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転生も転移もしていない私が何故ファンタジーの世界で魔王と呼ばれる事になったのか。

作者:zero-45(仮)
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更に夜はふける

 
 ネコミミ少女との衝撃の邂逅後、私は現在目を覚ましたラボへと戻り、今後の色々に於ける対策を練る為情報収集と現状把握に努める事にした。


 そんな私の前にはスヤスヤ眠るネコミミ少女、ぱっと見小動物然とした存在に夜も更けて寒いだろうと、私は白衣をタオルケット代わりに掛けてやる。


 色々な事があったが取り敢えず心を落ち着ける為に首をゴキゴキと鳴らしてモミモミしつつ、盛大に溜息を吐いて改めて周囲を見渡してみる。


 白衣を着て、白衣を前後逆にエプロン風に腰に巻き、そして白衣を床に敷いて佇む私。


 何故白衣がアジト(仮)の構成要素の殆どを占めているのかというのは考えないでおこう、私自身まさかこのラボ跡地で無事だったのが白衣と私だけという結果になっているとは想定外だったから今も困惑している。


 寧ろ現在先程のネコミミ少女との邂逅の際、頭に響く声に従ってやらかしたあれこれの方が精神的にキている状態なので、部屋と白衣と私というどこぞの歌謡曲染みた状況は余り気にする余裕が無い。


 確かに私は焦っていた、何せ知らない場所に白衣一枚で放り出され、頭の中には謎の声、それだけでも充分混乱する状態なのに、とどめにネコミミ少女に魔王扱いされれば誰でも混乱するとは思わないだろうか?

 そんな状況で冷静な判断が出来ず、つい頭の声に従って『我を崇めよ』とか想像を絶する馬鹿な言葉を吐いてしまったとしても、致し方無いとは思わないだろうか?

 寧ろその言葉を聞いて平伏するネコミミ少女を見て我に返ったのは内緒の話だ。


 それから色々があって夜も更けたからと半壊したラボに戻ってきて、内部を改めて物色したら追加の白衣が4枚という結果に、喜んでいいのか呪って良いものか微妙な心境になったのはまぁどうでもいいだろう。


「で? 頭の中でわちゃわちゃのたまうお前は、現状の説明をいつしてくれるのだ?」

『あ、やっと聞く気になった? っとその前に言っておくと、僕は君の脳にプリインストールされているソフトを介して通信している状態なだけで、僕自身は別の場所に存在してるからね』

「……別の場所?」

『そう、具体的な位置を説明すると、君から高度36028m上空、静止軌道に浮ぶ人工衛星『魁』に本体プログラムを格納している状態なんだ』

「衛星魁……と言うと、確か政府主導で行われた高速通信網整備計画関係でその名を聞いた覚えがあるな」

『良く覚えてたね、まー打ち上げはしたものの試験運用段階だったからガワは立派でも中身はスッカスカ、お陰でその辺りは整理して僕の記憶容量に転用出来たからいいんだけどさ、で、君の携わったプロジェクトもこの通信網に乗る筈だったから、ある程度その辺り知っててもおかしくは無いよね』

「……その話が本当なら、今お前が私とこうして通信出来ている理由も一応納得は出来るが……」

『だね、取り敢えず現状だとそこのラボ経由で通信は確保出来てるけど、そこから離れたら通話は途切れちゃう感じかなぁ』

「ふむ、ならここから離れればお前のこ煩い話を聞かなくても済むという事か」

『酷いなぁ、折角こうして対話出来る状態になったんだからさ、お互いもっと有意義な関係を築こうとか思ったりしないの?』

「……それはお前次第だと言っておこう、取り敢えずはまだこの訳の判らない惨状と、私の置かれている状況を聞かねば何も判断が出来ない」

『そうそれ、やっと本題に入れるって感じだけど……その前に一言、これから話す事は色々とショックな物が多いから、色々途中で聞きたい事が出ると思うけど、その辺りは後で纏めて答えるからそれまで黙って聞いててね?』

「いいだろう、ではその辺りを簡潔かつ詳細に説明を頼む」

『簡潔と詳細は同居が難しい物だと思うんだけど……まぁ情報の取捨選択は希望に沿う様に努力してみるよ』


 こうして頭に語り掛けてくるAIが言う情報は、正直私には受け入れ難い物を多分に含む物が殆どであった。

 先ず私が白衣のみで待機しているこの場所は、私が勤務していた研究施設である事は間違い無いと言う事。

 では何故そのラボが半壊しており、また外部が何も無い草原になっているのかと言うと、何やらウチの関連企業がやらかした事故、ぶっちゃけバイオハザード的な物が原因で人類は死滅し、そのまま年月が流れてしまった為に、世界は自然が回復する形で人類の痕跡が消えつつあるのが今という事らしい。

 この辺りでも突っ込み処は満載なのに、次に言う人類滅亡から現在まで約2万年程時間が経過していると聞いて、私は思考が停止してしまった。

 私が寝かされていたベットは確かに試験中のコールドスリープ機能が搭載されている物であったが、その状態で人を万を越す程の年月保存しておく事は到底不可能なのは確かだ。

 食肉加工された物でさえ冷凍保存したとして賞味可能な期間は通常一ヶ月も無いというのに、そんな現状人を仮死状態で延々と保存するのは不可能ではないだろうか。

 しかしその常識は次の瞬間またしても追加された情報で、現代科学・医療という物の全てを斜め上にすっ飛ばしてしまう事になる。


 それは人類を滅亡させた原因となった存在、元々は企業が研究を進めていたDNA組み換え技術の産物に拠るものが全ての鍵となっていた。


 西暦も2050年代に入った頃、政府が産めよ増やせよの政策を推進しても低い水準で横ばいだった日本の人口。

 それは労働人口をホワイトーカラー寄りの形で形成させ、ブルーカラーと呼ばれる現場の労働力を激減させた。

 誰だって汗水垂らして肉体労働に従事するよりも、エアコンが効いた室内で企業戦士等と潰しが利く肩書きを得つつ日々の糧を得る方がいいに決まっている、そして後の事を考えればどちらの業種が豊かな老後を過ごせるかは議論にもならない話である。

 自分の体を資本に、年を取れば生活に不安が残る、少子化が進めば公共的な補助は期待できず、個人の財力がモノをいう。

 結果、労働力は便利な暮らしが用意され、ホワイトカラーが幅を利かせる都市圏へ偏り、地方の農畜漁業という業種はどんどん衰退していき、日本と言う国は食料自給率という部分を激しく低下させていった。

 そんな日本の事情とは逆に一部の国に於ける人口は増大の一途を辿り、結果として慢性的な食糧難という救えない状況が世界に蔓延しつつあった。


 かくして食という面に於いては贅沢かつ無駄が顕著な日本という国は、誰言うでも無くモラルも安全性も二の次にして食料確保の為になりふり構わない行動を起こすハメになる。

 その手段の一つにDNA組み換え食品という物があった。

 当初は主食に関わる米から小麦、他はエネルギー転換出来る穀物を中心にそれは行われ、それが軌道に乗れば肉や魚へ波及し、食料自給率がある水準を超えた時は、質、味の向上という形でどんどんそれらは改変を繰り返す。

 生きる為では無く、利便性と欲求解消の為に際限なく自然という言葉も存在も犯され続ける事になる世界。

 政府主導と、それを支持する国民感情、それは企業間の技術的な部分を基にしたシェアの奪い合いという競争を生み出し、少し昔では禁忌とされてきた行いでも研究という形であれば堂々と行える程、様々なモラルのハードルを下げる結果となった。


 そんな中研究されていたある細菌、従来の物よりも早く動物の成長を促し、また手軽に扱えるという物をコンセプトに生み出される筈だったそれは、使用時対象に強い毒性を発生させ、それが連鎖的に広がるという致命的な欠陥が判明した為、失敗と言う事で破棄される事になった。

 それは公式の記録上そういう扱いになったが、裏では目的とは違う特性を見出された為に別の部門が引き継ぎ研究が進められる、そんな安い週刊誌が扱いそうな陳腐かつ致命的な経緯を辿り、その細菌は色々と特性を持つ劇物へと変貌していった。

 結果、安い週刊誌が扱いそうなネタは、パニック映画の題材宜しく取り扱い不備というヒューマンエラーを元とした事故で世に放たれ、それを隠蔽しようとした企業努力があれこれと細菌を変異させるという悪循環を辿り、一連のあれこれが世間の知る物となった段階では時既に遅し。

 そんな訳で人類はめでたく滅亡の道を辿ったのだという。


 さて、この陳腐な人類滅亡の物語にはまだ続きがある、ここからの話はパニック映画ではなくファンタジー映画というジャンルに様変わりする。


 人類を滅亡させたこの細菌は、人類と一部の動植物を死滅させたが、同時に他の動物には劇的に作用……簡単に言うと進化を促し、滅亡した人類にとって代わる新しい生命体を世に放つ事になった。

 私の事を魔王と称し、今私の寝床を占拠してスヤァしているこのネコミミ少女も、そんな進化を果した新たな世界の住人であり、現在世界は様々な種の動物……いや、新人類が生きるファンタジーパラダイスに変貌していると言う事である。


 この辺りも色々と突っ込み処はあるが、実際私はまだ周囲の状況も碌に把握出来ていない状態にある為に、この辺りはまた自分の目で確かめてみようと思う。

 さて、ここまで話が進んでしまった後に言うのは少し遅い気がするが、個人的にだがそれ以上に重要な問題がまだ残っている、それは他でも無い『私』という存在だ。


 お喋りAIの言によれば人類は企業がやらかしたバイオハザードで滅亡したという事である。

 ここから色々な謎が浮上してくる、先ず何故私はその細菌に犯されず生き残ったのか。

 次にまだ試験段階にも至っていないコールドスリープという胡散臭い設備に放り込まれ、しかも万を越す年を経た上で、何故私は無事だったのか。

 実際の話、その設備を維持する動力、つまり電力等はどこから得ていたのか。


 ぱっと思い浮かぶだけどもこれだけの突っ込みポイントが存在する、その辺りに納得の行く説明がなければ私は現状を受け入れられたとしても、この頭の中に語り掛けてくる自称AIという存在を心から信用する事は出来ないだろう。


『あー、まぁそういう考えになるのは仕方ないとは思うけど、もうちょっと他人を信用すると言うか、心を開いてくれてもいいと思うんだけどなぁ』


 人類の滅亡と言う割とシャレにならない話題を振った直後に、こんな軽い口調で暢気に話すヤツをどう信用すればいいのかとも思ったが、そこを突っ込むと余計な話に及びそうだったので取り敢えずは黙っておく事にしよう。


 そして私は思考を深い部分へ沈めず、聞く事と、耳に入る情報を心に留める為に終始する事を決め込み、その情報に付いて考察するのは後回しにする事にした。


 目の前ではネコミミ少女が暢気に寝返りを打ち、こっちに向けたシリから生えるシッポがゆらゆら揺れているのがなんとなーくやる気を削ぐ形に作用している気がしないでもないが、それも取り敢えず深く関心を持たない事にする。



 そんな色々な諦めと戒めを心に留めつつ、次にフォルテから聞かされた情報は今までの物より遙かに驚きと胡散臭さに塗れた物であり、それを聴いた後に起こった出来事、更にそこから始まる諸々はある意味私の常識と、精神の安寧をゴリゴリと削っていく物であったのをこの時の私はまた知らない。

 
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