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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン73 鉄砲水と死神の黒翼

 
前書き
お待たせしました、更新です。
4期初っ端から更新延期しまくってて我ながら幸先悪いなあ、とは思いますが……。
ともかく、『まだ』日常フェイズです。知らないうちにずるずるとこんな終盤まで続いていた奴との因縁もこれで最後。

前回のあらすじ:帰還。でも今見返したら清明のセリフが一言もなかった。なぜだ。 

 
『聞いているか、遊野清明!ここで会ったが百年目、俺たち二人の因縁も、そろそろけりつけようじゃねえか!』

 校長室に入って開口一番、巨大なモニターから聞こえてきたのは聞き覚えのある大声だった。
 僕ら……そう、自分から向こうに残った三沢、そして完全に行方不明となったアモン以外の死んだと思っていた僕ら全員は、デュエルアカデミアで蘇った。少し遅れて帰ってきた十代は何も教えてはくれなかったけど、それでも皆、なんとなくわかった。きっと、彼に救ってもらったんだろう。僕があれだけ手を尽くして、新たな力を手に入れてまで戦い抜いてもできなかったことをやってのけたんだから、まったく大したヒーローだ。
 そしてそれから、もう数週間が過ぎた。最初は情報統制の解除や事後処理に追われて忙しかったアカデミアにも平和な日々が戻り、随分久しぶりにまともな学生生活が始まろうとしていた。
 その矢先である。僕と……それと万丈目が、校長室に呼び出されたのは。レッド寮の改造、学生の身でありながら大っぴらな商売と、やましいことと後ろ暗いことしかない僕だけならまだしも、万丈目とは珍しい。なんだろうと首をひねりつつ2人して繰り出し、そして冒頭に戻る。
 それにしても、相変わらずこの男はやかましい。モニターの中で無意味に胸を張る、忘れもしない顔……ノース校の現トップにして元サンダー四天王の頭、鎧田の顔を見ながら思ったことは、多分僕も万丈目も同じだったろう。

「今朝、ノース校からこんな映像が届きました。どう思いますか、2人とも?」

 そこで一度映像を止め、鮫島校長が呆れと諦め、そして面白がっている雰囲気がないまぜになった表情で入ってきた僕らを見る。

「いや、どうと言われても……」
「それで、校長。鎧田の奴、一体なんでこんなものを送ってきたんです」

 反応に困る僕に変わり、万丈目がもっともな疑問を口にする。それもそうだろう、と頷いて校長が再生ボタンを押すと、よほど全力で叫んだらしく少しスッとした顔になった画面の中の鎧田も再び喋りだす。なんだ、まだ続きがあるのか。

『あースッキリした……で、だ。今年もやろうぜ、毎年恒例の俺らノース校と、お前らアカデミア本校の対抗合戦をよ。はっきり言っておくがな、清明。どうせこれ見てんだろ?俺とお前の戦績は1勝1敗、こりゃあどうあっても俺たちの卒業前に決着をつける必要がある。ここまで来て引き下がるようなら、それは男じゃねえからな』
「1勝1敗て……洗脳状態の時までカウントすんの?」
「言ってやるな。あいつは2年前からそういう男だった」

 そんな会話をする僕らのことなど、当然画面の中の彼は知る由もない。

『……ただまあ俺らだって何かと忙しいんだ、あんまり派手にお前ら本校の相手してやれるほど暇じゃない。そこで、だ。今年は無駄なバトルロイヤルも勝ち抜き戦も抜きだ。俺とお前、代表2人のタイマン1発で決着つけようじゃねえか。日付はきっかり3日後の正午、首を洗って待ってやがれ!』

 そこで再生が終わった。なんとなく、ノース校校長のあの気弱そうなんだか気が強いんだかよくわからない顔が頭をよぎった。きっと今年も、鎧田に押し切られたんだろうなあ。ノース校から本校に来るなんて、あの人数を連れてくるとなると船の燃料代だってえらいことになるだろうに。

「……ねえ万丈目、万丈目が最初にこのイベント始めた時からずっと思ってたんだけど、なんで毎回ノース校側が条件出してくんの?たまにはこっちが決める自由とかないの?」
「なぜ俺を見る。俺だってもう本校の人間だぞ」
「いや、いろいろ考えるとどうも元凶が隣にいる気がして」

 まあ、本気で追い詰めるつもりはない。ちょっと答えづらい質問で追い込んで遊んでみただけだ。話が終わる気まで静観する気だったらしい鮫島校長の視線に気づき、ため息1つついて答えを返す。色々言いはしたけれど、そんなの答えは決まってる。

「上等。そんなに負け越して卒業したいなら、一丁デュエルと洒落込もうじゃないの。こう伝えといてください、僕の方はいつでもいいですから」
「よろしいんですね?」
「そりゃあもう。あそこまで言われてすっこんでるようじゃあ、それこそ男がすたりますから」

 そこまで言ったところで、いきなり背中に衝撃が走る。何事かと振り返ると平手でバン、と叩いた張本人の万丈目が、にやりと笑っているのが見えた。

「よく言った、清明。一応あれでも俺の元手下だ、あいつらの手前お前のことをおおっぴらに応援してやるわけにはいかんが、3日後は楽しみにしているからな」
「そりゃどうも。じゃあ、これで失礼しまーす」

 奴に会うのもかれこれ1年……いや、光の結社関係のごたごたが全部終わるまであいつら島に居たからせいぜい半年ぶりか。それでも意外と楽しみにしている僕がいることに、自分でも少し驚いた。
 その日の夕食の席では十代にもそのことを報告しておいたが、残念ながら期待していたような反応は貰えなかった。特に口を挟むことなく最後まで聞いた後、たった一言だけ。

「ふーん。頑張れよ」

 そう言って席を立とうとしたのは、いくらなんでもひどいと思う。いいから当日は見に来い、と厳命はしておいたけれど、あの様子だと来るかどうかは半々といったところだろうか。
 まったく、どうもあの世界から帰ってきてからというもの、十代の様子がおかしい。大人びたといえば聞こえはいいけれど、なんか全体的に冷めた様子が目立つ。前みたいに力いっぱい笑うようなこともすっかりなくなったし、そのうち何か考えないといけないだろうか。十代がいつまでもこんな調子だと、毎日1つ屋根の下で顔付きあわせてる僕の調子が狂う。
 そんなことを考えていたりしているうちに、気づけば3日などあっという間に過ぎていた。ああ、こんなに何事もなく日々が過ぎるなんて、一体どれだけぶりだろうか。
 そんな感じでしんみりしていたら、ついにその時が来た。付いてきた万丈目や学校トップの立場として出迎えないわけにはいかない鮫島校長らと一緒に港に出てじっと水平線を眺めていると、小さな点のようなものがその先に見えてきた。やがてその点はぐんぐん大きくなり、やがて何隻もの船団となって近づいてくる。やはりというべきか、その先頭を走る船の先頭には鎧田が立っていて、こちらを認めて大きく手を振る様子が見えた。

「なんだなんだ、出迎えかー!?久しぶりだなコノヤロー!あ、サンダー!お久しぶりです、元気してましたかー!?」
「相変わらずうるさい奴だな、お前は!そんな遠くからわざわざ挨拶しなくていいから、早く上がってこい!」

 負けず劣らずの大声で返す万丈目の顔は、言葉とは裏腹に実に生き生きとしていた。面倒見のいい万丈目のことだ、去年別れてからもサンダー四天王たちのことはずっと気にかけていたんだろう。留学生が来るときも、ノース校の名前には1人だけ反応してたし。






葵ちゃんには試合中の売り子としてなるべく愛想よく振る舞うことと、万丈目のコネを使い万丈目グループ経由で仕入れておいた大量の缶ジュースやらこの3日で作りためておいた菓子類やらをどんな手を使ってでも全品売りさばくことをお願いしておいた。
 最初にこのお願いをした時の『何考えてんですか先輩は?』とでも言いたげなゴミを見るような目は忘れられないけど、今日がビジネスチャンスなのは動かしようのない事実。それに彼女なら、なんのかんの言っても後者はきっちりやってくれるだろう。前者については、とりあえず言ってはみたけどぶっちゃけそんな期待してない。普段の僕に対するみたいにあまり手厳しく毒を吐かずに、そつなく対応してもらえれば十分だ。ここで重要なのは実質男子校状態になっているノース校からくる健全な男子高校生に、葵ちゃんという客観的に見てもかなりの美人を売り子としてぶつけることだ。去年は光の結社絡みのごたごたでそれどころじゃなかったけど、これは絶対うまくいくはずだとはあの頃からずっと思っていた。まさか実現するころには僕が3年になってるとまでは思わなかっただけで。
 というわけで本業の方は心置きなく葵ちゃんに押し付け、僕はこちらに集中すればいい。一番大きなデュエル場の中心で鎧田と向かい合い、水妖式デュエルディスクを展開する。

「おおっ、なんだそれ!?どこで売ってんだそんなの!?」
「あ、わかるー?でも悪いけど一点物でね、予備もなければ売る気もないよ」

 この三沢謹製デュエルディスクは、どう見てもオーバーテクノロジーの域をはるかに通り越した代物だ。どう考えても目立ってしょうがないからこっちの世界では使わずにいようかとも一時は思ったが、それは覇王軍に対抗するためこの試作品を一生懸命作り上げた三沢に対して失礼というものだろう。いつか彼が帰ってきたらアップグレードとかしてもらえるかもしれないし、それまではテスター役の意味も込めて使い続けるつもりだ。
 ……ただ、やっぱこれ目立つよね。僕にとって幸いだったのは、こんな雑な説明でも納得するほど鎧田が大雑把、というか無頓着だったことだ。

「そっか、なら仕方ねえな。まあお前らが本校だしな、アイテムも回ってきやすいんだろ。だがな、デュエルはディスクでやるわけじゃねえ」

 いやデュエルディスクでやるんですが。これ以上ぐだぐだ漫才するのもどうかと思うので、喉まで出かかったその言葉はぐっと飲み込んだ。
 もう、本校とノース校の観客の期待値は最大まで高まっている。いいねえこの感じ、最近は野外でやたら暗い中ひとりぼっちの戦場ばっかりだったんだ、ギャラリーたくさんってのは悪くない。いよいよもって元の世界に戻ってきたんだなあ、なんてしみじみできる。

「俺たちの実力でやるもんだ!行くぜ、清明!」
「上等上等!わざわざ来てもらったところ悪いけど、返り討ちと洒落込んであげようか!」

「「デュエル!!」」

 先攻を取ったのは……僕。鎧田相手に後攻を譲るのはあまり嬉しくない……というより、僕のデッキは相手の出方で強さが変わる後攻特化型だ。もう少し先攻向きのカードも入れたほうがいいかもしれない、なんてことを思いつつ、まずは様子見から入ることにする。

「グレイドル・アリゲーターを守備表示で召喚!さらにカードをセットしてターンエンド、どっからでもかかってきな!」

 床に広がる銀色の水たまりと、そこから湧き出す緑色のワニ。普段はインパクトとのコンボ攻撃ばかりしているから、こうやって壁として配置するのは久しぶりだ。

 グレイドル・アリゲーター 守1500

「なんだなんだ、それで終わりか?そんな程度で俺に勝とうってんなら……遥かに遅いぜ!俺のターン、ドロー!永続魔法、黒い旋風を発動だ。そして来い、BF(ブラックフェザー)-蒼炎のシュラ!」

 BF-蒼炎のシュラ 攻1800

 巨大な腕を持つ、二足歩行する鳥人間。黒というより藍色に近い翼をはためかせると、フィールドに置かれた黒い旋風のカードからその名の通り風が吹いた。

「黒い旋風は俺がBFの召喚に成功した時、その攻撃力以下の攻撃力を持つ同胞をサーチできる。俺はこの効果で月影のカルートを加えるぜ。バトルだ、シュラ!」

 鋭い爪の二連撃が唸り、アリゲーターの体が深々と切り裂かれる。だがその傷口から血が飛び出すようなことはなく、かわりに滲み出た銀色の液体がシュラの爪が触れた場所から翼に、腕に、そして上半身全てに浸透していく。

「なんだこれ、気色悪っ。とにかく、シュラがモンスターを戦闘破壊したことで―――――」
「わざわざ攻撃お疲れ様。グレイドル・アリゲーターが戦闘破壊されたこの瞬間―――――」
「「効果発動!」」

 互いに声がハモったその瞬間、2体のモンスターの効果が同時に発動された。僕のアリゲーターはその寄生効果を使い、額に銀色の紋章が浮かんだシュラのコントロールをこちらに移す。一方鎧田のフィールドもそれで空にはならず、シュラ最後の抵抗により呼び出されたターバンを被り器用に翼を丸めて弓を持つ漆黒の鳥がすでに狙いをつけていた。

 BF-上弦のピナーカ 攻1200

「へえ……」
「俺のモンスターが盗られるとはな。だがシュラの効果により攻撃力1500以下のBF、上弦のピナーカを効果を無効にして特殊召喚させてもらったぜ。そしてお前も見ただろ?さっきサーチしたこのカードをよ!ピナーカでシュラに攻撃、このダメージ計算時に手札から月影のカルートの効果を発動!手札からこいつを捨てて、ピナーカの攻撃力はこのターンの間1400ポイントアップする!」

 ギリギリと引き絞られた弦から1本の矢が放たれ、正確無比なその一撃がシュラの心臓をストレートに射抜く。

『少し痛いが、まあ悪くない。あのカードを下手に温存されるよりはずっとマシだ』
「うん、わかってる。まだまだこの程度……!」

 BF-上弦のピナーカ 攻1200→2600→BF-蒼炎のシュラ 攻1800(破壊)
 清明 LP4000→3200

「どうだ?さらにカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 まさかこの序盤で躊躇なくカルートをぶっこんでくるとは思わなかったが、今のターンの攻防は間違いなくこちらの負け。さすがはノース校四天王のボス、アリゲーター1体でノーダメージに抑えられるほど甘い相手じゃない。
 とはいえこちらもストレートに負けるつもりはない、すでに次への仕込みは済んでいる。

 清明 LP3200 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
 鎧田 LP4000 手札:3
モンスター:BF-上弦のピナーカ(攻)
魔法・罠:黒い旋風
     1(伏せ)

「僕のターン!相手フィールドにのみモンスターが存在することで、手札からカイザー・シースネークを特殊召喚。ただしこの方法を使う場合その攻守は0になり、レベルも半分の4に下がる。そしてトラップ発動、グレイドル・スプリット!このカードを装備カードとしてシースネークに装備して、攻撃力500ポイントアップ!」

 カイザー・シースネーク 攻2500→0→500 守1000→0 ☆8→4

「攻撃力たかだか500……?いいぜ、何するつもりか見せてもらおうじゃねえか」
「もちろん。グレイドル・スプリットはこのカードを墓地に送ることで装備モンスターを破壊し、さらにデッキからグレイドルを2種類リクルートすることができるのさ。出て来い、グレイドル・スライム!さらにもう1体は……ここは用心しますかね、グレイドル・コブラを特殊召喚!」

 大海蛇の巨体が消え、後に残ったのはグレイ型宇宙人を模したスライムに、赤いコブラを模したグレイドル2体。よしよし、これでこっちも問題なく行けそうだ。

 グレイドル・スライム 守2000
 グレイドル・コブラ 攻1000

「モンスターが2体……」
「そっちの得意なフィールドはわかってるんだ、それまでにやりたいだけやらせてもらうさ。このグレイドル・スライムをリリースしてアドバンス召喚、氷帝メビウス!」

 6つの属性のうち、最も僕が得意とする属性……水を司る氷帝が、周りの空気を凍てつかせつつ場に現れる。急激な温度変化のせいであたりに白い靄が立ち込め、その中を縫うように氷の槍が飛んだ。

「メビウスの効果発動、フリーズ・バースト!アドバンス召喚に成功したことで、その伏せカードと黒い旋風を破壊させてもらうよ」
「まあ当然、そう来るよなあ……黒い旋風はくれてやるがな、もう片方は譲らないぜ!速攻魔法、スワローズ・ネストを発動!俺の鳥獣族モンスター、つまりピナーカをリリースすることで、それと同じレベルの鳥獣族を1体デッキから特殊召喚する!ピナーカのレベルは3、よって同じくレベル3の白夜のグラディウスを特殊召喚する!」

 BF-白夜のグラディウス 守1500

 ピナーカの姿が空高く飛び去って行き、銀色に輝く鎧をガチガチに着込んだ鳥人間のモンスターが代わりに着地する。それはまあいい、ただ破壊されるのを指をくわえて見ているようなキャラではない。ただ問題は、それがスワローズ・ネストだったことだ。

「嘘、なんでそんなカード入ってんの!?」

 スワローズ・ネストは鳥獣族専用の優秀なサポートカードだ。鳥獣族で統一された【BF】に入っていても本来なら何もおかしくはない。だがあの鎧田、あの男のデッキはいわゆる変態構築……通常とはまるで違ったコンセプトを前提として組まれたものだったはずだ。それを考えればはっきり言って、鳥獣族サポートなんて事故要因にしかならないはずなのだが。

「なんだ、負け惜しみか?そりゃ確かにさっきのターンで使ってればさらに1000ぐらいのダメージは稼げたろうけど、防御カード抜きでターン回すのはちょっとなあ」
「いやそっちじゃなくて、そのデッキ確か……」
「ああ、そういうことか。これぐらいなら教えてやるが、少し枚数を減らして純構築に寄せてみたんだよ。子供(ガキ)が見たらトラウマになりかねないって言われちまったからな」
「言われたって……誰に?」
「その話は後だぜ!グラディウスは1ターンに1度戦闘破壊されないモンスター、メビウスの攻撃は寄せ付けないぜ!」

 確かに、一見するとこの状況は僕にとって圧倒的不利だ。ただもしもの時のために保険を打っておいたのが、まさか本当に役立つとは。
 僕が合図を送るとメビウスの横にいたコブラの体がでろり、と効果音の付きそうな勢いで溶け崩れ、銀色の液体となったグレイドルが足元からグラディウスに迫ってゆく。

「カードを1枚伏せてターンエンド。この瞬間、グレイドル・スプリットの効果により呼び出したコブラは自壊するよ。ただしただの自壊じゃない、トラップの効果で破壊されたグレイドル・コブラは相手モンスターに寄生して、そのコントロールを操る!シュラに続いて白夜のグラディウス、そのモンスターもこっちにもらおうか!」
「はぁ!?またかよ、クソッ!」

 足元から鎧の隙間を縫って浸透したグレイドルの力で、グラディウスの額にも銀色の紋章が浮かび上がる。ダメージこそ与えられなかったけど、これで鎧田の場は今度こそがら空きだ。

「だがな、俺だってただやられるわけじゃねえ。上弦のピナーカは墓地に送られたターンのエンドフェイズに、デッキから別のBFを1体サーチすることができる。さあ、お前の次の相手はこのカードだぜ。そして俺のターン、手札から朧影のゴウフウを特殊召喚!このカードは俺の場にモンスターが存在しない時に特殊召喚でき、さらにリリースできない朧影トークン2体を特殊召喚する。そして俺の場にBFが存在するとき、さっきピナーカの効果で加えた漆黒のエルフェンはリリースなしで召喚できる!」

 不気味な3本の竜巻が吹き、真ん中の1本から全身を鎖で縛られた鳥型モンスターが鋭い目つきでこちらを睨む。さらにその竜巻に乗り、その二つ名の示す通り全身を漆黒の羽根で包む鳥人間が重い音とともに着地した。
 たった2枚のカードから、そのうち3体の攻守が0とはいえ4体もの頭数を揃えられるとは。もちろん、BFの展開力を舐めていたわけではない。いくら場を空にしてもある程度リカバリーを効かせてくるだろうとは思っていたけれど、まさかここまでやられるとは。

 BF-朧影のゴウフウ 守0
 朧影トークン 守0
 朧影トークン 守0
 BF-漆黒のエルフェン 攻2200

「おいおい、何もう終わりました、みたいな顔してんだよ。まだまだこっからが楽しいんじゃねえか、なあ?俺がこの通常召喚に成功したことで、漆黒のエルフェンの効果発動!お前の場にいるグラディウスの表示形式を変更させるぜ。おっと、俺の場にBFが存在することで手札から残夜のクリスも特殊召喚だ」
「ぐ……!」 

 BF-白夜のグラディウス 守1500→攻800
 BF-残夜のクリス 攻1900

「バトルだ!クリス、エルフェンの2体でグラディウスに連続攻撃!」

 本来メリットのはずのグラディウスの戦闘破壊耐性が、とんでもないデメリットとなってこちらに牙をむく。強制的に立ち上がらされたグラディウスの体が空中で2体の鳥人間の連携の前に翻弄され、鎧の守りもむなしく一方的に突き崩される……寸前、地面から吹き上がった水柱がとどめの一撃を済んでのところで中断させた。

 BF-残夜のクリス 攻1900→BF-白夜のグラディウス 攻800
 清明 LP3200→2100
 鎧田 LP4000→3200

「エルフェンの攻撃が止められた、だと?」
「1回は通すけど、そこまでさ。トラップ発動、ポセイドン・ウェーブ。攻撃を1度だけ無効にして、さらに僕の場に水族のメビウスがいることで800ポイントのダメージを与える!」
「なるほどな、さすがにまったくの無策じゃなかったわけか。俺は全然構わないけどよ、それくらいの歯応えはないとわざわざここまで来た意味がないからな。カードをセットしてターンエンドだ」
「言いたい放題言ってくれちゃって……まだまだっ!」

 強がってはみたものの、戦況は思ったよりも厳しい。しかも先ほどエルフェンの効果をメビウスではなくグラディウスに回したところからも考えて、あの伏せカードは何かの防御札のはずだ。だが、僕だってまだこれですべての手を見せたわけではない。
 そう、ライフの差はまだわずか800、まだまだ負けたわけじゃない。

 清明 LP2100 手札:1
モンスター:氷帝メビウス(攻)
      BF-白夜のグラディウス(攻・コブラ)
魔法・罠:グレイドル・コブラ(グラディウス)
 鎧田 LP3200 手札:2
モンスター:BF-漆黒のエルフェン(攻)
      BF-残夜のクリス(攻)
      BF-朧影のゴウフウ(守)
      朧影トークン(守)
      朧影トークン(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「さあ次行くよ、僕のターン。魔法カード、サルベージを発動!墓地から攻撃力1500以下の水属性、グレイドル・アリゲーターとグレイドル・コブラを回収する」
「なんだ、また寄生戦法か?」
「いいや違うね、デッキ任せの博打戦法さ!魔法カード、強欲なウツボを発動!手札から今回収した2体の水属性をデッキに戻し、改めてカードを3枚ドローする!」

 サルベージと強欲なウツボ、最近滅多に決まらなかった強力な手札交換コンボで全てのカードをデッキに戻し、改めて3枚を引き直す。そろそろ息切れしてきたから、ここで継続的に手札を増やせるようなカードに来てほしい……そんな願いを、ありがたいことに僕の信頼するデッキは聞き入れてくれた。

「さあ、第2ラウンドと洒落込もうか!フィールド魔法、KYOUTOUウォーターフロントを発動!」

 地面から巨大な、天にも届くサイズの灯台がせり上がり、周りの風景が海沿いの都市に変化する。そしてこのカード……ちょっともったいない気もするけど、他に手はないから仕方ない。

「そして僕はこの、メビウスとグラディウスの2体をリリース。アドバンス召喚、怒炎壊獣ドゴラン!」

 怒炎壊獣ドゴラン 攻3000

 灯台に負けず劣らずの巨体を誇る、怒りの炎を操る恐竜型壊獣。せいぜい人間大のサイズしかないBF軍団を前に、たった1匹で向かい合い……おもむろにその体が赤熱したかと思うと、口から炎のブレスが放たれた。

「フィールドから墓地にメビウス、グラディウス、装備カードのコブラ。この3枚のカードが送られたことでウォーターフロントに壊獣カウンターが3つ乗り、その3つをすべて消費してドゴランの効果発動、覆滅!相手モンスター全てを焼き尽くし、破壊する!」

 装備カードというグレイドルの特性があったからこそできた、アドバンス召喚による強引なカウンター生成からの効果発動。まあ正直、ここで引けたのがそれだけの見返りがあるドゴランでなければ絶対やらなかったと思う。
 ともあれ辺り一面に炎が走り、逃げ遅れた鳥たちが火の中に沈んでいく。そしてトークン以外のモンスターは破壊され墓地に送られたことでまたそれが壊獣カウンターの足しになり、灯台のてっぺんから鋭く空を裂く3本の光の筋が通った。

 KYOUTOUウォーターフロント(0)→(3)→(0)→(3)

「くっ……流石に一筋縄じゃいかねえな、やってくれるじゃねえか」
「そりゃどうも、っと。この効果を使ったターン、ドゴランは攻撃できない。でも、まだまだ動くことはできる!ウォーターフロントは壊獣カウンターが3つ以上貯まっているとき、1ターンに1度壊獣を1体サーチすることができる。この効果で怪粉壊獣ガダーラを手札に加え、さらに魔法カード、トレード・インを発動!レベル8のガダーラを墓地に送り、カードを2枚ドロー!」

 ウォーターフロントの効果にとにかく無駄がないおかげで、ようやく僕のデッキも息を吹き返す。よし、このカードを引くことができたか。

「永続魔法、壊獣の出現記録を発動。このカードの効果で僕の場のドゴランを破壊して、デッキから別の壊獣を特殊召喚できる」

 これで多次元壊獣ラディアンを呼び出せば、ウォーターフロントの壊獣カウンター2つをコストに分身能力を発動。攻撃力2800のラディアントークンとの連続攻撃で大逆転勝利も狙える……だけど、それは果たして本当に正しい選択だろうか。悩む僕の背中を押すように、チャクチャルさんの声がする。

『そもそも、先に警戒を始めたのはマスターだからな?確かにラディアンならば決まれば勝利もできるだろう……だが、このターンが始まる前に何を考えていたかを思い出すことだ』

 僕が何を考えていたか、か。そうだ、メビウスにエルフェンの効果を使わなかった理由を訝しんでいたんだった。ここまでの動きに対し沈黙を貫いてきたことから考えて、あの伏せカードは召喚反応や効果反応の類ではない。となると、残る選択肢は攻撃反応?魔法の筒のような対象を取るカードが相手ならジズキエル無双の始まりだ、で済むけれど、相手は鎧田。1回のミスが致命傷になりかねない相手だ、ここはさらに用心しておこう。

「……こい、海亀壊獣ガメシエル!」

 迷った末に呼び出したのは、巨大な海亀。壊獣の中でもワーストクラスに低い攻撃力を持つこのモンスターだが、内に秘めた効果はトップクラスに強力だ。

 KYOUTOUウォーターフロント(3)→(4)
 海亀壊獣ガメシエル 攻2200

「このガメシエルには一切の制限がかかってない、よってバトルもできる。ダイレクトアタックだ、ガメシエル!」
「2200はいくらなんでもデカいからな。トラップカード、魔法の筒(マジック・シリンダー)を発動!その攻撃力、そっくりそのまま跳ね返してやるぜ!」
「やっぱり攻撃反応か……なら、貰った!ガメシエルの特殊効果、渦潮を発動!壊獣カウンター2つをコストにその発動を無効にして、さらにゲームから除外する!」
「何!?」
「悪いねえ、今回は僕の読み勝ちさ!」

 灯台から伸びる光のうち2本がふっと消え、ガメシエルの巻き起こした水の大渦が表になったトラップを巻き込んで押し流していく。今度こそ邪魔立てされることなく、太い尾の一撃がクリーンヒットした。

 KYOUTOUウォーターフロント(4)→(2)
 海亀壊獣ガメシエル 攻2200→鎧田(直接攻撃)
 鎧田 LP3200→1000

「ちっくしょう……!」
「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたのさ?」
『なあマスター、急に出てくるその小物っぽさはどうにかならないのか?』

 失礼な。小物じゃないもん、空気読んでヒールやっただけだもん。グレイドルと壊獣の2大嫌がらせテーマを両立させようとしてる時点で、今の僕はどう見てもただの悪役。それは自覚してるし、なら盛り上げるためにはそれ相応のムーブっちゅうもんが必要不可欠だ。

『……私の好みは同じ悪役でも、せめてもう少し大物なのだが』
「大物ってことは偉いんでしょ?やだよ偉いのなんて、肩こっちゃうもん。僕は下っ端のプロだよ」
『随分弱そうなプロもあったものだな』

 脳内でわあわあ言い合っているうちに、鎧田もすっかり気を取り直したらしい。ガメシエルの力を知りながらいまだ衰えない闘志を燃やし、次の一手を求めてデッキに手を掛けるのが見えた。

「まだまだ巻き返してやるぜ、俺のターン!相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、このモンスターはリリースなしで召喚できる!来い、暁のシロッコ!」

 シロッコのリリース軽減能力は、発動するタイプの効果ではない。つまりそれは、ガメシエルの鉄壁の守りをすり抜けて使用することができるということだ。鎧田め、もうそのことに気づくとは。

 BF-暁のシロッコ 攻2000

「俺はこれで、ターンエンドだ」

 残り2枚の手札で何かしてくるかと思いきや、意外なことに召喚だけでターンを終える鎧田。楽観的に考えるなら、たんに手札事故を起こして少しでもダメージを軽減させるためやむを得ずシロッコを出したというところだ……けど、どう考えてもそんなにうまくいくとは思えない。
 おそらく、次に僕がどう動くかがかなり重要になってくるはずだ。

 清明 LP2100 手札:1
モンスター:海亀壊獣ガメシエル(攻)
魔法・罠:壊獣の出現記録(0)
場:KYOUTOUウォーターフロント(2)
 鎧田 LP1000 手札:2
モンスター:BF-暁のシロッコ(攻)
魔法・罠:なし

「僕のターン、ドロー」

 落ち着いて、初めからよく考えてみよう。ウォーターフロントに載った壊獣カウンターは2つ、つまりガメシエルはまだ最低でも1回効果を使うことができる。そして、それは鎧田も十分承知しているはずだ。
 ちらりと視線を上に向け、頭上でライトを放つウォーターフロントを見上げる。カウンターが2つということは、逆に言えばこのカードの持つサーチ効果も使えないということ。もっとも仮に使えたとしても、ガメシエルの攻撃力は壊獣の中でもワーストクラスなのにシロッコをリリースしてもっと強いモンスターを出してどうするというさらに根本的な問題があるのだが。
 僕の手札は、今引いたカードを合わせて2枚。グレイドルがあれば迷わず寄生に繋げたのだが、それもこのターンでは無理だ。いかにも罠でございと言わんばかりのあのシロッコに、カウンターが1度しか使えないこの状況で本当に攻撃するべきだろうか?もう少し待つべきではないだろうか?
 それともそう思わせる事こそが攻撃表示シロッコ棒立ちエンドの真の狙いで、場面外から掛けるプレッシャーだけで鎧田が逆転のチャンスをうかがっているのだろうか。鎧田は敵に回すと油断ならないタイプだから、そのどちらも可能性は同じだけある。
 ややあって、ついに覚悟を決めた。ただしこの判断、後になってから何回も後悔することになる。もしここでもう一度盤面をよく見ていたら、普段から痛い目にあって覚えさせるスパルタ式の教育方法を好むチャクチャルさんが僕の判断にいいとも悪いとも言わず無言で見ていたわけをもう少しでも考えていたら、結果はまた変わっていたのだが。

「……ここで退くなんて僕じゃない!ガメシエル、バトルだ!暁のシロッコに攻撃!」
「手札からBF-極夜のダマスカスの効果発動!このカードを捨ててシロッコの攻撃力をこのターンの間500ポイントアップ、これで返り討ちだ!」

 どこからともなく飛来した短剣を掴み取って新たな得物を手にしたシロッコが、その巨体からは想像もできないほど軽やかな動きで踊りかかったガメシエルを迎え撃たんと構えを取る。これを通したらシロッコの攻撃力は2500、これは止めるしかない。

「ガメシエルの特殊能力、渦潮を発動!ダマスカスの効果を無効にして、除外する!」

 KYOITOUウォーターフロント(2)→(0)

 攻撃の前に放たれた渦潮が、シロッコの手に一時は握られた短剣を弾き飛ばす。これで捉えた、そう思った瞬間、突然に空気を切り裂いて2本目の短剣が飛んできた。まるでそうなるのがわかっていたかのように自然な動きで伸びたもう片方の手がその短剣を逆手に握り、翼を広げガメシエルの頭上まで飛び上がったシロッコがその甲羅に覆われていない部分、脳天に必殺の一撃を当てた。

「こ、これは……!?」
「悪いなあ、今度の読み合いはまた俺の勝ちだな?どうあがいたところで、無理に突っ込んできた時点でお前の負けは決まってたんだよ!」

 事実その通りなので何も言い返すことができず、ただ歯を食いしばって睨みつける。そんな視線にわざとらしく震えてみせ、ようやく種明かしに入った。

「念のため、これまでずっと温存しておいてよかったぜ。そのデカ亀の効果にチェーンしてもう1枚、手札から2枚目のダマスカスの効果を発動したのさ。止めようが止めまいがシロッコの攻撃力は結局500ポイントアップするんだよ、正真正銘の返り討ちだぜ!」

 海亀壊獣ガメシエル 攻2200(破壊)→BF-暁のシロッコ 攻2000→2500
 清明 LP2100→1800
 KYOUTOUウォーターフロント(0)→(1)

「手札から捨てられたダマスカスはカウントしないけど、ガメシエルがフィールドから墓地に送られたことでウォーターフロントに壊獣カウンターが追加で1つ乗る……」

 灯台に明かりが再び1つだけ灯ったそのタイミングで、チャクチャルさんの冷静な声が聞こえてきた。最初からこうなることがわかっていたからこそ、これまで不自然に黙って何も言ってこなかったのだ。

『惜しかったな、マスター。私なら今のターン、それを使っていた』
「それ?」
『壊獣の出現記録、だ。確かにガメシエルのカウンター能力は強力だが、それに頼りすぎると今のような手痛いしっぺ返しを受けることになる。素直にガメシエルを破壊して別の壊獣をリクルートすればその過程でKYOUTOUウォーターフロントの壊獣カウンターは3つになり、コストにカウンター3つを要求する壊獣でも効果を使うことができた。ジズキエル、サンダー・ザ・キング、ガダーラを呼べば今のような最悪の事態だけは避けられたはずだし、上から殴ることに長けたあの3体ならうまくすればこのターンで終わらせることも可能だったはずだ』
「出現記録、か……」

 そこまで丁寧に解説されて、やっと今のターンで自分が何をしでかしたのか理解できた。壊獣カウンターが2つあり、なおかつガメシエルが僕の場にいるという事実だけで完全に満足して、そこで思考停止していたことに今更ながら気づく。ガメシエルの強力なカウンターは確かにこちらで使えればこの上なく強力な武器になるが、それは目的でもゴールでもない。
 あくまでも最終目標はこのデュエルの勝利を掴むことで、そのための手段の1つだ。それを忘れていては本末転倒、今みたいに痛い目にあって終わる。壊獣の独特な動きを使い慣れてないというより、単に僕自身のセンスの問題だろう、これは。
 ……またひとつ賢くなれたのは全然問題ないんだけど、今までよくこんな程度のセンスで命がけのデュエルなんてやってたものだ。もう入学してから2年以上経つんだから、いくら毎年デッキがバージョンアップしているとはいえ、もう少しぐらい成長があってもよさそうなものだけど。

『センスの問題とか言い出されたら私にもどうしようもないが……とにかく場数を踏んで慣れることが一番の近道なんじゃないか?』
「おいおい、何固まってんだよ。お前のターンだぞ、さっさとしろよ」

 鎧田の声に我に返る。さっさとしろよ、と言われても、今の僕にできる事は1つしかない。幸いまだ召喚権は残っている、ここはじっと我慢の時だ。

「グレイドル・スライムJr.を守備表示で召喚。これでターンエンド」

 最近やたら出番の多い、先ほど現れたスライムの幼体といった見かけのグレイ型宇宙人が今回も壁としてシロッコの前に立ちはだかる。その守備力はシロッコではギリギリ突破できない2000、そしてこの布陣で最も警戒すべき仮想敵2体のうち片方である漆黒のエルフェンはすでに破壊済みだ。まさか上級モンスターのエルフェンが2枚以上入っているとも考えにくいし、警戒すべきはもう1体の方だけだ。
 もっともこればかりはこちらにできる事はなく、あのカードを引かないことを祈る程度しかないのだが。でもきっと、鎧田なら引くだろう。なぜって、この男は真のデュエリストなのだから。

 グレイドル・スライムJr. 守2000

「行くぜ、俺のターン!魔法カード、貪欲な壺を発動!カルート、エルフェン、クリス、ピナーカ、ダマスカスの5体のモンスターをデッキに戻し、カードを2枚ドロー……そろそろこの風景にも飽きたよなあ、俺がアレンジしてやるぜ!フィールド魔法発動、アンデットワールド!」

 アンデットワールド。互いの場、そして墓地のモンスター全てがアンデット族に書き換えられ、さらにアンデット族以外のアドバンス召喚が禁止される悪夢のような空間。アドバンス召喚をほとんど利用しないくせに爆発力と展開力を併せ持つBFと組み合わせることで、相手にのみこの空間のデメリットを押し付ける……それが鎧田の、僕も僕で大概だけどこいつもこいつで結構いやらしい基本戦術だ。読んで字のごとく文字通りのゴーストタウンと化したKYOUTOUで、僕らのモンスターが気味の悪い動く死体へと変化していく。

 グレイドル・スライムJr. 水族→アンデット族
 BF-暁のシロッコ 鳥獣族→アンデット族

「これで俺のBFは、全てUF(アンデットフェザー)へと進化した。さらにもう1枚行くぜ、黒槍のブラスト!」
「あー、やっぱり引いちゃったか」

 僕がここで引かれることを恐れていたカードの1枚、黒槍のブラスト。自らの背丈ほどもある漆黒の槍を手にした鴉天狗の姿もまた、召喚された瞬間にはすでに腐肉へと変化していたが、その身に秘めた特殊能力は生前のままいささかの衰えもない。そしてそれは、その横のシロッコも同じことだ。

「もうどうなるかは、言わなくてもわかるよな?暁のシロッコの効果を発動!1ターンに1度俺の場のBF1体に、他の全てのBFの攻撃力を集中させる!」

 BF-黒槍のブラスト 攻1700→3700 鳥獣族→アンデット族

「そして、黒槍のブラストは……」
「ブラストは、貫通能力を持つ。バトルだ、ブラストでその小っさいスライムを攻撃!ブラック・スパイラル!」

 僕の言葉の後半を引き取るかのように高らかに宣言し、ブラストが支持を受けて高く飛び上がる。空中から槍を構えて一文字に突っ込んでくる姿はまさに、獲物を正確に貫く死神の翼が生えた死の弾丸だった。その衝撃は銀色のスライムを貫通しただけに留まらず、なおも収まりきらない衝撃波が僕に直接届く。

 BF-黒槍のブラスト 攻3700→グレイドル・スライムJr. 守2000(破壊)
 清明 LP1800→100
 KYOUTOUウォーターフロント(1)→(2)

「ジュ、Jrの効果発動!戦闘破壊された時、デッキから別のグレイドルを特殊召喚できる……来て、イーグル!」

 ゴーストタウンに四散した銀の水滴が再び集まったかと思うと先ほどまでのグレイ型宇宙人スタイルから一転した黄色い鳥の姿となって蘇り、低空にホバリングする。こんな首の皮1枚で繋がったようなライフで貫通能力を持つブラストを立たされた以上、イーグルに繋げるのはかなり分の悪い賭けだ。アドバンス召喚が封じられた現状、そのリリースに当てることすらできない。鎧田にもう1ターン回したら、どうあがいても確実に僕が負ける。
 でも、次のドローであのカードさえ引くことができれば、話は全く変わる。この反撃のため残されたたった1ターンをうまく使えるかどうかは、すべてこの1枚の引きにかかっている。
 ねえ、そんな賭けって素敵じゃない?

 グレイドル・イーグル 攻1500

「100足りないか……運がよかったな、ターンエンドだ。ここでシロッコの効果も切れる」

 BF-黒槍のブラスト 攻3700→1700

 清明 LP100 手札:1
モンスター:グレイドル・イーグル(攻)
魔法・罠:壊獣の出現記録(0)
場:KYOUTOUウォーターフロント(2)
 鎧田 LP1000 手札:0
モンスター:BF-暁のシロッコ(攻)
      BF-黒槍のブラスト(攻)
魔法・罠:なし
場:アンデットワールド

「僕のターン……ドロー!」

 ゆっくりとデッキに手をかけ、この勝負の明暗を分けることになるたった1枚のカードを引きぬく。見るのが怖いような、でも早く見たいような、そんな矛盾する感情で板挟みになりながらも、そっと手の中のカードをこちらに向けた。この一挙手一投足に、鎧田の、そして会場中の注目が集まっているのを肌で感じる。本当に久々に味わう、表舞台特有のこの緊張感。
 ここでひと波乱起こさなければ観客が、そして僕が面白くないし、何よりこのまま負けるなんて、それは真のデュエリストのやることじゃない。このシチュエーションに僕のデッキは、ばっちりと応えてくれた。

「さあ、何を引いたんだ?」

 不敵に笑う鎧田だが、すでに奴も余力の全てをさっきの攻撃に費やしたために、これ以上罠が仕掛けられてないことはわかっている。だとすればこの勝負、これで決まる。
 にやりと笑い返し、そのカードを場に出してみせた。

「グレイドル・イーグルの2体目を召喚!」

 ゴーストタウンに浮かび上がる、銀色の液体が変態した1羽の黄色い鳥の姿。これだ、まさに僕は、このカードを引きたかったんだ。

 グレイドル・イーグル 攻1500 水族→アンデット族

「また寄生効果か?だが、お前のライフはもう残り……」
「忘れたの?グレイドルの真価は、戦闘だけじゃないってことを!僕の墓地に存在する、グレイドル・スライムのモンスター効果を発動!場のグレイドルカード2枚を破壊し、墓地のこのカードは特殊召喚できる!」

 グレイドル・スライム 守2000 水族→アンデット族

 2体のイーグルの体がどろりと溶けて足元で混じり合い、倍のサイズになった水たまりが中央から盛り上がって再びグレイ型宇宙人の上半身へと変化する。ゴーストタウンのメインストリート、その中央に陣取ったスライムの上半身がおもむろに両腕を差し出してその長く細い指を真っ直ぐ前に向けると、指の先から不可思議な光線が放たれてシロッコとブラストに命中した。

「な、なんだ……まさか!」
「そのまさかさ!モンスター効果で破壊されたイーグル2体は、それぞれ寄生効果を発動!僕の元に来い、アンデットフェザー達!」
「2体同時にだと……?そんなの、そんなのありかよ……!」

 ありなんだな、これが。マナーはともかく、ルールはちゃんと守った戦術なんだから。寄生、というよりも洗脳の一撃を受け、額に銀の紋章をつけられたシロッコとブラストがスライムの両脇に並び立つ。もはや壁となるモンスターのいなくなった鎧田を、今やこちらの側に付いた2体のアンデットが死神の羽根をまき散らしながら疾風のようなスピードで切り裂き、貫いた。

「バトルだ、シロッコでダイレクトアタック!」
「ち、ちくしょおおお!」

 BF-暁のシロッコ 攻2000→鎧田(直接攻撃)
 鎧田 LP1000→0





 こうしてデュエルアカデミアノース校と本校との、ずるずると毎年続いた結果なぜか3年間にわたることとなった戦いには一応のピリオドが打たれた。リーダー格のサンダー四天王も、そのライバルだった僕も、来年にはもう卒業してしまう。多分だけど、そうなれば彼らがわざわざ対抗合戦しにくることはないだろう。結局この葵ちゃん売り子作戦は、今年の1回が最初で最後のチャンスだったということだ。まあ、それでもここ最近の開店休業をある程度補える程度には黒字になったから良しとしよう。
 そして時がたち、オレンジ色の夕日が水平線の向こうに沈もうとする時間。慌ただしく帰っていこうとするノース校の面々を見送りに来た僕らは、殿を務めるためギリギリまで港に残っていた鎧田と最後の会話をしていた。

「鎧田!」
「……なんだ、お前かよ。いいか遊野清明、今回は俺の負けだ。それは認めてやる。だがこの屈辱、次は世界中の人が見てる前で晴らさせてもらうからな」

 そう言ってビシッと指を突きつける鎧田。リベンジは歓迎するけど、世界中?だがその言葉には、僕より先に万丈目が反応して会話に入り込んできた。

「鎧田、それはどういうことだ?そういえばお前、さっきも子供が見たら怖がるって言われたから純構築に寄せてみたとか言ってたよな。ノース校で何かあったのか?」

 その疑問に誇らしげな顔を見せる鎧田。その口から放たれた言葉は、僕ら2人を驚愕させるには十分な破壊力を持っていた。

「実はですねサンダー、この間ノース校にプロリーグの視察って人が来て。俺のデュエルスタイルがえらく気にいったみたいで、卒業したらぜひうちに来いって連絡先まで貰ったんですよ」
「なにぃ!?」
「嘘っ!?」
「ところが本当なんだよ、清明。今日だってノース校に帰ったらまたその準備があるから長居できないわけだしな。なんなら、名刺も見せてやろうか?一応その後で調べてみたけど、身元は確かな老舗の団体からのお誘いだぜ。お前もどうせ、卒業したらプロの道に進むんだろ?今日の借りはそこで利子つけて返してやるから、その時までに覚悟決めておけよ」
「……出港だ。ではサンダー、お元気で」
「おっと。悪いな天田、今行くぜ。じゃあな清明、また会いましょうサンダー!」

 それだけ言って船に飛び乗ると、ゆっくりとノース校の船団が動き始める。次第に加速して離れていく船の上で、大きく鎧田がこちらに手を振っているのが最後まで見えた。

「ふぅー……」

 慌ただしかった1日に一区切りついた時特有の奇妙にけだるい独特な感覚や、爆弾発言を唐突にぶち込まれた時にありがちな思考が追いつかないあの感じ。そういったものがごちゃ混ぜになり、ため息を吐くことしかできずに振り返る。すると、同じような表情の万丈目と目が合った。

「な、なあ、清明」
「あー、うん、言いたいことはわかるよ……」
「俺たちの進路、か……」

 卒業。その言葉の意味するところは、頭ではわかっているつもりだった。だけど僕には、そしておそらく万丈目にも、その先の進路のことなんてまるで頭になかった。卒業したら、進学するなりプロ入りするなり、あるいは別の道に進むなり……とにかく、なんかしなくちゃならない。
 言葉にするとそれは当然のことだけど、不思議なことにこれまではそこに考えが至らなかった。それだけに今の発表、校舎こそ違えど同じ系列の高校に通う同級生がもう進路を明確に決めたというこの事実は、僕らの心にずっしりと重くのしかかることとなった。 
 

 
後書き
もはや修正不可能なレベルまで書いた時点で気が付いたプレミの責任を躊躇なく主人公に押し付けていく投稿者の屑(自己紹介)。すまんな清明、仮にも成長物語のGXなのに4期にもなってまだこんなミスさせて。 
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