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ポーリーヌ

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第四章

「何故そなたが」
「兄上と共に島に行く為に」
「馬鹿な、余はもう皇帝ではないのだ」
 ナポレオンはポーリーヌに言った。
「その余についていってどうする」
「兄上ですから」
「だからだというのだ」
「そうです」
 まさにというのだ。
「ですから」
「何の益もないのにか」
「益があればいいのでしょうか」
 これがポーリーヌの問いだった。
「そうであればついて行けと」
「違うのか」
「だとすれば私の益はです」
 兄をじっと見て言った。
「兄上と共にいることです」
「余にか」
「そうです、兄上と」
 皇帝ではなく兄、そして人間である彼とだ。
「そうすることが益です」
「そう言ってくれるか」
「では共に」
「済まない」
「ですが今は抱擁はお止め下さい」
 感激のあまり自身を抱き締めようとした兄にだ、妹は微笑んで言った。
「それは」
「何故だ?」
「今はこの服なので」
「オーストリア軍の軍服だからか」
「敵の服です」
 フランスの敵であるその国のというのだ。
「ですから抱擁には値しません」
「フランスの軍服ではないからか」
「この服なら暴徒達に襲われないので着ています」
 軍人、それも自分達に勝った立場にいる国の者に何かすればどうなるかは言うまでもないからである。ポーリーヌもそのことを読んでいたのだ。
「ですから着てきました」
「そうだったか」
「ですがエルバ島にはです」
「共に来てくれるか」
「駄目でしょうか」
「それは出来ません」
 ナポレオンに同行する僅かな者のうちの一人が言ってきた。 
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