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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン71 鉄砲水と優しき闇

 
前書き
なんか忘れてるような?と思ってたらアーミタイルを影も形も出してないままに3期が終わる絶望。冗談抜きで存在忘れてました。
そんなハプニングもありましたが、3期もついにクライマックスです。

前回のあらすじ:召喚神、堕つ―――――ついでにウラヌスも堕ちた。 

 
 扉をくぐると、そこには異世界が広がっていた。
 まあ、そんな気はしてた。というか見えてたし。そこは先ほどまでの山の中とはまるで違う、かすかに霧のかかった薄暗い世界。周りを見回してみると、どうやら随分と高台にいるらしい。そして目の前には巨大な城らしき建物と、覇王城前の闘技場を彷彿とさせる円形の舞台。これがユベル城、か。
 円形の端にはヨハンの体を乗っ取ったユベルが立っていて、何を考えているのかイマイチわからない笑みを浮かべながらきょろきょろと周りを見回す僕を見ていた。

「この場所に人間を招いたのは、君が初めてだよ。もうすぐ十代も来るだろうけどね」

 特に返事を求めるという風もなく、ユベルが独り言のように喋り出した。この、僕がここにいるすべての元凶に対して言いたいことは山のようにあるが、いざ対面すると何から話せばいいのかよくわからない。黙ったままの僕にお構いなく、一方的に話し続ける。

「十代が来るまで、もう1時間とかからないはずだ。もし時間がある時なら、暇つぶしに君と遊んであげてもよかったと思っているんだよ?だけど、ボクは彼を歓迎する準備をしなくてはならないんだ。君はなかなか興味深い存在だけれど、あくまで十代と比べなければの話だからね」

 ユベルの話の雲行きが怪しくなってきたあたりから、用心して動きを悟られないようにデッキに手を伸ばしておいた。なるべくさりげなく、ゆっくりと手を後ろ手に組む。自分の演説に夢中なユベルが僕の動きに気づかないでいるうちに、そっとカード1枚を手の中に滑り込ませた。
 少し用心しすぎな気もしたけれど、相手はこれまで散々なことをやってくれた大迷惑者だ。そして案の定、その豹変は一瞬だった。

「だから……もう消えな!」

 ヨハンを乗っ取ったユベルのオッドアイが突然光ると、足元の床をぶち抜いて巨大な茨が蛇のように僕に襲い掛かる。不意打ちならどうしようもなかったけれど、あらかじめ心の準備をしておいた分だけ僕にもリアクションを起こす余裕があった。

霧の王(キングミスト)!」

 手の中のカードを掲げると、相棒とも呼べる霧の魔法剣士が傍らに実体化する。銀色の剣閃が煌めき、寸断された茨のかけらが足元にバラバラと崩れ落ちた。
 だけど、そこまでだ。僕には、ここからさらに霧の王をけしかけて反撃するなんて道は選べない。目の前にいるのはユベルだが、その体はヨハンの物であることを忘れてはいけない。それに、あのウラヌスの不可解なやられ様はまだ記憶に新しい。一体何をどうすれば、あんなことになるのか。その謎を解かない限り、下手に動けない。

「フン……」

 ヨハンの体を乗っ取った影響か、それともこのユベル城の世界にそういう作用があるのか。ありがたいことに、ユベルにも今の茨攻撃以外には打つ手がないようだ。問答無用で次元の狭間に飛ばされでもしたら、さすがにどうしようもなかったろう。互いに下手に動くこともできず、舞台を挟んで睨み合う……そんな状態を先に解いたのは、意外にもユベルからだった。

「ボクとしては、このままこうして千日手の睨み合いを続けていてもよかったんだけどね。少なくとも退屈していたうちは、それだけでもそれなりに楽しめたはずさ。でも今言った通り、ボクはこれから忙しいんだ。力づくで消えてもらえないなら、別の手を使うまでさ」

 言いながら、ヨハンの体でデュエルディスクを構える。今回はアモンに憑いていた時のように、あの化け物の腕を出すつもりはないらしい。
 僕もデュエルディスクを展開させ、首から下げておいた水筒の中身を全部その上に振り掛ける。ついさっきのアモン戦だけでだいぶ水を使ってしまったから、この水筒の分だけでもないよりはマシだろう。これで、あと1戦するぐらいはできるはずだ。
 考えてみるとこれだけ振り回されてきたのに、その張本人のユベルと直接戦うのはこれが初めてだ。もう何も、言うことはない。この長かったユベルとの戦い、その最終決戦と洒落込もう。

「「デュエル!」」

「先攻は僕が貰った。グレイドル・イーグル、守備表示!」

 いつも通りの銀色の水たまりが、素早い動きで空中へはばたく黄色の猛禽に姿を変える。アモンがグレイドルのことを知っていたことを考えると、ユベル相手にも初見殺しは通用しそうにない。ならばわざわざセットするだけ無駄なこと、それよりもユベルがどんな手を打ってくるかを見るとしよう。

 グレイドル・イーグル 守500

「ターンエンド」
「ボクのターン、ドロー。フィールド魔法発動、アドバンスド・ダーク!」

 まるで分厚い雲でも空にかかったかのように、足元がすっと暗くなる。だがもちろん、そんなものは空のどこにもない。それどころか、見渡す限り太陽なんて始めからこの空間には出ていない。

「アドバンスド・ダークがあるかぎり、ボクの使う宝玉獣は全て(アドバンスド)宝玉獣へと変化する。実際に見せたほうが分かりやすいかな?出ろ、A宝玉獣 アメジスト・キャット!」

 ヨハンの体を使う時点でなんとなく予想はできていたが、やはり出てきたのは宝玉獣。場に紫色の宝石……アメジストが現れ、それが弾けてピンク色の雌豹になった。だけど、あのアメジスト・キャットは、僕が知っている彼女とは違う。赤く光る眼に敵意むき出しの牙、そして何よりヨハンの宝玉獣は、宝玉からモンスターになる際に闇の力を放ったりはしなかった。

 宝玉獣 アメジスト・キャット 攻1200 地→闇

「属性が変わった……?」
「そうとも。A宝玉獣は宝玉獣とは違い、全ての属性が闇に統一されている。これも悪くない輝きだろう?ヨハンの記憶によれば、君は以前にも彼に敗北したそうじゃないか。言っておくが、今の僕はそれよりも強い。確実にね。バトルだ、アメジスト・キャット!アメジスト・ネイル!」

 しなやかな動きで、音もなく雌豹が迫る。イーグルの効果を知らないのか、とも思ったが、すぐにそんなわけないと思い直した。そうだ、アメジスト・キャットには与えるダメージが半分になる代わりに、直接攻撃が可能となる効果がある。案の定その効果を使っていたらしく、イーグルの上をさらに飛び越えた雌豹の爪が直接僕に躍りかかった。

「くっ……!」

 宝玉獣 アメジスト・キャット 攻1200→清明(直接攻撃)
 清明 LP4000→3400

「まずは一撃さ。どうだい、あの時よりも痛いだろう?カードを3枚伏せて、ターンエンドだ」
「はっ、冗談。痛いって言うなら、それこそあのエクゾディアやダーク・ガイアの方がよっぽどだったね」
「そうかそうか。なら楽しみに待っているといい、君にも特別にあの痛みを味あわせてあげよう」

 言い返すもののユベルはくすくすと笑うだけで、怒った様子もなくさらりと返す。『あの』痛み、という表現が少し引っかかるものの、どうせこれ以上突っついても何も情報を漏らしてはくれないだろう。

 清明 LP3400 手札:4
モンスター:グレイドル・イーグル(守)
魔法・罠:なし
 ユベル LP4000 手札:1
モンスター:宝玉獣 アメジスト・キャット(攻)
魔法・罠:3(伏せ)
場:アドバンスド・ダーク

 伏せカードが3枚。既にフィールド魔法枠には十代戦でも使っていたレインボー・ルインという専用カードがあるにもかかわらず、その上さらにアドバンスド・ダークなんてカードをヨハンが使うとは思えないから、おそらくあれはユベルの手で追加されたカードなんだろう。他にどれだけデッキが組み換えられているのかはわからないが、ヨハンのデッキには確かカウンターカード以外のあらゆる除去カードが入っていないはずだ。となると、あの伏せカードもこちらの妨害目的の可能性は薄いだろう。

「僕のターン!水属性のグレイドル・イーグルをリリースして、手札のシャークラーケンは特殊召喚できる。さらにグレイドル・スライムJr.を召喚し、効果発動。このカードの召喚時、墓地のグレイドル1体を蘇生召喚できる!」

 シャークラーケン 攻2400
 グレイドル・スライムJr. 守2000
 グレイドル・イーグル 攻1500

「モンスターが3体か。エドみたいにBloo-Dでも出すのかい?」

 無視だ無視、よりにもよってお前がエドの名前を出すなんて、そんなわかりやすい挑発に乗ってやるほど暇じゃない。もっともユベルも今のに乗ってくるとは思っておらず、単におちょくってきただけのようだ。今更言動のひとつひとつに腹を立てていては、また視野が狭くなりかねない。気を付けよう。
 ただしこの苛立ちの報いは、痛みできっちり受けてもらうとしよう。

「……バトルだ!シャークラーケン、アメジスト・キャットに攻撃!」

 無数のタコ足が地面を割りながら進むほどの勢いで伸び、雌豹を締め上げて破壊する。勢い余った足の何本かがそのままユベルに叩き付けられ、砕かれた床から砂煙が起きて一時的にその姿が見えなくなった。

 シャークラーケン 攻2400→宝玉獣 アメジスト・キャット 攻1200(破壊)

「うん?……チッ」

 思わず舌打ちしてしまう。煙が晴れて見えてきたのは、まるでぴんぴんした姿でにやにやと笑うユベルの姿だった。どうやら、ダメージは入らなかったらしい。

「アドバンスド・ダークの効果発動。ボクの宝玉獣がバトルして戦闘ダメージを受けるとき、デッキから別の宝玉1体を墓地に送ることでそのダメージを0にする。つまりこのコバルト・イーグルを送ることで、1200の戦闘ダメージを帳消しにしたのさ。そして、墓地でコバルト・イーグルもまたA宝玉獣に変化する」

 その言葉通り、コバルト・イーグルのカードをこちらに見せてから墓地に送るユベル。アドバンスド・ダークの効果は墓地にまで及ぶ、ということか。でも、それが一体何の役に立つというのだろう。そこまで急速に墓地を肥やして、ヨハンは何がしたいのだろう。
 そこまで考えて、1つだけピンとくる名前があった。レインボー・ドラゴンだ。結局砂漠の異世界では僕はあのカードを見ることがないままこの世界に飛ばされたから、それが一体どんなドラゴンなのかは知る由もない。でもあの墓地肥やしの速さから考えると、恐らくはそれがレインボー・ドラゴン召喚の鍵なのだろう。そう考えればあの召喚神エクゾディアと同じようなものだ……だが、今の僕の手札には、あの時墓地のパーツを除外して活路を切り開いてくれた埋葬されし生け贄のカードはない。
 僕の疑問をよそに、ユベルの目の前に紫色の宝玉が浮かび上がる。ただしその全体は黒いもやのような闇の力に包まれ、輝きはすっかりくすんでしまっている。

「宝玉獣はフィールドでモンスターとして破壊されても、永続魔法として場に残る。これは君も知っているだろう」
「ああ。でも、アドバンス・ダークの効果はダイレクトアタックには反応しないんだね?行け、イーグル!」
「惜しいねえ、もう少しで今の攻撃も届いたのに。相手モンスターの直接攻撃宣言時にトラップカード、カウンター・ゲートを発動。今の攻撃を無効として1枚ドローし、そのカードがモンスターカードならば表側攻撃表示で召喚することができる。来い、A宝玉獣 エメラルド・タートル!」

 緑色のエメラルドが闇の輝きを受けてひびが入り、弾けて亀のモンスターになる。当然といえば当然だけど、エメラルド・タートルもやはり闇の力に飲み込まれているか。

 宝玉獣 エメラルド・タートル 攻800 水→闇

「もう攻撃はできない。これでターンエンド」

 宝玉と化してもなお、宝玉獣はプレイヤーをサポートする。それがわかっているからこそ、ここはせめて戦闘ダメージだけでも与えておきたかったのだが。ヨハンの実力にユベルの抜け目なさというか性格の悪さが加わって、なかなか一筋縄ではいきそうにない。

「ボクのターン。出でよ、A宝玉獣 ルビー・カーバンクル!」

 さらに真紅の宝玉から、子猫のような小動物の精霊がその姿を見せる。でもルビーは攻守ともに低く、とてもシャークラーケンやJrを突破できるほどではない。装備カードで強化でもするつもりなのだろうか。

 宝玉獣 アンバー・マンモス 攻300 光→闇

「ルビーは場に出た時、宝玉状態の宝玉獣を可能な限り特殊召喚できる。ルビー・ハピネス!甦れ、アメジスト・キャット!」

 ルビーの尾から放たれた赤い光に導かれ、紫の宝玉が砕けて再び雌豹が現れる。また直接攻撃狙い、だろうか。

 宝玉獣 アメジスト・キャット 攻1200 地→闇

『……いや、違うな。突っ込んでくるぞ!』
「えっ?」

 チャクチャルさんの警告も、時すでに遅かった。緑の亀が、真紅の幻想動物が、紫の雌豹が、同時に攻撃を仕掛けてくる。

「バトルだ!エメラルド・タートル、ルビー・カーバンクル、アメジスト・キャットの3体でシャークラーケンに攻撃!そしてその反射ダメージはアドバンスド・ダークの効果によりデッキのA宝玉獣、トパーズ・タイガー、サファイア・ペガサス、アンバー・マンモスに肩代わりさせ、破壊された3体を宝玉化させる」
「なっ!?」

 しまった。まだ心のどこかに、目の前の相手がヨハンであるという意識があったのかもしれない。少し前の僕以上にモンスターとの絆を大切にし、7体の宝玉獣を家族とまで呼んだ彼が自爆特攻なんて手は使わないだろうと、無意識のうちに思い込んでいたのかもしれない。
 後悔してもしきれない中、3体のモンスターが無謀な突撃をしては力尽きて宝玉へ姿を変えていく。だが、その無謀は無駄ではない。宝玉の数が増えていくごとにユベルの笑みは深くなり、デッキからは別の色の宝玉が墓地へ送られる。
 そして、ついに場と墓地に7種類の宝玉が出揃った。

 宝玉獣 エメラルド・タートル 攻800(破壊)→シャークラーケン 攻2400
 宝玉獣 ルビー・カーバンクル 攻300(破壊)→シャークラーケン 攻2400
 宝玉獣 アメジスト・キャット 攻1200(破壊)→シャークラーケン 攻2400

「墓地肥やしか……!でも、ユベル!これでお前のモンスターはもういない!次のターンで……」
「期待通りの反応をありがとう、と言っておこうか。でも残念だったね、まだ終わらないのさ。トラップ発動、虹の引力!」

 アドバンスド・ダークにより闇に包まれたフィールドから、突然闇の柱が噴き上がる。柱?いや、違う。よく見るとその闇はそれぞれ濃さも色合いも違う7色になっている。赤、オレンジ、黄色……これは、虹の7色だ。闇の虹が天高く噴き上がり、その中央で何かが……恐ろしく巨大な何かが胎動した。

「虹の引力を発動するためには、場と墓地に合計7種類の宝玉獣が存在することが必要となる」
「やっぱり、それでアドバンス・ダークを……!」
「そういうことさ。虹の引力に導かれ、デッキより出でよ!究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン!」

 虹が砕け散り、巨大な竜が宵闇の空に舞う。黒みがかった灰色の体にはそのラインに沿うように7つの宝玉が埋め込まれ、そこから放たれるそれぞれ違った色の光がくすんだ全身と漆黒の翼をほのかに照らしている。これが究極宝玉神、か。まさか本物より先に闇堕ち状態の姿を見ることになるとは思わなかったけれど、そんな姿でさえ本来この竜が持っていたのであろう高貴な美しさ、神々しさは少しも損なわれていない。

 究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン 攻4000

「攻撃力4000……」
「まだ今はバトルフェイズ、よってこのレインボー・ダークはさらなる追撃が可能!グレイドル・イーグルに攻撃、レインボー・リフレクション!」
「……何を企んでるかは知らないけど、イーグルっ!頼むよ!」

 黒き虹の竜の宝玉がひときわ光を放ち、一度後ろにのけぞったレインボー・ダークが口から破壊の閃光を撃ちだす。黄色の猛禽は自分の力を遥かに勝るその一撃から逃げもせず真っ向から立ち向かい、闇の中に呑まれてその偽りの姿が溶けていった。

「うっ……ぐっ……!」

 究極宝玉神レインボー・ダーク・ドラゴン 攻4000→グレイドル・イーグル 攻1500(破壊)
 清明 LP3400→900

 エクゾディアの炎に勝るとも劣らないほどのダメージをもろに食らい、一瞬意識が飛びかけるのを辛うじて繋ぎとめる。確かに痛いが、でもこれでイーグルの特殊能力を発動できる。戦闘で破壊されたことでグレイドルの原型である銀色の水たまりになったイーグルが、レインボー・ダーク・ドラゴンに憑依を……。

「いじましい努力だが、やはり死人に口なしさ。アドバンスド・ダークのさらなる効果発動!究極宝玉神がバトルする際、相手モンスターの効果はバトルフェイズ中無効となる!」
「効果無効……?」

 その言葉通りに銀色の水たまりを維持していた生命力が失われ、みるみるうちにぐずぐずに崩れて地面の染みとなって消えていってしまう。死人に口なしとは、随分と言ってくれるものだ。

「魔法カード、レア・ヴァリューを発動。君がボクの場の宝玉から1つを選んで墓地に送る代わりに、カードを2枚ドローする。さあ、どれがいいか選んでもらって構わないよ」
「どれにしたって大して変わらないだろうに……エメラルド・タートルを選ばせてもらうよ」
「いいだろう、2枚ドローだ。これでターンエンド」

 清明 LP900 手札:3
モンスター:グレイドル・スライムJr.(守)
      シャークラーケン(攻)
魔法・罠:なし
 ユベル LP4000 手札:2
モンスター:究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン(攻)
魔法・罠:宝玉獣 ルビー・カーバンクル
     宝玉獣 アメジスト・キャット
     1(伏せ)
場:アドバンスド・ダーク

 思わぬ追撃により、ほぼ初期値だったはずのライフが1ターンでわずか3ケタにまで削られてしまった。だけど……そんな思考は、突然聞こえてきた声に中断せざるを得なくなった。

「清明!ユベル!」
「「十代!」」

 ユベル城に突然現れたのは、十代とクロノス先生、それに翔。ヘルカイザーの姿が見えないことに対する不安が胸をよぎったが、今はよりにもよってユベルと台詞がハモったことの方が気に喰わない。でも、向こうも向こうで同じことを思ったのかすっごい不愉快そうな顔になるのが見えたから良しとしよう。十代に会えた嬉しさからか、先に苛立ちを抑え込んだユベルがにっこりと笑う。

「ああ、やっと来てくれたんだね、十代……!」
「ユベル!これ以上俺の仲間に手を出すな!」

 その声の調子を聞いて、なんだか肩の荷が一気に下りたような気がした。ヘルカイザーが十代にどんな荒療治をしたのかはわからないが、どうやらよほどうまくやってくれたらしい。ここまで力のこもった十代の声は、随分久しぶりに聞く気がする。これならもう、僕が気を揉む必要はなさそうだ。

「もういい、清明。ユベルの相手はこの俺が……」
「まあ待ちなよ、十代。悪いけど今は僕とユベルのデュエル中なんだ、順番待ちなら後ろで並んでなって」

 ……ただし、心配をやめるのとデュエルの中断は全く別の話だ。意外な答えに言葉を失うギャラリーに、ちょっと振り返って笑いかける。呆然とした顔でこちらを見ている十代と目が合うと、なんだか無性におかしくなった。
 だがあいにく、肝心の対戦相手の方はそんなこと欠片も思ってくれていなかったらしい。

「……何のつもりだい?十代が来たのなら、もう君なんかに用はない。特別に今ならとどめは刺さないで置いてあげるから、早くサレンダーするといい」

 この闇のデュエルが日常の世界であのユベルにここまで言わせるとは、一体どれだけ十代との勝負を心待ちにしてきたのだろう。僕から見ても破格の条件での譲歩ではあるが、それでもここは譲れない。キッパリと首を横に振ってみせた。

「そうしたいのは山々だけど、そうも言ってられない理由が2つばかりあってね。まず最初に、僕がここにいるのは僕の意思だけじゃないってこと。ここまで僕を生かし続けて、背中を押してくれた人や精霊たち。辺境の大賢者、ケルト、オブライエン、ジム、三沢とタニヤ、エドにヘルカイザー、グラファ……それに、ウラヌス。どう?パッと思いつくだけでもこれだけいるんだ。名前も知らない、でも僕のために祈ってくれてる人達も合わせると、それはそれはすごい数になるだろうね。そして、その皆が平和を望んでいたし願っている」
「それがどうしたのさ。このボクにお説教かい?」
「まさか。アモンにも言ったけど、説教なんて柄じゃないもんね。でも言ったでしょう、理由は2つって」

 ここでユベルの方を正面切って向き、なるべくふてぶてしく見えるように笑ってやる。これまで散々僕らの生活を引っ掻き回してくれた礼だ、これぐらいの嫌がらせは僕にも許されるだろう。

「……もう1つってのはね、ユベル。お前が嫌がることをしたりその望みとは真反対に動いてやることが、割と楽しくてしょうがないのさ。だからそう願えば願うほど、絶対十代には替わってやらないって気持ちが湧いてくるね。さあユベル、今の相手はこの僕さ。まだまだ勝負は始まったばっかりなんだ、楽しいデュエルと洒落込もう!」

 ユベル、煽るのは割と得意でも煽り耐性は低めらしい。苛立ち、怒り、不愉快……そういった負の感情を隠そうとすらせず、それがまたこちらの気分を良くさせる。うーむ、歪んでるなあ。きっとユーノの魂のせいだ。全部そういうことにしておこう。
 十代達から見てもしばらくまともに会わないうちに僕はだいぶ変わっていたらしく、止める事すらせず呆然と見守るのみ。

「僕のターン、ドロー!さあ、ここからは反撃と洒落込ませてもらおうか!」

 ギャラリーのおかげで少し調子が出てきたのか、何をするのが最も効果的なのかが見えてきた。せっかく大掛かりな準備に専用サポートまで使って出てきてもらったところ悪いけど、あのドラゴンにはさくっと退場してもらおう。だって攻撃力4000だもん、馬鹿正直に上から殴りつけられるのなんて霧の王位しか僕のデッキにはいない。
 素直に立ち向かって勝てないなら……他の方法でどかせるしかないじゃない?

「レインボー・ダーク・ドラゴンをリリースしてユベル、お前のフィールドに海亀壊獣ガメシエルを攻撃表示で特殊召喚。さらに相手フィールドの壊獣に反応して、僕は手札から壊星壊獣ジズキエルを同じく攻撃表示で特殊召喚!」
「レインボー・ダークを……随分無粋な真似をしてくれるじゃないか……!」
「相手モンスターをリリース!?」

 本気でこめかみをぴくぴくさせて怒るユベルに対し、壊獣モンスターに唖然とする十代達。ああ、そういえば十代には見せたことなかったっけか。僕が2回戦ったのは、あくまで覇王であって十代じゃない。全くその時の記憶がないわけではないんだろうけど、じゃあ全部覚えているかといえばまたそれも違うのだろう。侵攻中の記憶や返り討ちにした戦士たちの断末魔とかの、強く印象に残ったことなら思い出せるとかそんな感じなんだろうか。

 海亀壊獣ガメシエル 攻2200
 壊星壊獣ジズキエル 攻3300

「おっと、まだ終わらないよ。さらに僕は、シャークラーケンとJr.の2体をリリースする!七つの海の力を纏い、穢れた大地を突き抜けろ……アドバンス召喚!出でよ、僕の神!地縛神 Chacu(チャク) Challhua(チャルア)!」

 ユベル城を背後に対峙する2体の壊獣。その戦場に、その2体に勝るとも劣らない巨大な体躯を持つ漆黒と紫のシャチがさらに参戦した。地縛神を維持するためにはフィールド魔法が必要となるが、ありがたいことにまさにそのフィールド魔法をユベルが張ってくれている。アドバンスド・ダークにより闇に覆われた大地を憑代に、地縛神はこの世界でその力を解放できる。

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900

「……なるほどね。追い込まれた割に随分自信たっぷりだと思っていたけど、そんな奥の手を残していたのか」

 今更気づいても、もう遅い。そう、これこそが僕の、一発逆転を可能とする必殺の布陣。ジズキエルでガメシエルを攻撃すれば1100ポイントの戦闘ダメージがユベルに入り、さらに攻撃力2900のチャクチャルさんがダイレクトアタックを仕掛ける。その合計戦闘ダメージは、きっかり4000……わずか1ターン、手札3枚で完成する逆転のワンターンキルだ。
 あとは、この2回の攻撃さえ通ってくれればいい。何もしてくるな、これで全て終わらせろ。ありったけの祈りを込めて下した号令に、まずは機械の獣が咆哮を上げる。

「バトルだ、ジズキエル!ガメシエルに攻撃!」
「ぐっ……!」

 壊星壊獣ジズキエル 攻3300→海亀壊獣ガメシエル 攻2200(破壊)
 ユベル LP4000→2900

「これで終わりだ!行っちゃって、チャクチャルさん!ミッドナイト・フラッド!」

 大気を震わせ、巨大なシャチが口から放つパルスがユベルへと迫る。それが激突する寸前、ユベルがおもむろに自分のデッキに手を掛けたかと思うと上から数枚をわしづかみにし、それを何のためらいもなく目の前に投げ捨てるようにしてばらまいた。

「何を!?」

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900→ユベル(直接攻撃)

 空中に飛び散ったカードが半球状の力場を作り、半透明の壁が地縛神の一撃を阻む。その様子にはっと息を呑んだのは、意外にもこれまでじっと勝負を見ていた翔だった。

「あの動き……まさか、お兄さんの!」
「知っているノーネ、シニョール翔!?」
「あのユベルの伏せていたカード、あれは、まさか……」

 その驚きようを見て、今初めて翔の存在に気が付いたと言わんばかりにユベルが笑う。先ほどの悔しがりもどこへやら、今の防御がすっかり元の余裕と皮肉めいた態度を取り戻させてしまったらしい。

「おや、ヘルカイザーの弟君じゃないか。そうとも、君の予想通りだよ。ヘルカイザーのカード、さっきの記念に1枚貰っておいたのさ。トラップ発動、パワー・ウォール……ダイレクトアタックにより受けるダメージを、デッキのカード1枚につき500ポイント軽減させる。6枚のカードを捨てさえすれば、今の攻撃もダメージは0だ」
「ヘルカイザーが……!?」

 それで、ようやく分かった。いや、これまでなるべく考えないようにしていた事実を突き付けられた、というべきか。なぜ、ヘルカイザーがここに来ていないのか。ユベルはあの時、アモンから離れてどこに行っていたのか。ヘルカイザーを相手に戦っていたのだとすれば、ちょうど僕とアモンのデュエルが終わったぐらいのタイミングで奴が戻ってきたことにもつじつまは合う。
 そうか、ヘルカイザーが倒されたのか。後で相手してくれるって、約束したのにな。
 ……嘘つき。
 いや、悲しむのは後でもできるし、少なくとも今はその時ではない。感傷を一時的に切り捨て、代わりに皮肉を叩きつける。

「……覇王も覇王で手癖悪かったけど、あれもお前譲りだったわけね。悪いね、チャクチャルさん。伏せカードが読めなくて」
『いやいや、気にすることはない。あれで十分仕込みはできた』
「仕込み?」

 なんか、またよからぬことでも企んでたんだろうかこの神様は。返事代わりにくすくすと上機嫌そうに低く笑い、ユベルに注意を向けるように促す。

『ほらマスター、今から面白い物が見えそうだぞ』
「え?」

 つられるままにユベルに視線を戻すが、特にさっきまでと変わったところは見られない。何が起きたのか、と改めて問いただそうとしたところで、異変が起きた。

「うっ……?」

 ユベルが突然胸を抑え、苦しそうによたよたと数歩前に出る。少しの間何かを堪えるように立っていたが、やがてその体がゆっくりと地面に倒れた。

「え、ちょ、何したのほんとに!?」
『まあ見ていてくれ。すぐに化けの皮が剥がれるはずだ』

 いくら意識がユベルの物でも本来あの体は僕らの友人、ヨハンのものだ。それがここまでおかしな様子を見せられるとさすがに心配になってくるが、有無を言わさぬ調子に押し止められてただ見ていることしかできない。僕、十代、クロノス先生、翔。4人が遠巻きに見守る中で、気絶しているヨハンの体からオレンジ色の人型が幽体離脱さながらにふわりと浮き出た。何度も見てきたあの姿、僕が見間違えるはずがない。

「ユベル!」
『よしよし、うまくいったようだな。さあマスター、もう遠慮することはない。次からは勝ちに行くぞ』
「ありがとう、チャクチャルさん。さあユベル、僕はカードをセットする。これでターンエンドだ!」
「やって……くれたね……!」

 満足げなチャクチャルさんとは対照的に、これまでで一番憎々しげな怨嗟の声が人型の口から聞こえてくる。思わず身震いしたくなるのを堪えてまっすぐ見返してやると、これまでデュエルエナジーの塊だった人型がさらに変化する。めきめきと音を立てて一対の翼が生え、左腕の肉と骨が飛び出てぎこちなく変形し、腕に直接デュエルディスクを生やしたような形になる。頭が、手が、足が、そして全身が新たに実体化した悪魔の姿を構築し、やがて完成した肉体がその二色に輝く眼をゆっくりと見開いた。

「これが、ユベル……」

 そこにいた存在を、なんと形容すればいいのだろうか。まさに悪魔、と呼ぶには少し人間に近く、かといって絶対に人間であるとは言いようがない異形の存在。どちらの特徴も持つがゆえに、そのどちらにもなりきることのできない人型。
 そうか、こいつが。これが、ユベルか。

「ボクに1つ、たった1つだけ誤算があったとすれば、それは君のことだと今になって思うよ。コブラが拠点にしていたあの廃寮で。最初に君たちを送った砂漠の世界で。始末する機会はいくらでもあったはずなのに、毎回君は生き延びてきた。その結果がこれさ……まさかボクの真の姿を、十代以外に晒さなければならなくなるとはね。とんだ屈辱だよ」

 苛立ちや怒りが極限を通り越して1周したのか、ユベルの声は思いのほか淡々としていた。だからこそ、これまで以上に油断できない。真の姿まで引きずりだした以上、もう遊びや不要な挑発を入れるつもりは全くないだろう。本気で、この僕を殺しにくる。でも、僕にだって負けられない理由がある。

「僕のターン。メインフェイズ開始時に魔法カード、貪欲で無欲な壺を発動。このターンのバトルフェイズを放棄し、さらに墓地から種族の異なるモンスター3体をデッキに戻すことでカードを2枚ドローする。ボクが選ぶのは獣族のトパーズ・タイガー、水族のエメラルド・タートル、ドラゴン族のレインボー・ダーク・ドラゴンだ」

 制約こそ多いものの強力なドローソース、貪欲で無欲な壺。バトルフェイズを放棄してきたということは、このターンはまだ仕掛けてこないのだろうか。ただ今引いたあの2枚のカード、なんとなく嫌な予感がする。
 その予感は、案の定すぐ現実のものとなった。

「魔法カード、宝玉の恵みを発動。墓地のA宝玉獣2体、アンバー・マンモスとサファイア・ペガサスを宝玉化させて魔法・罠ゾーンに置く」

 先ほどの自爆特攻のせいで、すでにユベルの場には宝玉が2つ。さらに2つを追加することで、場には4つの宝玉が闇に包まれている。その4つがそれぞれの色の光を放つと、フィールドの全てが4色の光に包まれた。

「魔法カード、宝玉の氾濫を発動!ボクの場に存在する4種類の宝玉を墓地に送り、フィールドのカード全てを墓地に送る!」
『これは……しくじったな。すまない、マスター。少し離脱する』
「チャクチャルさんは悪くないよ。それより、そんな効果のカードが宝玉獣に……!」

 いくらヨハンが除去カードを使わないからと言って、それは宝玉獣のサポートに除去カードが1枚も存在しない理由にはならない。そんなことも考えつけなかった自分の馬鹿さ加減に自己嫌悪を抱きながらとっさに上を見上げると、ジズキエルとチャクチャルさんと目が合った。無理だ、いくらレベル10を誇る大型モンスター2体でも、フィールド全てのカードを墓地に送る、なんて除去に耐えきれるわけがない。アドバンス・ダークの闇もろともフィールドが光に塗り潰されて上書きされ、再び周りが見えるようになった時には僕の場は空っぽに、そしてユベルの場には3体の宝玉獣がうずくまっていた。

「この効果で墓地に送った相手のカードの枚数まで、僕は墓地から宝玉獣を蘇生させることができる。君の場に存在したカードは3枚、よってこの3体を蘇生する」

 宝玉獣 アメジスト・キャット 守400
 宝玉獣 アンバー・マンモス 守1600
 宝玉獣 コバルト・イーグル 守800

 アドバンスド・ダークが存在しなくなったことで、3体の宝玉獣もまた解き放たれたはずだ……だが貪欲で無欲な壺のデメリットを意識してか守備表示での展開であり、彼らも闇の力から急に解放された影響か、自らの使い手であるヨハン同様気を失ったままで動き出す気配すら見られない。

「さらに魔法カード、浅すぎた墓穴を発動。互いに墓地からモンスターを1体ずつ選択し、裏側守備表示で特殊召喚する」

 僕が蘇生召喚させるのは、グレイドル・イーグル。チャクチャルさんを呼び戻したいのは山々だけど、アドバンスド・ダークまで消えてしまった以上この地に地縛神は留まれない。ならステータスが単純に高いジズキエルや守備力3000のガメシエルもいいけれど、ここで選ぶべきカードはやはりコブラだろう。ユベルは何を蘇生させたのか……宝玉獣のどれかだろうと言いたいところだが、気になるのはあのパワー・ウォール……捨てられた6枚のカードの内容を、僕は知らない。

「ターンエンド。十代、しばらくそこで待っていてくれ。どうやら彼は、どうしてもここで死にたいらしいからね」
「やめろ、ユベル!清明も……!」

 何か言いかけたのを手で制し、それよりもヨハンの体を、と合図する。我に返ったクロノス先生が慌てて走り出し、いまだ倒れたままのヨハンを抱え上げて十代のところに戻っていった。
 よくわかってるじゃん、ユベル。ただし消えるのは、僕じゃない。

 清明 LP900 手札:0
モンスター:???(セット)
魔法・罠:なし
 ユベル LP2900 手札:1
モンスター:宝玉獣 アメジスト・キャット(守)
      宝玉獣 アンバー・マンモス(守)
      宝玉獣 コバルト・イーグル(守)
      ???(セット)
魔法・罠:なし

「お前だ、ユベル。僕のターン、ドロー!」

 僕のライフはわずか900……これは、アメジスト・キャットが効果を使ってダイレクトアタックすればたったの2回、何らかの方法で強化されれば一撃で吹き飛ぶ事も十分ありうる程度の数字でしかない。じゃあ真っ先にそれを……と言いたいところだが、そうなると厄介なのがあのアンバー・マンモス。あのカードがいる限り、僕からの攻撃は他の宝玉獣に届かない。
 とでも、思っているんだろうか。だとすれば、随分と僕も舐められたものだ。

「墓地からトラップ、ブレイクスルー・スキルの効果発動。このカードを除外することで、このターンアンバー・マンモスの効果を無効にする。これで、他の宝玉獣にも攻撃が通る!行くよ、ツーヘッド・シャーク!」

 ここで引いたのは、昔から僕が切り込み役として信頼している2つの口を持つ青い鮫。相手フィールドに守備力の低いモンスターが大勢いるなら、まさにこのカードの出番として相応しい。

 ツーヘッド・シャーク 攻1200

「悪く思わないでよ……バトルだ、ツーヘッドでアメジスト・キャットに攻撃!」

 ツーヘッド・シャーク 攻1200→宝玉獣 アメジスト・キャット 守600(破壊)

「宝玉化能力は使わない。アメジスト・キャットを墓地に送る」
「そして……」

 ここで少し言いよどむ。2回攻撃が可能なツーヘッド・シャークは、まだもう1度だけ攻撃が許されている。この2回目の攻撃、どこを狙うべきだろうか。アンバー・マンモスはあの守備力を抜けないから論外として、コバルト・イーグルなら確実に戦闘破壊できる。でも、あの伏せモンスター……どうにも怪しい。返しのユベルのターンでツーヘッドがアンバー・マンモスに倒されて500ダメージを受けるのはほぼ確定している。だからライフを少しでも温存しておこうとイーグルは守備表示のままにしておいたけど、これは少し判断ミスだったかもしれない。

「ええい、ままよ!そのセットモンスターに攻撃!」

 猛然と突っ込んでいった鮫の牙が、セットモンスターに深々と食い込み噛み千切る。岩石のかけらが大量に飛び散り、何に攻撃をしたのかようやく分かった。

 ツーヘッド・シャーク 攻1200→??? 守600(破壊)

「あのカード……そういうことか」
「メタモルポットのリバース効果発動。たがいに手札をすべて捨て、カードを5枚ドローする。せっかく姿が変わったんだ、仕切り直しと行こうじゃないか」

 ユベルに5枚ドローさせるのは危険だけど、あながち悪いことばかりでもない。というより、むしろ伏せモンスターに攻撃したのは結果的に大正解だったと言えるだろう。なにせ今はこちらのターン、ここで5枚も手札を増やせるのは純粋にありがたい。今の盤面だと正直ジリ貧だったので、ここで何らかの防御札を引ければ後々楽になる。

「カードを伏せて、ターンエンド」

 さあ、攻撃して来い。僕が今伏せたカードはグレイドル・スプリット。アンバー・マンモスがツーヘッドに攻撃してきたら、そのままこれで相打ちの返り討ちだ。
 だがまるで、そんな考えを読んでいると言わんばかりにユベルが冷笑する。読んでいる?いや、まさか。偶然だ、偶然。きっとユベルも何か、それなりのカードを引いただけだろう。

「ボクのターン。ふふ、ボクを本気で怒らせたお礼に見せてあげるよ。アンバー・マンモスとコバルト・イーグルの2体をリリースして、アドバンス召喚!これこそが僕自身……ユベル!」

 そこに現れたのは、もう1体のユベル。悪魔の翼に黒と灰色の体、女性的な顔立ちに不気味なオッドアイ、そして額に開いた第3の目。間違いない、目の前のユベルそのものだ。
 だけど目を疑ったのは、そこに示されたある数値だ。

 ユベル 攻0

「攻撃力0……?攻撃すれば、ダメージが通る状況だったのに……」
「おいおい、君がモンスターの攻撃力だけしか見ていないのはどうなんだい?あれだけ厭らしいカードを喜んで使う人間の言葉とも思えないな。魔法発動、ジェノサイド・ウォー!」

 ジェノサイド・ウォー。効果はまさに単純明快、このターンにバトルを行うモンスターを敵味方問わずすべて破壊するカードだ。でも、それをわざわざアドバンス召喚、それも自分自身を出してから発動した?確かにジェノサイド・ウォーにはメインフェイズ1にしか使用できない制約があるが、それにしたってこのターン使う意味がどこにある?

「何を……」
「愚問だね、もちろんこうするのさ。ボク自身でそのセットモンスターに攻撃、ナイトメア・ペイン!そしてボクは、自身の戦闘により発生するダメージを0にできる」

 セットされたままのグレイドル・イーグルにユベルが手を伸ばすと、その目が赤く光る。するとまるで操られているような動きでイーグルが自分から表側になり、ユベルめがけて突っ込んでいった。

「イーグル!?」

 ユベル 攻0→???(グレイドル・イーグル) 守500

 無理やり突撃を強制されたイーグルが、意識をはっきりさせるためか首を振りつつこちらのフィールドに戻ってくる。なるほど、少しわかってきた。魔法カードによる破壊なら、イーグルは寄生効果を発動できない。それが狙い……いやでも、まだわからない。戦闘を行ったことでユベルの破壊も確定したというのに、なぜ笑っていられるのだろう。

「エンドステップ、ジェノサイド・ウォーの効果が発動する。君のグレイドル・イーグルと、ボク自身にこの痛みが降りかかるのさ」

 もしかしたら、とも思ったが、特に効果破壊耐性を持つわけでもないらしい。溶け崩れて消えていくイーグルと共に、ユベルがあっさりと自壊していった。
 だがその時、フィールドをアドバンスド・ダークよりもさらに濃い闇が包んだ。ますます暗くなっていく闇から、何かおぞましい存在がこちらを見下ろした。

「これは……!」

 『それ』を一言で表すならば、2足歩行する双頭の竜といったところだろうか。ユベルと同じ濃い紫色の被膜の翼に、肉食恐竜のそれを思わせる強靭な脚。全身は毛皮と筋肉に覆われ、太い尾が背後にちらちらと見える。
 だが、僕がそれを見て寒気がしたのは、そんなよくある身体的特徴からではない。『それ』には眼がある……当然竜の頭部にもそれぞれ2つずつ付いてはいるが、あれが本当に見えているのかは疑わしい。なぜならば、体の中央少し上、首の付け根。そこに、赤く光る巨大な一つ目が鎮座している。自身の巨大な手の中にすら納まるか疑わしいほど巨大なその目が生きている証拠にピクリと下に動き、そこにいた僕を見下ろした。その時そこを通じて見えたのは、冷たく暗い知性の光……そしてそれこそが、僕の寒気の原因。あれは、間違いない。あれは……ユベルだ。

「この痛みにより、ボクはこの醜くも美しい姿に進化する。デッキより出でよ、ユベル-Das(ダス) Abscheulich(アプシェリッヒ) Ritter(リッター)!」

 ユベル-Das Abscheulich Ritter 攻0

 一体何をどうすれば、まだ辛うじて人型だったあの存在がこんなモンスターに変異するのだろう。それがわからないからこそ背筋が凍り、同時になにか恐ろしい闇の世界が垣間見えた気がした。チャクチャルさんに聞けば、何か教えてくれるかもしれない……いや、やめておこう。いくら僕でも、首を突っ込むべきでない世界があることぐらいはわきまえている。

「カードを2枚伏せる。見せてあげよう、進化したボクの力、この忌まわしき騎士の力を!ユベル-Das Abscheulich Ritterの効果発動、自分のエンドフェイズごとにフィールドに存在する自分以外すべてのモンスターを破壊する!フェロー・サクリファイス!」
「ツーヘッド!……クソッ、仲間(フェロー)?そんなもんがどこにいるって?」

 全てを破壊する暴君の力に巻き込まれ、フィールドに残っていたツーヘッド・シャークまでもが破壊される。再びリセットされて誰もいなくなったフィールドを、ユベルがその一つ目で睥睨する様が見えた。

 清明 LP900 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
 ユベル LP2900 手札:2
モンスター:ユベル-Das Abscheulich Ritter(攻) 
魔法・罠:2(伏せ)

「僕のターン!」

 結局、あのユベルが持つ効果の全貌はまだ不明のままだ。あれだけ大掛かりに攻撃力0のモンスターを出しておいて、まさか肝心の効果が全体破壊のみなんてことはないだろう。最低限、戦闘ダメージを0にする効果ぐらいは受け継いでいるはずだ。
 なら、次は戦闘破壊ができるかどうか試してみようじゃないか。

「シャクトパスを召喚!そのまま攻げ……!」

 き、と言い切る寸前、これまで感じたこともないほど嫌な予感がして言葉が詰まった。攻撃しようとしていたシャクトパスも、突然固まった僕を気遣うように伸ばそうとしていたタコ足をひっこめる。
 その瞬間僕の脳裏をかすめたのは、あのウラヌスの死。自分の攻撃を自分で受けたような不自然な傷痕。そして次に、砂漠の異世界でラビエルから聞いた言葉がリフレインする。

『奴は確かに強い、だが同時に、奴は誰よりも弱い。奴の最大の強みはその弱さにこそあり、それゆえもし私が奴と会いまみえることがあれば、奴に対し私は特に敗北するだろう』

 あの時のラビエル渾身のポエム、そしてウラヌスの傷。攻撃力0であるにもかかわらず戦闘ダメージを0にする、噛み合ってはいるがまるで戦闘することを前提としているかのようなユベルの効果。そうか、そういうことだったのか。どうしてあんなに時間はあったのに、今までわからなかったんだろう。

「……やっとわかったよ、ユベル。お前がなんなのか」
「へえ?じゃあ、その推理を聞かせてもらおうか」
「ユベル、お前の能力は反射。戦闘ダメージだけを跳ね返すのか、攻撃そのものを跳ね返すのかまではわからないけど、とにかく攻撃を仕掛けた瞬間僕にその痛みが降りかかる。それも自分から攻撃した場合には発動しないけど、相手に攻撃された時なら使うことのできる、ね。違う?」
「……いつ気づいた?」

 にやにや笑いをひっこめ、スッと真面目な表情になって問いかけるユベル。あの反応から言って、やっぱりそういうことなんだろう。

「むしろ今まで気が付かなかった僕が馬鹿だったんだけどね。でも不用意にウラヌスの攻撃を、よりにもよって僕の目の前で反射して見せたのはまずかったね。あの時ウラヌスは命を賭して、僕に最大限のヒントを与えてくれたんだ」
「あの時か。君が絡むとどうも判断ミスが多くなるな。だが、今更それに気づいたところでなんになる?」

 忌々しげに吐き捨てるが、確かにその言葉は間違っていない。だけど、このカードを使えば話は別だ。謝罪の意味を込めてシャクトパスをちらりと見ると、覚悟を込めた目でコクリと頷き返してくれた。ごめん、シャクトパス。

「バトルが無理なら、こうするまでさ!魔法カード、妨げられた壊獣の眠りを発動!フィールドのモンスター全てを破壊し、互いの場に壊獣を1体ずつリクルートする!」
「破壊効果か……ならばトラップ発動、安全地帯!この効果によりボクは相手の効果の対象にならず、さらに相手の効果と戦闘によっては破壊されない!」
「くっ……でも、シャクトパスが破壊されたことでリクルート効果はこのまま発動する!出て来い、粘糸壊獣クモグス!雷撃壊獣サンダー・ザ・キング!」

 まさか、こんなところで完全にミスだと思っていたシャクトパスの召喚が生きてくるとは思わなかった。なにも破壊できなければそれで終わりだが、1体でもモンスターの破壊ができさえすれば、妨げられた壊獣の眠りでデッキの壊獣を呼び起こすことができる。

 粘糸壊獣クモグス 攻2400
 雷撃壊獣サンダー・ザ・キング 攻3300

「生き残るのは勝手だけど、それなら無視しておけばいいもんね。バトルだ、サンダー・ザ・キング!クモグスに攻撃しろ!」

 サンダー・ザ・キングの3つの頭にそれぞれ光が集まり、3本のブレスが螺旋状に絡み合いながら打ち込まれる。だがその瞬間、フィールドに風が吹くのを感じた。それだけなら別になんてこともないが、風の勢いはあれよあれよという間に強くなっていき、立っているのもやっとというぐらいの暴風となってフィールドを駆け廻る。

「これは!?」
「トラップ発動、邪神の大災害。相手モンスターの攻撃宣言時、場の魔法、罠をすべて破壊する。君のその伏せカードも、ボクの安全地帯もね」
「安全地帯も!?そんなことをしたら……!」

 安全地帯は強固な体制をモンスターに与えるが、その反面自身が場を離れた時に対象モンスターも道連れにする欠点を持つ。それをわかってて僕の伏せカード1枚を除去しにくるとは考えにくい……だがいずれにせよ、こちらの攻撃はもう止まらない。大蜘蛛は雷撃を浴びて爆発四散、その余波がユベルを襲う。

 雷撃壊獣サンダー・ザ・キング 攻3300→粘糸壊獣クモグス 攻2400(破壊)
 ユベル LP2900→2000

「……」

 ダメージは通った。ユベルも、半ば自滅に近い形で破壊された。さあ、次はなんだ、何が来る。

「本当に、大したものだよ。ボクを本気で怒らせただけでなく、ここまでボクに本気を出させるとはね」

 闇の向こうから聞こえてくるユベルの声は、やはり余裕たっぷりで。やがて見えてきたその『ユベル』は、さらに禍々しさを増していた。
 基本的な姿形は第二段階がベースだが、そこに込められた力は先ほどの日ではない。翼の数はさらに増え、首の付け根からは竜の頭に加えもう1つ、山羊のような角を持った悪魔の首が生えた。両膝には無作為に辺りをねめ回す捕食者の瞳が開き、次なる犠牲者を探すかのように光っている。
 だがそれより何より目を引くのは、胸の位置にできた顔……そう、顔だ。馬鹿馬鹿しいほど巨大な3つの目に、その下の鼻。口からはご丁寧に牙まで覗いているとパーツひとつひとつは人間離れしているものの、でもあれは最初のユベルと同じ。正真正銘、人間の顔だ。

「いいだろう、もうボクも出し惜しみはなしだ。これが僕の、終焉にして究極の姿。第二段階の僕がフィールドを離れることでのみ特殊召喚できる、もうひとつのユベル……ユベル-Das(ダス) Extremer(エクストレーム) Traurig(トラウリヒ) Drachen(ドラッヘ)!」

 ユベル-Das Extremer Traurig Drachen 攻0

「ターン……エンド」

 手札、場、墓地。駄目だ、これ以上はどこを見ても、何も打っておける手がない。このユベルもこれまでと同じく、攻撃された時にしか反射できないモンスターなら……そんな淡い考えが浮かぶも、すぐに頭を振ってそれを打ち消した。きっと無理だろう、このユベルはこれまでとは格が違う。
 それを裏付けるように、全ての力を解放しきったユベルが体中の目見開いて睨みつける。すると先ほどのイーグルよろしく、サンダー・ザ・キングの体が操られるように動きだした。全身に力を込めてもがきながらのの抵抗もむなしく、振り上げられた3つの首に雷の力が溜まってゆく。

「深き悲哀の竜よ、サンダー・ザ・キングに攻撃しろ。この瞬間モンスター効果によりボクへの戦闘ダメージは0となり、さらにバトルによってボクは破壊されない」

 わずかな沈黙の後、3本のブレスが強制的に放たれた。しかしそのどれもが敵を捕らえることができずにユベルの前で霧散し、代わりにユベルの双頭の竜が同時に火を放つ。そのうち1本がサンダー・ザ・キングの体を焼き尽くし、もう1本は僕めがけてまっすぐに飛んできた。逃げ……られ、ない、か。

「そしてこのダメージステップ終了時、ボクの効果が発動する。戦闘を行ったモンスターの攻撃力分のダメージを君に与え、そのモンスターを破壊する効果がね」

 ユベル-Das Extremer Traurig Drachen 攻0
→雷撃壊獣サンダー・ザ・キング 攻3300
 清明 LP900→0





 膝の力が抜けて立っていられなくなり、その場に倒れる。不思議と、怖いとは思わなかった。この世界であれだけの相手を消滅させてきたのに、今更自分が消えるからといってそれを拒否するのはいくらなんでも虫がよすぎるというものだ。そもそも僕は本当なら、もう3年も前に死んでいるはずの身。それがあれだけ全力で戦って、その上で負けたんだ。負けたという結果自体に不満はあれどデュエルそのものに悔いはないし、そのリスクも受け入れたうえで戦っていた。
 それにここで僕が倒れても、まだ大本命の十代が残っている。きっと十代なら何とかしてくれるだろう、そんな甘えもあったかもしれない。遠くでその十代が何か叫んだ気がするけど、何を言ったのかはよく聞こえない。それでも消滅の影響で早くもぼやけかかってきた視界に、彼が走り寄ってくるのは見えた。

「清明!」
「よっ。悪いね十代、まーたヘマこいたよ」
「何言ってるんだ、馬鹿野郎!」

 あらら。あまり深刻になってまた面倒なことになられても困るからできるだけ軽く退場しようと思ったのに、どうやら逆効果だったらしい。重くなっていく体をどうにか動かして、肩をすくめて笑ってみせた。十代の肩に手を置き、その目を正面からまっすぐに見る。

「やっぱりヒーローの真似事は、僕には少し荷が重かったのさ。駄目だねー、やっぱり……でもまあ、できるだけのことはやっておいたさ。後は本職に任せるから、絶対生き残ってよ。親友」

 まだ何か、最後にユベルに捨て台詞のひとつでも言ってやろうかとも思ったけど、残念ながらそれ以上は口が動かなかった。
 あれだけやりたい放題に暴れまわった割には、意外なほどあっけなく。こうして僕の存在は、この精霊世界から消え去った。 
 

 
後書き
クライマックスだからといって、常に勝つとは限らない。というかメタ的にもここは勝っちゃまずいところだし。個人的にリスペクトしている、とある方のGX二次だとうまいことストーリー組んだ結果主人公がアモンとは戦ったうえでユベル戦をきれいに避けてましたが、そんなスマートな真似うちの清明にはできませんでした。
でも本当はもうちょい接戦にするはずだったのに、書き終わってから見直してみるといい勝負なのはヨハンの体使ってる時までで、ユベルが本気出した瞬間ひたすらぼっこぼこにされてるだけのような……?まあこれも、この男らしいといえばらしいですが。

それと次回はお休みですので、ご了承ください。 
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