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提督はBarにいる。

作者:ごません
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日米間の溝

 席に着いて朝食を食べ始める。箸を持ってきたアイオワに少しの不安を覚えた金剛だったが、それは杞憂だった。器用に箸を使いこなして食べ進めている。今も納豆を練ろうと器を持ってかき混ぜている。

『じょ、上手ですね……箸の使い方』

『あぁ、これ?私アメリカにいた頃から日本食が好きだったの。どうせ食べるならちゃんとしたマナーで食べたいでしょ?だから練習したの』

 そう言ってアイオワは練り終わった納豆をご飯にかけ、軽く混ぜてから口に運ぶ。途端に満面の笑みになるアイオワ。アメリカンらしく感情表現が豊かだ。

『ん~っ、やっぱりナットウって美味しい!』

 納豆は独特な臭いがダメで日本人でも苦手な人が多いが、昨今のヘルシーブームやオーガニックブームで欧米でも食べる人が増加中らしい。昔は大豆は家畜の餌だからと見向きもされなかった時代もあったというのに、こうして見ると中々興味深い。

『それにしても、私ってやっぱり有名人なのね』

 味噌汁を啜りながらアイオワが呟く。彼女本人も四方八方から向けられている視線に気付いていたらしい。

『まぁ、かつての敵がいきなり現れて今日から仲間です、なんて言われてもハイそうですか、と受け入れられる人は中々居ませんよ』

 だし巻きをかじりながら応える金剛。今までも海外からの艦娘の着任はあった。しかしそれはかつての同盟国であるドイツとイタリアからだ。敵国の……それも帝国海軍の主な敵であったアメリカの艦が仲間になったから、いきなり仲良くしろというには心の準備が必要だろう。

『まぁ、ウチの鎮守府のフレンドリーだから直ぐにでも馴染めますよ』

「おはようございます金剛さん!」

「Oh!ブッキー、グッモーニンデース!」

 駆逐艦の中でも金剛になついている吹雪が声をかけてきた。金剛本人も年の離れた妹が出来たようで、何くれとなく気にかけている娘だ。

「あ、初めましてですよね?私は吹雪っていいます!」

「私はアイオワよ。貴女がフブキなのね?革新的な駆逐艦だって聞いてたから会ってみたかったの」

「え!私って有名人なんですか!?何か照れちゃうなぁ」

 えへへへ、と頭を掻く吹雪。ウチの鎮守府の駆逐艦は割と人見知りせずに誰とでも仲良くしようとする。無邪気なその様子は、はたから見ていても微笑ましい。

『さて、そろそろ行きましょうか』

『そうね、ご馳走さまでした』

 食べ終わった頃合いを見計らってアイオワに声をかける。アイオワはどこで学んだのか、両手を合わせて頭を下げている。




『あぁ~本当に美味しかった!あんなに美味しい物が毎日食べられるんでしょ?凄く恵まれてるわねココは!』

 満面の笑みで鎮守府内の廊下を進むアイオワ。向かうのは執務室。提督はいないが着任の手続きは済ませておきたいからだ。その道中もアイオワはジロジロと見られ、ヒソヒソと陰口の対象にされているようだった。

『やっぱり無理、なのかな……』

『ん?何が?』

 少し声のトーンが落ちたようだったアイオワに、尋ねる金剛。

『私、日本に来るのがとっても楽しみだったの。アメリカの研究所にいた時には軍人や科学者はいたけど、私以外の艦娘はいなかったから……』

 それはそうだろう、アイオワはアメリカが建造に成功した唯一の艦娘だから。『失敗作』はいたかもしれないが、その殆どは……人の姿をしていたかどうかさえ怪しい。彼女は恐らく、自分と同じ境遇の仲間を求めたのだ。

『未だに過去の記憶を引き摺っている娘は多いですからね。少しずつ馴れてもらうしかありませんよ』

『馴れて……貰えるかな?』

『さぁ?そこは本人の努力次第じゃないですか?さぁ、ここですよ』

 そんな会話を交わしている内に、執務室に到着した。中に人が居るのを確認する為に、扉をノックする。

「金剛デス。新任の娘を連れて来ましたヨ~」

「はいどうぞ、伺ってますよ」

 中に控えていたのは大淀と、今日の秘書艦の龍驤だった。

「初めまして、貴女がアイオワさんですね?総務担当の大淀と申します」

「は、ハジメマシテ……」

 アイオワは軽巡らしからぬ大淀の迫力に気圧されてしまったらしい。確かに、書類仕事中の大淀はそれだけの気迫がある。

「それでは、こちらの書類をよく読んで、同意出来たらサインして下さい。読めない所などありましたら、直ぐにでも教えてくださいね?」

「OK、この書類ね?」

 アイオワは書類に目を通し始めた。この間は待っているしかない為、金剛は龍驤の傍らに腰かけた。その龍驤はと言えば、アイオワを睨み付けながら物凄く不機嫌だ。

「どうしたんデス?」

「どうもこうもあるかいっ!何やねんあの服装は!あの乳は!」

「あぁ、それでデスか……」

 これには思わず金剛も苦笑いしてしまった。龍驤は自分のフルフラットな身体にコンプレックスがあり、豊満な身体の娘が来ると毎度毎度悪態を垂れているのだ。……もしかすると提督の好みがそういう女性だからなのかもしれないが。

「……そんで?どないやったん」

「どないやった、とは?」

 金剛の方をチラリと見やる龍驤。フンと鼻を鳴らして、

「惚けんなや、朝飯連れてって皆の反応確かめて来たんやろ?どうなん、受け入れられそうか」

「……どうでしょうねぇ、やっぱりまだ過去の因縁は捨てきれてない感じでしたヨ」

「それマズイんと違うか?ウチは特にも連携重視の戦略やろ?」

 ウチの鎮守府の戦略の基本方針は、戦艦・空母を核として砲撃と航空攻撃の同時連携による飽和攻撃で相手を叩き潰す事だ。その為には航空機との高度な連携が必要不可欠であり、その為には艦娘同士の信頼が重要だ。その関係性をかつての敵国の艦と築く事が出来るのか?という事を龍驤は苦慮していたのだ。

「それはこれからの問題でしょう。私達は歩み寄らなければいけません……お互いに」

「ふん、まぁそういうめんどくさい事は嫁艦の皆で考えたらエエ事やな」

 そんな会話を交わしている内に、アイオワもサインを終えたらしい。

「では、着任の手続きは以上です。この後は工廠に行ってメディカルチェックを受けて、また来て下さい。その頃には提督も起きてくるはずですから」

「OK、アイオワ行きますよ~?」

 そう言いながら立ち上がった金剛は、執務室を後にした。
 
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