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お弁当

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第二章

「けれどね」
「息子さんもですね」
「無愛想で」
「それでもですね」
「奥さんは息子さんべったりで」
「そんな風なんですね」
「そうだよ、僕は昔からね」
 それこそ結婚する前からだというのだ。
「これでも妻を愛しているんだよ」
「奥さん一筋ですよね」
「課長さんは」
「結婚する前から」
「そうですよね」
「永遠にだよ」
 それこそというのだ。
「妻を愛しているんだけれどね」
「まあそういうものですかね」
「結局母親ですからね」
「どうしても子供に目がいきますね
「そういうものですね」
「そうなるかな、しかしね」
 苦い顔のまま言う仁科だった。
「お弁当位はね」
「分け隔てなくですね」
「そうして作って欲しい、ですね」
「やっぱり」
「メニューからして違うなんて」
 こうも言った仁科だった。
「帝国海軍の将校と兵隊さんだよ」
「ああ、海軍さんは全然違いましたね」
「士官と兵隊さんで」
「そのことをね」
 まさにというのだ。
「実感しているよ」
「そうですか」
「まあ何ていいますか」
「家庭の問題ですね」
「ややこしいですね」
「流石に夜はね」
 夕食はというのだ。
「一緒だけれどね」
「一緒のメニューですね」
「家族皆で」
「そうなんですね」
「それはいいけれど」
 それでもというのだ。
「いや、お弁当が違うのは」
「どうしてもですね」
「課長としてみれば」
「嫌ですね」
「全くだよ、どうしたものか」
 苦い顔で言うのだった、しかしだった。
 何はともればその弁当を食べた、そのうえで少し休んでそうしてから午後の仕事に励むのだった。
 彼にとって弁当のことは常に気になることだった、このことを内心不満に思い続けていてだ。
 妻の広美にだ、ある夜何気なしに聞いた。家にビールは置いていないので妻が買った焼酎をロックで飲みつつそうした。
「美味しいものが食べたいな」
「ええ、じゃあもっとお料理の腕上げるわね」 
 細面で黒のロングヘアが似合っている、奇麗な眉と微笑んだあでやかな唇とやや切れ長の目はまだまだ整っている、スタイルもジーンズがよく似合っている。
「そうするわね」
「お昼もね」
「わかったわ、じゃあお昼もね」
「頼むよ」
「そうするわね、あとね」
 今度は妻から言ってきた、今妻は日課のヨガに励みつつテレビを観つつ酒を飲んでいる夫に言った。テレビでは巨人が広島に三十点差で負けている。
「あなた会社で健康診断あったじゃない」
「ああ、そうだよ」
「そろそろ結果出るわよね」
「そうだな」
「その診断の結果注意してね」
「わかってるよ」 
 仁科は氷でよく冷えた焼酎を飲みつつ妻に応えた。
「そのことはな」
「そうしてね」
「今年も何もないといいな」
 ここでだ、こうも言った仁科だった。
「本当に」
「そうよね、やっぱり」
「身体の何処かが悪いとな」
 それだけでというのだ。 
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