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フランケン

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第一章

       フランケン
 顔は厳めしく身体も二メートルを超えている。
 フランケンシュタイン博士は死体から生み出した人造人間が動いたのを見て唸った。
「私は遂にやった」
「はい」
 博士の助手が応えた。
「遂にですね」
「新たな生命を生み出した」
「博士の悲願が達成されましたね」
「そうだ、だが」
「だが?」
「生まれたばかりだ」
 その巨人はというのだ、長方形の顔で短い髪に小さな目を持っている。着ている服は黒く質素なものだ。
「つまりだ」
「赤子と同じですか」
「白紙と言っていい」
 今目の前にいる巨人はというのだ。
「まさにな」
「ではことの善悪も何も」
「知らない、神のみ教えもな」
 それもというのだ。
「何も知らないのだ」
「ではこれから」
「学問をしてだ」
 そしてというのだ。
「見に着けていくものだ」
「そうなのですね」
「だから私達でだ」
 博士は助手に顔を向けて言った、自分よりも若い端正な顔立ちの彼に。
「この巨人にあらゆることを教えていこう」
「学問を」
「そしてその根幹となっている信仰もな」
 欧州では学問は全てキリスト教からはじまっている、神学が幹でありその他の学問は枝であるのだ。
「教えていく、そして何よりも」
「何よりも、ですか」
「人間を教えたい」
「人間をですか」
「そうだ」
 まさにというのだ。
「その心をな」
「まだ何も知らない巨人に」
「名前はヴィクターとでもしておくか」
 博士はベッドから起き上がり自分の身体を見ている巨人を見て言った。
「流れ者としておこう」
「何処からか来た」
「途中事故に遭い重傷を負い記憶を失った」
「それで身体の傷はですか」
「受けたということにしてだ」 
 そうしてというのだ。
「何も知らないこともな」
「記憶を失った故ということで」
「していこう、彼つまりヴィクターはだ」
 早速巨人をこう呼んでいた。
「私達の屋敷の客人ということにしてな」
「全ての記憶を失っている」
「何もかもを教えていこう」
「わかりました」
 助手は博士の言葉に頷いた、そしてだった。
 博士と助手は実際にヴィクターにあらゆることを教えた、死体をつなぎ合わせて身体を造られており脳も備えている彼に。
 一から千まで、特に人間というものについて教えていった。言葉と文字から教えていくというかなり手間暇のかかるものだったが。
 ヴィクターはかなりの速さであらゆることを覚えていった、助手はその彼を見て博士に尋ねた。
「赤子と比べるとかなり」
「もの覚えがいいな」
「はい、それはどういうことですか?」
「元々の脳が赤子のものではないからだろうな」
 だからだとだ。博士は助手に答えた。
「事故で死んだ十代の男の子の脳だ」
「その子の脳を使ったのですか」
「流行り病等で死んだ者の死体はそもそも使っていない」
 最初からというのだ。 
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