高等忍術を2つも習得してしまったカミトに戸惑いを感じつつも、本心では大したものだと感動していた。

「カミト、ちょっとこっち来い」

掌を上下に振り、来い、とアピールする。

「お前に渡したい物がある」

「渡したい物?」

一瞬、封印の書を盗んだ罰と思ったが、イルカの様子からして違うと踏み、歩き出す。

カミトとイルカの距離が近くなり、

「眼を瞑れ」

と言われた。

何が起こるか予想がつかないが、とりあえずカミトはその場の流れに身を委ね、眼を瞑った。

すると、何やらカミトの頭に感触が走った。イルカが頭部に何かしていることは容易にわかったが、何をしているかまではわからず、気になって思わず眼を開こうとした。しかし、それではイルカを疑うことになると思ったカミトは、合図が来るまで堪えることにした。

30秒経ったところで、カミトが問う。

「先生、まだですか?」

と言った矢先。

「よし!もう開けていいぞ」

と言われ、ようやく両眼を開けた。

「卒業、おめでとう」

「……え?」

一瞬、意味がわからず驚愕の表情を浮かべた。

眼を瞑っていた間にあった感触の正体を確かめようと、カミトは自分の額に手を当てる。

「こ、これは……!?」

触れただけでわかる。渦巻き状のマークが刻まれた金属板と、それを付けた布。

__間違いない。

木ノ葉の《額当て》が巻かれていることにようやく気づいた。

「先生……これって……」

「ああ!卒業試験でお前に渡すはずだった額当てだ」

普通なら喜ぶところだが、なぜかカミトは哀れ気に俯いた。

「どうしたカミト?嬉しくないのか?」

どこか素直に喜べないカミト。

「あ、いや……そういうわけじゃありませけど……俺に……忍になる資格があるんですか?」

「な、何を急に……!?」

突然の否定的な発言に驚き、イルカは必死に眼を合わせる。カミトが申し訳なさそうな口調で微かに震える唇を動かした。

「騙されたとはいえ……俺は、封印の書を持ち出した上……禁術を2つも会得した。なんか、ズルいと言うか……卑怯な気がするんです。これでいいんですか?」

イルカは察した。

カミトは、今回の一件は自分に責任があると思い、罪悪感を感じているのだ。だからこそ素直に額当てを受け取ることができないのだ。

しかし。

「カミト……それは違う」

「え?」

イルカは胸を張って、カミトの言い分を否定した。

「今回の一件は、俺の責任だ。俺がもっと昔からオマエとちゃんと向き合っていれば、こんなことにはならなかったはずだ。オマエはみんなに追いつきたい、認められたい一心で、今までずっと1人で頑張ってきた。そして今日もまた、オマエは己を磨き、誰も習得できないような術を2つも習得した」

「………」

呆気に取られたカミトは、言葉を失った。

「ちっとも卑怯なんかじゃない。その2つの術、そしてその額当ては……オマエが自分自身の力で勝ち取ったもの。そして、オマエの努力と、諦めないという志の証しだ!」

「……証し」

最後の一言に心を打たれたカミトの瞳に涙が浮かんだ。やがて頬を伝って流れる雫が徐々に大きくなっていき、カミトは右腕で涙を拭った。

しかし、涙は一向に止まらず、カミトは右腕を離せなかった。

「おいおいカミト。嬉しいのはわかるが、忍がそう簡単に泣くもんじゃ……って、簡単じゃないか」

唸るような泣き声を発しながらも、嬉し涙は滝の如く流れ続ける。

(カミト……オマエは何年もの間、ずっと1人で己を磨こうと必死に頑張ってきた。この先も、苦しいことや辛いことはたくさんあるだろう。だがお前なら、きっと乗り越えられると信じてるぞ)

日が昇り始めた森の木の下で、本心からカミトの成長を喜び、どこか親に似た感情を抱き始めた。
 
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