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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン75 鉄砲水と英雄、空爆

 
前書き
サーキット・ブレイク発売されましたね。ちなみに私は公式の薄い本を買いましたが、マスター・ボーイを自力で引き当てることはできませんでした。ネレイアビスさんふつくしい。

前回のあらすじ:襲い来るミスターTを辛くも撃退。藤原優介や不良品のカードなど、クライマックスという名のぽっと出ラスボスに向けての不穏な要素もボチボチ出てくる時期。 

 
 夢想の後をついて、アカデミアの外に出る。校舎の裏手のちょっとした死角になっている一点から、かすかな煙と焦げ臭いにおいが漂ってくるのを感じた。万丈目や明日香、翔に剣山といったいつものメンバーがやってくる僕らを認めてあいさつ代わりに手を上げる。

「……これがその、燃やされちゃったカード?」
「そうよ。誰がこんなことを……」

 焼け跡から半分以上灰になってしまい、もはやデュエルディスクも認識してくれないであろうカードの残骸を何気なく拾い上げる。まだ使えそうならこっそりちょろまかしていこうかとも思ったけど、これは流石に無理だろう。辛うじて残っていた文字やイラストから察するにこれは大木炭18、昼夜の大火事、終焉の地、か。何とも皮肉なラインナップだこった。
 燃えカスをまた元の場所に戻すと、呆然としたままの皆の顔が見えた。なんとはなしに眺めまわしたところでようやく、あることに気づいた。

「あれ、藤原は?」

 藤原。まだ敵か味方かすらわからないが、少なくともただの人間ではない謎の存在。なぜかここの生徒に成りすまし、なぜかカード回収に手を貸していた。あれ、やってることだけ取り上げると稲石さんみたくただのお人よしな気がする不思議。
 だが、そこで返ってきた反応はおおいに訳の分からないものだった。

「藤……原?えっと、誰だったかしら……?」
「確かに聞き覚えがあるような気はする……んだがな」
「え……?」

 これはおかしい、明らかにおかしい。百歩譲って明日香辺りがわからないのはまだいいとして、ついさっきまで一緒に行動していたはずの万丈目までこんなにはっきりしないのは、どう考えても普通じゃない。手伝うだけ手伝って記憶消してどっか行くとか、ホントに何がしたかったんだあの男。ますます困惑する僕をよそに、話は別の方向にまとまり始めていた。

「こうしていても仕方ない、まずはこの犯人を捜すとしよう」
「でも万丈目君、そんなのどうするんスか?」
「決まっているだろう、捜査の基本は足だ。辺りに怪しい奴がいなかったか聞き込みに行くぞ!」
「そんなのカードが詰まった段ボール抱えて校舎中歩き回ってた万丈目先輩の名前が挙がるだけだと思うドン……」
「なんだと!?」
「アニキなら、こんな時どうしたかなぁ」

 ワーワーと言い争う万丈目と剣山の隣で、翔がポツリと呟く。不思議なことだが、その名前が出た瞬間ぴたりと場が静まり返った。

「そうだな。この名探偵サンダー1人でも十分だが、ここはまた奴にも華を持たせてやるとするか」
「最近はずっと寮にこもってばっかだけど……」
「じゃあ、ちょっとアニキのことも呼んでくるッス」
「あ、ちょい待ち翔。僕もいったん部屋に戻るよ、カバンが店に置きっぱだから戻しておきたいし」
「清明が行くなら私も行こうかな、ってさ」
「なら、私たちは聞き込みね。行くわよ、万丈目君、剣山君」

 今はこの場にいない十代の存在が中心となってようやく動き出すあたり、彼の影響力の強さがよくわかる……なんて、しみじみしてる場合じゃない。最近の世捨て人っぷりは目に余ってたし、これもちょうどいい機会だろう。
 だが結論から言って、この考えは不発に終わった。レッド寮にたどり着いた時十代はそこにはおらず、ファラオもどっか行ってしまったため大徳寺先生に話を聞くこともできなかったのだ。

「散歩でもしてんのかね、ったくもう。じゃあ僕は海の方を探しに行くから、翔は火山の方、夢想は海の方をお願い。見つけたらちゃんと連絡すること、いい?」
「了解、って」
「わかったよ」

 レッド寮の前でさらに三手に分かれ、それぞれ割り当てた場所に十代を探しに行く。ただし、僕の狙いはそこではない。適当に海の方へふらふらと歩き、周りに誰もいないことを確かめてからデュエルディスクを展開する。

「……チャクチャルさん、どう?」
『少し待っててくれ、今探してる』

 散歩、ねえ。一応口ではああ言っておいたけど、僕だってそんなものを本気で信じてはいない。このタイミングで行方不明ということは、まず間違いなくミスターT絡み。恐らく、僕のところに現れたのと同様に十代にも何らかの形で接触したのだろう。あの十代のことだからただでやられるなんてことはないだろうが、だからといって放置なんてありえない。これでも親友のつもりだ、そこまで冷たくはない。

『お、いたいた。校舎……を出て、島の端の方向か?追いかけるか、マスター?』
「当然。今も動いてるの?」
『そのようだな。真っ最中ではなさそうだ』

 なるほど、少なくとも今は安全ということか。とにかく合流しようと、チャクチャルさんの示した方向へと早足で崖沿いの森の中を歩き出した。ありがたいことに、常に正確な相手の位置をナビしてくれるチャクチャルさんがいるので見失う恐れはない。なので周りの様子に気を配りながら歩く余裕すらあったが、僕が見る限りいたって普通の海沿いの光景だけが広がっていて、この場所に新たな危機が迫りつつある……かもしれない風にはとてもじゃないが見えない。海は穏やかで空はそこそこ晴れ、海風が心地よく吹いている。
 見た感じの世界は凄く平和で、のどかで、きれいなものだ。本物のヒーローならこの景色を見て、この世界を救おう、守ってみせるという決意を新たにしたりするのかもしれない。だけど僕は、そんな大それたことは思わなかった。というかいい加減、ヒーローの真似事をするのは懲りた。この世のあらゆる難しい話は僕にとっては専門外、もっと世の中単純に行こう。敵が喧嘩を売ってきた、だから残さずぶちのめす……ほら、だいぶわかりやすくなった。それでいいし、それだけでいい。下手に気負ったって空回りするだけなのは、この数年で身に染みた。本当に生きてんだか死んでんだかもよくわかんないような化物には、そんな程度で十分だ。
 そんなことを考えていると、突然道が開けた。長かった森を抜けたらしく、その先に十代の後ろ姿が見えた。声を掛けようとするも、その向こうにさらに2つの人影がいるのに気づいた。1人は老人で、なんか見た覚えはあるんだけど誰だったか思い出せない。でも、もう1人はよく知った顔だった。

「斎王……?」

 この時点でさっと身を隠し、耳を澄まして木陰にまぎれてじりじりとにじり寄る。なぜ斎王がこの島にまた来たのか、なぜ十代がそこにいるのか。なんだかわからないけれど、なんだか面白そうなことやってんじゃないの。やがて少しずつ、会話の内容が耳に入ってきた。どうやら斎王たちが十代に何かを伝えに来たものの、肝心の十代がどうもつれない態度らしい。

「……我々に啓示が下ったということは、君も気づいているのだろう。だからこそ、君はその原因が自分にあると感じ、1人でこの島を出ようとした。違うかね?」
「さあな」
「鮫島校長から聞いたが、ついさっき退学届けを出してきたそうじゃないか。だが十代、もはや話はそんな単純な次元ではないのだよ。調査チームの調べによれば、この島に何らかのエネルギーが噴出しようとしていることを突き止めた。あくまで仮説だが、こちら影丸会長の三幻魔、私の光の波動、そして君のユベル……これらの事件が複合的にこの次元へと負担をかけ、その結果その中心であったこの島に新たな事態を引き起こそうとしているのだろう」

 ふむふむ。多分、僕もその片棒はかついでいるのだろう。この地縛神の存在がどれだけ次元を揺さぶったのかはわからないが、この際その割合は問題じゃない。それに斎王の言葉のおかげで、もう1つ思い出したことがある。あの斎王が車椅子を押すよぼよぼの老人、あれは影丸会長だ。確かに言われてみれば、アカデミアのパンフか何かで写真を見たことがある。三幻魔の時は色々ニアミスして会えなかったから、こうして直接顔を見るのは初めてだ。
 それにしても、いないと思ったら退学届なんて書いてたのか十代。まーたそうやって勝手なことやって。

「それで、なんでそれを俺に知らせに来たんだ?」
「これは、我々がデュエルモンスターズを悪用した報いかもしれん。身勝手なのは承知の上だが、我々はいまだ入院患者。十代君、君にこの事態を収拾してほしい」

 そう言って、頭を下げる斎王と影丸会長。多分この結論にたどり着くまでに、何度も何度も考えたのだろう。十代に、またしてもすべてを押し付けてしまっていいのか。あれだけ世界を救ってきた本物のヒーローを、またしても新たな戦いの最前線に押し付けるなんてことが許されるのだろうか。だけど、他に道はなかった。だからこそその苦しみを堪え、断腸の思いで頭を下げている。
 今の2人の気持ちを想像すると盗み聞きする僕には図々しい、という思いより先に同情すら湧いてきたが、十代の出した結論はどうやら違ったらしい。

「俺達は同じ穴の狢だから、俺にその尻拭いをしろってか?」

 珍しい、というか僕もほぼ聞いた覚えのない十代の皮肉と、その内容の正しさに押し黙る大の大人が2人。ああもう、見てらんない。

「同じ穴の狢、ねえ?確かにそうも言えるだろうけど、僕の見立ては少し違うかな」
「清明!?どうしてここに!?」
「君は……そうか、君もここに来ていたのか」

 あ、しまった。情報収集だけやるつもりだったのに、見てられなくなってついつい口出しちゃった。こうなった以上仕方ないので、身を隠すのは諦めて藪の中から立ち上がる。せめて最初からここで出てくる予定だった風に見えるようなるべくさりげない動きで制服中に付いた木の葉や小枝を払い落とし、極力澄ました顔で十代の目を真っ直ぐ見据えてやる。

「お久しぶり、斎王。さて、十代。この状況だけど、僕はこう読んだね。踊るアホウに見るアホウ……なら、同じアホなら踊らにゃそんそん、さ。ここまで来た以上、僕は今になって見るアホウにはなりたくないね。1人でどっか行こうだなんて、そりゃちょっと水臭いんじゃないの?」

 この時十代が何を言おうとしていたのかは、わからない。まっすぐに見返してくる彼の目は深く、そこから何らかの感情を読み取ることは難しかった。それに、もし彼が何か言い返そうとしていたのだとしても、それはすでに遅かった。突然島全体を揺るがすような地響きが起き、空間がぱっくり割れてその裂け目から奴が現れたのだ。

「これはこれは御揃いで。また会ったね遊城十代、それに遊野清明」
「お前は!」
「ミスターT、また来たの?懲りないね」

 あの反応から見ても、やはり十代のところに来ていたのは間違いなかったらしい。あっちに行ったりこっちに来たり、何ともせわしない奴だ。

「清明、お前もこいつに会ったのか?」
「ちょっとした仲でね、互いに互いが大っ嫌いなのさ。斎王、それに影丸さんも。ここは逃げたほうがいいと思うよ」
「本来ならば私も戦うのが筋なのだろうが……そうさせてもらおう。本当にすまない」

 それだけ言って車椅子を押し、近くに止められたヘリに乗り込む2人。パイロットは別にいたらしく、ドアが閉まるや否やプロペラが回転を始めた。そしてほんの一瞬目を離したすきに、ミスターTはその底知れない力を新たな方法で開放していた。

「「逃げるなら別に追いはしない。私が用があるのは君らの方だ」」
「増えた……?」
「相変わらず何でもありだねえ」

 なぜか二重に聞こえる声に振り返ると、そこにいたのは背格好から服装、ちょっとした仕草までそっくりそのまま、まるで同じな2人のミスターT。童実野町でも見せられた技だから僕にとってはそう驚くことでもないが、初見の十代は意表を突かれたらしい。

「「我々はこれで2人、そして君たちも2人。1対1ではいささか厳しい相手だからね、タッグデュエルで勝負と行こうじゃないか」」

 言うが早いが、僕と十代の立っている部分を残していきなり周りの地面が崩れ落ちる。さっきまでここにあった大地の落ちていく先は、海は海でも火山の下を流れる溶岩の海。一体どれほどの力を使えばこんなことが可能なのか、ぽつんと残った2本の円柱状の岩の上に、僕らだけが辛うじて立っている格好だ。

「嘘でしょ、こんなこともできるの!?」
『……ふむ。しっかりな、マスター』
「そんな他人事みたいに言っちゃって……でもいいね、悪くない。こんなのを相手にできるんだ、逆に燃えてきたね」
「断ることはできないってわけかよ……仕方ない、清明!」
「当然。話が早いのは嫌いじゃないよ、タッグデュエルと洒落込もう!」

「「「「デュエル!」」」」

 タッグデュエル。覇王の世界でもオブライエンとタッグを組んだけど、あの時は相手が覇王1人という変則デュエルだった。こうして本来の意味でのタッグデュエルをするのは久しぶりだが、腕が鈍っていなければいいのだが。
 そして最初のターンはミスターT側。僕らから見て右にいる方が、おもむろに手札の1枚をデュエルディスクに置いた。

「私のターン、ジェネクス・ニュートロンを召喚する」

 まず先陣切って場に召喚されたのは、黒を基調にオレンジ色のパーツをところどころに持つ人型の機械。あのカードは確か……駄目だな、止められない。

 ジェネクス・ニュートロン 攻1800

「カードを2枚伏せてエンドフェイズ、このカードのモンスター効果を発動。召喚に成功したターンのエンドフェイズ、デッキから機械族のチューナー1体を手札に加える。私が選ぶのはこのカード、音響戦士(サウンドウォリアー)ピアーノだ」
「次は俺のターンだな。最初から飛ばしていくぜ、融合を発動!手札のエッジマンとスパークマンで融合召喚!来い、プラズマヴァイスマン!」

 E・HERO(エレメンタルヒーロー) プラズマヴァイスマン 攻2600

 こちらのフィールドで先陣を切ったのは、金色の鎧に雷を纏った巨体の融合ヒーロー。帯電したその体がひときわ強く発光したかと思うと、その両腕から雷がジェネクス・ニュートロンめがけて空気を割いて飛んで行く。見事に命中したその激しい雷に身を撃たれ、体の機能が完全に停止したジェネクスの戦士が力なく眼下の溶岩へと落ちていく。
 だが、それだけでは終わらなかった。やはり今の十代は一味違う。最初から飛ばしていくとの言葉は伊達ではなかった。

「プラズマヴァイスマンの効果発動、手札1枚を捨てることで相手フィールドの攻撃表示モンスター1体を破壊する!そして墓地に送ったネクロダークマンは、墓地に存在する限りデュエル中1度だけヒーローをリリースなしで召喚できる。来い、ネオス!」

 E・HERO ネオス 攻2500

 あっという間に場に並ぶ、最上級モンスター2体。これで総攻撃力は5100と、攻撃がすべて通ればワンターンキルも狙えるほどの数値だ。だけど気になるのは、ミスターTのあの2枚もの伏せカード……しかし、それを忘れるような十代ではなかった。最後に残った手札1枚を、惜しげもなく発動して見せる。

「魔法カード、R-ライトジャスティスを発動。俺の場のヒーロー1体につき1枚、場の魔法・罠カードを破壊するぜ。俺の場にはネオスとプラズマヴァイスマンの2枚、よってその2枚の伏せカードを破壊する!」
「いいだろう、ならばこのカードを発動する。トラップ発動、ダメージ・ダイエット。この効果により、このターンの間私が受けるダメージは全て半分となる」
「惜しい……!」
「だとしても、バトルだ!プラズマヴァイスマンで攻撃!」

 E・HERO プラズマヴァイスマン 攻2600→ミスターT&ミスターT(直接攻撃)
 ミスターT&ミスターT LP4000→2700

 再び放たれた電撃が、2人のミスターTの体を真っ向から貫く。この攻撃は確かに命中したし、ダメージ半減とはいえライフも減らせた。闇のデュエルのルールに従い実体化したダメージのせいで、その全身からはかすかに煙が立ち上っている。
 だが、それだけだ。2人のミスターTは自分の体が出す煙に気づいてすらいないような様子で平然と立っており、実際まるで効いていないのだろう。そこに、今度はネオス渾身の手刀が上空から襲いかかった。

「行け、ネオス!ラス・オブ・ネオス!」

 E・HERO ネオス 攻2500→ミスターT&ミスターT(直接攻撃)
 ミスターT&ミスターT LP2700→1450

 大ダメージを与えた割に、十代の表情は冴えない。それどころか、若干の焦りさえ見れる。だが、それも無理はない。もはや手札を使い切った十代に、これ以上取れる手はないからだ。こちらの優位に変わりはないといえば確かにそうなのだが、多分十代はこのターンだけでけりをつけるつもりであれだけ展開したのだろう。
 ……早い話が、わずか2ターン目にして早くも息切れを起こしている。今のターンはいいとして、次のターンを戦い抜くことができるのだろうか。さらに次のターンはどうなる?その思いでいっぱいになっているのだろう。
 ま、そこをどうにかするのがパートナーの仕事なんだけどね。僕のデッキは持久戦に強い、勝負は始まったばっかりだ。

 十代&清明 LP4000 手札:十代0清明5
モンスター:E・HERO プラズマヴァイスマン(攻)
      E・HERO ネオス(攻)
魔法・罠:なし
 ミスターT&ミスターT LP1450 手札:ミスターT3ミスターT5
モンスター:なし
魔法・罠:なし

「私のターン。魔法カード、融合を発動。手札の機械族モンスター、ジェネクス・ニュートロンと炎族の灼熱ゾンビを融合する。出でよ、起爆獣ヴァルカノン!」

 起爆獣ヴァルカノン 攻2300

 足元の溶岩が突然膨れ上がり、爆炎と共に機械の体を持つ獣が宙に舞う。だが攻撃力は十代のモンスターの方が上回っている……そんな考えをあざ笑うかのように、巨体に似合わない驚くほど俊敏な動きでヴァルカノンがプラズマヴァイスマンにしがみついた。振り払おうともがくも、鋼鉄の腕は捉えた得物を決して放そうとしない。その尻尾の先に火がともったかと思うと、猛烈な勢いでその小さな炎が本体に走っていくのが見えた。
 それが火薬のたっぷり詰まっているであろう本体に点火するまでには、瞬きするほどにもかからなかった。視界が真っ赤に染まるほどの炎の塊が目の前で急成長し、解き放たれたエネルギーが零距離でプラズマヴァイスマンの巨体を跡形もなく吹き飛ばす。そしてその余波は、ダメージという形で僕らにも等しく襲いかかった。

「ヴァルカノンの融合召喚に成功した時、その効果である融爆を発動する。自身と相手フィールドのモンスター1体を破壊し、その相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える」
「プラズマヴァイスマン!……ぐわっ!」
「十代……熱っ!」

 十代&清明 LP4000→1400

「UFOタートルを守備表示で召喚する。最後にカードを伏せ、これでターンエンドだ」

 UFOタートル 守1200

 まだ使っていなかった召喚権により呼び出されたのは、炎の属性リクルーター。もっとも戦闘破壊で後続を呼ぶのなら、それ以外の方法でどかしてやればいい。幸いここからは僕のターンだ、僕にはそれができる。

「ドローして、と。じゃあ、僕も最初っから行かせてもらうよ。UFOタートルをリリースして、粘糸壊獣クモグスをそっちのフィールドに特殊召喚!」

 粘糸壊獣クモグス 攻2400

 クモグスを出して、次はどうするか。普通のデュエルならこの手札のモンスター、グレイドル・コブラで攻撃し、多少のダメージ覚悟で奪い取ってネオスと2体で攻撃を仕掛けるのもありだろう。だが、これはタッグデュエル。僕の失敗は僕だけでなく十代の迷惑にもなる以上、あまり身勝手な行動は控えたほうがいい。特に今こちらのライフは半分以上削られている、いくら全ての攻撃が通れば勝てるとはいえ追加で1400ものダメージを受けるのはリスクの方が大きいか。

「……グレイドル・コブラを召喚。バトル、ネオスでクモグスに攻撃!ラス・オブ・ネオス!」

 E・HERO ネオス 攻2500→粘糸壊獣クモグス 攻2400(破壊)
 ミスターT&ミスターT LP1450→1350

「次、コブラでダイレクトアタック!」

 グレイドル・コブラ 攻1000→ミスターT&ミスターT(直接攻撃)
 ミスターT&ミスターT LP1350→350

 迷いに迷った末、僕が取ったのは安全策だった。あの奴らの場の1枚の伏せカード、あれがどうにも気になって仕方なかったのだ。少なくとも攻撃反応ではなかったようだが、すでに攻撃を終えた以上後戻りはできない。あとできる事は、今の判断を後悔する時が来ないように祈るだけだ。

「メイン2にカードを2枚セットして、ターンエンド」

 十代&清明 LP1400 手札:十代0清明2
モンスター:E・HERO ネオス(攻)
      グレイドル・コブラ(攻)
魔法・罠:2(伏せ)
 ミスターT&ミスターT LP350 手札:ミスターT3ミスターT0
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)

「私のターン。まずトラップ発動、戦線復帰。このカードにより、私は墓地から灼熱ゾンビを守備表示で特殊召喚する。そしてこのカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、私はカードを1枚ドローできる」

 灼熱ゾンビ 守400

 片割れの伏せておいた蘇生カードを使ってモンスターを場に出しつつ、実質ノーコストでのドローまで行うターンプレイヤー側のミスターT。こうして何のためらいもなく相方のリソースを使うことができるのも、同一人物によるタッグならではの奴らなりの強みだろう。

「魔法カード、融合回収(フュージョン・リカバリー)を発動。墓地から融合カード1枚と、融合に使用されたモンスターであるジェネクス・ニュートロンを手札に加える。そしてこの融合を発動、手札の機械族モンスター、音響戦士ピアーノと場の炎族モンスター、灼熱ゾンビを素材とする」
「機械族と炎族……まさか!」
「そう驚くことでもないだろう?再び現れよ、起爆獣ヴァルカノン。そしてネオスを破壊せよ!」

 起爆獣ヴァルカノン 攻2300

 ついさっき木っ端微塵に吹き飛んだはずの起爆獣が、またしても尾の導火線に火をつけた状態で溶岩の海から浮上する。そのまま伸ばした鋼鉄の腕でネオスを鷲掴みにしようとしたが、伸ばしたはずのその両腕はネオスの体に触れることもなく胴体から切り離されて溶岩の中へと落ちて行った。何が起きたのかわからないと呆然と切り落とされた切断面を眺めるヴァルガノンに、追い打ちをかけるような鎌の一撃が深々と突き刺さる。その投擲主である銀髪の少女の姿がほんの一瞬だけ、熱で揺らめく蜃気楼の向こう側に見えた。そちらの方向に感謝の意をこめて片手を上げ、ミスターTへと向き直る。

「悪いね、2回も3回も同じ手が効くと思った?手札から幽鬼うさぎの効果を発動。このカードを捨てて、場で効果を発動したヴァルカノンには破壊されてもらったよ」

 これなら少しは意表をつけたかとも思ったが、やはりサングラスに隠された顔からは何の感情も読み取れない。あるいはこの人格も見せかけで、そもそもこの存在には感情そのものがないのかもしれない。そんな考えすら浮かんでくる。

「だが、目的の半分は果たされた」

 その言葉通り、今の一撃はネオスの至近距離での自爆そのものが止められたわけではない。特大ダメージがこちらに入ることこそ辛うじて避けられたものの、ネオスの姿もまた爆風の中に消えていった。

「ごめん、十代」
「気にするな。それより、来るぞ!」
「私はジェネクス・ニュートロンを召喚する」

 ジェネクス・ニュートロン 攻1800

 その言葉通り、ミスターTが次なるカードを場に出す。1ターン目にも見た人型のロボが、かすかなモーター音とともに動き出した。でもミスターTはグレイドルの能力を知っている、わずかなダメージを稼ぐためだけに仕掛けてくるような真似はしないだろう。となると1ターン目にも使っていた、エンドフェイズに発動するサーチ能力が狙いか。
 だが次の瞬間、改めてミスターTの思考回路が常人の域ではないことを思い知らされた。放っておけばサーチが問題なく使えるはずのこの状況で、目先のダメージを優先してきたのだ。

「ジェネクス・ニュートロンで攻撃する」

 ジェネクス・ニュートロン 攻1800→グレイドル・コブラ 攻1000(破壊)
 十代&清明 LP1400→600 

「正気!?ならコブラの効果を発動、対象は当然そいつだ!」

 重たい金属の拳を喰らって弾け飛んだコブラの体が、ジェネクス・ニュートロンの全身にへばりつくように再集結する。わずかな関節の隙間から内部に入り込み、精密機械のコントロールを狂わせる。
 それにしても、こうなることがわかっていてあえて攻撃してくるとは。何らかの罠を張るのは間違いないだろうが、それにしたってあそこは1ターンぐらい大人しくしていたっておかしくない状況だったはずだ。これは闇のデュエル、命がかかっているとなれば普通ならまず間違いなくそうするし、せめて多少なりとも躊躇してから行動に移すはずだ。
 だが、ミスターTにはそれがない。次の十代のターンで罠が無効化されるかもしれないといったリスクを一切考慮しないその姿勢は、そもそも生物の概念に当てはまるかどうかも怪しいあの存在だからこそ取れる戦術なのだろう。そんな生き急ぐような戦術、少なくとも僕はやる気もないしやりたくもない。

「カードを1枚伏せる。永続魔法、未来融合-フューチャー・フュージョンを発動。ターンエンドだ」

 未来融合……発動時こそ何も起きないものの、それから1回目のスタンバイフェイズに融合素材をデッキから墓地に送る。そこからさらに次のスタンバイフェイズで融合召喚を行いモンスターを出すと、まさに時間差で融合を仕掛けてくる未来融合の名に相応しいカードだ。
 そしてこれまでのパターンから考えると、恐らく狙いはまたヴァルカノン。うさぎちゃんも墓地にいる以上、もう1度あれが融合召喚されたら今度こそ止めるすべはないだろう。かといって2ターン後にこちらがモンスターを出さないでいたら、自爆こそ防げるもののそのまま直接攻撃を喰らってしまいそれでは本末転倒だ。猶予は後2ターン、それまでの間にあれを破壊するなりなんなりで無力化しないと、終わる。
 とはいえ僕にできる事はない、ここは奇跡を呼ぶ十代の引きに命を預けよう。

「俺のターン、ドロー!」

 さあて何を引いたか、だがなんといってもあの十代だ。この局面で無意味なカードなんかは絶対引かないだろう。しかし意外にも引いたカードを一瞥しただけで、それを使うことなくすぐに攻撃に移った。

「バトルだ、ジェネクス・ニュートロンでダイレクトアタック!」
「トラップ発動、ドレインシールド!攻撃を無効にし、その攻撃力分我々のライフを回復する」

 ミスターT&ミスターT LP350→2150

 せっかく減らしたライフが、また大幅に回復されてしまう。とはいえまだ1800ポイントでよかった、と言えるかもしれない。僕も十代も融合召喚や壊獣を駆使しての大型モンスターを出すことは割と得意だから、それらの攻撃に対して使われていたらこんなものじゃすまなかった。
 ……ま、これぐらいポジティブに考えてないとね。僕がここで気落ちなんてしてられない。今一番焦りを感じているのは当の十代のはずだから、これ以上下手にプレッシャーを与える必要はない。

「……魔法カード、命削りの宝札を発動。手札が3枚になるようカードをドローする代わりにこのターンの特殊召喚が封じられ、このターン相手の受けるダメージも0になる」

 制約こそ多い物の強烈なドローソース、命削りの宝札。なるほど、十代の引きはこのターンで勝負を決めるよりも、さらなるドローソースを選んだわけか。確かに手札がなかった今の十代にとっては、その効果を最大限発揮できるカードではある。3枚のカードを引き、それを素早く確認した十代が軽く頷く。

「まず魔法カード、E-エマージェンシーコールを発動。デッキからE・HERO1体、ワイルドマンを手札に加えて守備表示で召喚するぜ」

 ジェネクス・ニュートロンの隣に、その大剣を体の前で構えて身を守りつつ片膝をつくヒーローが召喚される。確かに現在、守りを固めるには下級ヒーローの中でも割と高めの守備力を誇るこのカードが適任だろう。十代のデッキにはより守備力のあるクレイマンも入っているが、ワイルドマンには一切のトラップを受け付けない耐性がある。

 E・HERO ワイルドマン 守1600

「さらにカードを1枚伏せて、エンドフェイズに命削りの宝札のデメリットでこの最後の手札も捨てる。だがこのダンディライオンは墓地に送られた時、綿毛トークン2体を守備表示で特殊召喚できる!」

 綿毛トークン 守0
 綿毛トークン 守0

 その名の通りたんぽぽの綿毛に顔が付いたような何ともファンシーなトークン2体がさらに召喚されたことで、こちらのフィールドもだいぶ守りが盤石となる。わずか1ターンでの成果としては上々だろう。

 十代&清明 LP600 手札:十代0清明2
モンスター:ジェネクス・ニュートロン(攻・コブラ)
      E・HERO ワイルドマン(守)
      綿毛トークン(守)
      綿毛トークン(守)
魔法・罠:3(伏せ)
 ミスターT&ミスターT LP2150 手札:ミスターT0ミスターT0
モンスター:なし
魔法・罠:未来融合-フューチャー・フュージョン

「私のターン。このスタンバイフェイズに未来融合の効果により、私のエクストラデッキから重爆撃禽 ボム・フェネクスを見せる。そしてその融合素材である炎族モンスターと機械族モンスター、灼熱ゾンビと音響戦士サイザスを墓地に送る」

 意外にも見せてきたモンスターはこれまでのヴァルガノンではなく、新たなる融合モンスター……確かあれも、計算方法こそ違えどバーン効果を持つモンスターだったはずだ。となると、依然として次のミスターTたちのターンがピンチなことに変わりはない。

「魔法カード、ソウル・チャージを発動。このターンのバトルフェイズが行えなくなる代わりに、私の墓地から1体につき1000ライフを支払うことでモンスターを蘇生する。灼熱ゾンビ2体を蘇生し、それぞれの効果によりカードを2枚ドローしよう」

 ミスターT&ミスターT LP2150→150
 灼熱ゾンビ 守400
 灼熱ゾンビ 守400

 ついさっき回復したばかりのライフをそれ以上に投げ捨て、強引な2枚ドローに繋いでいくミスターT。凄まじく強引な手ではあるが、これでミスターTは2体のモンスターと2枚の手札を同時に手に入れてしまった。これから起こることへの嫌な予感に、口の中が乾いていくのを感じる。それは十代も同じなのか、若干表情が硬くなっている様子が見えた。

「私も魔法カード、融合回収を発動。融合カード1枚と、素材となった音響戦士ピアーノを回収する」
「また……」

 いや、またも何もない。元々が同一人物なのだから、同じようなカードばかり使って当然だ。つい先ほど片割れがやったことと同じような流れにより、三度現れた融合の渦に2体のモンスターが混ざり合う。そう、三度だ。いくらタッグである程度のカード消費を補えるとはいえ、本来かなり消費が激しいはずの融合召喚を全て正規の方法でこれだけ連続でやってのけるとは。

「融合を発動。手札の機械族、ピアーノと場の炎族、灼熱ゾンビの2体を融合する。重爆撃禽 ボム・フェネクス!」

 ひときわ派手に溶岩を跳ね飛ばし、灼熱の翼に身を包んだ鋼鉄の不死鳥が炎の羽根をまき散らしつつ舞い上がった。察するに、これこそが今回のミスターTの切り札なのだろう。

 重爆撃禽 ボム・フェネクス 守2300

「カードを1枚伏せて……」
「あのカードは……まずい!」

 ボム・フェネクスの効果は1ターンに1度、場のカード1枚につき300ポイントのダメージを相手に与える。ミスターTたちの場にカードは4枚、そして僕らの場にはトークンも含めて計7枚。せっかく出てきた2体の綿毛トークンがむしろ仇となり、こちらのフィールドを見下ろした不死鳥が甲高い声とともに炎の翼を一振りする。体を離れた大量の燃え盛る羽根が11本こちらに飛んでくる。いや、よく見たらあれば羽根なんかじゃない。1体1体が全て小型の不死鳥、その身を爆弾として突っ込み、点や線ではなく面で相手を制圧するための、まさしく絨毯爆撃としか言いようのない決戦兵器だ。

「十代!」
「わかってる!効果を発動する前に、先にこっちのカードを使わせてもらうぜ!速攻魔法、神秘の中華なべを発動!俺の場のジェネクス・ニュートロンをリリースして、その攻撃力か守備力の数値だけライフを回復できる!俺が選ぶのは当然、攻撃力の1800だ!」

 ジェネクス・ニュートロンとその体に寄生していたグレイドル・コブラ、さらに発動された神秘の中華なべのカードが墓地に送られ、こちらへ突っ込んできていた小型の不死鳥のうち3羽が空中で暴発する。これでダメージは900ポイント減って2400、そして回復分を合わせた僕らのライフも2400。

「まだ足りないか……!十代、構わないから僕のカードも使っちゃって!」
「だけど、清明……」

 目に見えた敗北を回避するためには、もう1枚なんでもいいから場のカードを減らすしかない。小学生でもできる計算を目の前にしてなお十代が迷うのにも、それなりの理由がある。普通に使っても使いづらいこの伏せカードはタッグデュエルで、それも相手ターンに使うにはあまりにもデメリットが大きすぎるからだ。だから僕も一応伏せはしておいたけど、よほど確実に勝負を決めたいときにしか使うつもりはなかった。でも背に腹は代えられない、躊躇いながらも十代は2枚目のカードを表にした。

「すまない、清明!トラップ発動、無謀な欲張り!カードを2枚ドローする代わりに、2ターンの間ドローフェイズをスキップする!」
「なるほどな。だが私にもこれ以上場のカードを増やすことはできない、ボム・フェネクスの効果発動だ」

 場のカードがまた減ったことで、さらに1体の不死鳥が空中で爆散する。しかし、いまだ残った7体が僕らの至近距離、射程圏内にたどり着いてで自爆を繰り返し始めた。1体1体の衝撃はヴァルガノンの自爆の方がはるかに上ではあったが、身を守るためには爆発の起きる1か所のみに集中していればよかったあちらとは違い周りの空間全てを攻撃範囲とするボム・フェネクスは、総合的な威力ではむしろあちらを上回る。
 息が詰まるほどの熱と目を閉じていても眩しく感じる閃光、無限に続くかと思われた轟音がようやく止んだ時、僕らは共に肩で息をしてどうにか立っている状態だった。でも、どうにか……まだ、2人とも生きている。

 十代&清明 LP600→2400→300

「まだ耐えきったか。だがそこまでして繋いだ命、本当にそのドローカードが使えるようになるまで持つかね?」

 ミスターTの言葉が、冷たく刺さる。無謀な欲張りは、ドローフェイズが2回スキップされるカード。そしてこのミスターTのターンでは、まだ僕らの側のターンプレイヤーは十代だった。その状態で無謀な欲張りを使った、その意味は1つ。2枚ドローする代わりにドローフェイズが1度封じられる十代とは違い、僕は一方的にドローだけを封じられたのだ。
 今のはそうしなければいけなかった状況とはいえ、状況はかなり悪くなった。首の皮1枚で繋がったのはいいが、その先のドローで希望を掴むこともできなくなった。僕に残されたのはこの手札1枚と、最後の伏せカード1枚のみ。だけどドローができないとなると、このカードも僕には役には立ちそうにない。

「ターンエンドだ。せいぜい頑張りたまえ」
「いいや、まだだぜ!トラップ発動、極限への衝動!このカードは俺の手札2枚をコストに、アドバンス召喚以外ではリリースできないソウルトークン2体を特殊召喚する!」
「十代!?」
「お前のドローを奪っちまった以上、俺にできるのはこれぐらいだ。このカードを使ってくれ、とどめは任せたぜ清明!」

 ソウルトークン 守0
 ソウルトークン 守0

 せっかく引いたカードを全てを捨て、残りのモンスターゾーンを生めるようにトークンが特殊召喚される。これでは僕も下級モンスターの召喚ができないんだけど……と何気なく墓地を見て、思わずこの状況も忘れて笑い出しそうになった。
 ああもう、十代。お前はやっぱりすごいよ、本物のヒーローだ。これならあるいは……このターンで、勝てるかもしれない。

「僕のターン!ドローフェイズをスキップして、墓地に存在する置換融合の効果を発動!このカードを除外して墓地の融合モンスター、プラズマヴァイスマンをエクストラデッキに送ることでカードを1枚ドローする!」

 十代が土壇場で墓地に送ったカードのうち1枚、置換融合。このドローにより無謀な欲張りのデメリットが帳消しになったわけだが、十代の奇跡を呼ぶ引きの強さはそれだけでは収まっていなかった。さらに、もう1枚!

「墓地から魔法カード、シャッフル・リボーンの効果を発動!場のワイルドマンをデッキに戻し、さらにカードを1枚ドローする!」

 肝心なのはここからだ。いくらカードを引いたとしても、それが使えなければ無駄に引いただけになりかねない。
 だが、幸いにもその心配をする必要はなかった。僕のデッキは、僕が信じる限りいくらでも僕に応えてくれる。どちらから使ってもいいけれど……まずは、このカードからだ。

「魔法カード、妨げられた壊獣の眠りを発動!場のモンスター全てを破壊し、デッキから壊獣2体を互いの場にリクルートする!これで終わりだ、ミスターT!」
「果たしてそうかな?トラップ発動、神の宣告。ライフ半分をコストに、その発動は無効となり破壊される」

 ミスターT&ミスターT LP150→75

 万能カウンターの神の宣告も、元が少ないミスターTにとっては驚くほど軽いコストで効果を無効にできる強烈なカードとなる。これで眠りのカードは不発に終わったがもはやミスターTに伏せカードはなく、逆に言えばこれ以上の妨害がさらに出てくることはない。なるほど、神の宣告、か。これは、こちらを先に使っておいてよかった。

「僕らの勝ちさ、ミスターT。十代、お言葉に甘えて決めさせてもらうよ」
「ああ、存分に頼むぜ」

 ちらりと顔を見合わせて頷き合い、お許しが出たところで手札に残った2枚のカードを表にする。

「フィールド魔法、KYOUTOUウォーターフロントを発動!さらに綿毛トークンとソウルトークンを1体ずつリリースして……さあ行くよ、チャクチャルさん。七つの海の力を纏い、穢れた大地を突き抜けろ!地縛神 Chacu(チャク) Challhua(チャルア)!」

 溶岩の海が、一瞬にして灯台の照らす闇の大海原に染まる。ボム・フェネクスの炎の輝きを打ち消すような深い紫色の光が走り、闇のシャチがその眼前へ浮上した。

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900

『ここまでのようだな。この場はこれで退いてもらおう』
「おのれ……やはりその力、この世界の理を根底から覆すほどの力」
「やはり君は危険な存在だ。もはや猶予は残り少ない、早急に排除の必要がある」

 前に戦ったミスターT同様、こいつらも回避不可能な自らの消滅に付いて思うところは特にないらしい。なら負け犬の遠吠えは放っておいて、こちらも気兼ねなく最後の一撃を加えよう。

「バトルだ、地縛神は相手に直接攻撃ができる!ミッドナイト・フラッド!」

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900→ミスターT&ミスターT(直接攻撃)
 ミスターT&ミスターT LP75→0





「どうだ!……あれ、また逃げられた?」
『そのようだな』

 戦いが終わるとそこにミスターTの姿はなく、なぜか周りの様子も元に戻っていた。おそるおそるさっきまで空中だった部分に足を乗せてみるが、もう1度崩れ出したりするようなそぶりは全然ない硬い地面だ。

「もしかしてあれも、ただの幻覚だったの?」
『そうだな』

 即答するチャクチャルさん。ん、待てよ。ここまで即答できるってことは、もしかして……。

「もしかしてチャクチャルさん、最初っから気づいてたの?」
『そうだが?』
「そんなら教えてくれたってよかったじゃん!落ちたら絶対まずいと思って神経使ってたのに!」
『いや、幻にかかってマスターのやる気が出るなら放っておいても害はないかと思ってな』

 もっともらしいけど、これは嘘だ。絶対この邪神、内心ニヤニヤしながら見てたに違いない。どうりで今日に限って、デュエル中にも全然口出ししてこないと思った。
 なんだか納得いかない思いにとらわれていると、ふと横から着信音が聞こえてきた。どうやら、十代に電話らしい。差出人の相手を見てすっと真剣な表情になった十代が、無言でその電話に出る。デビルイヤーは地獄耳、これぐらいの距離なら何とかいけるはずだと、僕も耳をそばだててその会話内容を聞き取ろうと集中する。
 しっかり耳に入ってきたその会話内容は、またも僕を驚かせるに十分な物だった。 
 

 
後書き
GX二次あるある:狙うとできないヒーローフラッシュ、ハネクリボーLV10。未来融合エラッタ復帰まではここにエリクシーラーの召喚も加わってました(当社調べ)。

今回はふと書きたくなったタッグ回。なお原作の時系列だとこのすぐ後にペアデュエルが控えており、書き上げてからようやくそのことに気が付いた哀しみ。 
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