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Unoffici@l Glory

作者:迅ーJINー
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1st season
  1st night

 
前書き
暖め続けていた設定が、数多くの有志によって今!幕を開ける! 

 
 その車は、まるで乗る者の命を吸って速くなるかのごとく、伝説となっていった。フロントライトが見えたときには、すでにテールランプが視界から消えそうだったと、当時の関係者は語る。

「あんなの乗る奴、頭イカれてるよ」
「死ぬのが怖くないのか、恐怖も吹っ飛ぶ世界なのか、少なくとも、俺達には考えられないね」

 しかしその伝説は、1999年、とある都市にて終わりを告げたはずだった。当時のドライバーが、今度こそ再起不能だといわれるほどの大クラッシュを起こしたのだ。車体は炎上し、エンジンは焼け付き、提供できるパーツは全くないと、当時事故にかかわった関係者は語っていたと、書籍には記されていた。

 そう、これが現代に伝わる都市伝説の一つ「Dの遺産」と呼ばれるもの。実在こそしていたし、多くの関係者の記憶にも、様々な記録にも残されているが、その事故以来、ピッタリと姿を消していたのだ。



 ある日の昼下がり。ちっぽけな中古車ショップに「妙な車」が運び込まれる、あの日までは。

「……それで、この子をウチで引き取ってくれ、そう仰るんですか」
「ええ、そうです。ああ、お代は結構。潰すも譲るも、好きになさってください」
「……『そういう車』には素人の私ですが、見ただけでもわかります。この子は……根本的に何かが違う」
「だからこそ、ここで見ていただきたいのですよ」

 そのショップの女性オーナーが、とある黒スーツの男と何やら話し込んでいる。世間話にしては、雰囲気がかなりきな臭い。

「なぜ?こういった車を欲しがるショップなら、ほかにいくらでもあるじゃないですか」
「ここなら、そういった連中が自然と集まってくるから……とでも言いましょうか。現に何人か、ここで買った『それらしい車』で結果を出してる方々がおられるでしょう?」
「……それとこれとは別問題かと思うのですが」
「まぁそうでしょうなぁ。ですが私にとってはそんなことは関係ない。ここに持ってくることが、私にとっても『この車』にとっても最善と、私が判断したからここに持ってきたまでのこと」
「……わかりました。そういわれては、断る理由はありませんね。書類をご用意致します」
「ご理解いただき感謝いたします」

 そういってスーツの男は、営業スマイルと共に頭を下げた。それを見ることもなく、オーナーは事務所へと向かっていく。

「……『Dの遺産』。私はまだ、あきらめたわけではありません。私には乗りこなせませんでしたが、いずれ必ず、この目で見届けて見せます」

 そうつぶやいた彼の表情は、不気味なほど穏やかであった。



 その事態とほぼ同時に、首都高全体がにわかに騒ぎ出した。かつて首都高の各エリアで最速を誇っていた者たちが、次々に敗れていったのだ。現在の勢力図では、横羽と湾岸線を除くとほぼすべてのエリアが入れ替わっている。
 C1と呼ばれる最もテクニカルなエリアでは、「気まぐれな旅人」と呼ばれる黒のZZTセリカが現在のトップに君臨している。しかし本人にその気はなく、普段どこで何をしているのか、いつ首都高に現れるのか、そのすべてが一切不明。ドライバーが若い女性であるということ以外に情報はない。
 現在ではC2と呼ばれ、C1から伸びたルートから湾岸線に出て、レインボーブリッジからC1に戻る辺りのエリアでは、赤のFD3SRX-7と赤のS15シルビアがコンビを組んでリーダー格を撃墜した。しかし彼らは本気で走りに来ることはめったになく、一度だけ「気まぐれな旅人」と戦った一夜は、新たな伝説として目撃者から語り継がれている。
 横浜環状線においては、雑誌や各地サーキットで結果を残してきたチューニングショップ「R4A」によって手掛けられる赤いR35 GT-Rが、他を寄せ付けない圧倒的な速さで頂点に君臨している。ドライバーは、かつて様々なボーイズレーサーのグランプリでカップを持ち帰った「若き老兵」と呼ばれる青年。しかしこれまた本人は、非公認である公道レースの結果そのものには興味がなく、ただひたすら己のドライビングと車に磨きをかけるためだけに走りこんでいる、とのこと。

 この三組のうち、誰かが「Dの遺産」を受け継いでいるのではないか、との噂がにわかに首都高を騒がせている。その噂を聞きつけ、首都高のとあるパーキングエリアに現れた青年が二人。

「……思っていたより、今夜は冷えるな……まぁ、Machineには影響はないだろうが……」

 関東各地にあるサーキットの草レースでは、表彰台の常連として名を連ねている「孤高のグレーラビット」と呼ばれるグレーのZ32。薄い青のシャツに黒のデニム、こげ茶色のショートブーツのようなものを履いている。

「わざわざこんなところまで出張るとはネェ……本当にあると思ってンの?18年前の化石がヨ」

 もう一人は「雷光の疾風」と呼ばれる黄色のRX-8使い。赤地のヒョウ柄のTシャツの上に黒いジャケット、青のデニムにワインレッドのスニーカー。

「……あの時、俺を置き去りにしたR35……奴に勝つには、『Dの遺産』しかねぇ……」
「ふぅん……ま、もしそれがハンパな伝説なら、オメーが手に入れる前に潰してやるヨ」

 そういうと、「雷光の疾風」は愛車に乗り込んでエンジンに火を入れる。

「Information……まずは情報……『D』は、俺の『R』の相棒たりえるのか……」

 そうつぶやくと、彼も愛車のエンジンを起こし、闇へと走り出した。



 同じ時間、とある郊外のファミレスに、赤いHA25S型アルトと黒のL175型ムーヴが止まった。中から降りてきたのは、三人の男性に一人の女性。中に入って席に通されると、眼鏡をかけた青年が話し出した。彼と共に乗ってきた女性のショップに、車を持ち込んだ人物だ。

「今日集まっていただいたのは、『D』についてなんです」
「『D』ね……『アレ』ってことでいいのかな?やはり実在したんだ?」
「ええ。今はお見せできませんが、データは私の手元にあります」
「へぇ……んで、あのショップの人も連れてきたってことは、そういうこと?」

 それに答えたのは、緑のシャツに黒のダメージデニムを合わせた男性。どことなくとあるバスジャック事件の映画の主人公に似ているとは彼の友人談。

「まぁ、そう思っていただいて結構です。『Dの遺産』は、今彼女のお店にあります」
「やはりか……そういうことだと思ったよ。んで、俺達をわざわざ呼んだ理由って?まさか世間話『だけ』なわけないよな?」

 もう一人の男性は、黒地に襟がヒョウ柄のポロシャツとワインレッドのダメージデニムというコーデ。香港マフィア映画に出てきそうとはこれまた彼の友人談。

「それは本題が終わったあとにでもゆっくりと。お二人には、少し頼みたいことがあるんですよ」
「へぇ……ま、聞くだけならタダだしな。話してみ?」

 青年は、置かれたグラスを一気に煽り、一息つけてから話し始めた。

「『Dの遺産』の噂が水面下に広がっているのは、お二人ももうご存知ですよね?」
「あぁ、最近うちの店でもたまに聞かれるよ。知らないとしか言えないけどね」
「ええ、もしその中で、『本物』っぽい人を見かけたら、私に教えて欲しいんです」
「……なるほどね、『ソレ』に乗れそうなドライバー、っていうわけか」
「ええ、あれは私の『夢』、圧倒的な速さに仕上がってしまったがために、並のドライバーじゃクラッシュ待ったなし。『アレ』を押さえ込めるだけの技量と経験を積んだドライバーが、もしお二人のところに現れたら、私に連絡していただきたいのです」
「なるほどね、わかった。こっちから探さなくていいのかい?」
「そこまでしていただくわけには。ただの道楽みたいなもんですし、『アレ』を乗りこなしたいなんて奴は、相当のバカか何かの執念にとりつかれてる奴でしょう。そういう奴は自然と名前が売れてくるものです」

 そう言って彼は微笑む。横に居る女性は、納得と同時に呆れかえるような表情を浮かべていた。

「じゃあ、それまで私は不良在庫を抱えなきゃいけないわけですか」
「まぁまぁ、だから最初にお金は入れておいたじゃないですか」
「出て行くまでは在庫です。全く面倒くさい……」
「すみませんね、私の自宅はガレージが狭いもので、そう何台も車置けないのですよ」

 頭を抱える女性。それを見ながら、緑のシャツの男性が問いかける。

「それはそれとして、だ。その『D』とやら、詳しく聞かせてもらえるかな?」
「わかりました。長い話になりますが、よろしいですか?」
「大丈夫だ、問題ない」

 様々な思惑が交わりながら、東京の夜は、更けていく。 
 

 
後書き
事情があり、分けました() 
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