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東方霊夢譚

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心配そうな表情で見つめる上白沢慧音が手を差し伸べる。私は少し戸惑いながらもその手を握る。女性の教師とは思えないごつごつした手。この手の感触だけで彼女の苦労が伺える


「賢者から連絡があって迎えに来てみればこんな事になっていたとは。遅くなって済まない」

「いえ、助かりました」


私はたぶん彼女にタメ口は言えないだろう。雰囲気が完全にTHE・先生なこの人にはタメ口を使ってはいけないと私の道徳的感性が囁いている。夢の中の霊夢はどうしてこの人にあんなに強気で出られたのか分からない。因みに紫はいくら年上でも敬語は使わない。敬うべき部分が全く見つからないし。まぁ、紫からも習えるものは有るかもしれない、反面教師的な意味で

さっきまでルーミアが居た所を見てみるといつの間に出来たクレーターの中心でルーミアが気絶していた。ヤ○チャか、お前は。流石けーね、里の守護者は伊達ではないか


「全く紫め。外来人が来たなら最後まで責任を取ってもらいたいものだ。仮にも幻想郷の賢者ならば」


ん?よく考えてみれば紫に頼めば万事解決だったんじゃない?慧音に連絡するついでに私も好きまで連れて来れば森を通る必要も妖怪に襲われることも無かったはずだ。彼女自身が自分の能力を言って無いのでこっちから頼めないが向こうから申し出ても良かった。もしかして私が襲われるのを見越して……

もしかしてと思い周囲を見渡すと空中に浮かんでいた二つのリボンがスッと消えていった


(あの野郎……)(#^ω^)ピキピキ


今頃隙間の向こうで笑っているんでしょうね

慧音もそれに気づいたのかリボンが消えたのを見て深い溜息を吐く


「全く、あの人は……それはいいとして今は早くここから抜けないと。里までもう少しだから急ごう」


そう言うと私の手をつないだまま歩き出す。彼女が言った通り急いでいるのかかなり早歩きだが私が普通に歩くスピードとそう変わらない
今更だが慧音の身長は私よりかなり低い。半人半妖なだけあって顔も若く見えて傍から身えば小中学生にも見える。それなのに口調はとても大人びているから大人ぶりたい子供に見えて少し微笑ましい
それも彼女の魅力の一つなのだろう

そんな事を考えると里の入り口が見えてくる

ドラマとか時代村とかでしか見れないような街並みが目の前に広がっている。夢と変わりないその光景にやっと私が幻想郷に来たと再認識した


「此処まで来れば安心だ。ようこそ、里へ。私は上白沢慧音、ここの守護者をしている」

「私は柊霊夢です。宜しくお願いします」


慧音の歓迎に私はペコリと頭を下げる


「すまないが急なことで霊夢の住処を確保できなかった。だから住むとこが見つかるまで私の家に住む事になるが大丈夫か?」

「はい、それは大丈夫です。それよりもここに図書館ってありますか」

「ん?何か調べ物でもあるのか?」
「はい。幻想郷について調べたくて…」

「もうすぐ夕餉の時間なのだが。まぁ、里の中だから危険はないだろう。ここから三建進んで右に曲がると鈴奈庵という貸本屋があるからそこに行くといい。あまり遅く帰って来るなよ」

「分かりました。行ってきます」


そう言って私は目的地の方に歩き出した






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「ここが鈴奈庵ね」


私が辿り着いた場所は『鈴奈庵』という看板がぶら下がっている只の家だった。『庵』の字が傾いているのが良い味を出している。

どう見ても貸本屋には見えないが慧音が嘘を吐くはずもないので勇気を出して中に入る


「失礼しまーす」

「あ、いらっしゃいませ!」


中に入ると奥から可愛げのある声が聞こえてくる
声の主は眼鏡をかけた橙色の髪の女の子がカウンターに座っていた。読書をしていたのか手元には本が置いてある。この店の娘だろうか


「幻想郷の歴史書はあるかしら?博麗について調べたいのだけれど」

「歴史書ですか?博麗について調べたいのだったらこっちの方がいいですよ」


そう言うと近くの本棚から一冊の本を取り出し手渡してくれた


「幻想郷縁起…ね」


夢の中でも見たことがある。確か妖怪の生態や弱点などを書き綴った物だったはず。そういえば幻想郷の重要人物についても書いてあったわね

ペラペラと斜め読みをしていると博麗について書かれているところを見つけた。最初は博麗についての詳しい説明があり、その後に歴代博麗の巫女について書いてあった
その一番後ろには現在の博麗の巫女である人の事が書かれているはずだ

少しページを捲るとそこには私の求めていた答えがあった


「18代目博麗の巫女、博麗霊華」


これが今代の巫女かと名前の隣に貼ってある写真を見てみる。容姿はストレートな黒髪に優しそうな顔。簡単に言えば先代巫女から攻撃性を抜いたような姿だ


「でも……少しおかしいわね」


私が博麗を調べようとした理由はそこに博麗霊夢という人物がいたか確認したかったからだ。だがこの本をいくら見返しても博麗霊夢が見当たらない
だがこれはまだ予想範囲内だ

問題は―――――


「確か博麗霊夢も18代目の巫女だったわよね」


博麗霊華と博麗霊夢の代が完全にかぶっている事だ。その思わずの出来事に頭を抱えたくなる。つまりここは博麗霊夢という人物が存在しない幻想郷
余りにも私の夢と状況が違い過ぎる
夢の中で博麗霊夢という人物はかなりの重要人物だった。そんな人が居ないとなると私が思っている幻想郷とは少し違うかっも知れない。彼女が周りに及ぼしていた影響は尋常じゃなかったからだ


(はぁ……悩んでても仕方ないわね)


そう心を切り替えると本を返すためにさっきの橙色髪の女子に話しかける


「ありがと。お陰で知りたかった情報が見つかったわ。それと陰陽術に関する本はあるかしら?」

「陰陽術でしたらこの本ですね」


そう言うと今度は別の棚から本を引っ張り出す。タイトルは『猿でも分かる陰陽術』


(なんてベタなタイトル)


タイトルは微妙だがやっと手に取ったファンタジー要素に興奮を隠せない
今すぐ読みたいところだがこれ以上時間を取ると慧音が心配する


「これ借りれるわよね?」

「はい!それでしたらこの書類に名前とか記入してもらえれば大丈夫ですよ」


笑顔でそういう彼女から受け取り記入事項を全て書いてから鈴奈庵を後にした

……そういえば慧音の家が何処にあるか聞いてなかった





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







如何にか通りすがりの人に道を聞いて家に到着すると慧音が私が来たことを歓迎して贅沢に料理を振舞ってくれた。両親が死んでから誰かと食事をした事が無いからこの歓迎には思わず売るっと来た


(やっぱり和食が一番ね)


テーブル一杯にあった料理を全て片付け割り当てられた部屋に移動した
狭くはないが一人で過ごすには十分な広さがある。私が慧音に礼を言うと彼女はお休みと言って部屋を出た

慧音の足跡が遠のくのを確認して私はさっき貸本屋で借りた本を取り出す

陰陽というワード鼓動が高まるが思考は実に冷静だ
いくらこれが魔法や超能力の様に空想の力ではあるがこの幻想郷では生き残るために必要な物だ。外の世界いたときの様に平和ボケしていちゃ何時死んでも可笑しくない

一度深呼吸をして心を入れ変えてから本を開いた











5分後……


「分かるかああああぁぁぁっ‼‼‼」


現実、そう甘くはなかった

本には霊力を使った陰陽術について詳しく書いてあった
だが大前提である霊力の感じ方が書いてないのだ。もしかしたら陰陽術を習う者にとっては当たり前すぎて記述してないのかもしれない

完全に出オチだ


「どうすればいいのよ……」


完全に詰んでいる訳だがまだ諦める訳にはいかない
昔読んだ異世界転生物の小説に魔力をを感じるために瞑想する描写があったはずだ。正直全く参考にならないが無いよりましだろう
記憶の中でも瞑想よしていた……気がする。博麗の術を覚え始めた夢を見たのはかなり前なので記憶があやふやだ

既に敷かれていた布団の上で座禅を組み瞑想を始める
出来るだけ何も考えず体の中を探るように集中する。すると徐々に周りの雑音が無くなり静かになる。聞こえるのは心臓の鼓動のみ

そうやって集中してそれなりの時間が経った。途中から完全に思考が切断されてたので体内時間すらハッキリしないがお腹辺りに暖かい何かを感じる

目をゆっくり開けるとお腹の温かさが少し消えたが集中するとまた暖かくなる


「……意外と体力使うわね」


気が付くと髪が汗で濡れていた。霊力にまだ慣れていないせいでむだな精神力を使ったらしい
このままでは霊力の前に体力が切れてしまう


(体力が切れる前に何か一つでも覚えないと)


もし明日起きればまた霊力を感じられなくなるかもしれない
そんな焦りから私は急いでページを捲った

お札の使い方、霊弾の撃ち方、妖怪の使役方法など多方面の術がある中一つだけ私の眼を引いた


(回復術)


好戦的だった夢の中の霊夢は使う事のなかった術
私は別に妖怪を退治したい訳でも戦いたい訳でもない。ただ生き延びたいだけだ
そんな私にはこの術は最適といえる

詳細を読むとこの術は魔法の様に癒すのではなく体に霊力を循環させ体本来の治癒力を底上げするものだ。欠点としては術者も怪我人も体力を消耗すること。そのため瀕死の人にこの術を使うと傷が癒える前に体力が尽きて死んでしまうらしい


(よし、これにしよう!)


幸い(?)にも今日のルーミアの襲撃で体には擦り傷が残っている
その傷に手を重ね霊力を送る。同時に目を瞑りながら細胞が再生するイメージする。すると傷が暖かくなり徐々に消えた。手をどかすと傷が癒え新しい皮膚が出来ていた


「やばっ、もう体力が……」


傷が癒えると同時体力に体力が尽きてしまった
薄れゆく意識の中、私は絶対に体力を鍛えることを胸に誓った













(ん?何だか騒がしいわね)


目を開けると時刻は朝の7時。幻想郷の住民はみんな起きる時間だが霊夢には少し早い時間
目覚めて初めて気づいたのは外がやたらと騒がしい事。


「幻想郷の朝っていつも煩いのかしら?」


目を擦りながらノロい足運びで玄関に向かう
玄関に近づけば近づくほど騒音は酷くなる

安眠を邪魔され不機嫌な霊夢は少し乱暴に玄関のドアを開けた

そこには







「なによ……これ……」


幻想郷を覆いつくすように赤い霧が充満していた
 
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