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転生も転移もしていない私が何故ファンタジーの世界で魔王と呼ばれる事になったのか。

作者:zero-45(仮)
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夜明けまであと少し



「おい人工知能……」

『うん? どしたの?』

「どうしたの? ではない! 何だこれはっ!」

『え? 通信用アンテナだけど?』


 今私はラボの隅で頭を抱えている、その理由は目の前でボロボロになったステンレス棚に映る自分の姿を見てだ。

 ああいかんちょっと落ち着け、ここで怒りに任せて焦ってはこのクソAIの思う壺だ、今までの経緯を考えるとヤツは私を弄んで返ってくる反応を楽しんでいる節がある、取り敢えず落ち着いて今までの事を頭の中で整理しつつ現状の把握に努めるべきだろう。

 先ず私が眠っている間に世界に起こった事をヤツに確認確認しようとしたが、情報量が多過ぎて口頭ではいつまで掛かるか判らないと言われた、うん、それは確かだ。

 で、その手間を省き効率的に情報を取捨選択する為、ヤツが保有している情報を一旦私にダウンロードして、その情報は適時必要毎に私が検索してはどうかと提案された。

 確かに数万年分の時事情報を一々聞いたり検索するのは効率的では無い、その点ではヤツの提案は凄く真っ当で効率的なのは確かだ。


 故に提案された案を呑んだ、ここまではいい。


 しかし衛星から膨大なデータを受け取る為には現状の脳内デバイスでは機能が足りず、色々なアップデートが必要という事が判明した。

 まぁそれはそうだろう、私の脳に埋め込まれた生体デバイスは安定して定着しているとはいえ、まだ調整も何もしていない素のままなのだから。


 故にヤツの保有しているデータの中から今回のデータ通信用ソフトの一部だけを通常通信で受け取り、それで高速データ通信デバイスを活性化、機能が立ち上がった後は必要データを更に衛星から受け取り、それからデバイスの基礎設定とアップデートを済ませ、適時必要な情報を受けとる事にした。

 そんな訳で始まったシステムのアップデート、それは元々デバイスの開発段階にテストするべきソフトだったのだが、被験者である私がまだ処置を受けている段階ではそれを含め検証が出来ない状態の為、まだ全ては基礎部分しか完成していないのは知っていた。

 だがしかしそのソフトウェア群は受け取った時チェックをすると実用に足る物もあれば、まだまだ検証の余地が残る機能の物やら、何の為に作られたか判らないという怪しい物も存在していた、果たしてこれらを脳というデリケートで文字道理自身の頭脳にインストールしても大丈夫なのだろうかという一抹の不安はあったが、実行しなければある意味何も始まらない。

 暫くそれらを見つつ検討をしてみた物の、何も答えは見つからなかった、そんな訳で取り敢えず私はデータをインストーラーで全て一度にインストールする事を避け、一つ一つ確認しつつ展開していく事にした。

 それから始まったデバイスの機能活性化、それらの殆どは使用しないとどういう事になるかは判らないという不安を残したものの、今後適時に試していけば良いので重篤なエラーが出ていない今は特に問題は無いと言えるだろう、が、今私が問題としているのは、全ての基本となる高速データ通信用のデバイスをインストールした後に起きた私の身体変化についてだ。

 確かに地上から静止軌道上の人工衛星という膨大な距離をパーソナルユニットという機器でやり取りをするというのならば、ある程度の追加設備が必要になるのは判る。

 実際の話、音声と小規模ながらデータのやり取りが出来てしまう現状も相当な物だと謂わざるを得ないが、それ以上となるとやはり何かしら大型の付帯装備が必要となるのは理解しよう、しかし、しかしだ……


「幾ら必要だからと言ってもこれは何だ、これではまるで……」

『ああうん、それどう見ても角だね』


 そう、今私の目の前にあるくすんだステンレス板に映る私の頭部、その両側にはこう……少し捻りが入った角が二本天に向かって生えている、何故だ。


『メガ通信を無線で受け取るにはそれなりの備えが必要だからねぇ、その為脳内デバイスに直結する通信アンテナは必要だから』

「デバイス直結だと!? ではこの角は……」

『君の脳に直結してるよ? ああ大丈夫、接点はガッチリ固定してるし、外部に露出している部分は物凄く頑丈だから、早々破損する心配は無いさ』


 誰がそんな事を心配していると言うのだ、私が今心配しているのはこの見た目だ、角だぞ? しかも頭から二本もニョッキリ生えているんだ、これではまるで盆や年末に特定の場所に出没するという、ああいう趣味を持つ者達のプレイ染みた格好ではいないか!?


『いやぁ、期せずして見た目から魔王っぽくなっちゃったよねぇ~』


 マッパに白衣+白衣でも大概だと言うのに、それに咥えて捻じれた角二本とかどんな晒しブレイと言うのだおい!


『長期間低温でデバイスを定着させてきたお陰で君の脳はほぼ全領域に於いて有機電脳化してるから、処理能力も記憶容量も、おまけに頑丈さも人のそれより桁外れの物となってるよ』

「なっ、馬鹿な!? 幾ら人体と癒着させる目的で開発された生体部品といっても、脳全体を侵食した上変質させるなんて有り得んだろう!?」

『設計段階では機能が十全に使用できる迄の時間は凡そ数ヶ月、それでっと、人が使える機能拡張限界はちょっとしたタブレットPC並を想定していたんだっけ?』

「ああそうだ、あくまでこのシステムは通信と処理を受け持つ携帯端末程度であって、人の脳を侵食するなんて事は想定されてはいない、と言うかそんな物危険過ぎて国の認可が降りる筈が無いし、どうやればそんな無茶な変化が起こると言うのだ……信じられん」

『人の寿命はせいぜい70~80年、その程度の時間じゃ確かに通信機能を最適化する程度しかデバイスは変化しないかも知れないけどさ』

「……ああそうだ、なのにどうしてこうなった」

『君、僕の話聞いてた? 君は2万年近く眠ってたんだよ? それだけ時間があったらデバイスが君の生体脳に置き換わる程度の変化は可能だと思わない?』

「2万……年……その間に脳がデバイス化した、だとぉ?」

『まぁそんな訳で色々と君は人類を飛び越えた存在となってしまった訳だ、おまけにバックアップに就く僕は不完全ながら人類滅亡から現時点までの情報を保持している、つまり……』

「……つまり?」

『情報は持ってるだけで武器になるよ? 不完全でも世界の全てを知っていると言うのは凄い事だって言うのはさ、研究者である君なら充分理解出来るはずでしょ?』

「知識のバッアップ、それも世界規模の……ああそれは、確かに……」

『おまけに僕という"眼"を持つと言う事はリアルタイムで情報も収拾可能な訳だし、現在の文化レベルが低い生命体からしてみれば、何もかもを知っている君という存在は神に等しい、いや、人という煩悩と欲望を有した存在だから魔王いう表現はあながち間違いでは無いと思うね』

「煩悩と欲望のみを切り出して強調するんじゃない、と言うかその魔王という呼称もどうなんだ」

『まぁ現在のデバイス環境じゃ、せいぜい目的地迄のルートナビやら周辺の天気予報辺りしか利用出来ません』

「む……話が壮大な物からいきなり陳腐になったな」

『この通信速度はあくまで理論値であり、ご使用する環境に拠っては変化するbest effort型となりますので、予めその辺りはご了承下さい』

「通信事業者が使う典型的な逃げ文句をここで言うか!? 本当に大丈夫なのかおいっ!?」

『それはやってみないと判らないとしか言えないなぁ、でも結局さ、見た目とか人並み外れた知識量を有してたりさ、色々とほらぁ今の君を第三者視点で表現しちゃうとさ』

「……何だ?」

『君、本当に魔王を名乗っても違和感無くなりつつあるね、プゲラ』

「くっ……貴様ぁ……」

「へっ……へうっ!?」


 む? 何だ今の珍妙な声は? っていかん騒ぎ過ぎたか、ネコミミ少女が眼を覚ましてしまったでは無いか、て言うか何だろうか……妙にプルプルしていると言うか、こっちを見て怯えていると言うか……


『あ、そう言えば僕と君の会話は電波通信で行ってるでしょ? それって第三者から見れば僕達が会話してる時は君が独り言を呟いてるって言うか、ぶっちゃけ目に見えない相手にブツブツ言ってる悲しい人にしか見えないからね、そんな愉快な人に思われたくなかったらちょっと考えた方がいいと思うよ?』


 むぅ、確かに言われてみればそうだ、これからは人の目を意識して行動しないととても残念な人物に見えてしまう危険を孕むのは確かだ、これは特に気を付けないといけないだろう、主に私の色々な尊厳に於いて。

 と言うか取り敢えず今はその第三者の目であるこのネコミミ少女をどうにかしないといけないのだが、ううむ……ここに連れて来た時からずっとビクビクしていたが、今はそれにも増して恐れている風にも見えなくはない、何故だ。


『まぁそりゃぁ魔王様々の贄として送られて、その魔王本人に訳判んない地下に連れ込まれ、んでちょっとうたた寝して目が覚めたら目の前にはマッパで白衣で角が生えた長髪の変質者が居たら、まぁ……そりゃぁねぇ』

 そうだ!? 私は今頭に通信アンテナという名の角が二本生えている状態だった!? ぐぬぬ、これは色々と面倒な事に……ん? 待て、今私は声にして心情を語った覚えは無いのだが、今その思考にツッコミが入る様な会話が成り立っているのはたまたまなのか?


『あーそれね、通信デバイスの更新が終了したからさ、オンフック機能が有効になっちゃってるから』

「オンフック機能ぅ? 何だそれはっ!?」

「へうっ!?」

「あ、すまん少女よ、これは君に怒鳴った訳では無いのだと言うか何故ジリジリと後ずさるのだちょっと待て!」

『あー、君の視界……んーと、意識して右上辺りを見ると文字とか浮んでない? 平時は邪魔にならない様なレイアウトで表記されてる筈だけど』


 文字? ……ふむ、言われてみれば『LIVE』と『ON-HOOK』という文字が……、なる程、これは意識してその部分に視線を合わせると文字が認識出来る配置になっているのか。


『LIVEは僕と君が画像……と言うか、視点共有している状態になるね、それは切り替えれば逆の状態にするのも可能だよ、で、ON-HOOKと言うのは脳波通信、これがONになっていれば思考がこっちにダダ漏れになっているって事だからね、いゃあ君の思考ってほんと面白いよねぇププッ』


 くそっ、そういう重要な機能説明は最初にしておけ! て言うかこれの切り替えは……うむ、視線を合わせて思考で行うのか。


『そうそう、そんな感じ、それとね、現状その表記はデフォルト状態なんだけど、任意で消したり位置を変えたりとカスタマイズ出来るし、追加機能を置いたりとか色んな事も出来るから』


 ふむ、視界にPCのデスクトップ機能が追加された感じと思えばいいのか、なる程……と関心している場合では無い! 今はこのプルプルしているネコミミ少女を何とかしないと!


「あー……その、少女よ」

「は……はぃ……」

「うむ、その、取り敢えずはお互い現状の把握に努めると言うか、互いに相互理解に努める為の努力をしようでは無いかと言うか……」

「ぁ……あのぅ、魔王様」

「いやその魔王様と言うのは誤解であってだな」

「何故アリィはまだ生きているのでしょうか?」

「うむ? 何を言っているのだ少女よ?」

「……あのあの、アリィは魔王様に連れられて草原の迷宮に連れられて来ました」


 草原の迷宮とは何だ? もしやこの研究施設の事を言っているのか?


「それで生贄の祭壇に寝かされたと思うのですが……」

「待つのだ少女よ!?」

「へうっ!?」

「ああいや一々そうビクゾクしなくとも何もしないから、取り敢えず落ち着くのだ」

「ぁ……はぃ……」

「それでだな少女よ、その……生贄の祭壇とは何だ?」

「ぇ……その、さっきまでアリィが寝かされていた祭壇ですが……」


 祭壇? もしやそれは私が寝かされていたシステムベッドの事を言っているのだろうか……


「フカフカでピカピカしてて……その、この世の物とは思えない形の台だったのでてっきり……」


 あー……確かにバイタル機器は作動したままだったし、ベッド周辺の照明は点いたままだったが、もしやそれを見てこの少女は誤解しているというのか?


『ねぇちょっといい?』


 何だ、今私はお前に構ってる暇は無いのだ、用事なら後にして貰おう。


『いやそうじゃなくてさ、基本的に君は大きな勘違いしてるから先に言っておくけど』


 ……む? 勘違い?


『今の世界って人類が絶滅して別の生命体が支配している状態にあるけど、その文化レベルって中世ヨーロッパとか安土桃山時代の日本を足して2で割った程度の物しかないから』


 何だと? まさかそれは……


『さっき"現在の文化レベル低い"って言ったでしょ? この世界は今産業革命も文明開化もしていない、思いっきり封権社会がまかり通ってる状態だからさ』


 ああ……だからこの少女は魔王だの生贄だのと、とんでもない単語を真面目に口にしている訳か。


「あの……魔王様」

「いやだから私は魔王では……いや、うむ、どうした少女よ」


 取り敢えず現状把握と対処だ、否定ばかりしていては話が進まん、先ず話を聞いて誤解を一つ一つ解いていこう、うむ、それがいい。


「勝手なお願いと言われそうですが、アリィをお食べになられる時は一思いに……その、痛くしないで……」

「いや食わんぞ!? 私に人肉食という嗜好は無いからな!?」

『正確には彼女人じゃなくて猫科動物だから、人肉食には当たらないんじゃないかなと思うんだけど』

「煩いっ! 話をややこしくするんじゃないっ!」

「へううっ!?」

「ああすまん誤解だ!? 君に言った訳では無い! て言うか私は君を食うとかしないからな!」

「でも……祭壇に……」

「それは祭壇では無い、何と言うか……そう、それは私の寝床だ! 君が眠そうだったので取り敢えずそこに寝てもらう事にしたのだ!」

「寝床……」

「そうそう、だから安心するのだ少女よ」


 何故この少女は食べる食べないの話に終始するのだ、この見た目か? 確かに見た目は角の生えた白衣マッパの不審者と言えなくも無いが、動物が進化した生命体が跋扈する世界ならば角が生えている生命体が居てもおかしくは無いのではないか? やはりマッパに白衣か? これが原因なのか?


「もしかして……魔王様は、別の意味でアリィをお食べになるつもりだったのでしょうか?」

「別の意味で食べるとはどういう意味なのだろうか少女よ!? 君は色々と誤解が過ぎていると思うのは私の気のせいか!?」

「そして満足した後改めて食べられる……アリィは二度美味しく頂かれてしまうのですね……」

「私の話をちゃんと聞いているか少女よ!?」


 何だこのやり取りは、誤解を解く以前にこの少女は色々と致命的な思考をしている為話にならんと言うか、何だ二度美味しいって?


「あの……アリィはその、経験はありませんが、もしもの為にその辺りの知識も邑長から聞き及んでおりますから……ぇと、痛くしないで……」


 邑長ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何いたいけな少女に余計な知識を仕込んでいるのだぁぁぁぁぁぁぁ! 余計な手間を増やすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「少女よ! 私は物理的にも別な意味での物理的にも君を食べるなんて事はしないからな! って服を脱ぐんじゃないっ!」

「ぇ……でも、まさか……着たままというのを御所望でしょうか? 確かにそういうプレイを好む殿方も居ると邑長が言ってた気が……」

「邑長ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! どこまで特殊な知識を吹き込んだ邑長ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 取り敢えずステイ! ステイだ少女よ!」


 こうして私はやっと現状の世界を知る一歩を踏み出す準備を整えた訳だが、それを行う前にはまだ一仕事をしないといけないという今に頭を抱えてしまった。

 
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