焚書
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第六章
「集めて燃やしたんだ」
「本を?」
「漫画をな」
「そんなことをする人がいたの」
「何が害毒だ」
酒を飲みつつだ、織部はこれ以上はないまでに嫌悪している顔で言った。
「本や漫画が害毒か」
「けれどおかしな本もあるでしょ」
「そう思ったら読まないといい」
それだけだというのだ。
「馬鹿な奴が書いた馬鹿な本はそのうち読まれなくなる」
「それだけなの」
「ああ、しかしな」
「それでもっていうのね」
「そう思っても読むなとか燃やすとかな」
そうしたことはというのだ。
「始皇帝と一緒だ」
「あなたがよく言う」
「暴君とな」
若い頃からこの見方は変わっていない、始皇帝はそれの典型だというそれは。
「同じだ、民主主義じゃない」
「日本は民主主義になったんでしょ」
「ああ、けれどな」
「始皇帝みたいな人がいて」
「始皇帝そのままのことをする奴がいるんだ」
「だからなのね」
「嫌な気分だった」
その話を聞いてというのだ。
「本を燃やす方が余程子供に悪い」
「そうしたことをする方が」
「親でも何でもな」
「やったらいけないことね」
「そんなことはしないことだ」
絶対にというのだ。
「全く、民主主義になってもな」
「そうしたことをする人はいるのね」
「そのことがわかった、民主主義の中でも」
日本は再びそうなった、しかしというのだ。
「全部の人間が民主主義かというとそうでもないな」
「何か変な話ね」
「全くだ」
織部は酒を飲みつつだ、妻に応えた。そして一杯飲んでからこう言った。
「後で漫画を読むか」
「漫画をなの」
「何でも連中は漫画が子供に悪いと言って燃やしたからな」
「その漫画をなの」
「読もう」
「そうするのね」
「ああ、後でな」
こう言ってだ、織部は酒は少しにしてだった。
自分の部屋に入って漫画を読んだ、その漫画は手塚治虫の鉄腕アトムだった。彼等が燃やしたその中にあった漫画だが面白く夢があった。この漫画が何故子供に悪いのか全くわからない、そして焚書なぞまことに愚の骨頂だとあらためて思ったのだった。民主主義を知る彼にとっては。
焚書 完
2016・10・14
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