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父殺し

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第四章

「遂に来た」
「では」
「そうだ、私はだ」
 家の者達に語る表情は暗いものだった。
「わかっていたのだ」
「この時が来ることが」
「そうだ、何時かはだ」
 まさにというのだ。
「この時が来ることがわかっていた」
「まさか」
「そのまさか故にだ」
 家の者達の言わんとしていることを察しての言葉だ。
「私は何時かこうなるとわかっていたのだ」
「だからですか」
「用意させていた、そのだ」
「用意していたものを」
「ここに出してくれ」
「わかりました」
 家の者はすぐにだった、家の奥に入り。
 杯に入っている酒を持って来た、それを呂不韋に差し出すと。
 呂不韋はその酒を一杯飲んだ、するとその場にゆっくりと崩れ落ちてだった。そうしてこの世を去ったのだった。
 呂不韋が自害したことは秦王に伝えられた、その報を聞いてだった。秦王は冷徹そのものの表情で語った。
「鴆毒をか」
「はい、飲まれてです」
「自ら命を絶ったのだな」
「そうされました」
「わかった」
 王は玉座で応えた。
「では弔っておけ」
「では」
「その様に」
「それではだ」
 王は他の政の話をはじめた、臣の者達は今は応えるだけだった。だが今度も彼等だけになった時に話をした。
「王は何故呂不韋殿を詰問しようとされたか」
「間違いなく呂不韋殿がああされるとわかっておられた」
「間違いなくな」
「ご自害されるとわかっておられていた」
「それであえてそうされた」
「呂不韋殿を殺されたのだ」
 そう思っていいものだというのだ。
「間違いなくな」
「そうであるな」
「実のお父上かも知れないが」
「それでもな」
「殺された」
「それは何故か」
 こうしたことを話すのだった。
「王は呂不韋殿を殺させたのは何故か」
「親殺しは天下の大罪」
「例え王は裁かれなくともだ」
「罪は罪に他ならない」
「何故王はその大罪を犯されたのだ」 
 呂不韋が本当に親ならばというのだ。
「そうされたのだ」
「あのまま蜀に流しておけば呂不韋殿は天寿を全うされていた」
「あの方もご高齢だった」
「暫くすれば自然と世を去られていた」
「それをどうして殺されたのだ」
「何故なのか」
「若しや」
 一人の臣下がここでこう言った、気付いた顔になって。 
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