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Muv-Luv Alternative 帝国近衛師団

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第三話

 
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心で読んでください!お願いします!

それではどうぞ! 

 




 一九八五年 春

 今年で正仁は十歳、成仁は八歳になる。

 二人とも元気な子供に育った。
 正仁は本を読むことが好きなのと同年代より丈夫な体、成仁は絵を描くのが好きなのと神童と讃えられる頭脳の持ち主となっていた。
 お互い仲がとても良くいつも二人で行動している。無論、喧嘩もするがすぐに仲直りするため、親である隆仁と愛子は心配せずに見ていられる。

 ここまでの話を聞けば元気で仲がとても良い兄弟と言うことになる。

 しかし人間誰しも欠点がある。

 まず正仁の欠点は、武家に対する敵対心と、皇帝陛下への過剰なまでの忠誠心である。
 武家に対する憎しみの感情が過剰なまでに強いのだ。
 皇帝陛下への忠誠心は、皇族とて当たり前のことだが、正仁は明らかに度が過ぎている。たった一度だけ拝謁を賜ったことがあるがその時に皇帝陛下への絶対忠誠を誓った。

 これは周りに居た大人たちの責任でもある。

 特に智忠の責任である。

 智忠はよく正仁と成仁を見に有栖川宮邸に訪れている。その際に仕事上で起きた出来事を二人に話していた。最初は嫌々ながら話していたが正仁が軍隊や兵器に興味を持ち、目を輝かせながら話を聞くので智忠は嬉しくなり、色んなことを教えた。かつ要らない愚痴まで言うようになった。
愚痴の内容はほぼ全て武家に対する不満だったので、正仁が《武家=敵》のような認識をしてしまうようになった。
これが正仁が武家…特に五摂家に対する敵対心を持つようになった理由である。


 次に成仁の欠点は、あまりない。して言うなら友達が居ないと言うことだろう。
 神童と讃えられる程の頭脳の持ち主であるが故に同年代の子供たちと全く話が合わず、学習院ではいつも一人で居ることが多い。本人は正仁がいるので気にしていないが両親がいつも心配そうにしている。
 正仁ほどではないが皇帝陛下に対する厚い忠誠心を持っている。


 さてこんな二人が今、どこに居るのかというと………






 日本帝国 京都府 帝国海軍舞鶴基地

「どうだぁ!二人とも!これが我が日本帝国海軍が世界に誇る大和型戦艦の一番艦の大和だぁぁぁあ!!!」
「かっこいい!」
「大っきい!」
「その隣にいるのが二番艦の武蔵だぁぁぁあ!!!」
「強い!」
「硬い!」

 智忠に連れられ舞鶴湾に停泊している軍艦群を見ていた。目をキラキラと輝かせながら見ていた。
 相当はしゃぎながら。

 なぜ二人が舞鶴に居るのかと言うと、二人が戦艦を見たい連れて行って欲しいと父親の隆仁に頼んだ。
しかし残念ながら隆仁は帝国陸軍軍人なので、間近で見たり船内に入るのは難しい………これでは可愛い息子たちの願いを叶えれない……そう考えた隆仁は帝国海軍軍人であり年も近い智忠に二人を連れて行いってほしい、と頼んだ。
 智忠はこれを快諾し現在に至る。

 舞鶴基地は、唯一日本海側……つまりユーラシア大陸側に面していることから朝鮮半島に近い佐世保基地同様に戦略的重要性から近年最重要拠点として整備拡大が行われており、大和・武蔵を主力とする艦隊が停泊している。また一九八一年に配備が開始された81式強襲歩行攻撃機、通称海神を多数配備し日夜訓練に励んでいた。


「やっぱり大和型は綺麗だね!本とか写真で見たことあるけど本物はもっと綺麗でカッコいい!」
「そうかそうか!そう言ってくれると連れて来た甲斐があったってもんだ!」

 嬉しそうに声を上げる正仁とそれを聞いて喜ぶ智忠、その隣で双眼鏡を覗いている成仁は口を開いた。

「兄ちゃん、大和もいいけどあっちに海神があるよ!」
「海神だって!?あのロマン溢れる全身火器だらけの人類初の水陸両用戦術機のことか?」
「そうだよ!あの姿は間違いなく海神だよ!」
「智忠おじさん、海神見てきていい?」
「おお!見ていて良いぞ!」
「「ありがとうございます!」」

 二人は智忠にお礼の言葉を述べると海神があるハンガー群へと走って行った。
 二人と入れ替わるように物陰から現れた若い軍人が不安な表情を浮かべながら口を開いた。

「大佐、宜しかったのですか?」
「何がだ?中尉?」
「何がって……正仁殿下と成仁殿下に護衛を付けなくて宜しいんですか?」

 そう言われると智忠は、中尉に向かって言った。

「忘れてた!」
「ええっ!?」
「中尉急いで二人を追いたまえ!」
「了解いたしました!」

 中尉は急いで二人を追った。その姿を見ながら智忠はほっと息をついた。

「二人に何かあったら隆仁に殺されちまうからなぁ……」

 そういうと軍帽を被り直し、軍人としての仕事に取り掛かった。








 正仁、成仁の二人は見上げていた。10mを優に超す巨大な巨人とも言うべき物を見上げていた。

「写真で見たけど…なんか……撃震と違って顔が……」
「カニみたいな顔だね……海神って」

 81式戦術歩行攻撃機こと海神をカニと言う印象を受けていた。海神は米国が開発したA-6イントルーダーを帝国軍仕様に改修したもので潜水母艦より発進し、BETAに制圧された海岸部に海中から接近して上陸を行い、後続の揚陸部隊の橋頭堡を確保するため、潜航状態から陸上形態への変形を可能とした世界初の水中可変型戦術機である。重装甲で固定武装が充実した水陸両用機。両肩に120mm滑空砲とミサイルランチャー内蔵の兵装モジュールを装備、前腕部に36mmチェーンガンを左右12基装備。兵装モジュールは水中戦闘用の魚雷装備型や水中・水上センサーを搭載した偵察型への換装も可能である。
 このように優れた戦術機なのだが二人には『カニみたいな顔の戦術機』と言う印象になってしまった。

「まぁ、火力はあるし、水陸両用だからカニっぽい顔でも違和感はないな」
「そうだね……でも、もうもっと火力が欲しいよね」

 戦術機の中ではトップクラスの火力を誇る海神に、成仁は火力不足を指摘した。その言葉を聞くとすぐに正仁から答えが返ってきた。 

「艦砲とか装備したら絶対強い。できれば紀伊型の50.8cm砲」
「それは機体のバランスを損なうから無理だと思うよ……」
「そっか………じゃあ、成仁が艦砲を装備できる戦術機を造ればいいんだ!」
「なんでそうなるの……」
「だってこの前わけのわからん機械作ったろ」
「あれは、ただの携帯情報端末だよ。もとはアメリカの会社が作った物で、それを僕が見よう見まねで作っただけで僕は何もすごくないよ」
「……今年で八歳になる子供が見よう見まねで携帯情報端末を作れる時点ですごいと思うぞ?」
「そうかな……?」
「そうだよ」

 その後二人は、海神について二三意見を口にしながら背負っていたリュックからカメラを取り出し海神を撮った。それから次なる見物場所へ移動した。

 その後ろを邪魔にならない程度の距離で付いていく中尉の姿もあった。






 二人は、物資が搬入され集積されているコンテナ群にやってきた。

「兄ちゃん、こんなところに何か見たいものがあるの?」

 成仁はなぜこんな所に来たのか兄に向かって聞いた。できれば早く海神の母艦である崇潮級強襲潜水艦を見たいと思っていた。

「いや……何か声が聞こえような気がして」
「声?……それはどんな声?」
「ん~~~……子供みたいな?」
「ちょっと待ってて」

 そういうと成仁はリュックを地面に置き何か取り出した。

「何それ?」
「熱線暗視装置、英語で言うならサーモグラフィーっていう奴」
「熱を感知する機械だっけ?」
「そう、これで兄ちゃんが聞いた声の主を探す。人間ってのは意外に熱を持ってるからね。鉄の箱だらけのここだったらだいぶ目立つからすぐに見つかるよ」
「やっぱり成仁すごいな!」
「まぁ……一個しかないんだけどね」

 二人はとりあえずはぐれないようにお互いの位置を確認しながら、声の主を探すことにした。
 サーモグラフィーを片手に探す成仁、コンテナ一つ一つに耳を当てたりノックしたりして探す正仁、それをさらに後から確認する中尉。
 こうして三人は、一時間以上ひたすらそれに費やした。






「誰か入ってるか~?」
「相変わらず真っ青だな~…もっと改良しないと」
「お二人とも、もうそろそろお時間なのですが……」

 何個目か分からぬコンテナを叩きながら言う正仁、熱が少ないことを示す青ばかりが表示されるサーモグラフィーを改良することを決めた成仁、そんな二人に見学時間の終了が差し迫っていることを伝える中尉。

 気のせいだったのか……?

 と正仁が思い始めながらも作業を続けた。

「誰かいるか~?」

 いつものようにコンテナを叩くと

 コンッ

 と何かが落ちる音がした。

「成仁!こっちへ来てくれ!」
「どうしたの?」
「このコンテナの温度は?」

 そう言われ成仁がサーモグラフィーをそのコンテナに当てると

「何か……他と比べると熱があるみたいだね」
「じゃあこの中にいるな。中尉殿、開けて頂いてもよろしいですか?」
「分かりました」

 中尉が注意しながらゆっくりと扉を開け、中を覗くと……
 缶詰が飛んできた。

「あふんっ!?」

 軍人にしては情けない声を上げて倒れた中尉の代わりに、正仁が中を覗くと……




 銀髪で明らかに日本人離れをした顔立ちを持った少年がいた。

 そして目が合い、数十秒の沈黙の後、少年が口を開いた。

「水、持ってない?」
「あるよ」

リュックからペットボトルを取り出し、少年に渡した。










コンテナ群から波止場へ移動した正仁と成仁、そして銀髪の少年は日本海を見ていた。
中尉はこのことを智忠に伝えるためにこの場には居ない。

「ではまずは自己紹介から。俺は有栖川宮正仁、よろしく」
「僕は有栖川宮成仁、よろしくお願いします」

笑いながら自己紹介をした二人、銀髪の少年はペットボトルに入った水を飲み干すと、二人の顔を見た。

「変わった名字だな。日本じゃ佐藤とか斉藤とか田中とか鈴木とかが多いって聞いたんだけど?」
「日本語ペラペラだな」
「親父に教わったんだ。おっと、名前を言ってなかったな!オレはレグルス、レグルス・ヴォルフルムだ!よろしくな!」

レグルスも笑顔で日本語で自己紹介をした。日本人に違和感を感じさせない完璧な日本語だった。

「早速だが質問して良いか?」
「いいぞ」

レグルスの自己紹介が終わるとすぐに正仁は質問をした。

「何でコンテナの中に居たんだ?」
「なんと言えば良いんだろうな……」

そう言うとレグルスは腕を組んで考えた。二分ほどしてから答えを言った。

「ドイツから逃げてきた…て言うのが一番正しいかな?」
「逃げてきた……そうか、お前、難民なのか?」
「そうなるな。最初は親と一緒にダンケルクからイギリスへ逃げたんだけど、イギリスも危ないからアメリカに更に逃げた。でもそこで親とはぐれた。難民キャンプの飯は不味いし、治安も悪いし、英語喋れないし、オレまだ子供だから仕事も出来ないからどうしようかな~って思ったんだ」

そこまで言うと少し息をつき、続きを話し始めた。

「そこで考えた。日本語が話せるから日本に行こうそうしようってな。そこからは大変だったぜ?まずは難民キャンプを抜けないといけない。米兵が毎日巡回に来るし、難民キャンプの外にも米兵が立ってるから見つからないように行くのは大変だったぜ」
「キャンプを抜け出した後は?」
「港に向かった。そこで日本に向かうJapanって言う独語もしくは英語が書かれた貨物船を探して乗り込んだ。スペルは同じだからな。その後は、船のコンテナから食糧をいただきながら日本に着くのを待った。」
「で、今に至ると?」
「そこなんだよ……」

 そう言うとレグルスは困った表情になりながら言った。

「オレの予定では横浜や東京、大阪みたいな貿易港に着くと思ってたんだよ。でもふたを開けてみればどうだ?舞鶴基地と言うガッチガチの軍港に来ちまった……町に出たくてもそこら中、兵士だらけで出るに出られなかったんだ……」
「だからコンテナの中にずっと居たんだね」
「で、これからどうするんだ?」

 正仁の問いに険しい表情を浮かべるレグルス。正仁は分かっていた。日本に来ても難民キャンプに放り込まれるのは目に見えていた。レグルスもそれは分かっていた。だからこれからどうするのかが気になった。
 口を開かなくなったレグルスに正仁は一つの提案を話した。

「レグルス、当てがないなら家に来ないか?」
「えっ?」

 鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情となりながらレグルスは正仁を見た。

「い、いいのか?」
「こんな所で出会えたのも何かの縁だ。みすみす難民キャンプに放り込まれるのを指を咥えて見ていることは出来ないしな」
「で、でもよ……迷惑にならないか?」
「ならんな。むしろ仲間が増えて、良いことしか無い。……今決めろ!一緒に来るか?それとも難民キャンプに戻るか?どっちが良い!?」

 そう言われるとレグルスは

「お前ん家に行くよ!」

 即答した。















夜、三人は帝都京都に戻った。レグルスは車から見える京都の街並みに目を輝かせながら見ていた。



「と言うことなので父上、母上、子供が一人増えましたがお気になさらず、今まで通りによろしくお願いします」
「よろしく親父殿、お袋殿!」
「………いったい、どういうことだ……?」
「よろしくねレグルスちゃん」

父親の隆仁は混乱し、母親の愛子はすぐに順応している姿があった。









「あれ、結局、何で声が聞こえたんだろう?」




正仁に一つの疑問を残しながら一日が終わった。










この年、1985年、BETAがハンガリー領ブダペストにハイヴの建設が開始される。これにより、欧州戦線でのBETAの侵攻は更に勢いを増し、同年中には、欧州連合がBETA侵攻により、西独、仏が相次いで陥落。
パリ攻防、ダンケルク撤退戦に続いて英国本土攻防戦始まる。


人類は着々とユーラシア大陸から駆逐されつつあった。





 
 

 
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