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入れ替わった男の、ダンジョン挑戦記

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育め、冒険者学園
  第十一話

時が流れるのは速いもので、いつの間にか、僕が冒険者になって一年が経っていた。

人工島にも少し変化があり、下の階、つまり森の住人達が訪れ、生活するようになった。

エルフ、ケンタウロス、翼人…、彼等は各々の長所を活かし、その才を存分に日々発揮している。

切っ掛けはリーシャが森に戻った時に上の良さを力説した事で、物は試しと何人かのエルフが上に来て色々見聞きしたりして、持ち帰った話を聞いたリーシャの父親、長が交流を決めた。

そうして暫くしてエルフの変化を察した他の種族も続いたのだ。

勿論騒ぎやトラブルもなかったわけではない。揉めた事もあった。だが現在僕達は彼等と共生出来ている。

「それもこれも、英司が頑張って始まりを作ったからだよ」
「大袈裟だよ兄さん。で、その学園?で僕達冒険者が生徒に指導…、簡単じゃないと思うけど…」

僕は家に兄の和樹を迎え、一年ぶりの会話を楽しんでいた。兄さんも念願の教師になり、赴任した学園で早速担任を受け持つなどを話してくれたのだか、その学園で、実力ある冒険者に実技の指導を依頼したい、と生徒会から要望があり、ツテがある兄さんに交渉を依頼したらしい。

その生徒会、かなりの発言力があるようで、新任の兄さんにどうにもしようが無かったとか。

僕個人としては、兄さんに応じたいと思っている。でも他の冒険者にも都合がある。

「学舎に拘束されるとなれば、本業が遠くなる。義兄(あに)よ、待遇はよくあろうな?」

何故か僕の隣に腰掛け、鋭い口調で兄さんを問うリーシャ。…『あに』の発音がおかしいような…?

「学園から謝礼を用意する形になると思う。だけど…」
「問題はソコなんだよね、兄さん。実力者ほど稼げるんだからさ」

冒険者として強ければ強いほど深い層で活動でき、得られる額も高くなる。雀の涙程度の謝礼では後進の育成に熱心なベテラン位しか頷かない。

「でもまあ…、声は掛けてみるよ」
「本当かい!?ありがとう英司!」
「良いのかエイジよ、そなたに益は無かろう?」

リーシャの懸念はもっともだが、

「何事も経験だよ」

と返しておいた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

数日後の朝、ダンジョン及び塔の冒険者に声を掛けて回り、了承してもらった冒険者達と件の学園の前に到着し、待っていた兄さんに案内を受けている。

「何やら緊張するでござるな、人様に教えるとは…」「気負うことはなし、己が知勇を授ければ良いのだ。」

神妙な面持ちのハヤテと、普段通りのリーシャ。

「…ヨーンよ、過日の誼でこの話を受けたが、俺は教えるのは不得手だ。居心地が悪い」
「『翼人随一の戦士』にも、苦手はあったんだ?」

ネイティブな服装に、背に翼持つ黒髪小麦肌の男性と会話する僕。
彼は『レギオス』。人工島に上がってきた翼人の中でも、特に秀でた戦技を有し、空の所有者とすら称される程の実力者。

「かかっ、案ずるな若人達。ワシが居るのじゃ、問題なぞ起こりようが無いわ!」

そして愉快そうに歩を進める中華風の装いの赤毛の童女…ただし、『角つき』の 。

彼女は龍人と呼ばれる一族の一人で、幼い外見に反して、僕ら全員を鼻唄混じりに一蹴するだけの力量がある。

『マオ』と名乗る彼女は、塔の探索に飽きたからという理由で参加してくれた。

他にも食い付いてくれた冒険者は沢山いたのだが、様々な理由でお流れになり、この五人が赴く事になったのだ。

兄さんに学園長室まで案内され、中の学園長の挨拶を受ける。マッチョなおじ様だ。元冒険者らしい。

「諸君、無茶な依頼に応じてくれて感謝する。この後の朝会で君達を紹介する、挨拶を頼みたい」

挨拶もそこそこに、学園長に生徒に何かを、と言われる。出来るかなぁ…

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「と言うことで、先日生徒会から要望のあった、冒険者の方達に御足労いただいた。皆百戦錬磨の兵だ、順に紹介するので静粛に」

学園長の話に、背後に控える冒険者を見ながら、女子生徒の一人が隣の女子に話し掛ける。

「うっわ、カズやん仕事速すぎやわ。しかも亜人多目やし、誰に頼んだんやろな、『会長』?」
「楠先生、よ。誰だって良いじゃない、どうせ…」
「可愛がってた後輩居ないんやしって?しゃーないやん、落ちたんやし」

会長と呼ばれた生徒が関西弁のようなモノを喋る生徒を睨むが、彼女はどこ吹く風、気にした様子もなく続ける。

「ウチも後輩君受かればなー、とは思たよ?でもあの子、ちょい…ウーン、こう言うたらアカンけど、見劣りしてたやん?」
「…それで?」
「棘の道にしかならん此処受かるより、別ん所行けたこの結果の方が後輩君も良かったんちゃう?ほら、壇上の子やってウチ等より年下なのに…って、あ、あれ?後輩君?」
「嘘…、楠君…?」

壇上を見た二人は驚く。丁度話題にしていた張本人が、冒険者として壇上の上に居たのだから。

その冒険者、楠英司が学園長に紹介され、口を開く。

『どうも。冒険者からはヨーンと呼ばれてますので、皆さんもどうぞ。指導を通じて何かを得てもらえば幸いです』

簡素に挨拶を済ませ、素早く次の冒険者にバトンを渡した彼に後で会わないと、と彼女達は確信した。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

衆目が集まる中の挨拶は気疲れするもので、サッサと終わらせ、朝会が終わるのを待って退散し、職員室で気を緩める。

「お疲れ様英司、皆さん。早速この後実技の授業があるので、準備出来ますか?」

兄さんの労りを受け取りながら、忙しなく動く事に。初日から熱心です。
「一年生に基礎、二年生に応用、そして三年生に総合をそれぞれ別れてお願いしたいのですが…」

学年別で指導内容が違うらしい。

「ならば、このリーシャが一年に行こう。」
「某も基礎を指導するでござる」

リーシャとハヤテが一年に、

「ワシは二年かのう。基本がしっかり出来ているか、見極めてやらぬとな」
「なら僕も。流石に年上には、ね」

二年にはマオと僕が志願する。

「俺が三年か…。まあいいだろう」

レギオスが三年を引き受ける。三年が一人少ないが、二年間学んでいるので、然程難しくはないはずだ。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「さあお前達、一年間基礎を学んで、冒険者とはどんなものか、少しはわかったか?今日から暫く、このお二人が君達の実技を指導してくれる、少しでも教えを吸収するように!」

学年別に別れて、担当の教師に説明されている生徒を見て、幼馴染みだった澪とその彼氏君が居て、少しだけビックリした。

この学園、冒険者育成を本分にしているだけあって、生徒も中々の粒揃いだ。生徒としては、だが。

「せんせーい、その冒険者って奴、強さ偽ってるかも知れないッスよねぇ?」
「…何が言いたい?」

軽薄そうな生徒に教師がドスの効いた声を出す。どこも玉石混合は変わらないか。

「良いよ、手合わせしよう。マオ、回りの保護お願い」
「かかっ!命知らずは現れるものよのう!」

僕が前に出て、マオが被害を防ぐ『結界』を張ってくれる。龍人が使える力の一端らしい。

「へっ、大したこと無さそうな面してんな!すぐに終わりそうだ!」

顔は関係無いだろ。すぐ終わるのは同意だが。

ギンセカイを構える。この程度、動きすら必要ない。

「行くぜ冒険者サンよぉ!…アアッ!?何で…体…凍って…?」
「声かけ、踏み込み、ソレだけあれば君ごとき凍らせるなんて、簡単だよ。冒険者を侮らないでほしいんだけど?」

動こうとした生徒をギンセカイで凍らせる。ダンジョンのモンスターに比べれば何もかも遅いし、稚拙過ぎる。

「先生、これ基礎の基礎からやり直させた方がマシですよ」

そう教師に伝えると、生徒からブーイングが上がった。

が、ソレをマオが一喝する。

「戯れるな、愚か者共!!」

怒声と共に発せられた気が、生徒から抵抗を奪った。

「主等はあの手合わせで察せぬか?あの者が生きているは、この者が慈悲と分からぬか?」
「そんなのっ!殺したら犯罪に…!」
「魔物と相対してもそう言うのか!」

反論しようとした生徒を黙らせる。そう、基礎の基礎、冒険者が相手するのはモンスターだと、彼等は失念している。先生は最初に言ったぞ、『冒険者がどんなものか、少しはわかったか』と。

「一年でコレでは先は知れたものよな、冒険者がいの一番に考えねばならぬ事も分からぬであろう?」

怒りと呆れの混じったその問いに、彼氏君、確か蒼真とか言った少年が食って掛かった。

「モンスターの迅速かつ確実な殲滅だろ!常識だろうが!」
「戯けが!その答えが無知そのものを披露しておる!」

彼氏君の答えは間違ってはいない、が、ソレはモンスターと対峙した時であって、冒険者が常に考えなければならないことではない。

「『いかに被害を少なくして撤退出来るか』、ね。生きていてこそ挑戦出来るから」
「ほう、その娘は多少見れる方よな」

正解は澪が出したが、本当は生徒全員が理解しなければならないことだ。コレから先が思いやられる。 
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