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Muv-Luv Alternative 帝国近衛師団

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第二話

 
前書き
温かい心を持ちながらお読みください! 

 


 有栖川宮家は宮家である。


 宮家とは、日本帝国において、宮号を賜った皇族の一家のことである。

 有栖川宮家の他にも宮家は存在し、閑院宮家、伏見宮家、桂宮家、冷泉宮家、華頂宮家、小松宮家など他が存在する。

 その宮家の一家である有栖川宮家に待望の跡取りが生まれ二年の月日が流れた――




一九七七年 九月十五日




 縁側でお茶を啜りながら険しい顔で新聞を読んでいた隆仁のもとに、とてとてと歩きながら本を持った子供がやってきた。

「ちちうえ~!」
「どうした正仁?」
「お本をよんでください!」
「そうかぁ!どんな本だ?」

 先ほどまでの険しい表情は消え、とても嬉しそうな顔になりながら最愛の息子を見た。正仁はニコニコと無邪気に笑いながら本を差し出した。
 そしてその本の題名を読んで隆仁の顔は笑顔のまま固まった。

「………正仁、この本を読んで欲しいのか?」
「はい!そうです!」
「そ、そうか………」

 正仁が持ってきた本の題名は『大東亜戦争史』と言う、恐らく普通の二歳児の子供が興味を持つことが皆無な物だった。いくら最愛の息子の頼みとは言え、幼い正仁にはもっと年相応な絵本などを読んで欲しい…と言うのが隆仁の本音である。

「も、桃太郎とかは読まないのか?」
「この前、ははうえがよんでくれました!」
「じゃあ、花咲か爺さんとか鶴の恩返しとか一寸法師とかは読んだか?」
「全部ははうえがよんでくれました!」
「そ、そっか………じゃあ読んであげるからここに座りなさい」
「わかりました!」

 隆仁は胡坐を掻き、そこに正仁が座った。正仁が理解できるのか分からないが一応分かりやすく読むように心がけた隆仁に対して、読み進めていくごとに目の輝きを増していく正仁だった。

「ちちうえ、これかっこいい!」
「それは戦車という乗り物だ」
「これは鳥さん?」
「これは飛行機という乗り物で空を飛べるんだ」
「すご~い!」

 このように年相応の反応に少し安心した隆仁だった。














 本を読み終わる頃には、日が傾き美しい夕焼けになっていた。胡坐の中に座っている正仁も聞き疲れたのかいつの間にか寝ていた。
 隆仁は正仁を起こさないように静かに抱き上げ縁側から移動し、正仁の部屋へ向かった。


 正仁を部屋に運び寝顔を十分ほど堪能した後は、妻の愛子のもとへ足を進めた。


「愛子、身体は大丈夫か?痛みは無いか?少しでも違和感があったら言うんだぞ?」
「隆仁様、心配し過ぎですよ?私もこの子も大丈夫ですよ」

 愛子はそう言うと自分のお腹を優しく撫でた。
 そのお腹は大きく膨らんでいた。
 つまり愛子は妊娠していた。
 隆仁の心配のしようは傍から見ても過保護と一瞬で分かるレベルだったが、それでも正仁の時よりは落ち着いていた。正仁が初めての子であり、隆仁自身父親として初めて尽くしの事ばかりだったからで、二回目である今はそこまで過保護ではない。

「それなら良いが……」
「隆仁様は本当に心配性ですね」

 隆仁の心配ぶりに思わず苦笑いになる愛子だったが、それに気がつかない隆仁だった。



 こうして穏やかな一日が過ぎていった。








 そして一週間後。







 一九七七年 九月二二日 帝都 宮内省病院


 秋の空に美しく輝く夕焼けが浮かんでいた。


 病室の前でもの凄い速さの貧乏揺すりをしている隆仁の姿があった。
 その隣で智忠とじゃれ合っている正仁、隆仁を見てため息をつく博恭、その光景を見て柔らかな笑みを浮かべる載仁がいた。

「隆仁殿、少し落ち着いたらどうだ?」

 二年前と全く同じ光景を見せられて呆れる博恭が言った。博恭自身、子供は五人いる。隆仁の不安な気持ちは分かるがここまで不安そうな姿を見せられると、同情よりも呆れてしまう。

「これでも十分落ち着いていますよ博恭殿……」
「はぁ~……ではまずその貧乏揺すりを止めたまえ」

 心配のあまり冷や汗を流している隆仁の答えに呆れ果てる博恭だった。




 そうしている内に時間は流れ、時計の針は夜の七時になっていた。夕焼けはすっかり沈み、夜となり月が輝いていた。智忠とのじゃれ合いに疲れたのか、正仁は吐息を立てながら寝ている。
 起きているのは四人の大人だけだったが、そこに新たな人影が現れた。 

「いや~今回は何とか間に合いましたかな?」
「これは近衛殿、わざわざご足労感謝いたします」
「いえいえ、二年前は間に合いませんでしたから……。こちらも立ち会わせていただき感謝しております。隆仁殿下」

 近衛と呼ばれた人物は深く一礼した。スーツ姿にちょび髭という格好で一つ一つの動作が優雅で、貴族を思わせる紳士であった。

 彼、近衛篤麿(あつまろ)は公家五摂家筆頭の家柄の嫡子で帝国議会議員を務めている人物である。近衛家は公家の中で最も皇室に近い血統を持っている。 

「議会から直接来られたのですか?」
「ええ、少々話が長引いてしまいましてこんな時間になってしまいました。今年配備される戦術機の事に加えて大陸の現状、軍事予算の取り合い……面倒な話ばかりですよ」

 肩をすくめながら近衛はそう言った。隆仁、博恭、載仁、智忠の四人は軍人なので軍の現状を内部からつぶさに見ているので近衛が肩をすくめる理由もわかった。

「武家……城内省がまた何か無茶なことを言ったのですか?」
「そうです。正確に言えば城内省の斯衛軍が無茶な注文をした来たのですよ………。『将軍殿下をお守りするのが我ら斯衛軍の役目である。したがって常に精強無比足らしめく日夜訓練に励んでおります。しかし戦術機なる最新兵器に触れたこともございません。今次大戦の主力兵器となりつつあるこの兵器を保有していない我ら近衛軍は将軍殿下をお守りするという最重要任務の遂行が困難なのは明白であります。よって斯衛軍としては斯衛軍専用の戦術歩行戦闘機の配備を要請致します。それが困難な場合は繋ぎとして77式戦術歩行戦闘機の優先配備を要請致します。』…………こんなことを言ってきましたよ武家の方々は……」

 一言一句記憶していた近衛の言葉を聞いた四人は、載仁は大きくため息を吐き、博恭は眉間に指を当て、隆仁と智忠は大きく舌打ちをし思わず怒りの声を上げた。

「何が将軍の為だ!予算ばかり取って行って何もしていないじゃないか!斯衛の連中は!」
「それに撃震の配備は西部方面隊の第八師団に優先されることはもう決まっているのに邪魔ばっかしやがって!武家共が!」
「二人ともここは病院ですので大きな声を出さないでください」

 載仁に注意され、二人は口を閉じたが顔は不満で溢れかえっていた。

「なに~いまの……?」
「ああ何でもないよ正仁もう少し寝てなさい」
「だいじょうぶです、ちちうえ」
「そうか……」

 二人の大声で起きてしまった正仁は眠気が冷めたのかそのまま起きることにしたが、正仁に聞こえない声の大きさで大人たちは話を続けていた。聞こえてはいたが幼い正仁には、何の話か全く分からなかった。






 そのわずか十分後、病室から鳴き声が聞こえてきた。


 その瞬間、隆仁は病室の扉を開けようとするも、智忠に後ろから抑えられ、博恭に叫ばないようにと口にハンカチを突っ込まれもがいていた。
 そして父親の醜態を見せないようにそっと載仁は正仁に目隠しをし、近衛は頭の中に叩き込んでいた昔話を話し始め、正仁の気を引いた。



 しばらくすると入室許可が下りたので隆仁の拘束が解かれ、正仁の目隠しが外された。近衛の昔話が気にいったのか上機嫌だった正仁に対し、ハンカチを口に突っ込まれていた隆仁は若干顔が赤かった。

「愛子無事か!?」

 隆仁が扉を勢いよく開けた白いベッドの上にはまだ生まれて間もない赤子を優しく抱く妻の姿があった。 

「私は大丈夫ですよ隆仁様」

 ほっと息をついた隆仁は、正仁の手を引きながらベッドに近づいた。そして生まれて間もない我が子を見つめた。
 かわいい……!なんて可愛いんだ…!

「男か?女か?」
「男の子ですよ」
「そうか…!では名前は、成仁(なりひと)だ!成すべきことを成し遂げる人に育ってほしいからな!」
「良い名前です」

 夫婦で和気あいあいとしているが、ベッドの高さ的に成仁のことがが見えず、正仁が今一状況が掴めていなかった。それに気づいた隆仁は、正仁を持ち上げてやり成仁に近づけた。

「あかちゃん!」
「そうだぞ。正仁の弟の成仁だ」
「おとうと?」
「そうだ。だから今日から正仁はお兄ちゃんになるんだ」
「おにいちゃん……」

 そう言うと正仁は不思議なものを見る様に成仁の顔をじっと見た。そして触れ、笑顔になった。

「あったかい!」
「そうだろ!暖かいだろ!」

 何とも微笑ましい雰囲気に後ろにいた四人も笑顔になっていた。









 一九七七年、日本帝国に77式戦術歩行戦闘機、通称撃震の配備が始まった。







 その年の九月二二日、秋空が美しかったこの日の夜―――




















 もう一つの片割れが生まれた。






 
 

 
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