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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第八十二話 要塞対要塞です(その2)

 ロイエンタール、ミッターマイヤー艦隊は神速果敢な動きを示した。

 21手に分かれた艦隊はあっという間に要塞周辺を取り囲んだのである。これに敵側が気が付いたときには、ロイエンタール、ミッターマイヤーは激烈な攻撃を加えてきていた。ありったけのミサイルを撃ち込んできたのである。並の主砲であれば流体金属ははじくが、レーザー水爆ミサイルだとそうはいかない。少々の攻撃ならばびくともしないのだが、叩き付けた物量が尋常ではなかった。内部で爆発し、流体金属を四散させ、そこにさらに攻撃を仕掛け続けるのである。これを21か所同時に行われたのではたまらない。
自由惑星同盟側はヤン・ウェンリーの作戦を実行する前に、まず目前の敵の撃破に追われることとなった。
「ただちに艦隊は迎撃に移行。」
ウィトゲンシュティン中将は要塞にあってそう指令を下したが、果たしてうまくいくだろうかと不安を覚えていた。確かにヤン、そしてティファニーの言う通り敵は攻め寄せてきたが、その攻め方が尋常ではない。さらに後方には戦線に参加しない一個艦隊がにらみを利かしているのである。何かあればすぐに突入してくるだろう。それを如何にして対処するか。


 彼女の思案とは裏腹に、もう戦闘は始まっていた。包囲網の一角を弾雨を犯して出撃したティファニーの第十六艦隊とヤン・ウェンリーの第十七艦隊は要塞浮遊砲台の援護を受けて敵に突進し、それを追っ払ったのである。ティファニーは要塞右側面にとりついたミッターマイヤー艦隊に、ヤン・ウェンリーは要塞左側面にとりついたロイエンタール艦隊に向かう。この期に及んでも主砲は使用できなかった。発射装置の移動装置が故障してしまって動かなかったのである。
「敵は兵力を分散して手薄だわ。この機を逃さず、各個撃破してしまいなさい。」
ティファニーの号令一下、第十六艦隊は左右に展開する敵の塊に突進し、思う様に砲撃を加えた。敵が敗走し、それを追っていけば別の塊に遭遇する。それを何度か繰り返しているうちに、おかしいと彼女は思い始めた。
その「おかしい。」が「不覚!!」に転じたのは、いつの間にか敵の包囲網の真っただ中に取り込まれてあらゆる方向から突き崩され始めた時からであった。
「初陣だ!!敵を取り込んで一もみに揉みつぶせッ!!」
ミッターマイヤーが叱咤する。麾下のバイエルライン、ドロイゼン、ジンツァーといった若武者たちも後れを取らない。
「怯むな!!一点突破!!」
ティファニーも負けてはいない。艦隊運用にかけては自由惑星同盟の提督に比して上と自認している彼女は、たちまち陣形を再編すると急速に一点を目指して砲撃を敢行した。が、それに倍する反撃を受けて前衛は力なく崩れ去っていく。上下からしたたかな逆激を被ったのだ。それでもティファニーは攻勢を続行した。前衛が四散しても1万余隻が一点に殺到すれば包囲網の一角は力を失う。ミッターマイヤーは包囲網を開けるように指示した。一つには新手として第十三艦隊の一部が猛速度で接近してきたからである。ファーレンハイト艦隊だった。その鋭鋒はすさまじく、前衛に損害を受けたミッターマイヤーは後退を決意せざるを得なかった。他方、ロイエンタールも要塞左側面に回り込んで、ヤン・ウェンリーの第十七艦隊を相手に戦い続けていた。
『気を付けてよ、二人とも!』
後方からティアナが注意を飛ばした。
『調子に乗って要塞に接近して、強襲揚陸艦に接舷されるなんていうシナリオは御免だわよ!』
「お前は俺の乳母か何かか。それとも候補生の野外演習を監督している教官にでもなったつもりか。」
ロイエンタールが冷笑を浮かべたが、すぐにもっともだとうなずいた。
「お前の言う通りだ。強襲揚陸艦に旗艦が接舷されるようでは、艦隊司令官としては落第というわけだな。」
その言葉が終わらないうちに、ロイエンタールの旗艦トリスタン及びその護衛艦隊の応射を受けた敵の強襲揚陸艦2隻がすぐ目の前で爆散したのである。顔色一つ変えなかったロイエンタールは既に次の一手を打つべく準備していた。
「で、どうだ。用意は整ったか?」
ロイエンタールがディッタースドルフ少将に尋ねた。
「はっ。既に強襲揚陸艦及び装甲擲弾兵の進発、完了しております。」
「本隊が前進してあの敵艦隊の眼を引き付けるその隙に――。」
ロイエンタールの右手が要塞の一点をさした。
「揚陸艦を突入させろ。周囲の護衛艦隊は残弾を惜しむな。ありったけ撃ち込んでやれ。」
「はっ。」
「本隊は前進せよ。展開する友軍と連携し、砲火を敵艦隊に集中させるのだ。」
ロイエンタール旗艦トリスタン以下本隊数千隻がどっと押し出してきた。ヤン艦隊はそれを冷静に迎え撃ち、得意のピンポイント砲火を集中させるが、ロイエンタールが分派した機動部隊のいくつかが小うるさいハエのようにヤン艦隊にまとわりつく。それでもロイエンタール本隊が被った損害は存外馬鹿にならなかった。だが、ここでやめるわけにはいかない。反対側ではティファニーとファーレンハイト艦隊の攻撃を凌ぎつつ、ミッターマイヤー艦隊が同じことをしているのだ。
その艦隊同士の砲撃戦のさなか、護衛艦に守られた帝国軍強襲揚陸艦が流体金属に向けて突進してきた。
「強襲揚陸艦が突っ込んできます!!」
「迎撃せよ!!」
要塞司令官クレベール中将が叫んだ。砲台が強襲揚陸艦の進路上に密集し、ビームを浴びせかけるが、展開していた帝国軍艦艇の攻撃によって次々と破壊されていく。むろん揚陸艦も帝国軍艦艇の被害も小さくはない。次々と爆沈され、墜落した艦船が流体金属に吸い込まれ、内部で爆発する。あるいは砲台ごと道連れにして小さな光の花を咲かせていく。運よく流体金属を突破した揚陸艦やその護衛艦は分厚い流体金属層を遮二無二突き進み、分厚い雲のようなそれを突き抜けていく。と、彼らの目の前にはイゼルローン要塞の軍港と寸分たがわぬ景色が飛び込んでくる。それに見とれている余裕はなかった。内部で待ち構えていた敵の砲台や小型艦船の砲撃によって、は虫のように撃ち落とされていく。
 それでも、ロイエンタール艦隊とミッターマイヤー艦隊とが放った揚陸艦のうち、300余隻がそれぞれの地点に接舷し、合計4万人の装甲擲弾兵が上陸を果たした。ロイエンタール、ミッターマイヤーも護衛艦隊に守られながらそれぞれの旗艦を要塞内部に突入せしめた。双方の迎撃側が全力を挙げてこれを阻んだが、あちこちに展開していた機動部隊の攻撃を受けて、的確な攻撃ができず、まんまとすり抜けられてしまったのである。
『突入!!』
両将は同時に叫び、旗艦を一気に降下させた。対空砲火が容赦なく降り注ぐが、降下する艦艇群はそれに倍する応射を繰り返し、なおかつワルキューレを発艦させて制空権を確保しようとした。これに対抗してスパルタニアンも出撃し、広いとは言えない要塞内部上空ではすさまじい空中戦が繰り広げられていた。本来スパルタニアンもワルキューレも宇宙における近接戦闘用として使用するのであるが、実は同名での大気圏戦闘用の機種も存在する。今回はそれらが攻撃側・迎撃側としてそれぞれ飛び立っていったのだった。
「今だ!全艦隊、要塞内部に突入!上空から敵艦隊に向けて攻撃を仕掛けろ。」
ヤンが第十七艦隊を一か所に集め、ロイエンタールが降下した地点に続いて突入した。


ここで――。

 本来自由惑星同盟の艦隊は大気圏突入できるようには設計されていない。だが、要塞を建造したことで、要塞駐留艦隊の存在は不可欠になるため、要塞における大気圏突入が可能なように第十三、第十六、第十七艦隊は改造設計されていたのである。



 これを阻止しようとした機動部隊群は新たに出現した部隊の横撃を受けて足が止まる。アッテンボロー率いる別働部隊だった。ヤンはひそかに一部隊を要塞死角に後置しており、突入のタイミングを見計らって、存分に攻撃させたのである。ヤン・ウェンリーはこの作戦をウィトゲンシュティン中将に具申しており、第十六艦隊及び第十三艦隊のファーレンハイト艦隊も同じ手を打っていた。
 したがって、ロイエンタール艦隊もミッターマイヤー艦隊も上空から降り注いできた敵の攻撃に次々と艦を撃破され、一転して苦戦にあえいだのである。
「これは想定内だ。ここで耐えきれなくば、要塞に肉薄した意味がない。」
ロイエンタールはなおも攻撃を続行するべく指令したが、ディッタースドルフ少将が止めた。
「駄目です。護衛艦隊の損傷は著しく、このままでは本艦も攻撃を受けます。」
「要塞内部の様子はどうだ?」
ロイエンタールの眼前に映し出されたディスプレイにあったのは、次々とトマホークで血しぶきを上げて斬られていく装甲擲弾兵の姿だった。
「どうやら敵にはローゼンリッターが配備されておりますようで、味方は徐々に押されつつあります。」
「ローゼンリッターが配備されているか。」
ロイエンタールもその敵側の薔薇の騎士団の勇名はつとに聞いているところであった。彼らが配備されているというのならば、話は変わってくる。肉弾戦で彼らに抗することのできる部隊はそれほど多くはない。
「正面からの肉薄は無理か・・・・。」
ロイエンタールの眼前で護衛艦の一隻が爆発し、その残滓をばらまきながら要塞地表に激突させていった。その時、通信士官がミッターマイヤーからの通信を知らせた。
『ロイエンタールか。』
やや不鮮明ながらもミッターマイヤーがディスプレイ上に出た。
『残念ながら、揚陸部隊は例のローゼンリッターとやらに苦戦を強いられている。此方の損害が大きい。艦隊損害もバカにならない。いったん引き上げた方がいいだろう。無理は禁物だ。』
「撤退はやむを得ん、か。」
ロイエンタールはダークブラウンの頭髪を殊更ゆっくりと指で撫でつけた。
『敵の荒肝を多少はひしげたのではないか。初戦はそれでいいだろう。』
「そうだな。ここで勝ちに拘泥し、支払う代償が大きくなればそれは愚行の極みというべきだろう。」
うなずいたロイエンタールは撤退を指示した。装甲擲弾兵の生き残りたちは揚陸艦に転がるようにして乗り込んだが、発射寸前に要塞からの攻撃で爆沈する艦が続出した。
「陸戦部隊の撤退を掩護しろ。」
ロイエンタール艦隊、ミッターマイヤー艦隊双方は上空からの攻撃を受けながらも、地上から脱出してくる味方を収容すべく努力した。ここで同盟側が有効攻撃位置を取り続けていたならば、あるいはロイエンタール、ミッターマイヤーの生命はここで終わっていたかもしれないが、彼らの背後にもまた帝国軍艦隊が現れて攻撃を仕掛けてきたのである。ティアナの艦隊だった。ティアナは部隊を二手に分け、要塞表面の戦闘をロイエンタール、ミッターマイヤーの分派した機動部隊群に任せたのち、数千隻ずつの艦艇を率いて降下したのである。新手の登場と猛攻に、ヤン艦隊も第十六艦隊、第十三艦隊も正面から立ちふさがる愚を避けたが、ロイエンタール、ミッターマイヤーもしたたかな損害を被っており、これ以上の戦闘継続の意思を失っていた。
 味方を収容したロイエンタール、ミッターマイヤーはティアナと協力して巧緻を極めた退却戦を自身が殿となって演じた。追尾しようとする同盟軍を各所に配置した機動部隊群がその都度したたかに叩き、後退しようとする同盟軍にさっと一撃を与えてひるませたのち、悠々と遠ざかっていったのである。
「初戦から要塞内部に肉薄を許すとは・・・・!!」
バチン!!とクレベール中将が拳を手の平に叩きつけた。序盤から敵に主導権を握られたのがよほど悔しかったのだろう。それを横目で見ながらウィトゲンシュティン中将は第十三艦隊の後置戦力約8000隻と第十七艦隊を臨戦態勢にさせて待機させ、残りの艦隊を順次帰投させてドッグ入りさせた。損傷が比較的多かった第十六艦隊は優先的にドッグに入れて再編を急がせるのである。



 強襲を受けた同盟軍の損傷は第十三艦隊1093隻、第十六艦隊2301隻、第十七艦隊502隻。死傷者10万3983人。
 損傷した要塞浮遊砲台は389か所に上り、要塞軍港内部も損傷した他、内部にいた陸戦隊とローゼンリッター計8576人が死傷した。なお、ローゼンリッターは負傷205人、死者3人という程度にとどまっている。

 他方、帝国軍の損傷は、ロイエンタール艦隊1326隻、ミッターマイヤー艦隊1158隻、後から参戦したティアナ艦隊は損害208隻と軽い。死傷者8万3927人、装甲擲弾兵死傷者1万3826人である。これは内部での戦いでというよりも撤退時に多くの被害を出した結果だった。

 序盤としては被害状況は互角であるが、双方ともに敵兵の幾人かを捕虜としている。相手の荒肝をひしいだという点では、やや帝国軍に有利な展開となった。
 
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