| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

ターン76 鉄砲水と紅蓮の黒竜

 
前書き
前回のあらすじ:ミスターT(漫画ボマー仕様)とのタッグデュエル。ラストはヒーローフラッシュで決めたかった。 

 
 その日の夜、医務室。どうやら十代、僕らには一切内緒でオブライエンと連絡を取り合い、藤原優介という男について僕らが出会う前から調査していたらしい。下手に隠したりして、もし僕らが何か嗅ぎ付けたらそのまま首を突っ込むことぐらいわかんなかったのかねこの男は……なんて、今日の昼まで夢想にミスターTの存在を隠そうとしていた僕に言えたことではないけれど。
 だから僕に、十代を責める資格はない。その気持ちは、痛いほどよくわかるからだ。でもだからといって、このわだかまりがすんなり溶けるわけではない。なんとなく目を合わすのも気まずいような空気の中でオブライエンが廃寮から連れ帰ってきて、現在気を失っている吹雪さんの看病をしながら、なぜこんなことになったのかを思い返していた。元々はこのアカデミアで見つかったのと同じ、デュエルディスクに反応しない妙なカードの謎を追っていたらしいオブライエンがその途中で名前を見つけ出し、調査したという藤原についての内容……それをまとめると、だいたいこんな風になる。

 一、藤原優介は実在する人間。
 二、ただし彼は、もう何年も行方不明のはず。
 三、彼が行方不明になったのは、例の特待生用だった廃寮。

 そしてアカデミアに上陸したオブライエンが廃寮に向かったところ、撮られたのは数年前のはずの彼の写真と瓜二つな『藤原』に襲われていた吹雪さんを発見。調査を諦めて吹雪さんの安全を優先させ、なんとかここまで逃げ切ってきたらしい。稲石さん何してたんだろ。
 なぜか廃寮にいた吹雪さん、藤原の行方不明と同時期にダークネスの力に取り込まれ、セブンスターズとの戦いまで同じく消息不明だった吹雪さん、そして藤原と吹雪さんは同級生、さらに言えばその寮まで同じ……ここまで材料が揃ったんだ、僕も十代も、考えていることは同じのはずだ。吹雪さんは多かれ少なかれ、必ず何かを知っている。それだけに、こうして彼が眠り続けている間のタイムロスが惜しい。

「兄さん!」

 そんな時医務室の扉が開き、予想していた顔が飛び込んできた。明日香への連絡はした覚えがないけれど、ここの担当は鮎川先生だし、まああの人なら明日香に連絡を入れるだろう。となると、それ聞いたらそりゃこっち来るよね。眠っているとはいえ規則正しく呼吸する兄の顔を見てようやく周りを見る余裕ができたのか、僕らを一通り見回すその視線が目を閉じて壁にもたれかかっていたオブライエンのところで止まる。当然の反応だろう、僕だってこんな状況じゃなければもっと彼を質問攻めにしていたところだ。だが彼女が何か口を開く前に、気配だけで察したらしいオブライエンが先回りして話し出す。

「俺も君たち同様、あの謎のカードの調査をしていた。この島に来たのはその過程で藤原優介の名が挙がったため、君の兄さんを見つけたのは偶然だ」
「久しぶりね、オブライエン。でも兄さんが……どうして?」
「それも調べはついている。この件に関しては君たちの方が詳しいだろうが、かつて影丸会長の行っていた三幻魔の力を利用して不老不死の肉体を手に入れるための実験、2年前に起きたというセブンスターズ事件の後、その被験者となっていた特待生たちは行方不明となっていた1人を除いて全員解放された」
「それは僕も初耳だけど、それが藤原なの?」

 思わず口を挟んだ僕にも無言で頷き、すぐ話を続ける。

「そうだ。そもそも藤原優介は丸藤亮、天上院吹雪と共に天才と呼ばれるほどの生徒だった。十代の話と俺の調べた結果を総合した仮説だが、どうも藤原はその時から君たちのよく知る力、ダークネスの力を研究していたらしい」

 なるほど、そう繋がるのか。確かに三幻魔の研究にあたり藤原がダークネスの力を研究することに影丸会長が賛成、少なくとも黙認していたとすれば、巡り巡ってその力がセブンスターズの一員として僕らに牙をむいたことにも何となく説明がつく。
 ただわからないのはなんで藤原の研究していたはずの力の象徴、ダークネスのマスクを吹雪さんが付けていたのかだ。やっぱりこれ以上は、吹雪さんに直接話を聞かないとダメということだろう。だがそんな視線の動きだけでも、僕の考えは明日香に伝わったらしい。口を開くより先に僕らと吹雪さんのベッドの間に割り込み、1歩も通さないとばかりにその前に立ちはだかる。

「駄目よ、兄さんはこんな状態なんだもの。鮎川先生にも聞いたけれど、まだしばらくは絶対安静よ」
「だが、明日香だって今の話は聞いただろ!真実は吹雪さんしか知らないんだ、頼む吹雪さん起きてくれ!」

 今にも詰め寄って吹雪さんを強引に叩き起こさんばかりの十代と、それを険悪な目で睨みつける明日香。僕も個人的には十代寄りの考えだけど、そこまで必死じゃないぶんもう少しだけ周りが見える。はっきり言ってあれは悪手中の悪手、あんな態度じゃあ明日香だって意固地になるだけだ。このままではらちが明かないのでオブライエンにアイコンタクトし、何が言いたいか察してくれた彼と2人がかりで十代を押さえつける。そのまま扉まで引っ張っていき、そこで改めて明日香に話しかける。

「はーい、そこまで。明日香、とりあえず僕らはいったん帰るけど、どうするの?」
「私は……もう少し兄さんに付き添っているわ」
「あ、そ。んじゃねー」

 大人しくはなったもののまだ不服そうな十代を外に出し、もう少し別の角度から調査を続けるらしいオブライエンのことを手を振って見送る。さて、次はこっちを説得する番だ。

「清明、お前ならわかるだろ!?今すぐにでも吹雪さんに話を聞かないと、次に何が起きるか……!」
「わかってるって。だけど、あのままだと明日香は絶対あの場所から動かなかったよ?鮎川先生が明日香に伝えちゃったなら、それを前提に動かないと。花瓶の水替えでも見舞いの品の用意でもなんでもいいけど、次に明日香があの部屋を出るときがチャンスだからね。最悪窓から入ることになったって吹雪さんには起きてもらうさ」
「……いや、それには及ばないよ」

 一体どうやって、あの部屋を出たというのか。ひどく苦しそうに息をつき壁にもたれかかりながらも、吹雪さんがそこにいた。腕には起動済みのデュエルディスクを付け、その手には1枚のカード……ここから見てもわかるほどに闇の力が感じられる、前にも見た覚えのあるカードが握られていた。通常のカードとは違い名前も効果もなく、ただ鎖に縛られた漆黒のマスクが1つ浮かんでいるだけのイラストのカード。

「ダークネス……」
「ああ、明日香には本当に申し訳ないと思うけど、この力で少しの間眠ってもらったよ。それより2人とも、僕を、もう1度あの場所に……」

 そう言いながらも、今にもその場に倒れこみそうな吹雪さん。慌てて駆け寄って肩を貸し、十代を先頭に歩き出した。いくら本人たっての願いとはいえ、本当にこんなボロボロの人を連れ出していいんだろうか。そう思いはしたが、それを口にはできなかった。僕も真実を知りたい、という好奇心も否定できないが、それだけではない。肩を貸した時に見えた、吹雪さんの目。なによりも大事にしている妹のことまでこの人らしからぬ力技で振り切って、それでも自分のすべきことを成そうとしている目。あんな目をした人を前に、体に無理が来てるんだから今は休みましょう、なんて言えるわけがない。
 結局、最後の方は肩を貸すというよりなかば背負うようになりながらも、いつもの廃寮にたどり着いてしまう。元ここの生徒だけあって迷うことなく奥に入っていくのを支える途中で、物陰から半身だけ出してこっそりこちらを窺う廃寮の幽霊、稲石さんの姿も目に入った。僕と目が合ったことに気づくとすぐに人差し指を唇にあてて黙っていて、とジェスチャーし、幽霊らしく足元からすうっと消えていった。そういえばあの人、一体誰なんだろう。この廃寮は行方不明こそ出しているものの、死人が出たという話はない。ここがお化け屋敷扱いだった頃は特に疑問にも思わなかったけど、こうして廃寮そのものの秘密が少しずつ明らかになってくると、その中心でいまだ謎に包まれたままのあの人の正体が今更になって気になってきた。一体どこから来て、なぜ死んで、なぜここにいるのか。それに関しても、今度問い詰めに来た方がよさそうだ。
 そう心に決めたところで、吹雪さんの足が止まった。そこはちょうど広間のようになっている部屋で、今では見る影もないものの当時は豪勢な場所だったのだろう。当時を懐かしむように目を細めて見回してから、ダークネスの仮面が封印されたカードを取りだす。

「ここまで来れば、もういいだろう。十代君か清明君、君たちのどちらでもいい。無論無理強いはしないが、今から僕はこのダークネスの力を再び開放する。それが、これまで僕が目を背けてきた真実を取り戻すための唯一の方法だ」
「吹雪さん……」
「こんなことを君たちに頼むのは、間違っているかもしれない。だがお願いだ、僕とここで、デュエルしてくれ。ダークネスの力に飲み込まれるか、それとも真実を再び手に入れられるかは、その結果にかかっている」
「わかったぜ。なら俺がその相手……」
「いや、ここは僕が出るよ」
「でも清明、これはただのデュエルじゃ済まないんだぞ!」

 止めようとする十代を鼻で笑い、その顔の前に指を2本立てる。ゆっくりと1本ずつ折り曲げ、諭すように言い聞かせた。

「あのねえ十代、ダークネスの力を解放した吹雪さんの相手なら、僕はこれまで2回もしたことがあるんだよ?ぶっつけ本番の十代よりはきっと、安定すると思うよ。それともーひとつ、さっきも言ったと思うけど、僕だってもう見るアホウでいるのは嫌なんだから。同じアホなら踊らにゃ損損、ぜひとも踊りに加わりたいね」
『その例え、そんなに気に入ったのか?』

 うん、実はお気に入りだったり。まあ、僕の好みはこの際どうだっていい。きっぱり目を見て言い切ると、しぶしぶながら十代も引いてくれた。……なんか最近相手の目を見て言い切るとそれだけで僕の意見が通ることが多いんだけど、チャクチャルさんの力で無意識に催眠でもかけてたりするんだろうか。

『私をなんだと思ってるんだ……ほらマスター、あちらがお待ちかねだぞ』
「オーケイ。んじゃ十代、観客頼むよ。さあ悪かったね吹雪さん、それじゃあデュエルと洒落込もうか!」

 その言葉と同時に、吹雪さんがダークネスの仮面をつける。たちまち噴き上がる闇のオーラにその全身が包まれ、仮面の下から見えるその表情も闇が広がるにつれ苦痛に歪んでいく。今吹雪さんの中では、ダークネスの記憶だけを引っ張り出してなおかつその力に自身が呑みこまれないようにするための苦しい戦いが始まっているはずだ。
 つまり、僕がこのデュエルですることは2つ。ダークネスの力を少しでも外敵である僕に向けさせることで吹雪さんの自我にかかる負担を軽減させ、同時にダメージを与えることでその封印された記憶に対してのショック療法を行う。荒療治にもほどがあるけれど、ダークネス絡みとならこれぐらいしないと記憶を取り戻すなんて不可能だろう。やがて吹雪さんの内部での孤独な戦いも小康状態になったらしく、どうにか自分を抑えてゆっくりとそのデュエルディスクを構えた。

「ああ、甦るぞ、ダークネスの力が!行くぞ、遊野清明!」

「「デュエル!」」

 先攻を取ったのは僕。吹雪さんの使う真紅眼デッキは、高打点と馬鹿火力バーンを両立させながらも決して力押し一辺倒にはならないテクニカルな面も見せる、なんとも掴みどころのないデッキだ。以前戦った時にはダークネスの力からその新たなる可能性、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンなる切り札も披露してもらったっけか。
 そんなデュエリストを相手に先攻を取るにしては、やや不安の残る手札か……いや、このカードなら何とかできるか。

「ツーヘッド・シャークを守備表示で召喚。さらにカードをセットして、ターンエンド」

 ツーヘッド・シャーク 守1600

「俺のターン、ドロー」

 そういえばいつの間にか、吹雪さんの一人称が俺になっていた。これもダークネスの力の影響だろうから、なるべく早く揺さぶりを掛けないと……いや、落ち着いていこう。自分のペースを崩した状態で押し切れるほど、あの人は甘くない。

「魔法カード、カード・フリッパーを発動。手札1枚を捨て、相手の場に存在するモンスター全ての表示形式を変更する」

 無数の糸が伸びて鮫の体を絡め取り、無理やりその姿勢を変えて攻撃態勢を取らせる。ツーヘッドの攻撃力はレベル4モンスターにしては低いため、攻め込む際や雑魚散らしにこそ向いているもののこうなると弱い。

 ツーヘッド・シャーク 攻1200

「さらに、真紅眼の幼竜(レッドアイズ・ベビードラゴン)を召喚する。バトルだ、ツーヘッド・シャークに攻撃!」
「相打ち狙い……?迎え撃て、ツーヘッド!」

 真紅眼の幼竜……あれも、初めて見るモンスターだ。生まれたての状態だった黒竜の雛よりは大きいものの、本家真紅眼と比べれば確かに顔立ちも幼くサイズも小さいその竜が、口から小さな火炎弾を吐き出した。

 真紅眼の幼竜 攻1200(破壊)→ツーヘッド・シャーク 攻1200(破壊)

 特に攻撃力が変化するギミックもなく、同時に破壊される互いのモンスター。だが、吹雪さんはその過程で3枚もの手札と召喚権を使った。
 おかしい、絶対割に合わない。そう思った矢先、案の定廃寮内の淀んだ空気を切り裂いて漆黒の竜の翼が吹雪さんを守るように広がった。

「真紅眼の幼竜は戦闘で破壊された時、デッキからレベル7以下のレッドアイズを特殊召喚し、その装備カードとなって攻撃力を300アップさせる。出でよ、真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)!そして攻撃しろ、ダーク・メガ・フレア!」

 真紅眼の黒竜 攻2400→2700

 天上院吹雪というデュエリストの代名詞でもある絶対不変のエースモンスター、真紅眼の黒竜。なるほど、攻撃力1200の幼竜にとって、ツーヘッドはなんとしても攻撃表示に変えたい絶好のカモだったってわけか。さらにその攻撃力は300上がって2700と、このまま続く直接攻撃を許せば僕のライフは一気にその4分の3近くが削られる。
 正直、他の相手ならそれもそれでアリだろう。ある程度相手に展開を許したうえで返しの一撃を叩き込む、それがこのデッキの理想の動きだ。でも相手はダークネスの力をも使う吹雪さん、そんなにライフを削らせたら僕のターンがどうこう言う前に即死する可能性すらある。

「勿体ないけど……トラップ発動、波紋のバリア-ウェーブフォース!相手のダイレクトアタック宣言時、攻撃表示モンスターは全てデッキに戻る!」
「さすがに一筋縄ではいかないか。いいだろう、カードをセットしてターンエンドだ」

 必殺の黒炎弾を辛うじて僕の前に張られた水の壁が防ぎ、真紅眼にその威力を跳ね返す。これでこのターンはノーダメージでしのげた、けれどその代償として貴重な防御札をこんな序盤で、それもたった1体のモンスターに対して使ってしまった。やむを得ないことだったとはいえ、この判断が凶と出なければいいけれど。

 清明 LP4000 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:なし
 吹雪 LP4000 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン!来い、グレイドル・アリゲーター!」

 グレイドル・アリゲーター 守1500

 ほこりまみれの床から湧き上がる、銀色の水たまりがひとつ。そしてそれがプルプルと震えて盛り上がり、緑色のワニの姿となる。これで攻撃を待ち構えるのも一つの手だ、だけど……。

「ここはあえて、前に出る!水属性モンスターをリリースして、手札のシャークラーケンを特殊召喚!」

 シャークラーケン 攻2400

「ほう……」

 仮面の下で、面白そうにかすかに笑う吹雪さん。出してしまった以上、今更後悔しても始まらない。伏せカードも気になるけれど、ここは絶好の攻め時と見た。

「バトル、シャークラーケン!吹雪さんにダイレクトアタック!」

 シャークラーケン 攻2400→吹雪(直接攻撃)
 吹雪 LP4000→1600

 何かしらの抵抗をしてくるかと思ったけど、特にそんなこともなく攻撃を直に受ける吹雪さん。さっきまで何もしなくても倒れかかってた人と同一人物とは思えない動きでその衝撃に持ちこたえ、平然とした様子を見せる。普段なら喜ばしいことだけど、あれも全部ダークネスの力のおかげだと思うと素直には喜べない。体力そのものにまで影響が出ているということは、かなり侵食が進んでいるはずだ。

「ありがとう清明君、少し意識がはっきりしたよ。だが、まだ記憶を取り戻すには足りていない。遠慮することはない、このままデュエルを続けよう」

 だが、そんな不安を読み取ったのだろう。今ここで辛いのは、苦しいのは吹雪さんのはずなのに、また口調が元に戻った吹雪さんが、相手である僕のことを安心させるような言葉をかけてくる。全く、そこで僕が気を遣われてどうするんだ。

「……ターンエンドです」
「ぐっ、また……いいだろう、ならばそのエンドフェイズにトラップ発動、レッドアイズ・スピリッツ!このカードの効果により、俺の墓地に存在するレッドアイズ1体を蘇生する!蘇れ、真紅眼の黒竜!」

 真紅眼の黒竜 攻2400

 再びその声音から優しげな色が消え、身にまとうオーラが膨れ上がる。それにしても、墓地から真紅眼か。たった今1体をデッキバウンスしたばかりなのにこうして出てきたところを見ると、どうやらあのカード・フリッパーは展開の起点としてツーヘッドを攻撃表示に変更しただけでなく、手札のあのカードを墓地に送る役目も果たしていたらしい。どうりで、手札コストを躊躇せずに使ってきたわけだ。
 いや、待て待て待て。何か変だ。

『だな。真紅眼の幼竜を攻撃に合わせて蘇生させていれば攻撃が抑制でき、仮に攻撃されてもリクルートに繋ぐことができた。わざわざ戦闘ダメージを受けてまでこのタイミングでの、それも真紅眼の黒竜の蘇生を優先させた、ということは……』
「真紅眼の幼竜じゃなくて、本家じゃないとできないこと。メイン2でこっちの手札に壊獣があってもどうにもできない、確実にあのレッドアイズを場に残した状態でターンが回ってくることが重要になるカード……」

 チャクチャルさんの言葉を引き継ぎ、場の状況から推察できることを口に出すことで考えを整理する。その言葉を、再びチャクチャルさんが引き継いだ。

『だが、黒炎弾ではないだろうな。あのカードなら2400のバーンダメージが与えられるとはいえ、それで自分も2400の戦闘ダメージを受けるのはやはり割に合わないだろう。これで彼の場に伏せカードはないから、メタル化・魔法反射装甲の線もない。となると、答えはおのずと見えてくるか』

 場に真紅眼の黒竜が存在することを条件とする、黒炎弾以外のもう1つのカード。ダークネスの力を得た吹雪さんの操る、ある意味もっともシンプルな進化の形ともいえる黒を越えた漆黒のドラゴンのあの姿が、僕の脳裏に浮かんだ。

「場の真紅眼の黒竜をリリースすることでのみ、このカードは特殊召喚できる。出でよ、真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)!」

 闇の力を纏う真紅眼が、その闇の中で急速な勢いでの自己進化を遂げる。高速で高高度を飛行するためにはむしろ邪魔となる両腕は退化し、全身のフォルムをより鋭角的にすることで空気抵抗を少なく。体表には溢れ出るそのエネルギーが従来無かったオレンジ色の模様という形で浮き出て、かすかに脈動しながら薄く光を放っている。やはり来たか、吹雪さん第一の切り札。

 真紅眼の闇竜 攻2400→3000

「このカードの攻撃力は、俺の墓地に存在するドラゴン族1体につき300ポイントアップする。今は真紅眼の幼竜、そして真紅眼の黒竜の2体だから600ポイントだ。さらに手札から、黒鋼竜(ブラックメタルドラゴン)の効果を発動する。このカードは装備された闇竜族の爪となり、その攻撃力をさらに600ポイントアップさせる。焼き尽くせ、ダークネス・ギガ・フレイム!」
「ぐっ……!」

 真紅眼の闇竜 攻3000→3600→シャークラーケン 攻2400(破壊)
 清明 LP4000→2800

 先ほどとは比べ物にならないほどの熱量を誇る暗黒の火炎弾が、シャークラーケンを呑み込んで跡形もなくその身を消し去る。まだまだ序盤ゆえに強化値が少なかったことも幸いして僕へのダメージは1200止まり、それでも体の奥からガツンと来るこの衝撃はさすがダークネスの力、覇王やユベルと対峙した時のそれにも勝るとも劣らない。
 邪魔にならないようにとの配慮かこれまで黙ってデュエルを見守っていた十代が叫びかけたのを察して手で押し止め、吹雪さんの次の動向に神経を集中させる。まだ何か伏せカードを仕込んでくるようなら本気でどうしようかとも思ったが、幸い今の動きだけでこのターンにできる事はやりきっていたらしく、そのままターンが僕に移った。

 清明 LP2800 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:なし
 吹雪 LP1600 手札:1
モンスター:真紅眼の闇竜(攻・黒鋼竜)
魔法・罠:黒鋼竜(闇竜)

「僕のターン、ドロー……よし、遠慮はしないよ吹雪さん。真紅眼の闇竜をリリース!そして吹雪さんの場に、怒炎壊獣ドゴランを特殊召喚する!」
「俺の真紅眼を……!」

 怒炎壊獣ドゴラン 攻3000

 切り札の一角があっさりとリリースされ、さすがに苛立ちを隠せない様子の吹雪さん。だが、ただリリースするのを黙って見てくれるわけではないようだ。闇竜の姿が消え去るその直前、その失われた腕となっていた黒鋼竜がその体から飛び出し、吹雪さんのデュエルディスクに潜り込むのが見えた。

「黒鋼竜はフィールドから墓地に送られた時、レッドアイズカードを1枚サーチする能力を持つ。俺が手札に加えるのはこのカード、レッドアイズ・インサイトだ」

 大きく真紅眼の黒竜が描かれた魔法カードをこちらに見せてから、手札に加える吹雪さん。気になるカードだが、魔法カードならば少なくともこのターンは何もしてこないだろう。それよりも今は、僕のやるべきことをやるまでだ。

「相手フィールドに壊獣が存在するとき、手札から別の壊獣を特殊召喚することができる。さあ行くよ、雷撃壊獣サンダー・ザ・キング!」

 黒色で炎を操る真紅眼シリーズとは対照的な、白い鱗に雷の力を誇る3つ首の巨大龍。あの悪魔竜ブラック・デーモンズすらも単純な打点では上回る、ジズキエルと共に壊獣の最高打点を誇る大型モンスターだ。

「バトル!ドゴランにサンダー・ザ・キングで攻撃!」

 雷撃壊獣サンダー・ザ・キング 攻3300→怒炎壊獣ドゴラン 攻3000(破壊)
 吹雪 LP1600→1300

 先ほどこちらのフィールドを漆黒の炎が薙ぎ払ったお返しと言わんばかりに、純白の雷撃が吹雪さんの場をその眩い光で白く染める。通常召喚できるモンスターがいればさらに追撃と洒落込めたところだが、強欲なウツボで引いた3枚のうち残り2枚のこの手札はどちらもモンスターではない。
 それにしても、妙に今回吹雪さんが大人しいのが気にかかる。もっと早い段階から大型モンスターがガンガン出てきてバーンの炎が乱れ飛ぶ展開になっていてもおかしくないはずなんだけど、さっきから1体ずつモンスターを出しては殴ってくるだけだ。あのカイザーの親友な吹雪さんが相手を舐めてデュエルするわけがないし、もしかして僕が不用意に隙を見せるのを狙っている?自分のライフが尽きるギリギリを見定め、その直前まで僕が優位な状態でデュエルを進めることで慢心を誘おうというのだろうか。仮面の奥の吹雪さんの目はここからでは見えないけれど、なにせ相手はダークネスだ。一応、その可能性があるということだけは頭に入れておこう。

「カードを2枚セットして、ターンエンド」
「俺のターン。魔法カード、レッドアイズ・インサイトを発動。このカードは発動コストとしてデッキからレッドアイズ1体を墓地に送り、さらにレッドアイズ魔法または罠を1枚手札に加える。俺が墓地に送るのは真紅眼の凶雷皇(レッドアイズ・ライトニング・ロード)-エビル・デーモン、手札に加えるのはこのカード、真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)だ」
「来た……!」

 思わず息を呑む。忘れもしない、あれこそが吹雪さんの切り札。どんな劣勢からでもわずか1枚でダークネスの力を受けた恐るべき融合モンスターを呼びだすことのできる、紅き竜のもたらす可能性を開くための扉。
 そして今、その扉が開かれた。

「魔法カード、真紅眼融合を発動!このカードを発動するターン他の方法によるあらゆる召喚、特殊召喚が封じられるものの、俺の手札、フィールド、そしてデッキから融合素材を墓地に送り、レッドアイズの力を受け継ぐ融合モンスター1体を融合召喚する」
「でも、悪魔竜じゃサンダー・ザ・キングには勝てない!メテオ・ブラック・ドラゴンは効果を持たないモンスター、それならまだ……」
「良い読みだが、まだ甘いな。俺が融合するのは、メテオ・ブラックではない!デッキに眠る真紅眼の黒竜、そして同じくデッキのレベル6ドラゴン族、真紅眼(レッドアイズ)の凶星竜-メテオ・ドラゴンを融合!」

 新たな真紅眼の名を持つモンスター2体が素材として墓地に送られ、廃寮を真紅の閃光が満たす。その全身を極寒の宇宙にあってなお燃え盛る妖星の業火に包み、岩石よりもなお堅い隕石の鱗を鎧として持つ、深淵の宇宙からその力を得た真紅眼の新たな可能性、新たな闇の光。

「出でよ!流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン!」

 流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン 攻3500

「攻撃力3500!?」

 これでは、サンダー・ザ・キングでも太刀打ちできない。この2枚の伏せカードのうち片方でも装備カードとなり攻撃力を500ポイントアップさせるグレイドル・スプリットがあれば返り討ちも狙えたが、あいにくそういうことができるカードではない。

「メテオ・ブラックの真価はその攻撃力だけではない。行くぞ、清明!このカードが融合召喚に成功した時、手札またはデッキからレッドアイズ1体を墓地に送ることでその攻撃力の半分の数値だけダメージを与える!俺が選択するのはこのカード、デッキに眠る真紅眼の飛龍(レッドアイズ・ワイバーン)、その攻撃力は1800。よって900のダメージを受けてもらおう」
「熱っ……!」

 清明 LP2800→1900

 デッキから落としたのは3体目の真紅眼……ではなく、それが小型化したような亜種ともいえるモンスター。あのモンスターは確か、通常召喚を放棄したターンのエンドフェイズに墓地から除外することで墓地のレッドアイズを特殊召喚する効果を持ってたはず。このターンは真紅眼融合の効果でどの道発動できないけれど、目先のダメージより墓地にあのカードを送り込んで次への布石を打つことを優先したという訳か。
 そして、あの流星竜にはまだ攻撃の権利が残っている。全身を覆う業火がより一層その激しさを増し、その名の示す通り空の彼方から飛来して襲い来る1つの流星そのものになった流星竜がおもむろに燃え盛る火炎弾、隕石の塊をその口から放った。サンダー・ザ・キングのさらに上空から飛来してきたそれに対して僕ができる事と言えば、せめてダメージを少しでも抑えるだけだった。

「バトルだ、メテオ・ブラックでサンダー・ザ・キングに攻撃。ダークネス・メテオ・ダイブ!」
「トラップ発動、壊獣捕獲大作戦!1ターンに1度場の壊獣を裏側守備表示に変更して、このカードに壊獣カウンターを1つ乗せる。当然このターンは、サンダー・ザ・キングを対象に!」

 流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン 攻3500→雷撃壊獣サンダー・ザ・キング 守2100(破壊)
 壊獣捕獲大作戦(0)→(1)

 これでなんとかダメージを抑えた……と言いたいところだが、減らしたダメージはわずか200。他の人ならまだしも、黒炎弾やらなんやらで4ケタダメージをポンポン出してくるこの人にとっては200なんて誤差にしかならないだろう。壊獣カウンターもまだ1つでは何の意味もなく、仮に次のターンで壊獣を出すことに成功してもその種類によっては固有効果が使えない。

「いつまでその防御が持つか、見せてもらおう。これでターンエンドだ」
「また……?」

 確かにこのターン、他のモンスターを出すことは許されない。下級モンスターのセットならできたはずだけど、そもそも下級モンスター自体が少ない吹雪さんのデッキではこのターンそれができなくても不思議はない。
 でもやっぱり、さっきから伏せカードすらほとんど出してこないのは何か変だ。強力なモンスターこそ繰り出してくるものの、妙に攻め手が単調というか……今の吹雪さんは、さっきも感じたようにギリギリのタイミングを探っているように見える。となると、じっと溜めている力が解放される前に勝負を決めないとまずいだろう。そのためには、まずは目先の流星竜をどうにかしなければ。吹雪さんは何一つ特別なことをしていないのに、疑心暗鬼に陥った僕の心の中で焦りだけが勝手に増大していく。

 清明 LP1900 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:壊獣捕獲大作戦(1)
     1(伏せ)
 吹雪 LP1300 手札:2
モンスター:流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン(攻)
魔法・罠:なし

「ぼ、僕のターン!」

 このカード……悪くない、悪くないけれど、今ここで欲しいようなカードじゃない。この僕の場の最後の伏せカード、これがうまく機能して次の1ターンだけでも持ちこたえられればなんとか、というところか。

『いや、悪くないどころかむしろこれはチャンスかもしれないな。確かに分の悪い賭けを凌ぐ必要もあるが、うまくいけばその分のリターンはかなり大きい。違うか、マスター?』

 確かに、チャクチャルさんの励ましにも一理ある。それにどうせ、僕の手札はこれ1枚。できることはこれだけしかないのだから、迷うまでもないか。

「永続魔法、グレイドル・インパクトを発動。そしてこのターンのエンドフェイズ、インパクトの効果を発動する。デッキからグレイドルカード1枚を手札に加える、ドール・コール!来い、グレイドル・アリゲーター!」

 インパクトのサーチはエンドフェイズと遅く、このターン中に持ってきたカードを使うことはできない。この次の吹雪さんのターンを、この伏せカード1枚で防げるか。そこが勝負の分かれ目だ。

「俺のターン。魔法カード、龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)を発動!墓地に眠るレッドアイズの名を持つ通常モンスター、真紅眼の黒竜とレベル6かつデーモンの名を持つ通常モンスター、真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモンを除外し、融合召喚!」
「あの素材……てことは……」

 宇宙の力を浴びることで空中戦にその活路を開いた流星竜とは違い筋骨隆々な体躯に悪魔の翼を持つ、接近戦に重きを置いた真紅眼の可能性のひとつ。前回のデュエルでも見せてもらった、ダークネスの力を受け継ぐモンスター。

「悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン!」

 悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン 攻3200

 2体ものレッドアイズ融合体が並び立ち、鋭い眼光が足元の僕を射抜く。1瞬で相手ライフを吹き飛ばす破壊力を秘めたモンスター2体、そのプレッシャーはまだ攻撃すら行われていない今でも凄まじいものがある。

「まだだ。魔法カード、闇の量産工場を発動!墓地の通常モンスター、真紅眼の黒竜と真紅眼の凶星竜の2体を手札に加え、闇の誘惑を発動。カードを2枚ドローし、手札から闇属性モンスターである真紅眼の凶星竜を除外する。さらに、紅玉の宝札を発動。手札からレベル7のレッドアイズを墓地に送ることでカードを2枚ドローし、デッキからレベル7のレッドアイズ、真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)を墓地に送る」

 やっぱり、吹雪さんは待っていたんだ。僕が手札を使い切り、息切れを起こすこの瞬間を。そうとしか思えないほどの勢いで、これまでのターンが嘘のようにデッキを回していく吹雪さんの動きを、背筋に冷たいものを感じながらただただ圧倒され、ひたすら眺めているしかない。

「魔法カード、死者蘇生を発動。墓地から黒鋼竜を蘇生し、フィールドからドラゴン族であるこのカードを除外する!手札より出でよ、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン!」

 それはダークネスの力のみを純粋に受け継いだ真紅眼の真か、真紅眼の闇竜……その、さらなる進化の形だった。全身を黒光りする黒鋼の鎧で覆い、機動力を若干落としたかわりにより純粋に強化された戦闘能力を手に入れた姿。

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン 攻2800

「このカードは特殊能力として、1ターンに1度手札か墓地からドラゴン族モンスター1体を特殊召喚することができる。蘇れ、真紅眼の幼竜!」

 真紅眼の幼竜 攻1200

 ここでも目先の打点より、次に繋げるリクルート効果持ちモンスターを優先するということか。もっとも今の吹雪さんの場は明らかなオーバーキル状態、さらなる打点を求める理由は確かにない。それだけ、この伏せカードを警戒しているのだろうか?

『だとするならば逆に考えれば、あの1枚残った手札もマスターのカードを除去する類のものではないようだな。もしできるのならばさっさと使い、そのまま1度攻撃して終わらせていただろう』
「相変わらず微妙に引き弱いところがあるからね、吹雪さん」

 吹雪さんの弱点というか傾向は、毎回やりたい放題にぶん回す癖に肝心なところでこれだけ引ければ勝ち、という手札が揃わないことだ。極端な話先攻で真紅眼の黒竜を特殊召喚し黒炎弾を2枚揃えればよほどバーンメタに特化しない限りまず防げないような先攻ワンキルが成立するのに、僕はあの人がそれをやってのけたことをこの3年間近くの学生生活でこれまで1度も見たことがない。
 ただしそれは、だからといってあの人が弱いということには結びつかない。至善の策が取れないぶん次善の策に関しては徹底的に手を抜かず、一切のミスを出さずに行う。だから厄介なんだ、この人は。

「バトルだ、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンで攻撃。この瞬間より悪魔竜の効果により、相手は一切のカード効果を発動できない!」
「なら、それより前にこのカードを使う!トラップ発動、バブル・ブリンガー!このカードがあるかぎり、互いのレベル4以上のモンスターは直接攻撃できない!」
「なるほどな。だが、そのカードも万能ではない。レベル4以上が直接攻撃できないのなら、レベル3のモンスターで攻撃すればいいのだろう?真紅眼の幼竜でダイレクトアタック!」

 泡の壁が張り巡らされ、最上級ドラゴン3体の攻撃をシャットアウトする。だがそのわずかな隙間を縫って、ごくごく小さな火炎弾が僕の元に届いた。

 真紅眼の幼竜 攻1200→清明(直接攻撃)
 清明 LP1900→700

「カードを1枚伏せる。そしてこのターンのエンドフェイズ、墓地から真紅眼の飛龍の効果を発動。通常召喚を行っていないターンのエンドフェイズに墓地のこのカードを除外することで、墓地のレッドアイズを蘇生する!出でよ、真紅眼の黒炎竜!」

 吹雪さんの場をさらに埋めるべく呼び出されたのは、本家によく似ているものの細部が微妙に違うまた別の黒き竜……いわば4体目の真紅眼の黒竜とも呼べる存在だ。次のドローで……さて、どうなるか。

 真紅眼の黒炎竜 攻2400

 清明 LP700 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:壊獣捕獲大作戦(1)
     バブル・ブリンガー
     グレイドル・インパクト
 吹雪 LP1300 手札:0
モンスター:流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン(攻)
      レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン(攻)
      悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン(攻)
      真紅眼の黒炎竜(攻)
      真紅眼の幼竜(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン、ドロー!魔法カード、貪欲な壺!」
「ほう」

 グレイドル・インパクトとグレイドル・アリゲーターのコンボを使えば、流星竜にアリゲーターを寄生させつつ幼竜を攻撃して吹雪さんのライフを0にできる。だが、吹雪さんだってそんなこと百も承知で幼竜を特殊召喚したのだろう。となると、あの伏せカードが怪しい。あるいはこれも疑心暗鬼なのかもしれないが、ここは1つでも対応を間違えると倒れるのはこちら、慎重に行こう。
 そんな状況を打破すべく土壇場で引いた貪欲な壺によりギリギリ僕の墓地にいた5体のモンスター、ツーヘッド・シャーク、ドゴラン、サンダー・ザ・キング、グレイドル・アリゲーター、シャークラーケンの全てをデッキに戻してカードを2枚引く。このカードか……なるほど。よくわからないけれど、アリゲーターのコンボではなくこちらに召喚権を使え、そうデッキが言っているのだろうか。いつになっても、どんな時も。やっぱりこのカードこそが僕の切り札、絶対不変のマイフェイバリットか。それがまだ僕に力を貸してくれるというのなら、今日も一緒に戦おう。

「相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、カイザー・シースネークはレベルを4、攻守0にすることで手札から特殊召喚できる。そしてこのカードはレベル7の最上級モンスターだけど、自身の効果により召喚に必要なリリースの数を任意の数だけ減らすことができる!シースネークをリリースして、アドバンス召喚!こいつが僕の切り札だ、霧の王(キングミスト)!」

 突如ピンポイントで発生した濃霧の彼方から銀の鎧を煌めかせる魔法剣士が単身現れ、真紅の瞳を持つ竜の軍団にその剣を向けて対峙した。圧倒的な竜たちを前にいささかもひるむことなく構えるその背中が、僕にとってはただただ頼もしい。

「霧の王の攻撃力は、リリースしたモンスターの元々の数値。つまりカイザー・シースネーク本来の高げくりょく、2500を霧の王は得る。さあ、バトル!ここは……真紅眼の幼竜に攻撃!ミスト・ストラングル!」

 このデュエルを通じて、改めて実感できた。ダークネスは、つくづくとんでもないほどの力を秘めている。ダークシグナーとなった僕はもはや驕りでもなんでもなく、本来人間の手にしていい力以上の能力を手に入れた。だがその力をもってしても無から新しいカードを生み出すようなことはできず、カードを創造するにはあくまで存在するがまだカードとしての生を受けていない精霊からの自発的なコンタクトを必要とする。そうやって手に入れたのがこのグレイドルや壊獣、チャクチャルさんなんかもそのくくりに入れていいだろう。そのうちグレイドルに関しては完全に成り行きだったが、チャクチャルさんは僕の負けたくないという恐怖。壊獣は僕の負けたくないという怒り。そういったものが限界を超えた時にはじめて彼らはその勝敗を逆転させるため、僕の元に来てくれた。
 でも、ダークネスは違う。吹雪さんが新たな可能性として生み出した悪魔竜に流星竜、ダークネスメタルドラゴンは、いずれも全く何もないところから吹雪さんの精神力とダークネスの力が合わさっただけで突然、さながら全くの無から宇宙を創りだした超新星爆発のように現れたモンスターだ。
 あんな仮面に封印されて力の一部分しか発揮されないような状態で、にもかかわらずダークシグナーにすら不可能なことを当たり前のようにやってみせる。あの力をこれ以上暴走させたりしたら、次のターンではまたどんな化け物が生み出されるかわかったものじゃない。
 ここで決める。なんとしても。僕の思いを載せた一刀はダークネスメタルの火球を潜り抜け、悪魔竜の獄炎を切り払い、黒炎弾を纏う妖星の一撃をも真っ向から叩き伏せ、たった一つ残された僕に向いた勝利の可能性、真紅眼の幼竜を深々と切り裂いた。

 霧の王 攻2500→真紅眼の幼竜 攻1200(破壊)
 吹雪 LP1300→0

「ぐおおおおおっ!」

 吹き飛んだ衝撃で、吹雪さんの場に置かれていた最後の伏せカードが表になる。トラップカード、バーストブレス……ドラゴン族モンスター1体をリリースすることで、その攻撃力以下の守備力を持つモンスター全てを破壊するカード。フリーチェーンで打てるあのカードなら、もしアリゲーターとインパクトのコンボを狙っていたら通常召喚の時点で場が壊滅させられていた。カイザー・シースネークの特殊召喚に対して使わなかったのは、僕が召喚権を使うのを待っていたから。しかし吹雪さんの想定に反して僕が召喚した霧の王はその特殊能力として、場に出た瞬間から互いのプレイヤーによるあらゆるリリースを禁止する。もし最後に強欲なウツボを使ってこの3枚を引き当てていなければ、このターンでは決着はつかなかっただろう。となると、吹雪さんとダークネスの力はまた……いや、もうよそう。ダークネスはまた封印できた、それで良しとしよう。
 何かの拍子にそのダークネスの仮面がひび割れて吹雪さんの顔から外れ、床に落ちて無機質な音を立てる。もう今度こそ、この世の表舞台に出てくるんじゃないよ。





「吹雪さ……」
「兄さん!」

 床に倒れこんだまま起き上がろうとしない吹雪さんの元に駆け寄ろうとした時、後ろから鋭い声が聞こえた。振り返らなくても誰がどんな顔をしているか想像はついたが、無視するわけにもいかないのでゆっくりと顔を声のした方向に向ける。そこには、予想より十倍は険しい顔と冷たい目をした明日香が走ってきて、吹雪さんの半身を起こして背中を支えてやりながら僕のことを視線だけで殺さんとばかりに睨みつけていた。
 そりゃあ、明日香からしたらそうだろう。彼女にしてみれば僕らは、絶対安静の自分の兄と一緒に医務室を抜け出したあげく体に負担のかかる無茶な闇のデュエルをさせ、あげくの果てにぶっ飛ばした張本人なのだから。しかし、誰にも言わずに来たはずなのにどうしてここがわかったんだろう。その疑問に答えるように、広間の入り口から声がする。

「今日は随分不用心でしたね、先輩。歩いた後に沿って小枝が折れてたり、石を蹴り飛ばした跡があったり、きちんと見れば綺麗に通った後の道ができていましたよ。しかもこの廃寮、正門が開けっ放しになっていましたし」
「葵ちゃん……」

 なるほど、彼女も追ってきてたのか。確かに追跡されることなんて考えてなかったから、通った後の痕跡は一切消していない。そんなわかりやすいものを辿ることなんて、彼女にとっては朝飯前だろう。正門が開いていたというのは、恐らく稲石さんが手を回したに違いない。そこまでわかったところで何か口を開こうとするものの、今の戦いのダメージや疲れがどっと襲ってきたせいで上手く思考がまとまらない。
 僕が無言のままなのを見て、明日香と僕の周りの空気がどんどん険悪になる。それに待ったをかけたのは、その原因となった張本人である吹雪さん自身だった。

「いいんだ明日香、彼らを責めないでくれ。彼らは僕のわがままに付き合ってもらっただけだから……それより、ようやく思い出せたよ。あの時何があったのか。なぜ僕がこの、ダークネスの力を持つにいたったのか。その全てをね」

 今から吹雪さんの語る話には、何か重要な意味がある。しんと静まり返った廃寮内でゆっくりと語りだされたその話を、一言たりとも聞き逃すまいと僕らは耳を傾けた。 
 

 
後書き
今回の裏話:ラストが変に駆け足なのは、途中まであるカードの効果を勘違いしてたからです。予定では吹雪さんがもう1ターン耐えてからの真紅眼融合で黒刃竜の召喚、残ったモンスターで自爆特攻4連打しつつそのたびに黒刃竜の効果で墓地のモンスターを装備して攻撃力アップ、最終的に霧の王と相打ちになるまで成長し……的なのを考えてました。
なんだよ装備対象は墓地の戦士族限定って!なんなのさ装備できるのはレッドアイズの攻撃宣言時限定って(八つ当たり)!悪魔竜も流星竜もトリガーにならず、そもそも墓地にそんな大量の戦士族が落とせなかったのであえなくお流れになりましたとさ。

次回はもしかしたら休み……いや、行けるか……?なんか最近リアルがやたら忙しいです。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧