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ポーリーヌ

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第三章

「余に何かあっても遊んでいて気付かないかもな」
「そちらに夢中で」
「そうしてですか」
「あいつはそうした奴だ、他の兄弟姉妹は来てくれても」
 自分に何かあればだ。
「あいつだけは来ないかもな」
「そう言われますか」
「あの方については」
「そう思う、だがあれで可愛いところもある」
 兄である彼から見てだ。
「だからだ」
「これからもですね」
「何かとですか」
「これまでの様に」
「見捨てることなく面倒を見る」
 妹である彼女をというのだ。
「そうする」
「そうされますか」
「では」
「今回のことも手を打つ」
 そうしてことを収めるというのだ。
「そしてまた何かあればな」
「はい、その時はですね」
「また陛下にですね」
「知らせよと」
「そうしてくれ、いいな」
 こう侍従達に言うのだった、そして実際にナポレオンはポーリーヌの火遊びに顔を顰めさせつつも常に後始末をした。叱りつつも。
 そうしながら皇帝としてフランスの政治を執り行い戦争にも出た、戦争においてはまさに敵なしであった。
 だが戦争は勝ち続けることは難しい、それは軍神と謳われた彼とて同じであり。
 ロシアへの遠征に惨敗してからライプチヒでも敗れ皇帝の座を降りるしかなくなった、そのうえでエルバ島に流されることになったが。
 彼の兄弟姉妹達は誰もがだった。
 彼の周りにいなかった、それは腹心達も同じで彼がフランスを去る時にいたのはごく僅かな者達だけであった。
 ナポレオンは僅かに残った彼等を見てだ、まずは彼等にねぎらいの言葉をかけた。
「そなた達に心から感謝する」
「いえ、これはです」
「我等がそうしたいからです」
「陛下と共にいたい」
「そう思ったからです」
 それに故にとだ、彼等はナポレオンに答えた。
「ですからその様な言葉は不要です」
「我等は陛下と共にいます」
「それだけです」
「ただそうしたいだけです」
「その気持ちに言ったのだ」
 ねぎらいの言葉をというのだ。
「今の余についていっても何もないというのに」
「そう言われますか」
「傍の者達で残ったのはそなた達だけでだ」
 寂しい笑みでの言葉だった。
「そして見ろ、愛する兄弟姉妹達もだ」
「今は、ですね」
「どなたもおられませんね」
「見送りにも来ない」 
 エルバ島に船で行く、しかしその船に乗る港にもだ。
 僅かな者しかいない、兄弟姉妹達も誰もいない。そしてこう言ったのだった。
「人は落ちぶれるとこんなものだ、血を分けた肉親も見捨てる」
「どの方も」
「そうされると」
「世の中はそうしたものだ、ではだ」
 ナポレオンはその世の中に踵を返して背を向けた、そのうえで。
 船に乗ろうとする、だがその彼の背にだ。
「お兄様、遅れて申し訳ありません」
「その声は」
 女の声だった、その声に思わず振り向くと。
 ポーリーヌがいた、オーストリア軍の白い華やかな軍服を着ていたが明らかに彼女だった。ナポレオンはそのポーリーヌを見て驚きの声で言った。 
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